陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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7話

 アタシは待ち合わせ場所である羽沢珈琲店に入って、入り口から見えやすい位置に座った。アタシの方が先に着いたようだし、こうしといたらすぐに見つけてもらえるよね。…迷子になってたらいつ来るか分からないけど。

 

 

(一応連絡取ってみた方がいいかな?)

 

「あ、リサちゃん」

 

「ん?よかったー。花音が迷子になってたらどうしようかと思ってたんだ〜」

 

「……それは大丈夫だったよ」

 

「今の間なに?」

 

「気にしないで」

 

「そう言われてもな〜。だって疾斗(・・)が一緒にいるとね〜」

 

「リサの想像通りってことだ」

 

 

 やっぱりか〜。最初からなのか花音が迷子になってからなのかは分からないけど、花音が無事にここに着くように案内してくれたんだね。それはありがたいんだけど、今日は練習があるんじゃなかったっけ?雄弥からはそう聞いてたんだけど。

 

 

「それじゃあ花音、俺は行くから」

 

「うん、わざわざごめんね」

 

「気にするな。俺が練習に遅れるのはよくあることだ」

 

「…それはそれでどうかと思うんだけど。疾斗くん、行ってらっしゃい♪」

 

「おう!」

 

 

 笑顔を交わし合う二人は、それはもう横から見てて分かるぐらい幸福感を漂わせてた。アタシもこうやって送り出せたりできてたけど、付き合ってからはもっと一緒に居たいっていう思いの方が強くなってる。花音みたいに送り出せるようになれるかな…。

 注文していた飲み物で喉を潤わせると、花音にさっそく本題を聞かれた。花音って切り込むときは直球だよね。

 

 

「好きの気持ちの抑え方?」

 

「うん。アタシって全然抑えれないし、雄弥はそれでいいって言ってくれてるんだけど、海外ライブしに行くでしょ?…その時にしっかりいつも通りの自分でいられるようにしないとって思って」

 

「そうなんだね。…他に誰か相談してみた?」

 

「蘭に相談したよ〜。蘭は音楽に打ち込むようにしてるって言ってた」

 

「バンドやってたらそうなるよね」

 

「それじゃあ花音も?」

 

「ハロハピに入ってからはね」

 

 

 苦笑しながらそう言った花音はまた一口飲み物を飲んだ。その落ち着きはアタシより年上なんじゃないかってぐらい大人びてた。花音は一旦目を伏せてからアタシに真っ直ぐ目を合わせた。その目は蘭と同じだ。自分なりの方法を持っていて、ブレないものがある人の目だ。

 

 

「私はハロハピに入る前からドラムはやってたんだ。中学の時もそれで気を紛らわせようとしてたし。…それで全部うまくいったわけじゃないけど」

 

「花音…」

 

「中学生の時は、疾斗くんと一緒にいたくても全然一緒にいれなかったんだ。ほら疾斗くんってムードメーカーでしょ?…すごい人気者で、誰にでも優しいからモテてね。そんな疾斗くんと私みたいなビクビク生きてるような人が一緒なんて無理だって…そう思ってた」

 

「疾斗は何か言わなかったの?あの性格なら花音のことすっごい気にかけると思うんだけど」

 

「もちろん気にかけてくれたよ。…けど、他の女の子からしたら面白くないよね。疾斗くんは周りに声をかける側の人だけど、人気者になるとそれも逆転しちゃう。だから女の子たちは自分から疾斗くんに声をかけるのが当たり前だった。それなのに私は疾斗くんに声をかけられるんだもん。私は何もしてないのに。しかも学年も違うのに」

 

「うん……んん!?」

 

「え?リサちゃんどうかしたの?」

 

「ちょっと待って。…疾斗って学年違うの?」

 

「知らなかったの?疾斗くんは一つ上だよ?」

 

 

 うそ!?ずっと同い年だと思ってた!…いや、ほら、だって周りのみんなもタメ口で喋ってるし。

 アタシが信じられないって感じで固まってると、花音はおかしそうに口元を手で隠しながら笑ってた。こういうとこもなぜか年上感出てるんだけど。

 

 

「疾斗くんは分け隔てなく接するし、上下関係を気にしないし、子供っぽいところがあるし、自分からトラブルに首を突っ込んじゃうし、私がどれだけ心配してもやめてくれないし、というか聞いてよリサちゃん!この前も疾斗くんってばね、女の子をお姫様抱っこしてたんだよ!どう思う!?」

 

「え…、えっとー。それって何かのイベントとかじゃなくて?」

 

「ううん。旅行で来た人を案内してたらしいんだけどね。それで疾斗くんの性格がアレだからすぐに仲良くなるでしょ?それで案内が終わって、その後を一緒に回れないからってお姫様抱っこしてあげたんだって。普通そんなことしないよね!」

 

「そ、そうだね。…うん、それは疾斗が悪いね」

 

「だよね。それで私が怒ったらなんて言ったと思う?『なら花音にもする』だよ!?そういうことじゃないのに!」

 

「それは…天然なのかわざとなのか分かりにくいね」

 

「あれは天然な方かな。わざとやる時はいたずら顔になるけど、あの時はなってなかったから」

 

 

 花音って疾斗のこと詳しく把握してるよね。それと疾斗が絡んだらいつもの雰囲気とは全然違う。次から次へとズバズバ喋るようになってる。これなら雄弥が怒らせたくないって言ってたのも納得だね。きっと本人を前にしたらもっとヒートアップするはずだし。

 

 

「…あ、ごめんね!話が脱線しちゃったよね」

 

「あはは、全然いいよ〜。花音の知らない一面が見れたわけだし」

 

「ふぇぇ、…今のは忘れほしい、かな」

 

「忘れません」

 

「うぅー。……えっと、話を戻さないとだよね」

 

「そうしてくれたらアタシとしては嬉しいね」

 

 

 無理に花音の話を聞き出すわけにもいかないから、花音が話せる範囲を聞く。アタシからは掘り下げないようにしないと。誰だって話したくないこともあるし、アタシだってそういうのはされたくないから。

 

 

「とりあえず、虐めとかはなかったよ。疾斗くんが生徒会長になって虐め撲滅を掲げてたからかな」

 

「生徒会長なんて意外すぎるんだけど…」

 

「ふふっ、私もびっくりしちゃったよ。教えてもらってなかったから、入学式で初めて知ったんだ〜」

 

「良くも悪くもいろんな伝説残してそうだね」

 

「残してるよ。そのせいで後任の人が大変そうにしてるって話聞いたことあるし」

 

「そうだろうね〜」

 

 

 あんな生きる伝説みたいな人間の後任なんて、なかなか務まる人いないよね。アタシの周りでもいなさそうだし。

 

 

「それでね、虐めとかはなかったけど、…私自身から距離を取るようになっちゃって。疾斗くんの邪魔はしたくないし、私なんかって思いもあったからかな。…それでもやっぱり疾斗くんに声をかけてもらうことを期待してる私もいて、だんだんドラムにも集中できなくなっちゃったんだ」

 

「…それで、花音はどう乗り越えたの?」

 

乗り越えれなかったよ(・・・・・・・・・・)

 

「ぇ」

 

「正確には私一人ではってことなんだけどね」

 

「ということは、疾斗が?」

 

「うん。結局私から避けてた疾斗くんに助けてもらっちゃった。『花音と一緒にいられる時間が減ってるけど、それでも俺は花音がいる所に必ず戻る』ってそう言われたの。それで私は疾斗くんを信じて待つようになったんだ。だから疾斗くんと一緒にいられる時に、満足するまで甘えるようにしてるよ」

 

「そうだったんだ…」

 

 

 花音は強いよね。間違いなくアタシ以上に不安になることが多いはずなのに、それでも今みたいに笑って疾斗のことを待っていられるんだから。

 

 

「参考になったかな?」

 

「もちろん!話してくれてありがとう♪」

 

「それならよかった〜。…あ、そうだ」

 

「なに?まだ何か話してくれるの?」

 

「えっとー、私の考え方なんだけどね?」

 

「うん」

 

「自分が一番愛されてるって思うようにしてるんだ。…疾斗くんって相手を拒めない時があるんだけど、特にあの二人とか。それでも私が一番って思えば許せるかなって」

 

「あはは、花音は器が大きいよね〜。…アタシはそれ無理かな〜。アタシだけを見てほしいっていっつも思ってるもん」

 

「あはは。でも、それがいいと思うよ。リサちゃんはリサちゃんのやり方があるよ。気持ちのコントロールも慌てるほうが上手くできないから、雄弥くんを信じてあげて」

 

「うん。ありがとう」

 

 

 アタシのやり方…、やり過ぎたらただの束縛になりそうだけど、そうならないよね。この前のバイトの時に雄弥がああ言ってくれてたし。

 …信じて待つ、か。雄弥のことを信じてないなんてことはない。だけど、それでも不安は拭えなかったりする。日本でも日菜相手に油断できないのに、海外なんてもうアタシの手の届きようがない。雄弥は自覚してないだろうけど、雄弥も雄弥でモテるんだから!

 

 

「沙綾ちゃんにも聞くの?」

 

「たぶん…聞かないかな。大輝が一度もブレずに、ずっと沙綾一筋っぽいからね」

 

「ふふっ、大輝くんがそういうの一番しっかりしてるもんね」

 

「だよね〜。…さてと、これからどうする?」

 

「せっかくだしもっとお話したいかな」

 

「おっけ〜♪」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「おーい花音。お待たせ」

 

「あ、疾斗くん。お疲れ様。それと来てくれてありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「花音の迎えも来たことだし、会計済ませよっか」

 

「リサの迎えも来てるぞ」

 

「へ?」

 

「ほらあそこ」

 

 

 疾斗が指をさした方向には雄弥がいて、雄弥はつぐみと何やら話してた。レジの前(・・・・)で何話してんだろうね。手には財布があるけど、まさか…!

 

 

「雄弥、支払いはいいから!」

 

「一歩遅かったな。もう払った」

 

「ふふっ、払われちゃいました」

 

「つぐみもなんで会計しちゃうかなー」

 

「すみません。雄弥さんが支払うと言われたので」

 

「つぐみを責めるなよ。この子は自分の仕事をしただけだぞ」

 

「わかってるよ…もう、雄弥のバカ」

 

「なんでだ」

 

 

 雄弥を軽く小突くとお返しとばかりに優しくデコピンされる。そんなやり取りを見ていたつぐみが楽しそうに笑っているのを見て、アタシはすぐに動きを止めた。

 

 

「ふふっ、お二人はホントに仲がいいですよね♪」

 

「そ、そうかな?」

 

「はい!それに、リサさんはやっぱり雄弥さんといる時が一番楽しそうです!」

 

「嬉しいことだが、それはそれで花音に失礼だな」

 

「リサちゃん…」

 

「いやいや花音と遊べてすっごい楽しかったからね!?」

 

「ふふっ、わかってるよ」

 

「…花音にからかわれた」

 

 

 花音って本当に強かだよね。普段との差が激しいというか、疾斗と一緒にいるからなのかな?…というか、花音も疾斗が来てから表情の明るさが違うんだけど。

 

 

「花音って疾斗といる時が一番幸せそうだよな」

 

「ふぇ?」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。一人の時とか小動物みたいにビクビクしてるし、基本涙目だな」

 

「そ、そこまでじゃないもん。涙目なんてならないよ」

 

「そうか?初めて会った時とか涙目だっただろ」

 

「あ、あれは迷子になって心細かったからで」

 

「いつも迷子になるから、やっぱりいつも涙目だな」 

 

「うぅー、いじわる」

 

「はははっ、雄弥も言うようになったな〜」

 

 

 花音のことをイジられてるのに疾斗ってば楽しんでるよね…。まーた花音に何か言われるんじゃないの?……二人って付き合ってるってことでいいんだよね?

 

 

「とりあえず店出るか。ずっといても迷惑だしな」

 

「そうだね。それじゃあつぐみ、ごちそうさま!また来るね!」

 

「はい!ぜひまた来てください!」

 

「…素直でいい子だよな〜。超純粋な笑顔だし」

 

「疾斗くん?」

 

「ただの感想です」

 

 

 疾斗のストレートな評価につぐみは顔を赤くしてるけどね。わかるよ、こういうのって言われると嬉しいけど恥ずかしいよね。

 店を出て歩きながらさっき気になったことを二人に聞くことにした。…そう付き合ってるのかどうかを。

 

 

「疾斗と花音ってさ、その…付き合ってるの?」

 

「まぁ、一応?」

 

「…なにそれ」

 

「疾斗くん浮気するから。けど付き合ってるよ」

 

「…悪かったな。これでも結構断ってるんだぞ?」

 

「それでも浮気はダメだけどね?…私は受け入れてるけど、やっぱり寂しい時もあるから」

 

「……ほんとゴメンな」

 

「えっと、つまり」

 

「こいつは彼女公認で他にも関係持ってんだよ」

 

「…え…」

 

 

 花音のことを大切にしてるのに?他の子とも付き合ってるの?…そんなの…でもアタシがとやかく言っても仕方ない、のかな。

 

 

「疾斗くんって優柔不断なんだよ?相手を泣かせないようにって悩むから。今はマシになってるけど、それでもなかなか断れない人なの。…それで結局今は3股だね」

 

「え"…か、花音はよく受け入れられたね」

 

「そういうとこも含めて好きになったから。…それで全く寂しい思いをしないってわけじゃないけど、それでも自分で選んだ人だしね」

 

「…お前は花音に助けられてるな」

 

「まぁな。…本当に勿体無いぐらいだ。だからこそ小さい時から花音のことを大切に想ってる」

 

「わ、私も疾斗くんのこと大切に想ってる、よ」

 

「…花音」

 

 

 うわ、すんごい速さで二人だけの世界作っちゃったよ。…あー、アタシ達も周りからしたらこんな感じなのかな。何回も言われてきたけど、こうやって見ることでやっと分かったよ。

 

 

「んじゃ二人は置いて帰るぞ」

 

「へ?あのままでいいの?」

 

「言っても止まらないからな。疾斗がいるんだから、花音の心配もいらないしな」

 

「そ、そうなんだ」

 

「リサ」

 

「なに?」

 

「手繋ぐか」

 

「!!…うん♪」

 

 

 雄弥から言ってくれるなんてね〜。恋人繋ぎをしながら雄弥に密着して歩く。日が暮れ始めてるから暑さもマシになってて、そのおかげでこうやって雄弥と歩くことができる。アタシ達のこの状態は家に帰るまでずっと続いた。




☆9評価 煉崎さん 零やKさん ありがとうございます!
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