今日は昨日以上に暇になる。それは朝確定した。さすがにRoseliaも元通りに練習を再開しないといけない。つまりリサが放課後も来ない。大輝から今日見舞いに来ると連絡を受けているが、あいつも何かと忙しいやつだ。そこまで時間は取れないはず。
「NFOも三時間しかできないし、…外に出歩きに行くか」
手術後の問題もない上に傷は異常なぐらい早く回復している。それは宮井さんや担当医も知っているわけだし、許可がおりてもいいだろう。
〜〜〜〜〜
「ダメです」
「ですよねー。でも治りましたよ?」
「内側の傷のほうが治りにくいんです。見えない以上安静にしてもらわなくてはいけません」
「…検査してください」
「…信用してくれないのですか?」
「それは違います。ただ歩いき回るぐらいなら問題ないと思うんです。退院に関しては何も言わないのでお願いします」
「意外とわがままなんですね」
「自分でもびっくりですよ」
入院自体初めてではない。記憶が飛んで目が覚めたときには入院していた。だがあの頃は何もなかった。やりたいことも夢もなく、人との繋がりもなかった。だから暇だと思うこともなかった。
今はそうじゃない。仲間も友人も大切な人もできた。夢は相変わらずないし、これといってやりたいこともあるわけじゃないが、それでもコレをやろうと思うものはある。…入院してるからできないんだがな。
「はぁ…。先生に聞いてみます」
「直接先生と話せたらいいんですけどね、忙しいとなかなかこっち来れないですよね」
「そうですね。最近は調べないといけないものが山積みだって言ってましたし」
「…なるほど」
「今日もどなたか来るんですか?」
「少なくとも一人は来ますね。連絡があったので。…あとは不明です」
「リサちゃんも来れないんですか?」
「バンドの練習がありますからね。…あまりこっちに付き合わせても」
「バンドですか?」
宮井さんが目を丸くしてバンドという単語に食いついた。どうやらリサがバンド活動をしていることは聞いてないらしい。俺はリサたちが所属しているRoseliaについて知っていることを話すことにした。
「へー、湊くんのお姉さんが作ったんですね。昨日来た二人も同じバンドだなんて」
「なかなか面白いメンバーでしょ?レベルもそこらへんのバンドより高いですし、ライブを見に行って退屈するなんてことはないですよ」
「一度は見に行ってみたいですね〜。湊くんのお墨付きですし?あの子達がどんな演奏するのか興味も湧いてきました!」
「真っ当な評価をしただけですよ。今度Roseliaのメンバーが来たときにその話をすればチケットぐらい貰えると思いますよ」
(Roseliaに不安要素がないわけでもないんだが…そのへんは本人たち次第か)
「なら今度お願いしてみますね」
「はい」
「そろそろ次に行きますね。あと追加で本持ってきましたからどうぞ」
「何から何まですみません」
「いいえ、気にしないでください。それでは失礼します」
「はいお疲れ様です」
宮井さんが退室するまで見送り、持ってきてくれた本に目を向けると、昨日よりも本の量が増えていた。しかもどれも分厚い本でジャンルも別れていた。
(自由に歩き回る許可が出たらなんかお礼しよ)
病院内のものでお礼できるものに何があるか気にしつつ、持ってきてもらった本に没頭し始めるのだった。
〜〜〜〜〜
「お前が読書って珍しいな」
「…ん?大輝来てたのか」
「ちょうど今来たところだ。…その本だいぶ分厚いな。俺には無理だ」
「俺も暇じゃなかったら読もうと思わない。…まぁこういう本も思いの外面白いぞ。それだけ内容があるってわけだしな」
「そう言われてもな〜、漫画ぐらいしか読めねぇよ。絵がないと無理だわ」
「さすがだな」
「褒めてないだろ」
当たり前だろ。こいつみたいな好かれる馬鹿が難しい言い回しをした小説を読んでたらドン引きだ。
読んでる本のきりがいいところに栞を挟んで本を閉じる。大輝はどうやら学校から直接こっちに来てくれたようで制服のままだ。
「仕事は?」
「今日はないな」
「暇人かよ」
「ちげーよ!…ったく、他にも来客だぞ」
「来客?」
「こんにちは!ユウヤさん!」
「こんにちはー。体の具合はどうですか?」
「イヴと大和か。おつかれさん。体はもう大丈夫だぞ。治った」
「嘘つけ」
どうやら二人も大輝と同じで制服のまま来ていた。今日初めて知ったが、大和ってリサたちと同じ学校だったんだな。イヴの方はたしか紗夜や彩が通ってる学校のやつか。
さてと、大輝のやつが信じてないようだし、見せてやるか。
「きゃぁ!」
「ちょっ、雄弥さん!?」
「なにおもむろに服脱ぎだしてんだ!」
「ほら、傷口がちゃんと塞がってるだろ?」
「ほ、ほんとですね」
「…傷の治り早すぎじゃね?」
「でもたしか体の内側の方が治りが遅いんでしたよね?自分本で読んだことがあります」
「ああ。看護師にも同じこと言われた」
イヴのやつ顔真っ赤だな。男の半裸なんて夏になったらよく見るだろ。
全員に傷の具合を見せ終わったから服を着直す。7月に入ってるから病院では冷房が使われ始めていて、服を脱ぎっぱなしでいると体を冷やしてしまう。
「傷が塞がったらその縫ったやつも取るんだろ?」
「たぶんな。それが終わったら一日様子見て退院とかじゃないか?」
「それじゃあユウヤさんの復帰も早いですね!アヤさんとヒナさんも喜ぶと思います!」
「あの二人って今どんな感じだ?」
「日菜さんは仕事には影響出てないですね。元々要領がいい人ですから。…ただ時折元気が無くなりますね」
「アヤさんは無理に笑ってる感じがします」
「そうか」
「えらく反応が薄いな」
「なるべく早く復帰する以外にできることがないからな」
「まぁそうだけどよ」
「そういや白鷺から聞いたんだが、事件について聞かれたりするんだってな。悪いな、イヴと大和にも迷惑をかけてる」
俺は二人に深く頭を下げた。二人は驚いて頭を上げるように言っていたが、それでも俺は頭を上げなかった。周りへの影響がどれだけ出ているかを理解し始めているからだ。
(友希那に言われた『あなたを想う人』が思ってた以上に多いこともそうだし、俺という存在が与える影響も今になって理解できてきた)
「…そういや雄弥、お前にファンレターが大量に来てるらしいぞ。とりあえず一部は持ってきたが」
「ファンレター?来たなら読ませてもらうが」
「んじゃあひとまず俺が預かった分を渡しとくぞ。中には誹謗中傷もあるかもな」
「俺がそんなことを気にすると思ってるのか?」
「ありえないな。事務所の方にもそう言っとく」
「ああ、頼む」
「…この量でも一部なんすね」
「さすがはユウヤさんですね!」
大輝に袋ごと渡された量は、ざっと見て100通強ぐらいか。これぐらいで驚いてるようでは二人もまだまだだな。
ファンレターに目を通しながら最近のパスパレとしての活動の話を聞いていると、先生と宮井さんが部屋に入ってきた。どうやら宮井さんから話を聞いて直接こっちに来たようだ。
「君の病室はいつも賑やかだね」
「先生がそのタイミングでしか来ないからでしょ。それで許可はくれますか?」
「明日君の検査をしてそこで判断するよ。外から見た様子だと問題はなさそうだが、一応ね」
「ほぼ許可が降りたも同然ですね」
「許可?ユウヤさんは何の許可をもらうのですか?」
「こいつのことだから外出の許可じゃねぇの?」
「うむ。君の予想通りだよ。どうやら彼は早く復帰したいらしいからね」
先生がそんなことを言うと、三人が驚いたようにこっちを見てきた。そんな驚かれるようなことなのか?問題なさそうだから早く体を動かしたいだけだぞ?
「雄弥、わけがわからないって顔してるけどな。今までのお前なら医者の言うことを大人しく聞いて我儘も言わないんだよ」
「そういやそうだったな。だがまぁ、今は状況が状況だからな。ライブも控えてることだし、結花のこともある。なるべく早く復帰できるにこしたことはないだろ」
「入院してさらに変わったな」
「そうか?」
「ワタシもユウヤさんは変わったと思います。こう…よりサムライに近づいたと言いますか…」
「雄弥さんは今まで特に言及せずに周りを見ていましたが、今では周りを気にかけてる上に言葉に表してますからね。そこが一番変わったと思います」
「さすが大和。わかりやすい説明だ」
「恐縮です」
それにしても、そこまで変わってるのか?未だに相手のことなんてさっぱり分からないぞ。なんとなくで行動したらそれがうまい具合に噛み合ってるってだけで、その根本を理解してるわけじゃない。
それはさておき、明日に検査か。……
「雄弥?」
「大輝、悪いがイヴと大和と宮井と一緒に一旦外に出てくれないか?先生に聞きたいことがある」
「聞きたいことならワタシたちがいても大丈夫なのでは?」
「…イヴさん、ここは外に出ておきましょう」
「マヤさんがそう言うなら…」
「悪いな大和」
「いえ、…お礼なら代わりに日菜さんのことをお願いしますね」
「ははっ、…ああ、わかってる」
四人が退室して、先生と二人だけになる。ドアが完全に閉まっているかも目で確認して先生を見た。先生もさすがに理解しているようで、気楽な雰囲気をなくしていた。
「それで、本題はなにかね?」
「ある意味それはこっちのセリフですが、そこはいいです。…俺の体を調べたいんでしょ?」
「なにを言うのかと思えば。患者の状態を知るならそれが当然ではないか?」
「いえ、あなたが調べたいのは傷の具合ではない。俺の体の仕組みでしょ?あれだけの傷があったのに、手術をしたからと言って回復が早すぎる。そのメカニズムを解析したい。それが分かれば現在入院してる患者にも応用できるかもしれない。そうでしょ?」
「…ああそうだ。そこまで分かっているのなら協力してもらえないか?僕は患者のためになることならなんでもしてやりたい。スポーツしてる子達なんて特にそうだ。大会に向けて練習していたのに怪我をして大会を断念する。そんな子達を何人も見てきた。大量の涙を見てきた。だから」
「俺を分析すると。…まぁそれ自体は止めませんよ。あなたは別に俺を死なせて分析しようってわけじゃなさそうですからね」
「それじゃあ!」
「ただ、結論を言わせてもらいます。俺は自分の体のメカニズムを理解してますから断言できます。あなたは
「それは…どういうことだい?」
「それは自分で分析して理解してください。オススメはしません。待っているのは決して希望ではないですから」
「……それでも僕はやるよ。君が断言するなら希望ではないのだろう。だが、それでもソレに対抗するものが出てくるかもしれない。科学は、医術は常に進歩するものなのだから」
「…そうですか。では、その検査も明日ということですね?」
「そうさせてもらえるなら」
「いいですよ。俺も時間潰せますからね」
〜〜〜〜〜
「先生となんの話をしていたんですか?」
「ちょっと検査の細かい話をな」
「それならやっぱり外に出なくてよかったじゃないですか」
「イヴには刺激が強い話だったが、聞きたかったか?」
「ふぇっ……そ、それって…」
「イヴさん。雄弥さんの冗談ですよ」
「……え?」
「イヴって詐欺に引っかかりそうだよな〜」
「そこは疾斗がなんとかするだろ」
「それもそうか」
大輝と二人で、イヴが犯罪に巻き込まれやすそうだなと話し合っていると、顔を赤くしたイヴに頭をはたかれた。何を想像したのかは知らないが、勘違いしたのはイヴだというのに。
「ユウヤさんはハレンチです!」
「いやいや。何を考えたのかは知らないが、勝手に勘違いしたイヴの方がハレンチじゃないのか?」
「そ、そんなことないです!」
「じゃあ、なに考えたんだ?」
「そ、それは…その……うぅー、マヤさーん!」
「ああよしよしイヴさん。大丈夫ですよ。イヴさんはハレンチじゃありませんから。雄弥さんの言い方に問題があっただけですから」
「俺のせいか」
「雄弥諦めろ。これはもう自分が悪いと受け入れるしかないんだよ」
「達観してるな」
「最近悟ったんだよ」
ああ、あのパン屋の子と何かあったのか。悟り顔してる大輝をなんとなくビンタして遊ぶ。
明日は検査で一日潰せるだろうし、もしかしたら御見舞に来てもらってもあまり話せないかもしれない。大輝たちにそのことを伝え、AugenblickとPastel*Palettesのメンバーに伝達してもらうのを頼んだ。Roseliaにはリサ経由で伝えてもらうとしよう。…なんとなくだが、紗夜と日菜には自分で連絡しないといけない気がした。
(あ、これって明日もリサの料理食えないってことだよな)
これでまだ御見舞に来てないメンバーがあの子たちだけに…。