「10人乗れる車って疾斗が持ってる免許でも運転できるんだな」
「準中だからギリギリだけどな!この大きさのは初めてだから気をつけねーとな〜」
「おい」
「安全運転は心がけるって!愁が助手席で見てくれてるしな」
「それでも死角はあるからね。みんなも危なそうだったら言ってね」
運転席と助手席に疾斗と愁が座り、中列と後列に4人ずつ別れた。俺は後列の右端で左にリサ、友希那、紗夜が座っている。中列には俺の前に結花でその左に燐子、あこ、大輝が座っている。
近くに温泉があるとはいえ、歩くには少し距離があるらしくこうして車で向かっている。俺の着替えは愁が持ってきてくれているらしい。
「温泉なんていつぶりだろうね〜」
「さぁな。俺は仕事関係で温泉に入ることもあるから久しぶりってわけでもないがな」
「いーなー。まぁでもこうして一緒に行くのは久しぶりだよね♪」
「中学生の時以来ね」
「…そんなに前なのか」
「リサ〜。雄弥と一緒に居たいからって混浴とか行かないでよ?」
「まずないでしょ!」
「今井さん。あったら行くのですか?」
「行きません!」
この合宿でけっこうリサってイジられてるよな。そんなにイジられるようなことしてない気がするんだが、リアクションがいいからか?
「雄弥が誘ったら入る?」
「なっ!?……ゆ、…雄弥はそんなこと言わないもん!……言わないよね?」
「ああ。リサの体を他の男に見られるわけにはいかないからな」
「…雄弥。それだと個室風呂ならリサを誘うと言ってるようなものよ」
「……個室の混浴って存在するのか?」
「え、うそ…あったら…え?…けど、雄弥なら」
「…雄弥くん?」
「いや誘わないからな?大輝みたいな変態と一緒にするな」
「とんだトバッチリだな!変なレッテル貼らないでくれよ!」
…大輝ならあるかもしれないだろ。どうせ修学旅行とかで女子風呂とか覗いたりしてたんだろ。
ところでさっきからリサが顔を真っ赤にしてフリーズしてるんだが、大丈夫なのか?こんなんで温泉入ったらのぼせて倒れたりする可能性があるぞ。
「今井さん。今井さん!」
「は、はい!どうしたの?もう着いたの?」
「もうすぐだよリサ姉。ところで結局リサ姉は雄弥さんと一緒にお風呂入るの?」
「あこちゃん…そこは…触れない方が…」
「入らないから!燐子も変に気を遣わないで!」
「疾斗、次の交差点を左折したらすぐだよ」
「OK!」
もう着くらしいな。メンバーにまで言われて軽く拗ねているリサと手を重ねる。どうやら、いつもみたいに頭を撫でていると結花が絡んでリサが疲れるみたいだから、今回は手を重ねるだけにした。リサと目が合うとリサは嬉しそうに笑みを浮かべて指を絡ませてきた。…そういえば今日手を繋ぐのってこれが最初かもしれない。
〜〜〜〜〜
(やった!雄弥とやっと手を繋げた!)
今回は雄弥から先に手を重ねてきたから、アタシがやったわけじゃないからね!結花に何も言われても大丈夫だね!
車を降りて温泉施設で受付を済ませたら、すぐに脱衣所に向かうことになった。脱衣所が近づいたら雄弥とも手を離さないといけない。…やっと手を繋げたのに、短いよ。
「…疾斗車の鍵を貸してくれ。忘れ物してきた」
「んん?いいぞ。鍵は雄弥が保管しといてくれ」
「悪いな」
「先に入ってるぞ〜」
「ああ。…リサもついてきてくれるか?」
「へ?…ぁ、うん!」
「リサ、私達も先に入ってるわね。なるべく早く来なさいよ」
「ありがとう友希那♪」
気を遣わせちゃったな〜。…それにしてもまさか雄弥がこんなことしてくれるなんてね。それとも雄弥が気付けるぐらい分かりやすかったのかな?
雄弥の腕に抱きついて頭を肩に預けながら歩く。今日一日分を発散しようと思って抱きつく強さはいつもより強いけど、雄弥は何も言わずに受け入れてくれてる。
「忘れ物ってほんとにしてるの?」
「ああ」
「そ、そうなんだ…。何忘れたの?」
「財布」
「あぶな!…珍しいね、雄弥が貴重品を忘れるって」
「そうだな。…あった、よしじゃあ戻るか」
「え、もう!?」
「遅くなったら他のやつに悪いだろ」
「そうだけど…」
そうだけどさ…、もう少しぐらい二人で一緒にいてもいいじゃん。こんなに相手を求めてるアタシがおかしいの?重たいってのは自覚してるけどさ、だけどさ…、もっと一緒にいさせてよ。
アタシのこの願いは届かなかった。いつもより歩くペースが遅いぐらいで、まっすぐ戻った。
〜〜〜〜〜
三人で寝転ぶようにジェットバスを満喫していると、体を洗い終わった雄弥も入ってきた。ジェットバスはいいぞ。血流が素晴らしいことになる。まだ高校生だがすでにその良さを知っているのだ!
「なんだ、もう戻ってきたのか。もう少し二人でゆっくりしてもよかったんだぞ?」
「僕もてっきりそのために車まで戻ったのかと思ったんだけど」
「普通に財布を取りに行っただけだぞ?」
「なんでそんなの忘れてんだよ!?」
んー?雄弥が財布を車に忘れる?
「雄弥」
「なんだ?」
「お前リサへの依存度高くないか?」
「かもな」
「そこは別に何も言う気はないんだがな。仕事に影響を出すなよ?」
「わかってる」
「…たぶんだけどさ」
体を起こした愁が雄弥と視線を合わせた。どうやら愁なりの分析をしたらしい。それはいいのだが、ちゃんとジェットバスを満喫しろ!これは時間がきたら止まるやつなんだからな!
「リサと
「どういうことだ?」
「俺もわからん。説明プリーズ」
「雄弥はともかく大輝はわかろうよ…」
「つまり、リサが我慢してるから雄弥の調子が狂うんだろ。側にいない時はいつも通りだったのに、ずっとリサといて調子が狂ったってことはそういうことって愁は考えたんだろうな。…雄弥からリサになんかすることって滅多にないだろ?」
「…そうだな。たまにしかないな」
やっぱりな。雄弥からリサへ、が少ないのはおそらくリサの方から雄弥にアプローチをかけまくるからだ。そして雄弥も無自覚だろうが、それを待っているんだろう。だがこの合宿では一緒にいるのにリサからのアプローチが殆ど無い。
結花が邪魔してるってわけでもない。やり過ぎになりそうな時に止めに入ってるだけだからな。…リサ自身が抑えてるのか。
「もう少し雄弥からもアプローチをかけてやれ。リサのことを想うなら尚更な」
「わかった」
「おし!それじゃあ露天風呂行くぞー!」
こういうシリアス的なのは好きじゃねぇんだよ!関わる事多いけどな。
〜〜〜〜〜
リサがすっごく機嫌悪い。機嫌が悪い上にすっごい拗ねてる。また雄弥がなんかやらかしたのかな…。リサと二人で車のとこに行ったときは、よくやった!って思ったんだけどな〜。
「リサ。今度はどうしたのよ」
「……雄弥が…全然あたしと違った」
「えっと〜、つまり?」
「今井さんと雄弥くんでお互いを想う気持ちに差があった。ということでしょうか」
「……うん」
そんなわけないと思うんだけどな〜。雄弥ってリサにゾッコンだよ?リサがいなかったら1ヶ月程度で廃人確定だよ?なんか実際には大したことじゃないようなすれ違いやってそうだな〜。
「うーん、あこは雄弥さんがリサ姉のことすっごい大好きだと思うよ?それこそリサ姉が雄弥さんを好きなのと同じぐらい」
「…けど…」
「…今井さん…今井さんの気持ちを…抑えないでください」
「燐子…?」
「たぶん…雄弥さんも…思っていると…思います。……今井さんに…我慢してほしく…ないと」
「……ぁ」
(入院してる時にも言われてたことなのに…アタシってば…)
だよねー。雄弥ってば自分からは全然動かないもんね。動かないというのか、動けないというのか。…いや、分からないんだろうね。なんせ愛情どころか感情も最近まで全く理解できてなかった人なんだから。今も怪しいとこあるけど。
「リサ。私達は別にあなたに我慢しろなんて言ってないのよ?」
「友希那?」
「紗夜だって節度を守るようにしか言わなかったでしょ?やり過ぎになりそうな時だけ結花が止めてたはずよ。…からかうのは別として」
「我慢…しなくていいの?」
「そうね。場合によっては止めるけど、止められるまで甘えたらいいのよ。私達はリサに笑っていてほしいのだから」
「ありがとう!」
「…もう。カップル揃って仕方ないんだから」
やっぱり友希那は雄弥のお姉ちゃんだよね〜。身長も体格も違うくせに、抱きついてくる人の受け止め方とか頭の撫で方が一緒なんだから。
…友希那もきっと苦労したんだろうね。あんな大物を弟に持っておきながら、そんな弟を導ける姉になってるんだから。
「リサ姉の元気も戻りましたし、露天風呂行きましょう!露天風呂!」
「いいねーあこ!私も露天風呂行きたかったんだ〜。ほらみんなも行こ!」
「二人とも!騒いではいけません!」
「…急いだら…危ないよ」
「ほらリサ。私達も行くわよ」
「うん!」
露天風呂から見える夜空はすっごい綺麗だった。都会じゃないってこともあって夜の光はほとんど自然の明かりだけだからかな。私達が露天風呂に出た時には、壁を挟んで向こう側で先に雄弥たちも露天風呂に来てたみたい。
『修学旅行で覗きぐらいするだろ!中学の時にやってもうやりたくねーって思ったけどよ!』
『刺されろ』
『辛辣だな!?』
『僕はそんなことやらないね』
『いつでも蘭の裸を覗けるもんな』
『そんなわけないでしょ!?疾斗!出鱈目を言って僕を貶めようとしないでくれるかな!』
『じゃないと面白くないだろ』
『僕は面白くないよ!』
…話してる会話は最低だけどね。向こうは四人だけなのかもしれないけど、こっちは他にも一般の人いるんだからね!聞こえてないとか思ってるかもしれないけど、がっつり聞こえてるからね!こっちは全員表情無くなってるよ。ホラーだよ。
『そういう疾斗はどうなの?』
『覗きか?』
『うん』
『去年の修学旅行でやったな〜』
『…まじか』
『露天風呂がほぼ全方向が竹で覆われててな。何があるか気になって一方向ずつ見ていったんだよ。一つは川に蛍がいて綺麗だなーってなった。もう一つは山で緑がおおかった、というか暗かった。で、その次に見たのが女子風呂だったってわけだ』
『花音に言うか』
『あ、もう知られてるぞ』
『よく生きてるな』
『その時花音以外にも人がいてな。……修羅場だった』
いつ知られたのかによってその時にいたメンバーがわからないね。最近知られたなら、ハロハピだったりイヴだったりだろうけど…うーんわかんないや。
『さてと、んじゃ覗きのコツでも教えますか。ここみたいなところだとまずだな』
「雄弥〜。疾斗を放置したらリサの裸を見られちゃうよ〜」
『聞こえてたのかよ!?壁うっすいなーおい!』
「声がデカすぎるんだよ!」
『まじかー…ん?雄弥?まてまて落ち着け!覗いてないだろ!まて…ギャアーーー!!』
「あはは!リサってやっぱり愛されてるね〜」
「これはこれで恥ずかしいから!」
〜〜〜〜〜
来るときと同じ位置で座る、ことにはならなかった。疾斗は運転しないといけないからそのままで、覗きをしたことがある大輝を助手席に座らせた。あ、愁と大輝の位置が変わっただけか。
…アタシは雄弥と隣だったんだけど、なぜか気まずくて何も話せなかった。せっかく甘えていいって言われたのに、何もせずに戻ってきちゃった。
「それじゃあまた明日な〜」
「ええ。明日もお願いね」
「運転お疲れ様です」
「…お気をつけて」
「おやすみなさい!」
「おやすみー☆」
「あーそうそう、雄弥はそっちでよろしくー」
「は?」
雄弥とアタシ達が理解できないでいるうちに雄弥は大輝と疾斗に追い出されて、荷物も渡された。着替えとかが入ってるのかな。…ってことは温泉に行く前からこうする気だったんだ。
「それじゃあ雄弥また明日〜」
「おい……ったく」
「はぁ、仕方ないわね。部屋はまだあったはずだからそこで寝てちょうだい」
「…わかった」
「あとは寝るだけですしね」
「あこもうねむいー」
「部屋まで…がんばろっか」
アタシが鍵を開けてみんなそれぞれの部屋に入っていった。アタシも自分の部屋に入って荷物の整理をしたけど、気持ちが落ち着かなくて気づいたら別の部屋に来ていた。…そう、雄弥の部屋に。
「雄弥…」
「寝れないのか?」
「雄弥!」
「おっと…リサ?」
「このまま」
「わかった」
もう寝るところだったのか、ベッドの前で立っていた雄弥の胸に飛び込んだ。突然こんなことをしても、雄弥はいつも受け止めてくれる。雄弥の背中に腕を回して強く抱きしめる。雄弥もアタシを優しく抱きしめてくれる。
気持ちが少し落ち着いたら視線を上げて雄弥と目を合わせる。それだけでわかってくれて、そっと唇を重ねた。背中に回していた手を雄弥の首に回して、もっと強く唇を押し当てる。角度を変えたりしながら深く深く、ただひたすらに雄弥を求める。
「…ゆうや」
愛おしい名前。
愛おしい響き。
目の前にいるその存在を呼ぶだけでも胸が暖かくなる。
「ゆうや、アタシ…がまんしてた」
「…そうだな」
「もっと…ゆうやといたい」
「…ごめんな。俺の方からも動かないといけないよな」
「アタシが!…アタシが雄弥にいっぱい甘えるって言ったから。雄弥はそれで待ってたんだよね?」
「そうなるかな。…けど、やっぱり俺も動くべきだったんだ」
「…寂しかった」
「うん」
「もっと雄弥に甘えたかった…」
「うん」
「今からでも甘えていい?」
「もちろん」
「ありがとう♪」
雄弥をベッドに押し倒して、雄弥の上に寝そべりながらまた唇を重ねる。息が苦しくなったって気にしない。こんなの心の苦しさに比べたら軽いものだから。息が切れて一旦離しても、呼吸が整うのを待たずに唇を重ねる。
どれだけそれを繰り返したのかなんて覚えてない。案外少ないのかもしれないけど、それすら記憶に残ってない。
「ん、ぷはぁー、はぁはぁ…ゆうや…ゆうやぁ」
呼吸がかつてないぐらいに乱れていて、肩も大きく上下してる。目の焦点はどこかあってないような気がして、雄弥の顔もぼんやりとした見えない。だからアタシはこれが夢じゃないと思いたくて、雄弥が反応してくれるように甘い声を出した。
そうしたら雄弥は、アタシの肩に当ててた手を腰に回して引き寄せてきた。アタシは頭を上げるのをやめて、雄弥のすぐ横に頭をおいた。距離がすごい近いからお互いの頬が触れ合う。
「…リサ、お願いしてもいいか?」
「アタシも、ゆうやにお願いしたいことあるよ」
「そうなのか?」
「うん。けど、ゆうやから言ってほしいかな」
「わかった。リサ、今日は一緒に寝てくれるか?」
「えへへ♪アタシも同じことお願いしようって思ってた♪」
「なら」
「うん!一緒に寝よ♪」
雄弥と並んで布団をかぶる。向かい合って、雄弥に抱きしめられながら髪を撫でてもらった。それで一気に眠気がきたけど、寝ちゃう前にアタシも雄弥にお返しをすることにした。
「ゆうや」
「どうした?」
「んっ。おやすみ♪」
「ああ。おやすみ」
眠気を抑えて、さっきとは違う。当てるだけのキスをして寝ることにした。アタシの意識が完全に落ちるまで、雄弥はずっと髪を撫でてくれていた。