BGMがなかったからですね!音楽の力は偉大です。集中力が高まります。
時が少し経って週末。あこと燐子が来たあの日以降リサの手料理を食べれていない。Roseliaの練習が再開した上に俺の検査やらなにやらがあったからだ。正直に言うとリサの手料理が恋しい。しかし今日はそんなこと言ってられない。
なぜなら、紗夜から今日御見舞に来ると連絡があったからだ。
俺は
「…あれ?今日は元気ないんですね。何かありました?」
「そうですか?自分ではわりといつも通りだと思うんですけど」
「うーん。なんと言いますか、雄弥くん少し暗い顔してましたよ」
「…変化なんてありました?」
「雰囲気です。顔は変わってないんですけど、雰囲気でそんな感じがしました。意外とわかりやすいんですね」
「そうですか…。けど大丈夫ですよ。後で
「それはやめてくださいね。私が怒られるんですから。しかも入院してる他の子達まで影響を受けてますし」
「兄ちゃん!兄ちゃん!今日は何時から散歩するの!?僕は何時からでも行けるよ!」
「…またですか」
本当に入院してるのかというぐらい元気を見せる少年は、小学四年生の子で名前はショウタ。交通事故にあって入院してるのだとか。散歩してる時に部屋で暴れているのを発見してその時に散歩に同行させたら懐かれた。その子以外にも中学生の男の子のケンや低学年の女の子のミカや幼稚園の女の子のアイも一緒に来ていた。
「君たち、勝手に出てきちゃダメっていつも言われてるでしょ?散歩も散歩で終わらないから禁止されたでしょ」
「でも散歩しないと元気でないもん!兄ちゃんはいっつもスッゲーこと教えてくれて楽しいんだよ!」
「湊くん?」
「俺は別に体に負担がかかるようなことはしてませんよ。教えもしませんしね。ただ単に軽い手品をしたりそこら辺に見えるものについて解説したりするだけですよ」
「お兄ちゃんの手品、じょうずなんだよ〜!」
「お花のことも、おしえてくれる、よ?」
年少組になんで「ダメなの?」と純粋な眼差しで見つめられた宮井さんはちょっとたじろいだ。この子たちが言ってることは、何も問題のないことを教えてもらってるってだけだしな。
「そこまではいいんですよ。そこまでは。けど野球が始まるのは私おかしいと思うんです。この前なんてカートレースごっこなんてしてましたし」
「危険性は排除してやってますから」
「湊くんが見てない時に始めたらどうするんですか!」
「そこは約束してますから大丈夫ですよ。な?」
「はい。約束を破ったら二度と遊んでくれないと言われましたので、みんなで約束を守ろうと話し合ったんです」
「僕も兄ちゃんに怒られたくないからね!」
「…はぁ。せめていつも散歩の最後にする遊びをやめてください。それなら許可がもらえるはずですから」
「だってよ?」
「なら我慢する!兄ちゃんと散歩だけでも楽しい!」
「僕もそれでいいですよ」
「決まり、ですね」
「みたいですね。…ちょっと部屋で待っていてください。許可を貰ってきますから」
「ありがとうございます。お礼に売店でお菓子とジュース買ってきますね」
「ありがとうございます」
宮井さんと入れ替わるように子どもたちが部屋に入ってくる。ショウタとケンは部屋の丸椅子に座って、ミカとアイはベッドによじ登ってくる。四人が初めてこの部屋に来たときに定着したポジションだ。
「兄ちゃん今日はどこ行く?」
「アイお花みたい!」
「アイは花が好きだな」
「うん!」
「僕はどこでも。みんなといるだけで楽しいからね」
「ショウタとミカもそれでいいか?」
「うん!けど中庭は行ったから別のとこがいい!」
「ミカは?」
「びょういんの周りをぐるーってしたい」
「ならそうしよう。今日も新しいこと見つけないとな」
そう。散歩と言ってもただ歩くだけじゃない。今まで見ていた当たり前のものを違う側面で見る。俺自身あまりできないことをみんなとやるんだ。見事に年代がバラけているから、それぞれの視点で見ることができてお互いに新しく発見した気持ちを味わえる。最後にはみんなで誰が一番見つけれたかを話し合って、一番になった子はおやつを多めに食べる。そういうルールだ。
「アイとミカは一番になったし、今日は男子の誰かが一番かな?」
「他人事みたいに言ってるけど、雄弥さんも男子だからね」
「年長者はそこらへんを気にしなくなるんだよ」
「え!兄ちゃんって実は姉ちゃんだったのか!?」
「そういうことじゃないからな」
「…へんしんするの?」
「しないから」
「アイへんしんみたい!」
「だからできないからね?」
子どもの純粋さはここまで恐ろしいものなのか。一度信じ込んでしまったらそれを払拭するのが難しすぎる。紗夜ならできるのだろうか。
……なぜ俺は今リサより先に紗夜が頭に出てきたんだ?紗夜が今日来ると連絡を受けたからか?俺の気持ちは別に揺らいでない。ならなぜ…。
「お兄ちゃん?」
「……あーごめんごめん」
「どこか調子悪いの?」
「いや大丈夫だから。ちょっと考え事してただけ。宮井さんはそろそろ戻ってくるかな?」
「そうすぐに戻ってこれないんじゃないかな」
「ならしりとりでもして待つか」
「なら僕から!」
「よし、ショウタから時計回りな」
宮井さんが来るまでしりとりをして待っていた。時計回りでやるため俺の次はミカになる。極力次の言葉が出やすい言葉で回すというのもなかなか難しいものだ。
〜〜〜〜〜
「冒険スタートー!」
「散歩な」
「お兄ちゃんてふてふがとんでるー」
「なんでそんな古い言葉を知ってるんだよ」
「おなじへやのおばあちゃんが教えてくれたよ?」
「ばあちゃんはいつの時代の人なんだ…。アイ、てふてふってのはちょうちょとも言うんだぞ」
「知ってる」
「知ってるのかよ!」
「おばあちゃんがお兄ちゃんにむずかしいの言ったら、ほめてもらえるって言ってたから…」
「…そういうことか。アイは凄いな。お兄ちゃんはアイくらいの時にちょうちょをてふてふっていうのを知らなかったぞ」
「アイすごいの?」
「凄いぞ。きっとお兄ちゃんより賢くなれる」
「やった〜!」
…あの頃はまずちょうちょという存在自体知らなかったんだがな。ま、過ぎたことを考えても仕方ないか。
頭を撫でるとアイは嬉しさを体全体で表すようにはしゃいでいた。アイの頭を撫でていると反対の手が引っ張られた。俺を挟んでアイとは反対側にいるのはミカだ。ミカは前を指差していた。
「お兄ちゃん、二人が先行ってる」
「まぁケンがいたら大丈夫だろ。ショウタも約束は破らないように気をつけるはずだし。ただちょっと歩くペースは上げるか」
「うん。…ねぇ、ちょうちょをてふてふっていうのは発見?」
「…発見ということにできるかは難しいな。ばあちゃんに教えてもらったって言ってたし」
「残念。それより、あの二人が先々行くとみんなで新しいの発見できないよ?」
「それもそうだな。呼び戻すか」
二人に声をかけると二人はすぐに戻ってきた。先に行っていたのは、ショウタが今日こそは一番を取りたいと張り切っていたからなのだとか。
「それで何か見つけられたか?」
「ぜーんぜん。いっつも兄ちゃんがきっかけ作るから、兄ちゃんがいないと何も見つけれない」
「そんなことはないだろ。そこら辺にあるやつでいいんだ。ムキにならずに周りを見てみろ。『そういえばこれって』って思うやつが出てくるはずだ」
「そんなもんなの?」
「そんなもんなんだ。な、ケン?」
「そこで話を振りますか…。まぁ、雄弥さんの言うとおりだと思うよ。ショウタが気になるやつ見つけてごらん?」
「気になるやつ…ムキにならずに…」
こういうのは悩めば悩むほどなかなか見つけれないものなんだが、そこは黙っておくか。余計にややこしく考えそうだ。
「…あっ!」
「なにか見つけれたか?」
「うん!窓!」
「窓?また面白いのに興味もったな」
「テレビで見た外国の窓と家とか病院とかの窓が違う!」
「言われてみればそうだね」
「お兄ちゃんそうなの?」
「?」
どうやらミカとアイは海外の窓がどんなものか知らないようだ。知らなかったらショウタのこの疑問自体に疑問を持つのも仕方がない。せっかくショウタが見つけたんだ、この話を掘り下げるとしよう。
「日本の窓は横にずらすことで窓を開けるんだ。けど外国の窓はドアみたいに押すことで開けるんだよ。ショウタが不思議に思ってるのは、なんで違うかだな?」
「そう!」
「へー、違うんだ。なんで?」
「それをみんなで考えてみようか」
「はい!おして開けたらトリさんがビックリしちゃうから!」
「たしかにビックリするだろうな。アイはいつも見方が違うから凄いな」
「えっへん!」
「はい!押して開けて泥棒を追い返すため!」
「リーチ短いな。面白い考えではあるが、それだと日本は泥棒し放題だな」
「ええー。…なんか兄ちゃん女子に甘い」
「ショウタが面白い発想するからだぞ」
「え?もしかして僕褒められてる?」
「うん。褒められてるんじゃないかな」
「よっしゃ!もっと頑張るぜ!」
こんな簡単にモチベーションを上げれるものなんだな。あいにくと俺はそんな時代がなかったからな。こうやって簡単にモチベーションを上げれたら楽なんだろうな。自分を奮い立たせたい時に奮い立たせられる。…そんな時が来たことはないが。
そんなこんなで窓の議題が終われば散歩再開。え?なんで窓が違うか?それは俺も分からないな。地震がよくあるからか、昔の家の障子がスライド式だからその名残とかそんなんだろ。きっと。
るっと一周するのが今日のルートであるため、ゴール地点はスタート地点と同じで建物の正面だ。そしてゴール地点についたらみんなで話し合って、誰が一番の発見をしたか決める。まぁ今回は目に見えて誰になるか分かってるんだがな。
「それじゃあ誰が一番になるかを話し合おうか」
「お兄ちゃん、一番はもう決まってるんじゃない?」
「え?え?」
「ショウタ落ち着いて」
「落ち着けないよ!」
「それじゃあ一番だが」
「兄ちゃん話し合いは!?」
「一番はショウタだ」
「…え?…えぇ!?」
「なんだもっと喜べよ」
「え、だって、…ええ!?」
まったく、満場一致でショウタに決まったって言うのに、なんでこんな驚いてるんだか。なりたいって言ってた一番だぞ?しかもショウタは自分できっかけ作りをしたし、その後もみんなと違った視点を保ててた。一番になって当然だろう。
「俺が一番?」
「だからそう言ってるだろ」
「やったー!!兄ちゃんやったよ!やっと一番なれたー!」
「ああ。おめでとう。よく頑張ったな」
「へへっ、次も一番狙うから!」
「次からはケンが本気出すんじゃないか?まだ一番なってないからな」
「そう煽られたら本気出すしかないかな」
「げげっ!今までは様子見だったってことか!…よぅし、受けて立つ!」
「はいはい。けど今日はこのあとみんなでおやつ買いに行かないとね。勝負はお預け」
「そうだな。ミカとアイもちょっと疲れたろ。おやつ買ったら部屋で休むぞ」
「うん」
「雄弥くん?」
みんなで中に戻ろうと歩きだしてすぐに俺は足を止めた。この声を聞き間違えるわけがない。連絡をくれていた紗夜が来たんだ。声がした方に向き直るとやっぱりそこには紗夜がいた。さっきまで練習があったんだろう。青く長い髪が風で乱れるのを軽く手で抑えながら、背中にはギターケースがある。
「ほえ?お姉ちゃんだれー?」
「キレイな人ー。私にもキレイになる方法教えてほしいな」
「…紗夜」
俺が子供たちと一緒にいるのが意外そうな顔をしていたが、純粋な子どもに褒められたからか、俺がちゃんと反応したからか、紗夜は表情を柔らかくした。
「元気そうでよかったです」
「まぁな。紗夜はいつも通り…ってわけにもいかなかったか」
「ふふっ、お見通しなんですね。…えぇ。練習にはなんとか集中できていましたよ。今井さんが頑張っているのですから、私が落ち込んでるわけにはいきませんからね。ですが…」
「…ごめんな。とりあえず中に入ろう。話は部屋で」
「…はい」
俺は気づいておかないといけなかったんだ。俺を好いてくれているリサがあの調子なんだから、あの後ろくに会えていなかった紗夜がどんな状態になっているのかを。そしてそれは日菜も同じなんだ。
(この姉妹はどっちも隠したがるんだった。俺はほんとに)
──ダメな男だ
思いつきで出した子供たちが話を食べてしまいました。
あ、今回は先に宣言しておきます。夕方に本日2つ目の投稿があります。