ヤッタ━━━( p゚∀゚)q━━━━!!
アタシは今、片手で数えられるぐらいしかやったことがない放課後デートをしている。知り合いに見られたら恥ずかしいぐらいに雄弥にベッタリ甘えていて、すれ違うおばあさんに「あらまぁ、若いっていいわねぇ」なんて言われたりもした。
「そういえば雄弥ってアイドルなわけじゃん?」
「一応な」
「一応じゃないでしょ。…アタシ達今日から付き合うわけだけど、これってけっこうまずくない?」
「気にしなくていい。俺とリサがよく一緒にいることなんて知られてるし、うちの事務所はその辺だいぶ緩いからな」
「けどさ〜、…ほら熱狂的なファンからしたら受け入れられないじゃん?あたしだって雄弥が浮気したら許せないわけだし」
「浮気なんてしないからな。…ま、そこは受け入れてもらうしかないだろ。それに今は公言してるわけじゃないから。もし何かあったらすぐに言ってくれ、なんとかする」
「うわ〜、頼りになるね〜♪…ほんとに浮気はしないでね?芸能界って可愛い人とか美人な人が多いし、スキャンダルなんてわりと当たり前みたいな頻度でニュースになるしさ」
「だからしないって。俺がリサより好きになる人なんていない。リサしか目に入らないから」
「ふーん?紗夜と日菜は?」
「っ…。……今は違う」
「…ごめん、意地悪だったね」
「いや、俺がはっきりしてなかったのが悪いんだ。リサが謝る必要はない」
「でも…わわっ!」
アタシが食い下がろうとしたら雄弥に頭を乱暴に撫でられた。乱暴に撫でられるのは初めてだからびっくりしちゃうよ。なんかこれはこれで嬉しいような……髪が乱れちゃうからやっぱダメだね。
「そういや、退院する時に宮井さんが『リサちゃんのクッキーをまた食べたい』って言ってたぞ」
「そうなの?今度お礼に持っていこっかな」
「お礼?」
「雄弥を視てくれてたお礼」
「リサはいつ俺の保護者になったんだよ…」
「保護者じゃなくて彼女!…です」
「…恥ずかしがるのかよ」
「彼女になれたのは嬉しいんだけどさ。…なんというか、自分で言うのは恥ずかしい…かな」
ほんのりと頬が上気してるんだろうな〜。なんか顔が熱いもん。雄弥がどこに連れてってくれるのか、それを気にしてたことも今は頭から抜け落ちてる。
「そうなのか?よくわからないが…。とりあえず宮井さんもライブに誘ったから、その時にクッキーを渡せばいい」
「そうなんだ!じゃあ宮井さんの分と、雄弥たちも分…というかせっかく作るんだから子供達の分も作るね♪」
「だいぶ作ることになるが、手伝おうか?」
「だーめ!差し入れなんだから雄弥が作ってちゃ意味ないでしょ」
「ならまた今度一緒に作るか」
「うん♪」
雄弥と一緒にクッキー作りか〜。小学生の時以来だよね。あの時の雄弥って自分から何かすることなんて一切なかった。アタシとか友希那とかに言われてから行動してた。学校もそうだし、お風呂もにも言わないと行かなかった。食事も遊びも言わないと行わなかった。…きっとそういう風に教育されてたんだろうね。記憶がなくても体が覚えてたんだ。
だからアタシと友希那はずっと一緒にいた。放っておいたらいなくなってしまう雄弥を失いたくなかったから。クッキー作りもその一環。
そんな雄弥が自分から誘うようになったのは、やっぱ今年の春からだよね。Augenblickに入ってからは、消えていなくなりそうな印象は無くなった。アタシ達Roseliaが結成して、雄弥たちの後輩にあたるパスパレができて、結花が加入した。雄弥と繫がりがあった人達が雄弥の近くにいられるようになって、それから雄弥が変わった。
(アタシ一人じゃ雄弥はここまで変わらなかったよね。…たぶん一番雄弥を動かしたのは日菜だ。強引な日菜と、厳しさと優しさを兼ね備えてる紗夜が雄弥の意識を変えさせた。……むしろアタシは、何もできてない)
「リサ、ありがとう」
「へ?いきなりどうしたの?」
「言っときたい気分だったんだよ。実際リサには一番助けられてる。リサがいてくれたから今の俺があるんだ」
「…そんなことないよ。アタシがいなくたって、紗夜と日菜の二人だけでも雄弥は変われたはずだよ」
「たしかに変われたかもな。だがそれで今の俺と全く同じにはならないだろ」
「なんでそんなこと言い切れるの?実際に雄弥が変わったのって日菜がきっかけを作って、紗夜が雄弥を支えたからじゃないの?アタシができたことなんてなかったじゃん!」
「馬鹿だな」
「あたっ。…雄弥?」
アタシの頭を小突いた雄弥は、呆れたようなけれどどこか寂しげな顔をしてた。雄弥がこんな感情を顕にしたことなんてあったっけ?少なくともアタシは知らない。
「紗夜と日菜に会ったのは、俺が湊家に引き取られて、アノことがあったからだ。その時の俺はリサと友希那の二人が全てだった。わかるか?二人の存在が俺を形作ってたんだ。湊家に戻ってからもリサはずっと側にいてくれて、友希那は距離を置いたけどそれでも支えてくれた。そのことがあるから今に繋がってるんだよ」
「アタシと、友希那が…?」
「そうだ。俺の根底なるものを作ってくれたのがリサと友希那なんだ。だからもしリサがいなかったら、例え湊家に引き取られて同じことがあって、それで同じように日菜に会って紗夜に会っても、今の俺にはならない」
「そう…なのかな。……アタシはそんな大した人間じゃないよ」
「俺にとってはリサはそれだけ大きい存在なんだ。暖かい優しさで時に包んでくれて、時に背中を押してくれてる。…それに言ったろ?リサのことが世界で一番好きだって。今じゃリサがいないと俺は生きていけないぞ」
「…よくそんな恥ずかしいことを臆面無く言えるよね。言われたアタシの方が恥ずかしいよ。…けど、雄弥の力になれてるならよかった」
「そんなリサへのお礼を今から買うぞ」
「へ?い、いいよお礼なんて!」
「もう店に着いた。諦めろ」
雄弥の言うとおりいつの間にかお店についてた。外から見てもわかる。アタシが好きなアクセサリーショップだ。だけどアタシがいつも行くところとは違うお店で、中を見ても男子もそこそこいる。
「雄弥、なんでここ?」
「リサとペアルックの買うからだ。ここはそういうのが多いんだよ」
「へ?」
ペアルック?今ペアルックって言った?ペアルックってあのペアルックだよね?雄弥が…アタシと?急にそんなこと言っちゃってほんとどうしちゃったの?こういう身につける系を嫌ってたくせに。
「付き合ったらこういうのって買うもんじゃないのか?」
「それはー、まぁ、うん。買う人たちもいるだろうけど。それは人それぞれだよ?結花に買ってこいって言われた?」
「失礼だな。結花からはデートしてこいって言われただけだぞ。まぁ誰からも影響受けてないってわけじゃないけどな」
「誰の影響?」
「羽丘行く途中にすれ違った見知らぬ男女」
「赤の他人じゃん!」
「そうだな。ま、でも一緒のってなんか良くないか?」
「…まぁ、アタシもお揃いは嬉しいし、買おっか!」
一旦別れて、お互いに気に入ったやつがあればそれを相手に伝える。そういうふうに決めて、アタシはお店を右回りで、雄弥は左回りで見ることになった。
イヤリング…はなんか違うな〜雄弥がつけてるとこなんて想像できないし。ネックレスとかだとペアのはそれなりにあるけど、雄弥が嫌がるだろうし…。うーん、指輪とか?……ゆびわ?…カップル……ゆびわ…………結婚?
(なしなしなしなし!何考えてんのアタシ!?さすがに結婚は気が早すぎるよ!付き合って初日に結婚指輪!?そりゃあ雄弥と結婚したいし、というかもう離れたくないから絶対に結婚してやるんだけど!けど、まだ早いよ!)
「お客様どうかされましたか?」
「ふぇ!?あぁいや大丈夫……で…す。男の…人…」
「あの、お客様?」
「…ぁ、や……こないで……やめて…」
「大丈夫ですか!?お客様!?」
アタシが一人暴走してたからこの人も心配してくれただけ、頭ではそう分かってる。分かってるのに!
アタシの心がこの人を拒む。目を強く瞑って、耳を塞いでしゃがみこむアタシに店員さんが近づいてきた。優しい人なら誰だって心配してそうする。だけどアタシにはそれが逆効果で…。
「おきゃくさ「リサに何してる」ま?」
「もう一度だけ聞く。リサに何してる」
「……ぁ、ゆう、や。……っ!雄弥だめ!その人は何も悪くないから!」
雄弥がアタシと店員さんの間に割って入ったことで、アタシも落ち着くことができてすぐに雄弥を止めた。雄弥はあの事件の時と同じ怖い目をしてたけど、アタシの言葉を聞いたら店員さんを強く握っていた手を離してくれた。
「…そうなのか?……あー、そういうことか。店員さんごめんなさい。勘違いしていました」
「い、いえ。さっきの状況を見たら仕方ありませんよ。…どうやら彼女さんも落ち着いておられるようですし」
「ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまいました」
落ち着いたといっても、まだ若干体が震えてる。アタシは軽く雄弥の後ろに隠れるような状態で軽く雄弥の服に掴まりながらだけど、店員さんに謝った。だってアタシが原因なんだから。
「いえいえ、お客様の具合が悪かったのかと思いましたが、もう大丈夫そうですし私も安心しました」
「お詫びと言ってはなんですが、これから買うものを倍で買いますので」
「そんなのは結構ですよ。今度のライブで宣伝でもしてください。Augenblickの湊さん」
「…ご存知でしたか」
「はい。娘がファンですから。入院されていると聞いていたのですが、退院されたのですね」
「これは隠さないといけないことなんですけどね。娘さんにも内緒でお願いします」
「はははっ、そうでしたか。では彼女さんのことも黙ってないといけませんね」
「お願いします。…娘さんはチケット当たりましたか?」
「……それが残念なことに外れてしまいまして、娘も落ち込んでいました。湊さんが入院されたと知った時には嘆いていました」
「そうですか。ならチケットを用意しておきますので、チケットと宣伝をお詫びということで」
雄弥ってこういう時絶対頑固になって一歩も譲ろうとしないよね。最初からこれを落とし所にしようとしてたんだろうし。仮に当選してたら席を前の方にさせたんだろうな〜。
「は?そのようなことは…」
「チケットに当選しても振り込まない人もいますから、そこを抑えて娘さんに回しますので。これをお詫びということにしてください」
「そんな勿体無い。ありがとうございます」
「いえいえ。それではまた会計の時にでも」
「ええ。失礼します」
なんかキレイに丸く収まったんだけど…。アタシがそのことに驚いてると雄弥がアタシの顔を覗き込んできた。
「リサ?」
「え?…わぁっ!もう驚かさないでよ!」
「いや驚かしてないだろ。それでもう大丈夫か?」
「ぁ…うん。ごめんね雄弥迷惑かけちゃった」
「謝らなくていい。俺のほうがリサには迷惑かけてきたからな。これからは少しずつ返してくつもりだ」
「そんなのいいのに…」
「俺もリサの謝罪は受け取りたくないな」
「もう…。それでなにか良さげなのあった?」
雄弥はこういうの決める時ってわりとパパっと決めちゃうから、もう目星つけたのかと思ったんだけど…違うみたいだね。だってアタシから目をそらすんだもん。
「なかったんだ」
「リサと一緒のを選ぶってなると難しくてな。今までだとリサが候補を絞ってくれて、それから俺の意見出してたわけだし」
「あ~、言われてみればそうだね。ぷっ、あはははは!」
「いきなりどうした」
「ふふっ、ううん♪…結局アタシ達ってこういうやり方になるんだなぁって思って」
「今までやってこなかった事をいきなりやれってのも無理な話だよな」
「雄弥ならやってのけることの方が多いじゃん?」
「こういうのは全くできないんだよ。リサも知ってるだろ?」
「うん。よーく知ってるよ♪」
本当によく知ってる。自慢じゃないけど、雄弥自身のファッション感覚が良いのは、アタシが雄弥を連れ回したからだと思ってる。だから雄弥は全然女心がわからないくせに、相手の女の子が喜ぶ服やアクセサリーを選べるんだ。
そんな雄弥とアタシがお互いに「これだ!」って思えるものだと、…ジャンルは絞り込めるね。そうと決まれば移動しよーっと。
「この中から選ぶのもありかな〜?」
「この辺はブレスレットか?…なんかブレスレット感ないようなのもあるな」
「それは輪っかを二重とか三重にすることで手首とか足にもつけれるやつだよ。一番長い状態ならネックレスになるね」
「なるほど。便利だな」
「便利って言うのかな…。ま、いいや。それでこっちのは「これにしよう」はやっ!」
まだ全然見てないじゃん!一個目で決めるっていくらなんでも早すぎでしょ!他にも色々と見ようよ!
「他にも気にいるのあるかもよ?」
「リサが気にいるのがあったらそれも買う。けどこれは買う」
「…なんで?」
「ネックレスにもブレスレットにもできるんだろ?それに軽そうだから身につけてライブしても気にならないだろうしな」
「ライブでもこれを身につける気?大丈夫?もしちぎったら怒るよ?」
「大丈夫。これに負荷がかからないように動くから」
「そんな無茶苦茶なこと…はぁ、今更か」
「今更だ。…これってイニシャルもつけれるみたいだし、誕生日石も小さくだがつけれるようだから悪くないと思うんだが…、どうだ?」
「…そこまで考えてたなんて意外だな〜」
「失礼な奴だな」
ありゃ?もしかして雄弥が機嫌損ねてる?雄弥の色んな面が見えやすくなってきてるよね。「お互いの名前のイニシャルのを選ぶって、結構良いと思ったんだがなぁ」……んん!?今なんて言った!?
「ゆ、雄弥!今なんて言ったの!?」
「ん?リサのイニシャルのを俺がつけて、俺のイニシャルのをリサがつけるってのもアリかなと思ったんだがな。リサが別のがいいって言うなら別のにでいい」
「いやこれにしよ!アタシもこれにしたい!」
「ほんとか?もっと他の見たいって思ったるだろ?」
「…み、見たいけどさ!雄弥がそこまで考えてこれを選んでくれたならこれがいい。誕生日石嵌めるジュエリーはどれにするかも考えたの?」
「ジュエリー?」
「誕生日石嵌める台座って言ったらいいのかな…ほらこのハートとか星とか色々あるでしょ?これは選んでるの?」
「それはまだだな。リサはどれがいい?」
どれにしようかな〜。ハートはさすがにスキャンダルものになるからダメだし、というか恥ずかしい。リボンもまずいよね。そうなると…、これかな?
「決まったか?」
「うん。クローバーにする。可愛いし、男の雄弥がつけても似合うと思うんだよね」
「ならクローバーにするか」
「うん!それで誕生日石はどうする?イニシャルみたいにお互いの月にする?」
「いや、同じ月にしようと思ってる」
「同じ月?アタシ達で共通する月なんて………4月?」
雄弥は答えてくれなかったけど、無言で頷いてくれたってことは正解だよね!そっか、4月か〜。アタシ達が会った月が4月だもんね。石とジュエリーはお揃いでイニシャルは相手のやつだなんて、雄弥もシャレた提案ができるようになったんだ!
さっきの店員さんを呼んで、雄弥と決めたことを伝えて作ってもらうことになった。作るって言っても石をジュエリーに嵌めて、イニシャルをつけるってことなんだけど、こういうのは時間がかかるからね〜。
その時間を使って雄弥と一緒に他のアクセサリーを見て回ることにした。これいいなって思うのが色々あって、この店もアタシのお気に入りリストに入れたよ♪
雄弥とのペアルックを無事に買って、大切に梱包してもらったのをアタシが持つ。雄弥に持とうかって聞かれたけど、これはアタシが持つことにした。なんたって初めて雄弥とのペアルックだもん♪
「そんな喜んでくれるとはな」
「そりゃあ嬉しいもん♪雄弥とお揃いなんだよ?しかも雄弥がアクセサリー買うのってこれが初めてだし、それがペアルックだなんて喜ばないわけないよ!」
「そういうもんか」
「そういうもの!雄弥だって嬉しかったりするんじゃないの?」
「かもな。……あー、これも嬉しいに入るってことか」
「ふふっ、これからもっともっとその気持ちを…うぅん、それ以上の気持ち抱かせてあげるね♪雄弥に与えられるだけじゃない。アタシからも雄弥に幸せをプレゼントするから♪」
アタシがはにかんでみせると、雄弥はアタシから視線をそらした。…これって、あの雄弥がてれたってことかな?なんだろうこの気持ち。雄弥がそんな反応するとなんかすっごくムズムズする!
「ねぇ雄弥、もしかして照れ「爺さんの喫茶店行くぞ」え、ちょっ、歩くの早いよ!」
「リサが歩くの遅くなったんじゃないか?」
「そんなことないから!雄弥の照れ顔見させてくれたっていいじゃん。アタシなんていっぱい見られてるんだしさー!」
「照れてない」
「なら目を合わせてほしいな〜」
「合わせない」
「やっぱり照れてんじゃん」
「照れてない…リサ危ないぞ」
「へ?わわっ!」
雄弥の前に回り込んで、後ろ向きに歩きながら雄弥と目を合わせようとしてたアタシは雄弥に抱き寄せられた。そのすぐ後に猛スピードで自転車が通り過ぎた。坂道ということもあって車並みのスピードで。あのままだったらアタシ轢かれてた…。
「あ、あぶなー。ありがとう雄弥…雄弥?」
「…アイツひったくり犯か」
「え?そうなの?」
「手に鞄持ってた。普通なら鞄は籠に入れるか、肩にかけるかだし、持ち方がおかしかった。それと、あっちにひったくられたであろう人がいるしな」
雄弥が指をさした方を見ると、たしかに顔を青ざめてる女の人がいた。あの人がひったくられたってことだね。
「さっきのひったくり犯追いかけないの?」
「追いつけるだろうが、リサを一人にする気はない」
「アタシは大丈夫だから。あの人のためにも追いかけてきてよ」
「…俺が行く必要がないだろ?」
「雄弥!」
「疾斗が今頃捕まえてる」
「……え?」
「おっ、雄弥とリサじゃねぇか!退院したって本当なんだな〜。なんだ二人はデートか?」
「わぁっ!?」
どっから出てきたの!?さっきまで見る影もなかったのに!アタシを驚かせたからか、イタズラが成功した子供みたいな笑顔してるけど、反対に雄弥は平然としてた。
「その鞄はあっちの人のやつだからな」
「サンキュー。俺はこれ渡したら帰るわ」
「忙しいやつだな」
「いやいや、道端でそんなベッタリしてるカップルと一緒にいたくないだけだぞ。デートの邪魔をする気もないしな。んじゃなー」
(ベッタリしてるカップル?)
雄弥と顔を見合わせてみて気づいた。
「さてと、爺さんとこ行くか」
「うん……」
急に恥ずかしくなったアタシは、しばらくの間雄弥に手を引っ張ってもらうことになった。
〜〜〜〜〜
「いらっしゃいませ!……兄貴と姉さんじゃないですか!おいみんな!兄貴と姉さんが来たぞ!」
「本当か!」
「お二人が店に!?」
「俺が先だ!」
「あ、あはは〜。いつ来ても元気だね」
「見舞いに来ないぐらいにはな」
「そ、それは兄貴が来るなって言ったからじゃないっすか!!」
「雄弥?」
「こいつらも試験があったからな。見舞いに来る暇があれば勉強しろって意味だったんだよ」
ふーん?みんなのこと思ってそんなこと言ったんだ。雄弥らしいけど、たぶんニュアンス的には「試験終わったら来てもいい」ってことだったんだろうけど。……試験か。
「試験の結果ってもうでたの?」
「出ましたよ。そう!聞いてくださいよ!無事に全員合格したっす!」
『『イェーイ!!』』
「これで姉さんの手作りケーキをいただける!」
「そのために生きてきたと言っても過言ではない!」
「姉さんのためならなんだってできるぜ!」
「国だってひっくり返してやる!」
「みんな捕まるようなことしたらダメだからね?この中の一人でも警察のお世話になったらアタシ泣くよ?」
『『誓って姉さんを泣かせるようなことは一切致しません!!』』
「よろしい!今度の日曜日にはケーキ作れると思うから、楽しみにしててね?」
『『はい!』』
「手懐けてるな」
「そんなことないよ。みんないい人だもん」
団結力もすごいし、この人たちならきっと立派な大工さんになれる。何があってもみんなで支えあって乗り越えていくんだろうね。アタシ達もそうなりたいな。
「雄弥退院したのか」
「爺さん久しぶりだな。若返ったか?」
「わかるか?」
「これツッコミ入れないといけないの?」
「ドンとこいじゃよリサちゃん!」
「…やめときます」
「がはっ!なん……じゃと…」
「喋り方から判断すると老けたな」
「ぐはっ!」
膝ついてた店長さんに雄弥がトドメをさしちゃった。ノリがすごい軽いから全然高齢者って言えない気がするんだけどなぁー。
「満足したか?」
「…まぁ遊びはこれくらいにしとくか。頼まれていた物は揃えてある。店にある物も好きに使うといい」
「ありがと、さっそく使わせてもらう。…リサはテーブルで待っててくれ」
「えっと〜、どうゆうこと?」
「説明してなかったのか?」
「忘れてたな…。今日はリサに料理を振る舞うから食べてくれ」
「雄弥の料理が食べれるのは嬉しいから全然いいけど、一緒に食べないの?」
「リサが食べてる間にデザートを作る」
「……アタシは雄弥と一緒に食べたい。一人は嫌だよ」
「…雄弥、デザートの仕込みだけやれ。その後は作っておいてやる。デザートの味はお前が作ろうとしてたものに限りなく近くなるはずだ。なにより、こんな可愛い子を悲しませるな」
「……わかった。リサちょっと待っててくれ、料理作ってくるから」
「うん。楽しみにしてるね♪」
雄弥が店長さんと一緒にお店の厨房に入っていった。アタシは待ってる間に友達から来てた連絡を見たり返信したりしてたんだけど、瑛太くんが何やら袋を持ってきた。…この袋って、もしかして!
「姉さん。これ姉さんが買われてたやつですよね?実は自分、あの日現場を見てて兄貴に連絡したら、荷物は店で預かっといてくれって言われてたんす。今日姉さんが来たのでお返しします!」
「ありがとう〜!…よかった、無くなってなかったんだ。……中見た?」
「少しも見てないっすよ!他の奴も見てないっす!そんな恐れ多いこと自分たちはしないっす!」
「あはは、ならよかった。預かっててくれてありがとう♪」
「そ、そんなお礼だなんて…自分は兄貴に言われたからそうしただけっすよ」
「ううん。それでもだよ」
「きょ、恐縮っす。……あ、あの、姉さん」
「うん?」
「じ、実は自分、その……おわっ!!」
「えっ!?なになに!?」
瑛太くんが何か言おうとしてたら、アタシと瑛太くんの間を何かがすごい勢いで通り過ぎた。壁に突き刺さった物の正体はナイフで……ナイフ!?
「悪い、手が滑った」
「手が滑ってこんなことにならないでしょ!それとナイフ投げたら危ないでしょ!」
「そう言われてもな〜。何か喋ってたのか?」
「雄弥白々しいよ?」
「俺の女に手を出そうとしたのか?」
「い、いえ、そんなことは決して。自分は姉さんに何かお礼できればと思ってただけっす」
「そうなのか?それなら許す
「雄弥?」
「……ごめん」
「アタシにだけ謝るの?」
「…そうだな。すまなかった瑛太。デザートやるよ」
「あざす!」
「…はぁ、二人がそれでいいなら、もうアタシは口を挟まないよ」
「リサが他の男に言い寄られるのが嫌だったんだ。ごめんな」
「…う、うん」
アタシの耳元でボソッと言った雄弥はそのまま厨房に戻っていった。バカ…そんなふうに言われたら許しちゃうじゃん…。けどナイフは危ないからね?
(それにしても、そっかぁ〜そんなに大切に思ってくれてるんだ♪)
結局アタシは雄弥が料理を持ってきてくれるまで、顔がニヤけちゃったままだった。
〜〜〜〜〜
雄弥が作ってくれた料理は、アタシが好きな和食で大好きな筑前煮も用意してくれた。雄弥っていつ料理の練習してるんだろ?たいてい作ってもらう側だよね?しかもそれが美味しいとなると、女の子としては焦りもあるわけで…。
「雄弥って実はアタシより料理できたりしちゃう?」
「何言ってんだよ。リサに勝てるわけ無いだろ」
「でも自分で作った時より美味しい気がする」
「俺もリサの料理は自分で作ったやつより美味しいって思ってるぞ」
「そうなの?」
「当たり前だろ。……作ってもらった料理の方が美味しく感じるんじゃないか?人間の心理的に」
「あ〜、それはありそうだね」
そういうことなら、まぁ大丈夫…かな?ご飯を食べ終わったらレストランみたいに料理を片付けられて、今度はデザートが出された。デザートは前みたいにお互いに食べさせ合いをして美味しくいただきました♪……うそです、恥ずかしさがで味がよくわからなかったです、はい。
〜〜〜〜〜
お店を出たアタシ達は、手を繋ぎながら帰り道を歩いてる。繋いでる手には、今日買ったアクセサリーをブレスレットとしてさっそくつけてある。荷物が増えたから、学校の鞄を雄弥に持ってもらって買い物袋はアタシが持ってる。
「みんな合格しててよかった〜」
「リサって結構アイツ等のこと気にかけてるよな」
「まぁね〜。なんか放っておけないじゃん?」
「アイツ等は自分の力で前に進めるぞ。…俺より強い人間だからな」
「…雄弥も強い人だよ?」
「そうでもない。俺は弱い人間だ」
「『正しく認識できてたらそこから前に進むことができる』でしょ?だからそんなに自分を卑下にしないでよ」
「ははっ、…そうだな」
雄弥といると一日だけのはずが、何日分も楽しんでるような気分になる。正確に言うと今日は半日も一緒にいなかったけど、サプライズ退院から始まって、雄弥の彼女になれて、ペアルックのアクセサリーを買えて、瑛太くん達の合格話を聞いて、雄弥の手料理を食べれた。
「…もう家に着いちゃったね」
「俺は退院できてるわけだし、明日の朝も会えるぞ?」
「そうだけどさ…わっ」
「明日の朝会おう。夜にも会おう」
「うん♪」
雄弥に抱きしめられたけど、アタシも雄弥の背中に手を回す。やっぱりこうしていられるのが幸せに思える。元気になった雄弥と一緒にいられることが、雄弥のこの暖かさを感じて、心臓のリズムを聞いて、そして雄弥と唇を重ねられる。雄弥の何もかもが愛おしい。
「…ゆうや」
「リサ」
一度離れてお互いに名前を呼び合う。ただそれだけでも胸がいっぱいになって、もう一度唇を重ねる。
(ほんとうに、本当に幸せ)
「……あのー、家の前でイチャつかないでくれない?」
「んんっ!?ゆ、結花!?」
「まさか家の前でディープなキスを見せつけられるとはね〜。ね、友希那?」
「友希那も!?」
「……結花家に入るわよ」
「友希那無視される方が辛いから!」
「…場所を考えなさい。あなた達の関係にあまり口出しする気ないけど、これはさすがにどうかと思うわよ」
「…はい」
「それと雄弥」
「どうした?」
「…相変わらず平然としてるわね。はぁ、まあそれはいいわ。…あとで話があるわ。私の部屋に来なさい」
「わかった」
「それじゃあ私と友希那は先に家に入ってるから〜。お二人さん、
「なぁっ!?し、しないから!」
「??」
「雄弥は相変わらずだね〜。リサまた明日〜」
結花にとんでもないことを言われたけど、雄弥がそのへんわからない人でよかった。
「あ、忘れるとこだった」
「うん?なに?」
「リサへのプレゼント」
「へ?…いや、え?…ありがと…開けてみていい?」
「ああ」
雄弥に渡されたプレゼントを開けると、そこには今日行ったアクセショップで気に入っていたネックレスが入ってた。
「な、なんで…」
「リサそれ気に入ってたんだろ?だから買った。元々ペアルックとは別でリサに買うつもりだったからな」
「そんなのいいのに…。これめちゃめちゃ高かったでしょ?」
「そうなのか?基準がわからないし、買える値段だったから買ったんだが」
「そのあたりも覚えないとね…。でも…ありがとう!すーーっごく嬉しい!これ大切にするね♪」
「ああ。俺もそうしてもらえるとありがたい」
「うん♪雄弥がつけてくれる?」
「いいぞ」
大切に手に乗せてたネックレスを雄弥に渡して、アタシは髪軽く纏めて少し上げる。雄弥ってわりと器用だから、こういうのもつけたことないくせにスッとつけてくれる。
「どう?」
「大したことは言えないが、似合ってる。綺麗だ」
「えへへ、そっかそっか♪買ってくれた雄弥にアタシからもお礼!」
両手を雄弥の頭の後ろに手を回して引き寄せる。軽く背伸びをしてまた雄弥の唇と重ね合う。
アタシの大切な人。
誰よりも大好きで、愛おしい人。
雄弥が絶対に他の人に目移りしないように、アタシのことを雄弥に刻むように息が切れても何度も何度もキスを繰り返した。友希那に「場所を考えろ」って言われたばっかなのに、そのことは完全に頭から抜け落ちてた。
アタシが雄弥から手を離しても雄弥にはギュッとされたまんまだった。アタシも雄弥の体に頭を預けて、そのまま夏休みの予定を話し合った。別れる時に振りあったお互いの手には、ブレスレットが綺麗に輝いて、アタシの胸元では太陽と月が表裏一体になってるネックレスが夕陽色の優しい光を発していた。
チケットの融通きかせすぎじゃね?