そしてレポートが全て終われば後はテストのみ!つまり執筆再開!…テスト勉強?出題形式聞いてピンポイントに覚えればなんとかなりますよ〜。うちの学部は甘いので。
「今日も暑いですね〜」
「夏だからな」
「家からここに来るだけでも嫌になっちゃいますよ〜」
「日が傾き始める時間に来てるからましだろ」
「いや〜、それでも熱気があるじゃないですか〜。アスファルトが熱を持つとかなんとか」
「なるほどな。それで
「いつも通りですよ〜」
「なら大丈夫だな」
「何一つよくないからね。二人ともしゃきっとしてよ」
それぞれ用意したダンボールの上に座ってモカと話しているとリサに注意された。どういうことかと言うと、前にも一度あったが、リサのバイト先であるコンビニで俺も今働いているのだ。
店長が休みたいと言って、麻雀したら俺が負けた。だから俺が代わりに出てきて、リサとモカと三人で働いている。といっても俺の仕事は事務作業ばかりで、それも昼間に終わっているから今は暇な状態だ。普通はそれで退勤なのだが、「今井さんがあがるまで居ていいよ。その分も給料出してあげる」と言われたから残っている。ぶっちゃけ給料はなくてもいい。リサといられるのだから。
「雄弥さんが勝ったら何を要求したんですか〜?」
「リサの出勤を一つ有給休暇に変えてもらうのを要求するつもりだった。もちろん有給の回数は減らさせないが。それでデートしようと考えてた」
「アツアツですね〜。リサさんの幸せもの〜」
「だからモカは仕事しようか。雄弥もモカに合わせないで」
「あれ〜?リサさん今の聞いてなんとも思わなかったんですか〜?」
「聞いてたよ。素直に嬉しかったけど、今は仕事中でしょ」
「真面目ですね〜」
…仕方ない。ダンボールも片付けるか。店長には今日の業務内容を報告したし、本格的に暇になったな。
〜〜〜〜〜
仕事だからって言い聞かせてるけど、それはそうしないと自分を抑えられないから。もしモカがいなかったら、店を放ったらかしにして、雄弥を連れて事務室に引っ込んで甘えてた。
今までは、雄弥がアタシを求めてくれてるのを聞くなんてことはなかった。だからすごく胸が締め付けられるような嬉しさがあって、雄弥の胸に飛び込みたかった。けど、それを今しちゃいけない。
(仕事中ってのもあるけど、雄弥が海外に行ってるときにアタシが自分をコントロールできるようにならなきゃね。みんなに迷惑かけられないし)
出発はまだ少し先だけど、それでもその日はどんどん近づいてる。結花が言うには、雄弥はアタシといる時にアタシが甘えないと調子が狂うらしい。反対にアタシといない時は、大して影響が出ないんだとか。嬉しさと不満と安心、それらがアタシの中で渦巻いてる。
雄弥が求めてくれる嬉しさ、一緒じゃなかったらいつも通りでいられるということへの不満、そして海外ライブへの影響が無いであろうという安心。
(アタシってめんどくさい女だよねー)
「…リサさんってホントに乙女ですよね〜」
「へ?急にどうしたの?」
「今のリサさんは青春漫画の乙女そのものだな〜って。モカちゃんは見ててそう思うのです」
「青春漫画の乙女て…、どのへんが?」
「おー?聞きたいですか〜?」
「参考程度にはね」
「では教えて差し上げましょ〜」
モカは両手を大きく広げながら得意げな顔になった。気持ちのコントロールに意識を向けてたせいでモカの意図を見抜けなかったな〜。モカ相手にこの手の話を軽い気持ちで振っちゃいけないっていうのに…。
「まずリサさんは、雄弥さんと話してる時の表情がすご〜く柔らかいです。もう話してるだけで幸せ〜って雰囲気が出てます。それで〜、今は自分のためなのか雄弥さんのためなのか。それは知りませんけど〜、雄弥さんとの接触を抑えてるでしょ〜?心の中で葛藤してるな〜ってわかりますよ〜。健気なとこも乙女で〜「も、モカ…もう十分わかったから」…え〜、これからバイト中のリサさんの様子を横から見てどうだ〜とか、学校で見かけた時は〜とか話そうと思ったのに〜」
「そんなのいいから…。アタシってそんなに分かりやすい?」
「むしろ気づかない人はいないってぐらいですね〜。うちの蘭ですら分かってますよ〜?」
「…そうなんだ。学校とかでも分かっちゃうんだね」
「ふとした時に携帯を見てそわそわしたり、雄弥さんがいるであろう方向に目を向けてぼーっとしてますからね〜」
言われてみればたしかにそうだね。雄弥は手が空いてる時にすぐに返事を送ってくれるから、結構そわそわしちゃう。友達と話す時の方が圧倒的に多いけど、それでも外を見ることが増えた。モカの言う通りなんだけど、
「なんでそんなに知ってるのかな?」
「最近のリサさんは見てて飽きないからですよ〜。クラスの子もリサさんを観察してますしね〜。写真とかは流石に駄目なので見るだけですけど、帰りのHRの項目に"今日の今井リサ先輩"ってできたんですよ〜。今は夏休みですからクラスの連絡網でやってま〜す。その時にクラスのみんなで共有するのです〜」
「なんでそんなのできるかな…、先生も止めてないってことでしょ?」
「女子校ですからね〜。恋話とかが好きなんですよ〜。しかもリサさんは頼りになる優しい先輩ってイメージだから、そういう時のギャップが激しくって、みんなときめくんですよ〜」
「恥ずかしいからもうやらないで。クラスの人にもそう伝えて、いいね?」
「え〜。今日は私が情報発信しないといけないのに〜」
「モ・カ」
「…はーい。今日を最後にしま〜す」
「よろしい」
まったくもう…。女子はコイバナが好きってのは分かるし、アタシもそういう話は好きなんだけど、ちょーっといき過ぎてるよね〜。…これで綺麗さっぱり無くなるとも思えないけど、マシにはなるよね。
「お客さんもいないですし、雄弥さんに雄弥さんが知らないリサさんを教えたいんですよね〜」
「やめい」
「え〜」
「え〜じゃないよ」
「雄弥さんも知りたいですよね?」
「さっきまでの会話なら聞こえてたから別にいい」
「……え、聞こえてたの?」
「まぁな。可愛らしくていいんじゃないか?」
「……雄弥なんて知らない!」
「「え」」
知られて恥ずかしいことなんて、知られたくないに決まってるじゃん!たとえそれが雄弥であっても。ちょうどお客さんも来たし、しばらくは二人のこと無視しとこっと。
「雄弥さーん、リサさんが拗ちゃいましたよ〜?」
「俺は思ったことを言っただけなんだがな…」
「雄弥さんはブレないですよね〜」
「まぁな。俺がリサのことを好きだってことは不変だからな」
「カッコイイですね〜。モカちゃんにもそういう相手が欲しいです〜。…雄弥さん、モカちゃんを貰ってくれますか〜?」
「諦めろ。リサ以外ありえない」
「ざ〜んねん。私がリサさんに勝る魅力があれば〜」
「そこは何とも言えないな。俺にとってリサが一番の女性だから。誰がどう言おうと俺の評価はリサが常にトップだ」
…なんでずっと横でそんな会話ができるのかな?お客さんが来てるっていうのに。雄弥は素だろうけど、モカはアタシで遊ぼうとしてるよね。そもそも!彼氏の惚気を隣で聞いてるアタシの立場も考えてよね!すっごい恥ずかしくてムズムズするんだから!
「恋は盲目ってやつですね〜」
「そうなんだろうな」
「蘭もリサさんを見習って素直になればいいのに〜」
「アタシが何だって?」
「あ〜蘭だ〜。どうしたの〜?私が恋しくて会いに来たの〜?」
「そんなわけないでしょ。飲み物とアイス買いに来ただけ」
「え〜。ゆっくりしていこうよ〜」
「ゆっくりはするよ。今からリサさんが休憩なんでしょ?話しよってさっき誘われた」
「リサはいつの間に誘ってたんだ」
「二人が会話してる間にですよ。…モカとばっか話してるからリサさんが拗ねてるんじゃないですか?」
「…女心はわからん」
「でしょうね」
会計を済ませた蘭をすぐに呼んで事務室の中に入った。モカと雄弥の相手をさせてたら、またアタシが恥ずかしくなるような話になりそうだったし。
本当はこういうの駄目なんだけど、店長は緩いから許してくれる。まず従業員じゃない雄弥が働いてる時点で今更だよね。
「…モカと雄弥さんってだいぶ仲いいんですね」
「なんか波長が合うんじゃない?前にその話したら『モカに気を遣う必要がないから気楽でいられる』って言ってたし」
「たしかにモカには遠慮しなくていいですからね」
「モカも遠慮せずに話すタイプだしね。…一線は守るけど」
「そうですね」
モカの良いところ、なのかな。相手をからかったりするけど、それでも相手が不快に思うようなことはしない。だからなのか、マイペースだけどムードを作れたりする。
「……あの二人ちゃんと仕事してるかな」
「お客さんが来たら働くんじゃないですか?雄弥さんもモカもいざという時は切り替えれるじゃないですか」
「だといいけど…」
「それでリサさんがアタシを呼んだ理由ってなんですか?」
「…相談、かな」
「相談ですか?リサさんがアタシに?」
「うん」
あはは、蘭が驚いてる。まぁそれもそうだよね〜。みんなから相談を受けるようなアタシから相談されるなんて、予想できるわけないよね。けどまぁ、蘭がよかったんだよね〜。
「何か答えれるかわからないですけど、リサさんの頼みなら」
「あはは、そんな身構えなくていいよ。そんな難しい話でもないしね」
「そうなんですか?」
「うん。蘭以外にも何人かに聞いてみるつもりだし、蘭は蘭の考えを言ってほしい」
「…わかりました。それで、アタシに聞きたい内容は?」
「気持ちのコントロールの仕方だね」
「えっと…、つまり?」
「恋心との向き合い方を教えて?」
「こっ!?いや、あの、え!?」
蘭ってば顔を真っ赤にして慌てちゃってる。…雄弥と付き合い始める前のアタシもこんな感じだったのかな。落ち着くまで待ってあげたいけど、休憩中に話を終わらせたいから話を進めないとね。
「蘭ってアタシと雄弥の関係はどのへんまで知ってる?」
「どのへんて……両想いなんだろうな、ぐらいですよ」
「そっか。…うん、それはそれでいいや。ちゃんと隠せてるってことだし」
「えっと、じゃあもうお二人は」
「付き合ってるよ」
「おめでとうございます」
「ありがと♪」
そういえばこうやってお祝いされるのって、あんま無かったな〜。隠すことに協力してもらうからってのもあるけど、それ以上に「やっとか」みたいな反応だったし。
「それで蘭に聞きたいのは、この気持ちをどうコントロールするかってことなんだ〜。アタシ雄弥への依存度が高すぎてさ、もう少ししたら雄弥が海外ライブに行っちゃうんだけど、その時に自分を抑えれるか不安で…」
「…なるほど」
「蘭って愁のこと好きじゃん?」
「なっ!?べ、別にアタシは愁のことなんて…」
「じゃあ嫌いなの?」
「…リサさん…ズルいですよ」
「あはは!ごめんごめん。けど、明確にしときたくてさ。これから蘭の意見を聞くわけだし?」
「…はぁ、わかりました。…アタシはリサさんの言う通り愁のことが好きです」
さっきまで顔を赤くしてたのに、こうやって真っ直ぐに言い切れるなんて蘭は凄いね。アタシには無理だよ。
「それで、さ。蘭はその気持ちを抑えても、いつも通りでいられるじゃん?どうやったらそうできるの?」
「……周りからしたらそう見えてるだけですよ」
「へ?」
「アタシは元々自分の気持ちを素直に出せない性格ですから。…だから抑えれてるように見えるんだと思います。…愁とは家が近くでもなかなか時間が合わないんで、その分溜まってる気持ちを音楽で発散させてるだけです」
「…なるほどね〜。蘭の性格も関係してたのか〜」
「あまり参考にならないですよね」
「ううん。そんなことないよ!アタシと蘭で共通してる事と言えばバンドをやってることだし、アタシももっと打ち込めばいいってことだよね!」
「…Roseliaは元々そういうところでしょ?リサさんが今でも一生懸命に音楽に打ち込んでるのはその指を見たら分かります。むしろ今以上にしたら…」
「心配してくれてありがと〜。その時はRoseliaのみんなが止めてくれるから、やれるとこまでやってみることにするよ」
こう言ってもまだ心配してくれる優しい後輩の頭を撫でる。蘭の表情が和らいだってことは、うまくできてるってことだよね。
…アタシに何かがあったらきっと雄弥はライブを成功できなくなっちゃう。それだけはしちゃいけない。だから自己管理をしっかりしないとね。
休憩の残り時間は蘭とお互いに想ってる相手のことを話し合った。こういうのって、なんか女子会みたいで楽しいね〜。アタシの休憩が終わったら次はモカの休憩で、蘭はそのままモカと話してた。
アタシは雄弥と二人になって、結局自分を抑えれなかった。お客さんが来たからすぐに甘えるのも終わったけど、その数分の出来事をモカに動画で取られた。それでモカと追いかけっこが始まったのは別の話。
蘭との会話が短いのは、蘭ってそんなに多くを語らないようなっていう僕の中でのイメージがあるからです。
モカと雄弥の仲の良さは、親友ならぬ心友って感じです。疾斗たちとの関係が友人兼仲間であるのに対して、モカとの関係は純粋に友人のみ、みたいな。