ライブ当日。俺の出演は伏せられているから来る客の大半が4人でのライブだと思っている。知っているのはチケットを融通した人たちのみ。
先生は流石に来れないみたいだが、宮井さんは来てくれてるらしい。子供たちはあの空気についていけるかが問題だったが、そこは愁の機転で関係者席と一般席を少し離すことで解決した。
そうは言っても一番前のど真ん中じゃ反発の声が上がるだろうから少し横にずらしてある。ま、一般客と少し離れてるならリサの心配もしなくて良さそうで安心だ。
「調子は大丈夫そうだな」
「疾斗か。…まぁな」
「登場でしくじるなよ?」
「誰に言ってやがる。お前こそMCでネタバレするなよ」
「あー、そこは気をつけないとな」
「おい」
「ははっ、まぁそこは愁あたりがフォロー入れてくれるだろ」
「他人任せだな」
こんなことを言ってはいるものの、こいつが失敗するとは思えないな。こいつは失敗すら利用するから、最終的には成功っていうオチに持っていける人間だしな。
「信頼されてるって思えば悪い気はしないけど、無茶ぶりはやめてほしいな」
「お前ならできる範囲だから大丈夫だろ」
「確信犯だよね!?」
「ハッハッハ!諦めろ愁いつものことだろ!」
「大輝は今回罰ゲームないからって調子に乗りすぎるなよ」
「おう!大船に乗ったつもりでいてくれ!」
「…考えとくか」
「やめてください!お願いします!」
わりと大輝への罰ゲームって人気あったりするんだよな。罰ゲームを課される大輝のリアクションがいいから。一時期はドM説が流れたりしたっけな。
「ゆ、雄弥。私これで歌うの?」
「簡単な罰ゲームだろ?」
「そ、そうだけどさ」
「衣装は結花が考えたからそこらへんは弄れないしな」
「安心しろ結花!可愛いぞ!」
「…沙綾に口説かれたって言っとくね」
「それは勘弁してくれ!!まじで何されるかわからないから!」
今回のライブ衣装はもうすぐ始まる夏休みを意識してか、和服を元にした衣装だ。和に真剣に向き合ってる人からしたら反感を覚えるかもしれないが、そこらへんは目を瞑ってもらうしかない。
俺たち男性陣は甚平をベースにしたもので、上から羽織を着てる。対象的に結花は浴衣をベースにある程度の動きやすさを考慮したもので、(何がとは言わないが)下から見えないようにも考慮されてある。
「浴衣が似合ってるのは事実だろ」
「そこは素直に受け取るけどさ、
「…?ただの猫耳ならぬ犬耳だろ?」
「なんでコレなのよ…」
「戌年だから。衣装は変えれない、結花に無茶ぶりはできない。となるとそれしかないだろ。それとも他の奴らみたいな罰ゲームやるか?」
「…これで我慢する」
「最初のMC終わったら外していいからな」
「やった!」
「…結花に甘いよな」
「……やらせすぎると、あとで友希那とリサに説教くらうことになるんだよ」
「…なるほど」
説教が始まるとだんだん精神ダメージがでかいものをやられるからな。それは何としても避けたい。特にリサ関係で何か制限をかけられるのはごめんだ。
「そろそろ時間だな」
「んじゃ一足先に行ってくるぜ」
「場を温めておくからね」
「カッコイイの期待してるね☆」
「ああ。任せろ」
〜〜〜〜〜
今回の登場の仕方は、それぞれのBGMとイメージ映像を使ってそれに合わせて一人ずつ登場するもの。本当は疾斗→雄弥→大輝→愁→私の順番なんだけど、今日は雄弥の曲が流れない。それで落胆しちゃうお客さんもいるけど、まだ気が早いからね?
「どうも、Augenblickです」
「疾斗が静かなMCをするだと!?」
「大輝しばくぞテメェ!」
「沸点低いなぁおい!?」
「2人とも冗談はそれぐらいにしなよ。お客さん何人かひいてるからね?」
「あ、これも演出だからね?」
「結花それネタバレだから!ネタバレは重罪だぞ!」
アドリブ入れてもノリがいいから何とかなるってのがこのバンドだよね〜。登場シーンでお客さんの盛り上げをだいぶ上手くできたし、この会話でもいい感じに場が温まってきたね!…うん、私のこの犬耳もツッコまれてるね。気にしない!気にしないんだから!
「結花のこの犬耳似合ってるだろ?これ提案したやつはもちろんいつも罰ゲームを考えるやつだぜ?」
「コレは話掘り下げなくていいの!」
「ええ?可愛いって言ってくれてる人多いのに?」
「うっ、ありがとう!けど恥ずかしいんだからね!…ごほん、みんなも知ってると思うけど、雄弥がちょっとね…」
「うわー、無理矢理話進めやがった。…しゃあねぇか。…俺たちは止まる気はないからな。あいつがいなくても最高のライブにしてみせるぜ!」
「それじゃあさっそく一曲目に入るね」
みんな演奏の体勢に入る。それに合わせて証明も一旦暗くなる。暗くなったまま私以外のメンバーが演奏を始める。それに合わせて映像も流れ出す。
もちろん、
「勝手に俺抜きでライブしようとしてんじゃねぇよ」
そう言って駆けて出てきのはベースとマイクスタンドを携えた雄弥だ。雄弥が定位置にマイクスタンドを置いて準備してる間もお客さんの歓声が止まらない。やっぱり私たちは5人じゃないとね☆
「さてと、準備もできたところで……演奏うるせー!」
「「ええ!?」」
「お前のためだぞ!」
「準備できたからもう演奏いらねーんだよ。声が届かないだろ」
「はぁ、じゃあ演奏止めるね」
「みんなにはサプライズになったか?俺がそんなヤワだと思うなよ!」
「頑丈さで言えばダントツで大輝だが、回復力で言えば雄弥だもんな」
「それはどうでもいいんだよ」
「ええ…」
あはは!無茶苦茶だけど、ここは台本なくて雄弥に全部任せてるから仕方ないね。雄弥ってそんないっぱい語る人じゃないし、そろそろ気持ちを切り替える準備しとこうかな。
「今回のライブのテーマも知ってるだろうが、"全力"だ。口にするのは簡単だが、最後まで続けるのは難しい言葉の一つだ。なんせ明確なゴールが無ければいつまで続けるのかがわからないからな。だから、そういう時は自分で決めればいい。大きく捉えたらずっとに思えることも、細かく分ければいつまで全力でいたらいいかがはっきりと分かる。例えば、今回で言えば俺たちはこのライブの間ずっと全力でみんなを盛り上げる!とかな」
「わぉ、言うね〜。もちろんそのつもりだったけどね!」
「当たり前だな。俺も最後まで全力でやり通してみせる。だからみんな、特に学生!ライブ行ったから欠点取ったとか言うなよ!なぁ大輝?」
「そこで俺にふるなよ!いや欠点なんて取らないけどな!」
「うちの馬鹿もこう言ってんだ。お前らも取るなよ!それじゃあ始める、前にあと一つだけ!」
「え?まだあるの?」
「愁!お前は後で罰ゲームあるから覚悟しとけよ!」
「うそ!?今回は結花だけって言ってたじゃん!」
「罪状はあとで教えてやる。それじゃあ今度こそ始めるぞ」
愁が何か言おうとしたけど、前奏で一番最初に演奏する大輝が演奏を始めたから結局何も言えてなかった。変な始まり方になったけど、いざ演奏が始まったらみんな瞬時に集中し始める。
大輝のドラムに合わせて雄弥のベースが弾かれる。リズム隊の上に乗っかるようにギターが鳴り響いて、それを調和するようにキーボードが包み込む。そこに私の歌が響き始める。みんなのレベルが高いから、私の歌がこの演奏を壊すんじゃないかって不安になることもあるけど、みんなが私を引っ張ってくれる。
(私はまだ友希那みたいにみんなを引っ張っていく歌ができないけど、私には私の歌がある。雄弥が言ったみたいに全力でそれをやる!)
〜〜〜〜〜
「いや〜最っ高に盛り上がってるねー!」
「このまま最後まで駆け抜けたい気分だよ」
「何言ってんだ愁。お前には罰ゲームがあるだろ」
「その話を振られる前に次の曲行きたかったのに!」
「見えすいた誘導だったな。大輝連行しろ」
「了解!」
「え、ちょ、本気?考え直そうよ。大輝力強すぎ!あーー」
うわー、同年代の男の子担ぎ上げていったよ。ホントに力強いんだね。そういや私も愁への罰ゲームは聞いてなかったんだけどな〜。あ、犬耳外しとこ。…「あぁー」じゃないよお客さん!
「それで愁はなんで罰ゲーム?」
「それは映像で見てもらおうか」
「映像まで用意してたんだ…」
「入院中に病室でな!」
「撮影は病院の許可を貰って、看護師に協力してもらった」
「ノリがいいね〜」
ーーー映像ーーー
「なんだ疾斗と大輝か」
「相変わらず元気そうだな」
「いいことだけどな。さてと、暇つぶしに付き合ってやりますか」
「今日は三麻でもするか」
「病室で麻雀する高校生ってどうなんだろうな…」
「気にするな。それでルールは?」
「最初の持点よりマイナスの人がプラスの人に何か奢るとかでいいだろ」
「シンプルだな。それでいくか」
結果…
大輝が惨敗…というかトンだ。
「ここまで振り込むのか」
「これは才能だな」
「ディスってるよな!?」
「ここまで酷いとなると別のやつ用意しないとな」
「はぁ!?」
「順当に考えてライブでの罰ゲームか」
「そうするか」
「いやいや待てよ!それは俺より適任のがいるだろ!」
「適任?…雄弥誰か分かるか?俺は罰ゲーム=大輝だと思ってたんだが」
「……愁だな」
「愁?今日来てないからか?…あ、でもそれなら結花もか」
「いや、愁が罰ゲームだ。結花はもう罰ゲーム決まってるしな」
「その心は?」
「あいつだけ見舞いに来てない」
「「確定だな!!」」
ーーー映像終わりーーー
「こんなとこだな」
「え!?愁って見舞いに行ってなかったの!?」
「忙しかったんだろうけどな。それでもちょっと顔出すぐらいはな?」
「本当は行ったらしいんだが、その日は雄弥が一日中検査してたから会えなかったんだとさ」
「俺は会ってないからやっぱ来てないのと同義だろ」
ちょっと理不尽な気もするけど、これって初めから考えてたことだろうね。ハメる気満々だったんだろうね〜。まぁでも愁への罰ゲームってだいたい決まってるんだよね〜。
「さて、そろそろ出てきてもらおうか!」
「ほら愁行くぞ!」
「…誰だ?」
「こんなのメンバーにいたっけな?」
「私もわかんないや」
「酷いよ!愁だよ!」
「この昭和の幽霊みたいな白いやつが?」
「考えたの雄弥でしょ!?」
うーん、完全にお化け屋敷のお化けだね。白い着物を着て、頭にもあの三角形のやつ巻いてるし。なんで
「じゃ、次のMCまでそれな」
「ええ!?」
楽器担当が交代して幽霊になった愁がドラムをすることに。シュールだよね〜。雄弥がキーボードで疾斗がベース。大輝がギターを弾く。それじゃあ次も張り切ってやりますか!
〜〜〜〜〜
最後の曲も終わって(愁は元の衣装に戻ってる)アンコールが鳴り響くけど、アンコール曲もやっちゃったしな〜。残念だけど、もう終わりなんだよね。
そう思って雄弥に視線を送ると、雄弥は頷いてマイクに手を伸ばした。私は雄弥に後を任せてマイクから手を離そうとしたけど、離せなかった。
雄弥の爆弾発言があったから。
「結花、罰ゲーム第二弾がまだだぞ」
「……え?うそ、え?」
「と言っても今回は、
「ど、どういうこと?」
「結花には僕らが今からする演奏を、ステージの真ん中で聞いてもらうんだよ」
「混ざりたくても混ざれないのが罰ゲームの内容だ」
「えー!それは流石に酷すぎるよ!」
「よく聞け結花。これは結花にはまだ教えてない曲だ。だから結花は混ざれないんだよ」
「……そんなのあったんだね」
まだ教えてくれてなかった曲があっただなんて。…けどおかしいな。Augenblickが出した曲は入る前から全部把握してたはずなんだけどな。
「なんて言ったって雄弥が作った新曲だからな!」
「疾斗、それは話さなくていいんだよ」
「雄弥が?」
「…まぁな。俺達5人で歌う曲がまだないだろ?それを入院中に作った。今日俺達4人で歌って、演奏して、次からは結花と5人で演る曲だ。そこで聞いてろ」
「……わかった」
「途中コールもあるから全員準備しとけよ!」
雄弥の呼びかけにお客さんも盛り上がる。初披露の新曲で、今後は5人で歌ってお客さんも混ざれる曲。いったいどんな曲なんだろうね。
「これが今日最後の曲だ。"Verbindung"」
…やっぱり雄弥は凄いよ。曲を作れないなんて言ってたくせに、こんな温かい曲を作れるなんて。歌詞の意味がとても深いのに、リズムがいいからお客さんも一緒に盛り上がれる。最高の曲だよ。
これを次から私も歌うんだよね。心に刻みつけたよ。この曲を、この光景を。
(にしてもこの歌詞…よく聞いたらアレだよね。…雄弥らしいけどさ)
〜〜〜〜〜
高まる気持ちをなんとか抑えながらみんなで雄弥たちがいる楽屋に向かう。ノックをして許可をもらってからドアを開けた。
着替え終わってる5人は、アタシが差し入れであげたクッキーを食べながらライブのことを話し合ってた。雄弥は入り口に近い椅子に座ってて、あたしは雄弥と目があった瞬間走り出してた。
「雄弥!」
「おっと。リサ、どうだった?」
「さいっこーーのライブだったたよ!」
「そっか。それなら良かった」
「リサも見せつけるね〜。入ってくるなり雄弥に抱きつくだなんて」
「あ…いや…これは、その、ね?」
「えー?なになに?」
「結花、リサで遊ぶのはやめなさい」
「はーい」
アタシが結花に弄られると、すぐに友希那が助けてくれた。結花は友希那のことを慕ってるから、基本的に友希那に言われたことに従うようになってた。
アタシが雄弥から離れたらすぐに子供たちが飛びついていった。雄弥って本当に慕われてるね〜。子供たちと親御さんと話したら今度は宮井さんと話して、それが終わったらこの前のアクセショップのとこの親子と話してた。雄弥のファンらしくて、雄弥と会ったら泣いて抱きついてた。…こ、これくらいは嫉妬しないからね!
それも終わったらRoseliaメンバーとパスパレメンバーと話しながら外に出てそのまま打ち上げ。打ち上げが終わったらその場で解散した。友希那と結花が気を遣ってくれて、アタシは雄弥と二人で手を繋ぎながら歩いてた。
「リサ。夏の海外ライブの出発の日が決まった」
「っ!…そうなんだ。どれぐらいかかるの?」
「2週間程度で済むようにはする予定だが、その都度調整する。…向こうのスタジオと連絡は取ってるが、実力を見せないことにはな」
「それでもやるんだね」
「ああ。最初は愁のツテでドイツだ。そこで成功させて次はマネージャーのツテを使ってフランス。その後はイギリス、スペイン、最後にイタリアだな」
「…大変だね」
「この範囲を2週間だからな。弾丸ツアーってやつだな。…悪いな。それでも夏休みはできるだけリサと予定を合わせるから」
「うん…ありがとう。…それで出発はいつ?」
「8月8日。7日の夏祭りの次の日の早朝だな」
「そっか。じゃあテストが終わったらいっぱい誘うからね♪」
「ああ。楽しみにしてる」
「うん!」
さっきよりも更に雄弥との距離を縮めながら家に向かって歩いていった。もちろん繋げてる手には、アタシ達のお揃いのブレスレットが輝いてた。