インターホンを押すと雄弥がドアを開けてくれた。中は外の派手さと違って落ち着いた雰囲気になってて、玄関の先には短い廊下があって、ドアが三つある。左は雄弥たちも入っちゃいけない所らしくて、右は地下の練習場所に行くための階段があるらしい。それで真ん中は生活空間が広がってるらしい。
アタシ達はとりあえず練習場所に向かうために雄弥の後に続いて地下に降りていった。外での衝撃が強かったせいか、地下って言われて驚いてもわりとすぐに受け入れることができた。
「機材の準備はできてるからあとは自分たちで微調整してくれ」
「ええ。ありがとう」
「練習はどういう風にするの?」
「そうね…。お互いに演奏を聞いて意見を交わし合う。そんなところでいいかしら?」
「ま、妥当だな」
「あこ、何もアドバイスできることないと思うんですけど」
「思ったことをそのまま言ってやればいい。大輝もカッコよさを求めてるからあこの目標と近いはずだしな」
「あこと近い目標ですか?」
「ああ。だからこうしたらカッコよくなりそう、ぐらいでいいんだよ。それならできるだろ?」
「はい!」
アタシも雄弥に意見言える気がしないんだけどな〜。お互いのボーカルとキーボードは大丈夫だろうけど、一番の問題はギターだよね。それを伝えようと思って、アタシが雄弥の袖を軽く引っ張ると雄弥が優しく頭を撫でてくれた。どうやら心配しなくていいみたい。
「連れてきたぞ」
「お、来たか!じゃあまずは俺達の演奏聞きながらチューニングとかやっといてくれ」
「さっそくですか」
「準備してたらやる気出てきたからな!」
お互いが向かい合うように機材が準備されていて、雄弥も自分のベースを構えた。演奏を見たいからアタシ達は急いで準備した。
最初からは見れなかったけど、2番の途中からは見ることができた。演奏を見ていて驚いたのは、パフォーマンスが一切無かったこと。パフォーマンスの練習もすると思ってたけど、どうやらしないみたい。
演奏したのは、この前のライブで披露した新曲。前は結花が歌ってなかったけど、あれは結花が知らなかったから。この状態がこの歌の完成形。…いや、お客さんも巻き込む曲だから今も完成形じゃないか。
「どうだった?」
「どうせならそれぞれの担当同士で意見交わすか」
「そうね」
アタシが雄弥の所に行くと、雄弥はどこか恥ずかしそうに視線をそらした。それがなんでか分からないから、アタシは雄弥の顔を挟んで視線を合わせることにした。
「どうしたの?」
「…別に」
「別に、じゃないでしょ?すっごい良い演奏だったよ?この曲は雄弥が作ったやつだよね。アタシこの曲好きだよ♪」
「そうか」
「うん!曲調もいいし、ハモリも聞いてて気持ちいいし、途中でのコールもあるし。けどアタシが一番好きなのはやっぱり歌詞かな〜」
「…歌詞?」
「そうだよ。演奏の仕様で隠れ気味だけど、歌詞がすっごい暖かいよね。まるでラブソングみた…ぃ?……ラブソング?…え、うそ…え?」
「…やっぱ気づかれるよな」
え、ちょちょっ、待って待って待って!整理させて!え?この曲を作ったのは雄弥だよね。そう言ってたし、間違いないよね。で、ラブソング?雄弥が?しかも作ったのが入院中?…これって…、
「…リサのおかげで作れた曲だ」
「ぇ…」
「リサが好きだって自覚して、曲を作りたいと思った。俺達の演奏に合うようにしてるけど、リサのために作った曲だ」
「…うそ……ほんとに?」
「俺が嘘をつくわけないだろ。…ライブで使ってるけど、それでもこれはリサの曲なんだよ」
「…ばか。…作ってくれてありがとう。大好きだよ」
「ああ。俺もだ」
「だからすぐにイチャつかないでってば!」
「っ!!ご、ごめん!」
あ、あぶな〜。今結花が止めてくれなかったら絶対このままキスしてた。そんなことしたら友希那と紗夜になんて言われるか…あ、もう紗夜がすっごい睨んでる。友希那はまだ呆れてるってレベルだけど、結花が止めなかったらそのレベル超えてたよね。
「今井さん、雄弥くんと意見を交わしましたか?」
「…あ、ごめん。なに言おうと思ってたかすっかり忘れちゃった。…あ、あはは〜」
「まったく…」
「紗夜の方はどうだった?パフォーマンスしない時の疾斗は、だいぶ紗夜に近い演奏の仕方だろ?」
「…えぇ。正直驚きました。考えてみれば当然のことでしたが、あれだけのパフォーマンスをしても演奏が成功するのは、それだけの技量を身につけてるからだったんですね」
「お褒めの言葉いただきましたー!」
「これは見習いたくありませんね」
「ガーーン!」
「紗夜。疾斗が鬱陶しくなったら花音に電話したらいいぞ」
「わかりました」
「真面目にやります!」
へー、花音に弱いんだ〜。一応覚えとこうっと。…花音が怒ってるのって全然想像できないけどな〜。なんかちっちゃい子に叱るぐらいのイメージしかできない。「メッ!」とか言ってそう。
「花音って怒らせたら怖いんだぞ」
「え、そうなの!?」
「疾斗が怒られた時のを見て、怒らせないようにしようって思ったからな」
「ゆ、雄弥でもそう思ったんだ…」
「はいはい。今度は交代して僕らがRoseliaの演奏を聞かせてもらおっか」
「よ…よろしく…お願いします」
「友希那の技術、盗ませてもらうからね」
「あら、そう簡単に盗めないわよ」
「今度はあこのババーンってしたカッコイイ演奏を見てください!」
「おう!楽しみにしてるぜ!」
「アドバイスは真面目にしてくださいね」
「大丈夫。花音に怒られるのが怖いから練習中は真面目にやる」
なんだかんだでみんないい感じに打ち解けられてるよね。燐子もある程度の信頼関係は築けてるみたいだし。
みんなの気合十分!これはアタシも負けてられないね!
「それじゃあ雄弥。アタシを見ててよね!」
「ああ。リサだけを見とく」
「そ、そういうことじゃなくて……けど、それはそれで嬉しいかな♪」
よーし!張り切っちゃうんだからね!
〜〜〜〜〜
『雄弥〜。ご飯できたからみんな連れて来てー』
「わかった。すぐに行く」
「お、昼飯か!」
「上がってこいってよ」
「いやー楽しみだね〜」
【愁が他の女の手料理に鼻の下伸ばしてるよ☆】
【帰ってきたらみんなで罰を与えるから覚えといてって伝えて】
【了解☆】
「結花誰と連絡取ってんだ?」
「蘭だよ?」
「え、なんで蘭と連絡取ってるの?」
「愁をイジメたかったからだよ。帰ってきたら覚えとけってさ☆」
「なんて送ったの!?」
急いで電話して必死に弁明を始める愁を見て楽しみながら機材の整理を始める。雄弥たちと一緒に愁をその場に残してリビングに行くと、良い匂いが漂ってた。さすがリサだね♪
「お、きたきた!分量どうしたらいいか分からないから各自で入れてくれる?」
「お、カレーか!合宿と言えば定番だよな!」
「どっちかっていうと夜に食べるのが定番な気がするけどな」
「まぁね〜。けど夜はBBQするって聞いたからさ。味は2種類あるから好きな方選んでね」
わざわざ2種類作ったんだ…。別に1種類でもいいと思うんだけど……って!色がおかしいでしょ!何これ!?カレーって言っていいやつなの!?
「それはあこ発案の味付けだよ♪もう一個は私と紗夜と友希那で作ったやつだね」
「りんりんに手伝ってもらいながら頑張りました!食べてみてください!」
「味見は…してあるので…大丈夫です」
「俺はリサと紗夜の料理がいい」
あ、雄弥が逃げた。せこいよね〜。リサと付き合ってるからそっち選ばないわけにはいかないし、雄弥がリサの料理好きだから当然なんだけどさ。…けどその言い方だと友希那に噛みつかれるよ。
「雄弥、まるで私が作ってないみたいな言い方しないでもらえるかしら?」
「友希那は料理できないだろ」
「私だって手伝ったわよ」
「何をやった?」
「野菜のアクを取ったし、ルーを溶かして味付けしたわ」
「それでよく胸を張れるな。…友希那にもできたんだな。見くびってた」
「…初めに何か言ってた気がするけど、まぁいいわ。雄弥は私の認識を改めるべきね」
「そうだな。今度弁当作ってくれよ」
「いいわよ。私の腕を見せてあげるわ」
いや無理でしょ!友希那にいきなりそんなことできるわけないじゃん!できて日の丸弁当とかじゃないの!?
リサにアイコンタクトを送って意思疎通を図る。どうやらリサもわかってくれたみたいで、頷いてくれた。私たちで友希那の料理を見とかないとね!
「それで…こっちのは誰が食べる?私は姉の料理を食べるから」
「せこっ!…食べないって選択肢は」
「それはないだろ。見ろよ、あのあこちゃんの期待の目。あれを裏切れるのか?」
「……。俺はあこと燐子の方食べるかー」
「本当ですか!?」
「あこちゃん…よかったね」
「うん!」
「流石大輝。男前だな「あこ!疾斗も食べるってよ!」…は?」
「疾斗さんありがとうございます!」
「……はっはっはっ。実はこれみたいに、誰も思いつかないようなやつは好きなんだよなー。このカレーもなんか闇っぽくてカッコイイしな!」
「わかります!?そうなんですよ!りんりんにアドバイスもらいながら作ったんですよ!あこ達だけのカレーを!」
「…愁のもこれでいいよな」
「そうするか」
愁の分も先に用意してテーブルに用意しとく。長方形の長テーブル(貴族ですか?)に座って話に花を咲かせる。まぁ、Augenblickのことを聞かれる方が多いし、疾斗と大輝のプライベートが結構聞かれてたね。…雄弥と私のことは知られてるし。
「ふぅー、なんとか誤解をとけたよ」
「あ、とけちゃったんだ」
「何期待してたのかな!?」
「さっさと席につけ。疾斗が空腹で人間やめかけてるぞ」
「オレ、クウ。…マダ?ナゼ?」
「…やばいね。僕のも入れてくれてありがとう…ってこれ何?」
「酷いですよ!あことりんりんが頑張って作ったのに!」
「…傷つき…ました」
「ごめん!そういう意味じゃなくて!このカッコイイ料理は何味なのかな〜ってことだったんだよ!びっくりしちゃって言葉が足りなくなっちゃってた。あは、あははは…」
「そうだったんですね!」
「それでこれ大丈夫?」
「それじゃあみんな手を合わせてー」
「…ぇー」
『『いただきます』』
「クラウ!」
愁がなんか言ってるけど、こんな失礼な男は無視だよ無視。ほんと、うちのメンバーは女心をわかってないのしかいないんだから…。それと疾斗、ご飯食べてるんだからそろそろ人に戻ってきてほしいな。Roseliaメンバーがひいてるからね。
「メシ…マダ…」
「リサ、おかわりってできるのか?」
「え?あ、うん。ご飯は多めに炊いてあるし、ルーがまだ余ってると思うよ」
「だってよ疾斗。好きなだけ食べろ」
「ヒャッホーー!」
「お、戻ったな」
「あれは戻ったと言えるのですか…?」
「まぁな。…紗夜、このカレー美味しいぞ。ありがとう」
「と、当然です。私たちが作ったのですから…」
話の流れから紗夜だけに言ったんだろうけどさ、リサにも言ってあげなよね。リサがすっごい拗ねてるよ?友希那が宥めてるから抑えれてるけど。
「ところでお二人さん。そのブラックカレーのお味は?」
「上手いぞ。見た目が禍々しいけど、味付けがしっかりされてる」
「やったー!りんりん、美味しいって言ってもらえたよ!」
「そうだね。…頑張ったかいが…あったね」
「新鮮な味だね」
「何杯でも食えるぞ!」
「「それは疾斗だけ」」
「疾斗は胃袋が無制限だからね〜」
お昼を食べ終わったら今度は私たちが片付けをして、Roseliaは先に練習場所に行った。午後からの練習は、午前とは違って個人での練習になった。まぁ意見交換はするし、竿隊とかリズム隊で練習したり、組み合わせをコロコロ変えながらの練習になったんだけどけね。最終的にはやっぱりバンド単位で曲を通して練習した。
〜〜〜〜〜
「バーベキューー!!フォーーー!!」
「…雄弥、あれ大丈夫なの?」
「通常運転だ」
「……ならいっか」
「だがまぁ放っておいても面倒だな。疾斗、準備手伝わなかったら肉食わせないぞ」
「全て俺に任せろ!」
「これでよし」
「えぇー…」
疾斗は本当に全部一人でセッティングしちゃった。手際が良すぎるから逆に手伝えないんだよね〜。…あ、アタシ達はお互い名前で呼ぶくらいに仲が良くなったよ。紗夜が名字呼びなのはいつものことだから、紗夜だけは名字呼び。仲良くなったのは一緒だけどね。
「肉、米、野菜!準備完了!さぁ焼くぞ!」
「野菜もちゃんと食べるんだね」
「案外そのへんはしっかりしてるんだよね〜」
「本当に意外ね」
「知れば知るほど分からなくなりますね…」
「気にせずに半分は流しとけ。それが一番接しやすい」
「分かりました」
「おーい君たち?聞こえてるからね?」
「そうだ疾斗。食材が足りなくなったら買ってこいよ。そんだけ食べるのはお前ぐらいなわけだしな」
「おうよ!」
「…パシリだよね」
「あのテンションの疾斗はパシリって思ってないんだよね〜」
(ほんと、わけわからないや)
みんなでワイワイ盛り上がりながらバーベキューを楽しんだ。海の近くでバーベキューっていうのも夏っぽいよね♪
意外だったのが、あこと愁だね。愁はAfter glowと仲がいいらしいんだけど、そこのドラムがあこのお姉ちゃんの巴。あこと巴は仲いいんだけど、愁のことは聞いてなかったみたい。ほんとにびっくりしちゃった。
大輝はあこと燐子がやってるゲームをやってるらしくて、その話で盛り上がってた。たしか雄弥も始めたんだっけな。最近はやってるのかわからないけど。
〜〜〜〜〜
「わざわざ送ってもらわなくてもいいわよ?」
「結花が送ってこないと別荘に入れないって言うんだよ」
「…あの子ったらもう」
「あはは、友希那も大変だね!」
「ええ。どっちも世話の焼ける子だわ」
「なんでだよ」
なんでも何も、雄弥も雄弥だもんね〜。最近アタシが雄弥に甘えてばっかだから、その分友希那にツケが回ってるんだろうね。…アタシには何も言ってこないけど。
「結花さんって凄い楽しそうにしてますよね」
「結花は前から楽しんでるぞ?」
「いえ、そうじゃなくて。あこ、見てて思ったんですけど、今と前とでは笑顔が違うなって思って」
「…たぶん。…気負うことが…なくなったからだと…思います。雄弥さんたちの…おかげですね」
「そうですね。日菜も今の藤森さんの方がるんっ♪てすると言ってましたし」
「…そうなのか」
「雄弥もそこを気づけるようにならないとね〜」
アタシが肘で小突くと、お返しに頭を雑に撫でられた。雑って言っても髪が乱れる程度で、痛まないように力加減は優しくしてくれてるんだけどね。
「わ〜♪」
「リサ姉も大概だよね」
「そ、そんなことないよ!」
「だって、ねー?りんりんもそう思うよね?」
「…うん。…今井さん…雄弥さんといる時…雰囲気変わるもんね」
「今井さん?」
「…はい」
いつもなら雄弥と手を繋いだりするんだけど、今も我慢してる。距離が近いってだけ…なんだけど、心の中ではすっごい葛藤してる。どこかのタイミングで手を繋ぐくらいできないかなって思ってたけど、の思いとは裏腹にもう宿泊場所に着いた。
(雄弥も…もう戻っちゃうよね)
「雄弥送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。明日の10時くらいにこっちに来るから、またな」
「はい。ありがとうございました」
「雄弥さんまた明日ー!」
「お疲れ…さまです」
…もう別れるムードになってる。…アタシはもっと居たいのに。だけど、それは我慢しないといけない。…せめて、せめて明日は!
「雄弥ー!近くに温泉あるらしいから行こうぜー!!Roseliaも一緒にどうだ?」
「…お前車の免許もあんのかよ」
どうやらまだ雄弥と一緒に入れるみたい。アタシの願いはすぐに叶っちゃった。
テキトウに思いついたブラックカレー、まさかコラボカフェのメニューに入っていたとは…。
☆10評価 祀綺さん ありがとうございます!