陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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13話

 日菜をふったあの日から、日菜が事務所にある俺の部屋に遊びに来ることがなくなった。

 

 

「ユウくんやっほ〜!」

 

 

 なんてことには一切ならなかった。…その方がこちらも気持ちが楽だからありがたいんだけどな。

 

 

「来ることは拒まないが、前より頻度が増えてないか?」

 

「ええー、気のせいじゃない?たぶん結花ちゃんが来ることが減ったからそう思うんだよ」

 

「そんなもんか?…いや結花はたいして来る頻度変わってないからやっぱ増えてるだろ」

 

「あはは〜、バレたか〜。ユウくんが一人で寂しがってないかな〜と思って来てるんだよ?」

 

「寂しくなんて思わないから。日菜が来たいだけだろ」

 

「うん!」

 

 

 笑顔で断言しやがった。いやまぁ、さっきも思ったことだが、別に日菜が来ることは拒まない。頻度が増えたのもまだいい。ライブ前ということもあって、たいてい入れ違いになるからな。問題は日菜との身体接触が増えたことだ(・・・・・・・・・・・)

 今までも抱きつかれることはあったが、それもすぐに離れていたし、抱きついてる間はおとなしかった。だが今はどうだ。一度ひっついたらなかなか離れようとしない。しかも触れ合う範囲が増えた。

 

 

「日菜離れてくれ。作業し辛い」

 

「ええー!いーじゃんもう少しだけ!」

 

「日菜の少しは少しじゃないだろ…」

 

「そんなことないって〜。じゃあ5分だけ!あと5分だけギューってさせて!」

 

「地味に長いような」

 

「ダメ?」

 

「…わかった。きっちり5分だぞ」

 

「やった♪」

 

 

 手を止めて後ろにいる日菜に向き直って、日菜のしたいようにさせる。どうやら俺はあーやって頼まれたら断れないらしい。最近になって気づいた。…しかしこの状況はどうなのだろうか。公表してないとはいえ、俺にはリサという唯一無二の彼女がいるというのに、現状況は別の女の子とハグしあっている。

 もしこれがリサに知られたら怒られる気がする。…いや確実に怒られる。しかも機嫌を治してもらうのにすごく手間取るやつだ。なんせリサが最も警戒している職場での出来事なんだから。

 

 

(せめてリサの耳に入らないようにしないといけない。問題はどうやって日菜が他言しないようにさせるかだが……ん?これ浮気してる奴らと同じ思考じゃないか?)

 

「雄弥くん。日菜ちゃんここに来て…る?………えっと…」

 

「なになに?なんか面白いものでも見れた?……おやおやー?雄弥さんそれは浮気ですか?浮気ですね!リサに報告しないとなー☆」

 

「待て。彩も結花も早まるな。携帯を操作するな。これは別にそういうことじゃないぞ。日菜も離れろ」

 

「やだ!まだ5分経ってないもん!」

 

「雄弥さん随分とお熱いですな〜」

 

「結花お前分かってて言ってるだろ」

 

「なんのことかな?」

 

「えっと、とりあえず話を聞けばいいのかな?」

 

「そうしてくれ」

 

「彩は雄弥に甘いね。そんなんじゃ本当に雄弥が浮気しちゃうよ☆」

 

「しないからな」

 

 

 まったく、心外にも程があるぞ。俺にはリサだけだ。…まぁこの状況でそんなこと言っても信憑性がないんだがな。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 ユウくんが彩ちゃんと結花ちゃんに事情説明している間に約束の5分がたったから、あたしは宣言通りユウくんから離れた。今はユウくんの部屋にある丸テーブルを四人で囲ってる。

 

 

「日菜、離れるって言ってなかったか?」

 

「え?だから離れてるじゃん。今は手繋いでるだけでしょ?」

 

「…そうだな」

 

「雄弥って仲良くなった子にはとことん甘いよね〜。リサの性格からしたら気が気じゃないと思うよ?」

 

「そう言われた。芸能界にいるから心配だって」

 

「へぇ…。リサってば雄弥には全部話せるんだね」

 

「どういうことだ?」

 

「リサちーってユウくんと一緒じゃない時って他人優先だからね。それがリサちーの性格で魅力でもあるんだけど、自分のことは全部後回しにしちゃうんだよね〜。しかも気持ちも隠しちゃうし」

 

「…そうなのか」

 

「ま、雄弥がリサのためてる物を全部引き出せてるみたいだから安心した、ってことだよ」

 

「友希那ちゃんもリサちーの話聞き出せるみたいだし、ユウくんも心配しなくて大丈夫じゃない?」

 

「なんたって私達のお姉ちゃんだからね☆私も弟の彼女のことはもちろん気にかけるからね!」

 

「え?結花ちゃんって雄弥くんのお姉ちゃんだったの?」

 

「そんなわけあるか。…順番で言えば結花が妹だろ」

 

「友希那がそう言ったんだからいいじゃーん。それとも雄弥ってこういうの気にするタイプ?」

 

「気にしないな」

 

「ならいいでしょ☆」

 

「…はぁ。好きにしろ」

 

 

 あれ?友希那ちゃんの名前が出てからユウくんの表情が少し曇ったような…。なんでだろ、ユウくんと友希那ちゃんって仲いいはずなのに。

 

 

「ユウくん?ねぇユウくんってば!」

 

「ん?どうした日菜」

 

「どうしたじゃないよ。ユウくんがなんか暗い感じになってたから。…友希那ちゃんと何かあった?」

 

「いや、特には何もなかったぞ」

 

 

 本当かなー?ユウくんの顔を見た感じ、別に友希那ちゃんと喧嘩したってわけじゃないみたいだけど…。でも、確実に友希那ちゃんと何かあったね。それか何か言われたのか。…こっちは考えにくいかな。ほんと、何があったんだろ。リサちーは知ってるのかな?

 

 

ーーーーー

 

 友希那に後で部屋に来いと言われた日、家族全員が風呂を済ませてから友希那の部屋に向かった。なぜ全員が風呂を済ませるのを待っていたかというと、ただ単に今日風呂場を掃除する担当が俺だったからだ。

 

 

「友希那、入るぞ」

 

「ええ」

 

 

 友希那の部屋は俺程ではないが最低限のものしか置いてない。それでも所々女の子らしい物がおいてあったり、作詞・作曲に集中できるような環境ができていたりする。

 友希那はさっきまで作詞をしていたのか、机の上に紙と筆記用具が置いてあり、部屋には新曲であろうものがBGMとして流れていた。

 

 

「話ってなんだ?」

 

「それはあなたならわかっているでしょ。…とりあえず適当に座りなさい」

 

「わかった」

 

 

 友希那の椅子を拝借してベッドに腰掛けている友希那に向き合うように座る。友希那は部屋にいる時はわりとリラックスした表情でいるのだが、それでも今回は外にいる時のように引き締めていた。

 

 

「単刀直入に聞くわ。あなたは何歳まで生きられるの?」

 

「…このことを父さんたちには?」

 

「もちろん伝えるわ。…けれど結花には黙っておくつもりよ。あの子は思い詰めて自分を責めてしまうから」

 

「そうだろうと思った。…聞き出し役は友希那なんだな」

 

「ええ。父さん達は雄弥が自分から話してくれたらって思ってるみたいだけど、雄弥は聞かれないと自分のことを話さないでしょ?聞かれてもはぐらかす時もあるけど」

 

「今回はさすがに答えないといけないか…」

 

「当然よ。大切な弟のことなんだから」

 

「……わかった」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 雄弥はあまり話したくないみたいだけど、こっちは聞かなければならない。聞いて雄弥への接し方が変わればリサも気づいてしまう。リサにはいずれ雄弥本人から伝えるべきだから、気づかれないようにしないといけない。

 

 

「まず、友希那はどこまで知ってる?」

 

「先生が知る限りのことは聞いたわよ。雄弥の傷の治りの速さのメカニズムも聞いてるわ」

 

「そうか。なら現段階で何歳まで生きられるかを答えればいいのか」

 

「ええ。お願い」

 

「…まぁ具体的にはわからないが、ザックリ言うと──より早い」

 

「本当にザックリしてるわね…。……でも…そうなのね」

 

「ああ。…これってやっぱ短いか?」

 

「そう言えるでしょうね。…リサはその後の──年を一人で生きていくことになるのよ?」

 

 

 そんなのあの子はきっと耐えられないでしょうね。雄弥と初めて会話した小学生の頃からずっと雄弥のことを好きだったんだから。やっと雄弥と一緒になれたのに雄弥に先立たれることが決まってるだなんて…。世界はなんて残酷なのかしら。

 …雄弥もそのことは気にかけてるみたいね。リサをおいて先に逝ってしまう未来を。あの事件の時にリサと生きていくと決めているのに、それを自分が破ることが確定している。

 

 

「…友希那、だいぶ先のことなんだが」

 

「わかってるわよ。リサは私の親友よ?」

 

「ありがとう…。それとごめんな、こんな弟で」

 

「謝らないでほしいわね。私は雄弥が弟であることを誇りに思っているわ。…これからを駆け抜けていきなさい。あなたの存在がより多くの人の心に残るように」

 

「ああ」

 

 

 …悔しいわね。雄弥の体のことを知っているのに、それの解決策を見つけられないだなんて。現代の最先端医学からしても雄弥の体は異常な仕組みになっているらしい。どうやって今の状態になっているのかが一切不明だなんて。

 

 

「友希那、俺は別に悔やんでないぞ。…先のことを考えたら悔しいが、それでも俺はみんなと過ごせてる時間が楽しいと思えてる。なによりもリサと付き合えるようになったのもある意味この体のおかげだ。そうじゃなかったら俺はあの事件で命を落としてたからな」

 

「……あなたはそれでいいのかもしれない。だけど雄弥。私はやっぱりもっとあなたの人生を見守りたいのよ」

 

「大人になってもか?」

 

「当然よ。大人になったところで雄弥は私の家族で弟よ。この事実はもう変わることなんてないわ」

 

「……そうだな」

 

「前にも言ったでしょ?あなたを想う人のことを考えなさいって」

 

「ああ」

 

 

 私は椅子に座ってる雄弥の頭を抱きかかえた。大切な家族。たった一人の弟。一度拒絶してしまったけれど、それでもまた元に戻れた。いえ、前よりも姉弟らしくなれた。だというのに、なぜこの子が……。

 

 

「…友希那?大丈夫か?」

 

「馬鹿ね。大丈夫じゃないわよ。…今日はここで寝なさい」

 

「……わかった」

 

 

 せめて、この子とリサのこの先に最大の幸福が待っていてほしいものね。

 

 

ーーーーー

 

 

(友希那に言われて友希那の部屋で寝たが、あれはセーフなのか?……やばい、やっぱり浮気してる男と同じ思考になってる)

 

 

 むー、絶対友希那ちゃんとなんかあったよね。そこまではわかるんだけど、実際に何があったのかがわからない。喧嘩じゃないのにユウくんの表情が暗くなった。…あーもうなんでー?

 

 

「そろそろ俺は作業に戻りたいんだが」

 

「あ、そうだよね。ごめんね邪魔しちゃって」

 

「彩は何もしてないだろ。…そもそも彩はなんで日菜を探してたんだ?」

 

「練習するからだけどから……あー!日菜ちゃん練習行くよ!ほら早く立って!」

 

「えー。もうちょっとここにいたーい」

 

「早く行け。それで結花は?」

 

「私?暇だからだけど?」

 

「帰れ」

 

「うそうそ。愁が海外ライブの予定(仮)をたてたから雄弥を呼んできてってさ。疾斗と大輝も連絡したからもうそろそろ来るんじゃないかな?」

 

「わかった。片付けてから行く」

 

 

 あちゃー。ユウくんも部屋から出るのか〜。これじゃあ粘ってここに残る理由がないね。仕方ないからあたしも練習に行こーっと。

 

 

「そういや彩。週末は予定空いてるか?」

 

「へ?午後からなら空いてるけどどうして?」

 

「一日彩に付き合うって話になっただろ。彩が別にいいって言うなら違う予定いれるが」

 

「ううん!行こ!リサちゃんも誘って行こ!」

 

「あれ?リサも誘うんだ。私は流れからして二人で行くのかと思ったけど」

 

「リサちゃんと遊ぶのってあんまりないから、せっかくだし一緒がいいな〜って思って」

 

「へ〜。けど雄弥、週末私達のライブだけど?」

 

「それあたしも思った。なんで週末なの?」

 

「週末のライブが終わったらみんなはすぐに期末テストで、それが終わったら夏休みだろ?そこらへんの予定はほとんど埋まってるんだよ。だからライブの前日に出かけることにした」

 

 

 絶対にリサちーとのデートで埋まってるよね。そりゃあ仕事もあるんだろうけど、無い日はほぼ全部リサちーとの予定だよね。…いいなー、あたしもちょっとぐらいユウくんと遊びたいよ。

 

 

「なるほどね〜。じゃあ日菜も一緒に行ったら?」

 

「へ?なんで?」

 

「日菜も雄弥と出かけたいんでしょ?顔にそう書いてあるよ」

 

「えー。あたし彩ちゃんみたいにそんな分かりやすくないはずなんだけどな〜」

 

「日菜ちゃん!私だってそんなことないよ!」

 

「いや彩はわかりやすいでしょ」

 

「そ、そんな〜」

 

「彩のことはともかくとして、日菜も来たいなら来たらいいんじゃないか?」

 

「日菜ちゃんも一緒に行こ!」

 

「うん!」

 

 

 えへへ♪この4人で遊びに行くなんてなかったから楽しみだな〜。リサちーのヤキモチとかいっぱい見れるかな〜?

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