どうやらキーボードはあこの親友りんりんこと白金燐子になったらしい。過去にコンクールでの受賞歴もあるらしく実力は申し分ないとのこと。
その場に立ち会っていなかったのは単純に仕事があったからだ。思ってたよりも近いうちにライブがあるらしい。ちなみに、その前日に後輩ことPastelPalletsのライブがあるらしい。前から話に上がってたアイドルバンドなんだとか。俺達とは逆パターンのアイドルのガールズバンドらしい。
そして今日は全員が集まれないから個人練習になってるのだが、愁に呼びだされた。
「練習はいいのか?」
「新曲も一曲だけだし、既存のやつはちゃんと覚えれてるから問題ないよ」
「お前もたいがい人外だよな」
「いやいや、君たちほどじゃないよ」
謙遜してんなぁ。たしかに身体能力の面じゃ愁は一番劣ってるが、それでも部活やってる男子の平均以上は動ける。それにこいつは頭脳派だ。完全記憶能力とまではいかないらしいが、それに迫る記憶力と思考の柔軟さ、マルチタスクも誰よりもできる。
「…で、俺に何させる気だ」
「個人練習も君にとっては退屈だと思ってね。僕も頼まれごとがあるから協力してもらおうと思って」
「協力、ね」
「個人練習よりは退屈しのぎになるはずだよ」
退屈しのぎになること、か。……ここの部屋って使われてなかったんじゃないのか?新しく使う奴が現れたのか…、なるほどな。
「ね?」
「しばくぞ」
「ひどいなー。何人かとは面識あるんでしょ?」
「あってもなくても関係ない。頼まれたのはお前だ、お前が対応しろ」
「そこはそういうと思ってたけど、きっと彼女たちも僕らが来ると全然知らされてないはずだよ」
(は?何言ってんだこいつ)
その答えはすぐにわかった。その部屋にいた五人のうち三人は口をぽかんと開けてるし、一人は状況を把握してないだろうに目を輝かせてる。となると、待ってましたと言わんばかりにしたり顔になってるあいつが呼び出したのか。
「ど、どうしてAugenblikのお二人がここに!?」
「落ち着いて麻弥ちゃん。勝手ながら私がお願いしたの」
「千聖さんが、ですか?」
「ええ、アイドルバンドとして集められたわりには練習を指導してくださる方が来る頻度が少ないと思って。無理を言ってお願いしたの」
「こういうのって勝手にやっても大丈夫なんだっけ…」
「大丈夫じゃないだろ」
何を勘違いしているんだこのポンコツピンク頭は。おそらくは暇でグダる俺と愁が勝手に指導した、ということにするんだろ。…巻き込まれ損だな。
「そこは僕らが勝手にやってるってことにするから君たちは問題ないよ」
「やっぱりか」
「そ、そんなの悪いですよ!私たちも責任を負わなくては」
「そうです!責任の押しつけはブシドーに反します!」
「まぁそんなことはどうでもいいじゃん!練習見てもらえるなら早く練習しようよ!時間が勿体無いしさ」
「ひ、日菜ちゃん。それは失礼だよ」
「え?なんで〜?」
日菜は通常運転のようだな。大好きな姉がやるギターを自分もやる。そのことに浮かれてるんだろ。
「話はそこまで、練習を始めるよ!…それでいいんだよね?」
「ええ。時間が限られているのは事実だもの」
仕切り屋の二人が結託すると空気が締まるものだな。遠慮してた三人も渋々という形で練習を始めるが、いざ始まるとちゃんと集中して意欲的に取り組んでるようだ。
(やっぱ俺が来る意味なかっただろ)
来たところで結局退屈だなと思っていたが、日菜がいる時点でそれはありえないんだったな。
「ねぇねぇ、ここのやつ教えてー!なんかビューンってできないんだよね〜」
「感覚で弾くからそうなるんだろ…。まぁ日菜に理論言っても無駄か」
「そんなのあたし知らなくてもなんとかなる気がするだよね〜。ねね!だから難しいの抜きで教えて〜♪」
「俺をここまで振り回すのはお前ぐらいだな」
「えへへ、そうなんだ〜。それはるん♪ってくるね!」
「なんでだよ」
こんなに人を振り回せるのは日菜ぐらいだろ。他にそういう人に出会ってないだけなのかもしれないが、出会いたくはないな。疲れそうだ。
…やはり日菜は成長が早い。こちらが教えることを次から次へと昇華していく。そりゃあ周りから嫉妬されるわけだ。
「雄弥くん、ちょっといいかな?」
「俺は歌の指導ができるほどうまくないぞポンコツピンク」
「だから名前覚えてよ!この前覚えてくれるって言ってたじゃん」
「まだデビューしてないから」
「うぐぐ、……まあそこは大人の対応で我慢してあげる」
「そうか、大人なら一人でできるな。ガンバレ」
「嘘ですごめんなさい。まだ子どもなので指導してください」
ころころ表情が変わるやつだな。にしてもボーカルの指導、ね。
(疾斗に押し付けたいが今あいついないしな)
「仕方がない、たいした技量もないが、可能な限りは教えてやるよ」
「ほんとー!やったーー!!」
「…やっぱやめよかな」
「えー!」
俺が歌う時に気をつけてることなんて、歌詞を間違えない、目線を下げない、パフォーマンスを派手に、ぐらいだしな。
「歌詞は覚えてるのか?」
「それはもちろん!」
「なら振り付けは?」
「…そこはまだちょっと」
「歌いながら振り付けもやれ。時間がないんだからな」
「う、うん!」
「基本的に目線は下げるなよ。下げていいのはそういう振り付けの時だけだ」
(…日菜に教えたあとに教えると全員にダメ出ししたくなるのはなんでだろうな。あー、日菜を基準にしちゃうからか)
なんて考えながら不器用ながらもひたむきに練習する少女の良かった点悪かった点を見つけていく。ダメ出しだけだとモチベーションが下がるって昔リサに文句言われてからこうするようになった。
「…ど、どうだったかな」
「及第点を言われるのと貶されるのどっちを先にしてほしい?」
「それどっちもどっちだよね!?」
仕方ないだろ、まだまだ課題が山積みなボーカルなんだから。仕方がない、先に貶してそのあとマシだったやつを言おう。
「わたし、なきそうだよ…」
「泣きたきゃ泣けばいいさ。ただし、他のやつに迷惑かけないようにな」
「鬼!」
「なにをそんな文句を言ってるんだ。……一生懸命さが伝わってくる姿勢と笑顔を忘れてなかったことは良かったぞ、彩」
「!!」
なんで泣き出すんだよ。褒めただけだろう。は?嬉し泣き?なんだそりゃ。そんなに泣いてたら干からびるぞ。
「ユウヤさん!彩さんを泣かせるとは何事ですか!」
「褒めたら泣いた、それだけだ」
「あ~、彩ちゃん涙もろいって言ってたっけな〜。本当だったんだ」
「…そういうことなら慰めてあげてください」
「なにをどうしろと…」
「い、イヴちゃんもう大丈夫だから!練習の邪魔になってごめんね」
ふむ、泣きなれてるのか案外復帰できるんだな。それはさておき、イヴが絡んできたということは…。
「彩さんがそう言うのなら…。ではユウヤさん、次は私の指導をお願いします!」
(やっぱそうなるよなー。…なんで呼ばれた愁より俺のほうが教える人数多いんだよ)
〜〜〜〜〜
「はははっ!それは災難だったな〜」
「疾斗がいれば少なくとも彩とイヴは担当しなくてよかったんだがな」
「ま、俺には俺の都合があるからな」
「へー。…それよりあいつら無事に
「ん?珍しいな他のやつの心配するなんて」
「心配じゃない。事務所がやらかせば俺たちにも影響がでるからな」
「…そっちか」
なぜに俺があいつらの心配をせねばならんのだ。初ライブで緊張してミスをするというのなら別に問題ない。誰だってミスはするものだからな。問題は…。
「結成からライブまでの期間が短すぎるからな〜。練習を見た感じなんとか乗り越えれるかな〜とは思ったが」
「つまりはそのレベルだ。まだ早い」
「それはスタッフをわかってるはずなんだがな…。嫌な予感がするもんだ」
嫌な予感、ね。てことはわりとデッカイことをやらかすことになるんだろうな。…俺達のライブやりにくくなるのかね。
「めんどくせ」
「ははっ、そうならないことを願うしかないな」
「応用力はまだないだろうからな」
「そればっかりは場数を踏まないとなぁ」
それもそうだな。元からアドリブが強い疾斗がいるからなんとかなったこともしばしばある。つまり、俺たちもまだ経験が浅いってわけだな。
「アドリブに強そうなのは、日菜ぐらいか」
「けど芸能界のこと全く知らないからなぁ」
「はぁ、ならあの中で一番経験豊富な女王が対処するだろ」
「駄目だったとき用に大輝と愁はなんか考えてるみたいだぞ?」
「……勝手にやってろ」
「雄弥がそう言うのも想定済みだとか」
「あっそ」
それならそれでいい。俺はあんま動き回ろうとも思えんからな。
「そういや勝手に指導してることはどうなった?」
「あーそれ?
「お前社長にでもなったのか」
「ははっ!んなわけないだろ!もし社長になったらもっと面白いことを考えるわ!」
(どうせ碌でもないことだろ。こいつハメ外すと酷いからな。…っとそういやリサにチケット渡してなかったな。あとで関係者用のやつ貰っとくか)
「あ、そういやパスパレのポスターできたらしいぞ。外に貼られるようになるのはもう少し先らしいが」
「印刷数が多いからな」
(なるほど五人ちゃんと集まってるのか。……
間隔あけるようにしてみました。
☆9評価 ハッピー田中さん 風見なぎとさん ありがとうございます!