さて、英気を養ったところで今日からのテスト期間を乗り越えますかね。
「着付けは…こんなもんか」
「少しズレてるわ。直してあげるからジッとして」
「ありがとう」
「いいのよ。デートでわざわざ普段着ないものを着てるんだもの。しっかり着こなしてもらわないと」
「あはは!雄弥ってば手伝ってもらっちゃってるー」
「結花は全部やってもらってただろ」
「まぁね☆…なんで知ってるの?覗いた?」
「あれだけ大声で友希那に助けを求めてたら聞こえてくる」
「…やっぱりか〜」
「ほら、これでいいわよ」
友希那に和服をピシッと直してもらい、再度お礼を言った。今日は祭りの日であり、海外ライブの出発前日でもある。祭りは夕方から始まるため、それまでをリサと過ごしたかったのだが、前に収録したものをスタッフがなにやらミスしたらしく取り直しとなったのだ。
「それじゃあ私達は先に出るわね」
「紗夜と行くんだったな」
「そうそう!迎えに行って、三人で満喫する予定!」
「雄弥はちゃんとリサを楽しませなさいよ」
「わかってる」
「それじゃあね〜」
友希那と結花を玄関で見送り、自分の部屋に戻る。元々殺風景な部屋だったのだが、最近は少し生活感が出てる部屋になってきてる(らしい)。…結花が勝手に買ってきて部屋に置いていくからなのだが。
「…少し早いがリサを迎えに行くか。隣だが」
どうやら俺も楽しみにしているようだ。支度ができてしまったから、なかなか落ち着けないでいる。家を出る前に軽く身だしなみを確認し、両親に一言告げてから家を出た。……朝帰りでもいいって何を考えて言ってきたんだろうな。
〜〜〜〜〜
(帯は大丈夫…だよね。襟とか裾もおかしくないよね…。髪もセットしたけど…崩れてないかな)
「リサ落ち着きなさいって。さっきからずっとそればかりじゃない」
「で、でもどこかおかしかったら嫌じゃん。変に思われたくないし」
「ちゃんと整ってるから大丈夫よ。むしろそわそわして崩さないようにしなさい」
「…そう、だね」
「それに雄弥くんがリサのことを変って思うわけないじゃない」
「けど…」
「待ちきれないならリサから会いに行ってもいいんじゃないの?」
ア、アタシから!?…そりゃあ早く会いたいけど、昼間一緒にいれなかったし、でも雄弥が迎えに来てくれるって言ってたわけだし。
「あら?…リサの待ち人かしら」
「ドア開けてくる!」
「慌てちゃだめよ〜」
予定より少し早い時間に家のインターホンが鳴って、ドアを開けたらそこには予想通り雄弥がいた。落ち着いたグレーの和服に身を包んで、紺色の羽織を着ていた。まさか雄弥も和服だなんて思ってなくて、アタシはそんな雄弥に見惚れてた。
「悪い、少し早めに来た」
「…ぁ、ううん。全然いいよ!アタシも雄弥に早く会いたかったから」
「そうか。それならよかった。もう出るか?」
「少しお茶していきなさい。最近雄弥くんと話してなかったから話したいし、リサも部屋に荷物取りに行くでしょ?」
「母さん一声かけてよ!びっくりするじゃん!…ちょっと行ってくるね」
「ああ」
机の上に用意しといた巾着袋を手にとって、中身も確認する。忘れ物がないか確認し終わったらリビングに行く…んだけど、…やっぱり雄弥の和服姿って似合ってるよね。
「リサそんなところで何を立ち止まってるの。こっちに混ざりなさいよ」
「ぁ…うん」
「今雄弥くんから聞いたんだけど、海外ライブが順調に行けば最終日の分が日本でもテレビで放送されるらしいのよ。しかも生で!」
「え!?そうなの!?」
「まぁな。俺も今日知ったことだし、イギリスでの反響がどれぐらいかにかかってる。…あそこがバンドの本場だしな」
「そ、そうなんだ」
「ほんと凄いわよね〜。結成5年でそこまでできるようになるだなんて」
「テレビの方はともかく、今回の海外ライブはツテを頼ってばかりですよ」
「それでもよ。ツテを頼れば海外でもライブができるのは、それだけの技術があるということでしょ」
「…どうでしょうね。まだ父さんのバンドを超えてないですし」
「ふふっ、殊勝ね」
…雄弥の目標はお義父さんのバンドを超えることなんだね。あの時は全然意識してなかったように見えてたけど、もしかしたら友希那と同じぐらい思うとこはあったのかな。
「雄弥の目標はそうだとして、Augenblickの目標ってあるの?私たちRoseliaは頂点に立つことだけど」
「毎回ライブごとの目標に向かってやってただけだからな。そういう意味では目標はなかった」
「なかったということは、今はあるのね」
「もちろん。Roseliaみたいに一つに纏まってるとは言えませんが、…俺たちの目標は結花の目標を叶えることです」
「結花ちゃんの?」
「ええ。なんせ俺たちは
「そう。結花ちゃんは本当にいいとこに加入したわね。リサもそう…思わなさそうね」
「いやいや思うよ!」
「けど羨ましいって思ってたでしょ?」
「うっ…、だって…」
メンバーで決めたことだろうけど、それでもそこには雄弥の意志もある。つまり、雄弥もそれだけ結花のことを大切に思ってるってことだし、雄弥と違うバンドのアタシには向けられない優しさだから。…嫉妬しちゃっても仕方ないじゃん。
「結花のことを大切に思ってるのは事実だが、それはバンドとして、家族として思ってることだからな。リサへの気持ちとは違うから嫉妬なんてしなくていい」
「……うん」
「ふふっ、ここまでハッキリ言ってくれるなんてリサは幸せ者ね♪」
「これからもっと幸せにしてみせます」
「あら頼もしいわ〜♪これは孫の顔を見れる日も近いのかしら♪」
「ま、まご!?」
「あなた達の子供は私にとって孫でしょ」
「そ、そうだね…」
「「??」」
この前の女子会で日菜があんなこと言うから変な反応しちゃったよ。……ゆ、雄弥との子供。男の子と女の子両方産まれてほしい、かな。……って何考えてんのアタシ!?
「リサ顔赤いが大丈夫か?」
「ひゃっ!?…ら、らいりょふ」
「……リサもしかして雄弥くんとの子供をもう作ったの?」
「なっ!?つ、作ってない!」
「そうなの?リサの反応がおかしいから勘違いしちゃったわ」
「あの、俺を信用してもらっていいですか?」
「信用してるわよ?信用してるからこそ、こうやって言えるんじゃない」
「…なるほど。頭が下がります」
(雄弥、それなんかちょっとおかしいよ)
母さんの矛先が雄弥に変わったところで、アタシもなんとかひと息つくことができた。変に考えちゃったことを忘れてっと…。
「そろそろ出よっか」
「もうこんな時間なのね。これ以上は付き合わせれないわ。楽しんでらっしゃい」
「うん!行ってきます♪」
「お茶ごちそうさまです。行ってきます」
「いーえ〜。朝帰りでもいいのよ?」
「もうっ!ちゃんと帰ってくるから!」
「リサ朝帰りってなんでだ?」
「雄弥は分からなくていいの!」
〜〜〜〜〜
家を出た時から雄弥と腕を組んで歩く。最初はちょっと歩きづらかったこれも、今じゃ全く気にならないぐらい慣れちゃった。お祭りの場所に近づいていくと、親子だったり友達同士だったりと、お祭りに向かう人も増えてきた。
さすがにちょっと恥ずかしくって腕を組むのをやめようかと思ったけど、雄弥がやめさせてくれなかった。驚いたけど、嬉しかったからもちろん続行♪
「どう周る?」
「うーん。人も多いしね〜。見ながら周って興味出た屋台にその都度行くって感じかな」
「了解。リサ手を離すなよ」
「もっちろん♪このまま腕も離さないよ♪」
「なら安心だな」
この人の多さだと、一度離れ離れになったら合流するのも難しいよね。それ以上に今日はもうずっと雄弥の側にいたいんだけどね。
雄弥が先を進んでくれて、そのすぐ後ろを着いていく。雄弥の背中を見ながら横目に屋台も見る。その中で寄りたいのを見つけたから雄弥の腕を軽く引っ張った。
「どこに行く?」
「金魚すくい」
「…金魚飼うのか?」
「金魚がとれたら頼んでみるのもありかな〜」
「なら俺がとってもリサの家で飼ってもらうか」
「屋台の人に返してもいいんだけどね」
「どうするかは後で決めるか。…バカが屋台の人困らせてるようだな」
「へ?」
屋台に近づこうとしても、人だかりができてて中々近づけそうになかった。けど雄弥はこういうのもスッて通れるから、この人だかりの原因に近づくことができた。
「あ、疾斗。花音とイヴと…えっと」
「あ~、そういえば私が直接会うのって初めてでしたね。どうも、ハロハピのミッシェルこと奥沢美咲です」
「ご、ごめんね。Roseliaのベース、今井リサだよ。こっちが湊雄弥」
「ん?俺は面識あるぞ」
「へ?そうなの?いつの間に…」
「色々とな…」
「疾斗さんとこころが迷惑をかけてすみません」
「気にするな。わりと楽しんでる」
そういう繋がりね。じゃあ美咲と雄弥は疾斗とこころに振り回される側で、苦労組ってわけだ。花音とイヴとも話をして、この三人が疾斗と付き合ってると判明。……こういうとこでデートする時に全員集めるんだね。その疾斗はというと…、
「なぁ兄ちゃん。もう勘弁してくれねぇか?」
「何言ってんだおっちゃん。まだポイが半分は残ってるだろ」
「金魚がもう全然いねぇだろ!!」
「ちゃんと全部返すって言ってんじゃん!最後までやらせてくれよ!」
「ここまでやられたら兄ちゃんにだけ、イカサマしてるって思われちまうだろ!」
「疾斗ほどほどにやめてやれ」
「止めるな雄弥!俺は最後までやりたいんだ!」
「さっき金魚すくいしようとしてた子供が、人が多くて近づけないから諦めるって言ってたぞ。ちなみに人が多い原因はお前がこれだけ金魚を取るからだが」
「疾斗くん?子供に迷惑かけちゃってるみたいだよ?」
「それはよくないと思います!武士らしく引きましょう!」
「おっちゃん金魚すくいはもうやめる!金魚も返す!」
「お、おう」
疾斗が大量にとった金魚を次々と屋台の水槽に戻していく。さっきまで数えれるしかいなかった金魚たちが、数えれないぐらいに増えた。
金魚を戻し終えたらそのまま疾斗たちは屋台から去っていった。たぶん花音に軽く叱られるんだろうね。お祭りだから花音も止めなかったんだろうけど、子供に迷惑かけたら、ね。
「それで兄ちゃんたちカップルはどうすんだい?」
「やるぞ?こういうのは慣れてないからあのバカ程はできないし安心してくれ」
「あれは災害だなー」
「そう認定していいだろうな」
「あ、あはは…」
「それじゃあ桶とポイ1個ずつだな。1〜4匹取れたら1匹持って帰ってくれていい。5匹からはどれだけ取っても2匹だけだ。…上限つけねぇとさっきの兄ちゃんみたいなのが来た時に困るからな」
「妥当だな。それとアレはそうそういないから」
「俺もそう思いたいよ」
1匹でも取れたらいいんだよね。アタシと雄弥が1匹ずつ取れたらそれで2匹飼えることになる。よーし、頑張ろっと!
「…どの子にしようかな〜っと」
「リサってこういうの得意なのか?」
「全然できないよ!」
「できないのかよ…」
「けどせっかくだし、金魚を家で飼ってみたいな〜って」
「なるほどな」
「うん。……よし、この子にしよっと!………あ、…ぐすん」
全然だめだった。速攻でポイが破けちゃって金魚取れなかった。さっきまで疾斗のを見てたせいで感覚が狂ってたよ。そうだよね、普通はこうなるよね。
「泣くなよ」
「泣いてないもん」
「俺がさっきのを取ったらいいんだろ?」
「…アタシが取って、雄弥も取ったら2匹になったのに」
「2匹飼いたかったのか?」
「…うん。アタシの金魚と雄弥の金魚を家で飼いたかった」
「そういうことか。ちょっと待ってろ」
「え?」
雄弥の顔を見たら、雄弥は凄い集中した顔になってた。ポイを水槽に入れたと思ったらすぐに引き上げてる。けど、手に持ってる桶には金魚が
「リサが狙ってたのってこの子だよな?」
「あ、そう、その子」
「よし。…これで5匹だな。おっちゃんもうやめるから2匹もらうぞ」
「…兄ちゃんもバケモンだったか〜」
「程々にしかしないからな。今回はリサのために張り切っただけだ」
「くぅー!カッコイイこと言うねー!おら、持ってけ。嬢ちゃんの言ってた子とその子と見分けがつきやすい子だ。これなら家で飼っててもどっちがどっちか分かるだろ」
「やった!おじさんありがとう♪」
「おう!最後まで祭りを楽しんでいけよ!」
雄弥が取ってくれた金魚たちが入ってる袋を大事に持ちながら別の屋台に向かう。最初に金魚すくいをしたのは失敗だったかもね。まだまだ屋台を見て回るし、人が多いからけっこう気を使う。
そんなあたしの心境に気づいてくれたのかな。雄弥はあたしを先導しながら少しずつ人が少ない方に向かっていった。
「これぐらいなら金魚の心配しなくて良さそうだな」
「やっぱり気づいてたんだね」
「まぁな。リサのことなら、リサのことだけならすぐに気づける」
「ありがとう♪」
「リサあそこ寄るぞ」
「りんご飴か〜。いいね、いこいこ!」
りんご飴を一つだけ買って、お互いに半分こする。まぁ、二つに分けれるわけじゃないから、交互に齧ったりするだけなんだけどね。
「あ、そうだ」
「うん?どうしたの?」
「いや、言うタイミングを逃したから忘れてたんだがな。…リサ綺麗だよ」
「ふぇ!?」
「その紅色の和服に身を包んでて、髪を結ってるのが凄い似合ってる。本当に綺麗だ」
「あ、ありがとう。ゆ、雄弥も凄い似合ってるよ!本当に…かっこよくて、実は家に来てくれたときに、その…見惚れちゃってた」
「…そうか」
「…うん」
思えばお互いに相手のことを褒め合うのってやってなかったね。いつもアタシが言われて、それで頭がいっぱいいっぱいになってたから。雄弥の頬が少し赤くなってるけど、きっとアタシはそれ以上に赤いんだろうね。相手を褒めるのってこんなに恥ずかしいんだ…。
沈黙しちゃってるけど、この沈黙は全然しんどくない。心臓がバクバク鳴ってるのも苦に思わない。アタシは雄弥の肩に頭を預けて(身長差で言うと、肩に乗せれるわけじゃないけど)、雄弥とゆっくり歩きながら並んでる屋台の間を歩いていった。
「雄弥、焼きそばのソース付いてるよ」
「む、どのへんだ?」
「取ってあげるから動かないで。……よしっと」
「ありがとうリサ」
「どういたしまて♪」
「お礼にリサのも取ってやるよ」
「へ?」
「…これでよしっと」
「は、はずかしいー」
「お互い様だろ」
「それもそうだね。あはは」
焼きそばにフランクフルト、タコせんべいにわた菓子。花火が始まる前にはかき氷も買うつもり。もちろん飲み物にラムネも買ってあるけど、暑さに気を付けてお茶も買ってある。
「結花以外のAugenblickメンバーには会ったね〜」
「そうだな。愁のやつが射的で屋台の人困らせて、大輝がストラックアウトやってたな」
「みんな凄かったよね〜。ブラックリストに載ったりして」
「順調に載ってるぞ」
「え?順調にってどういうこと?」
「あいつらは行った店のブラックリストに毎年載るんだよ。だから年々あいつらが遊べる屋台が減ってる。まぁ屋台の人からしたら災害が来なくなるからありがたいんだろうがな」
「けど、それじゃあそのうち全部駄目になるんじゃ」
「そうでもない。ノリがいい人だとあいつら専用の遊び方を用意する。まぁ屋台の人からの挑戦状みたいなもんだな。たしか名物になりつつあるらしい」
「名物て」
「花火の前にステージでイベントがあるだろ?」
「…まさか」
「挑戦状を叩きつけた人とバカたちの勝負もイベント内容に入ってる」
「…はぁ」
Augenblickってどこに行っても何かしら変なことやってるよね。冗談のつもりで言ったブラックリスト入りが本当だったとはね〜。それを利用してステージイベントやるここの主催者も大概だけど。
「……雄弥はそんなの載ってないよね?」
「当たり前だろ」
「ほっ、よかった〜」
「それよりこの後どうする?ステージイベントはもう始まってるが、見に行くか?」
「…やめとく。かき氷のとこ並んでその後花火が見えやすいとこに移動してたらちょうどいい時間になりそうだし」
「わかった。なら移動するか」
「そうだね」
雄弥がゴミを一つに纏めてゴミ箱に捨てた後、アタシに手を差し出してくれる。アタシはその手を指を絡めるように繋いで、さらに腕も絡める。移動してる間もかき氷を買うために並んでる間もそれは変わらなかった。周りの人たちもお祭りで浮かれてるから、視線を感じることもなかった。
〜〜〜〜〜
「あれ?あっちの方が見えるって聞いたんだけど」
「たしかに見えるがその分人も多い。人が密集するとなると自然と他の人との距離も近くなる。…知らない男共が集まるのリサは嫌だろ?」
「あ…。そうだね」
「こっちはまだ誰もネットに載せてないスポットだから人も全然いないし、花火も見やすい」
「へー、そんなとこがあるんだ〜」
「まぁな」
たしかに進めば進むほど人も少なくなっていくし、坂を登ってるから見やすいとこがあるんだろうね。街灯も減ってる気がするんだけど…。
「ね、ねぇ雄弥」
「どうした?」
「どんどん暗くなってるんだけど…」
「そりゃあ全然人がいないようなとこに行くからな」
「…真っ暗?」
「大丈夫そこまでじゃないから。今よりは暗くなるぐらいだ」
「それ真っ暗なのと変わらないじゃん!あっちで我慢するから戻ろうよー」
「そう言われてもな。もうすぐで着くし、今から戻ったらろくに花火見れないだろ」
「うぅー…けど、怖いもん」
「俺がいるから大丈夫だ。あと、着いたぞ」
雄弥に言われて前を見たら、ちょっとした広場みたいなとこに出た。ベンチもあったりするから人の手で切り開かれた場所なんだね。ベンチの位置はちょうど花火が上がる方角が見れるようになってて、そこに雄弥と座った。
「…たしかに人はいないし、花火もよく見れそうだけど、やっぱり怖いよ」
「だよな」
「だよなって…雄弥のバカ!分かっててやるなんて酷いよ!」
「ごめんな。ジャンケンに負けたんだよ」
「へ?」
アタシは雄弥の体をポカポカ叩く手を止めた。…ジャンケンってことはまぁAugenblick内でやったんだろうけど、ということは。
「他にも隠れスポットあるの?」
「まぁな。…どこも少し暗い場所にはなるんだが、ここが1番暗いとこだな。けどどこもいい感じで花火が見れる」
「そうなんだ…」
「まさか負けるとは思ってなかったんだがな。…結花にハメられた」
「結花も参加したんだね」
「ああ」
ジャンケンで相手をハメるってどうやったらできるんだろ?最初に出すやつを知ってたらできるけど、雄弥って毎回バラバラだし…。結花って案外策士なのかな?
「どうハメられたの?」
「わからん」
「へ?なんで?」
「作戦通りになったって結花は言ってたんだが、どういう作戦なのかは分からなかった」
「それって作戦って言ってるだけで実は何もしてないんじゃ…」
「いや、それなら俺が大輝と愁にジャンケンで負けるわけがない。全部勝ってたからな」
「うーん、わかんないね〜」
「だろ?」
本当に謎だ。結花はどういう作戦をたてたんだろ。聞いたら教えてくれるかな?……あ、友希那の入れ知恵の可能性もあるね。友希那は雄弥にジャンケン負けないから。そう思ったらそうとしか思えなくなってきた。…でも友希那がなんで雄弥に負けないのかはアタシもわからないし。
「…リサはさ、子供ほしいか?」
「ふぇ!?い、いきなりどうしたの!?ま、まさか今日?いや、でもあたしの心の準備が」
「いやな、リサの家で孫の話が少し出ただろ?それでリサはどう思ってるかなって」
「…あ、ああ。そういうことね」
「どういうことだと思った?」
「そこは掘り下げなくていいの!」
「そうか」
「まったくもうー。…子供はほしいって思うよ。ほらアタシって子供好きだし、世話するのも好きだからさ。将来のこと考えたら、子供のことも考えてるよ」
考えてる。どんな家に住みたいとか、子供の名前どうしよーとか、どういう子に育ってほしいとか、雄弥が仕事から帰ってきた時は子供と一緒に玄関に迎えに行くのかなーとか、ママ友ができたりするんだよねとか、あげきれないぐらい考えてる。きっと幸せな未来で、暖かい家庭にできる。そう強く思ってる。
「子供が大きくなって、アタシ達みたいにその子に恋人ができて、そして結婚して子供ができたら、アタシ達の孫なわけだし。どれだけ歳をとっても子供は子供だから気にかけるだろうし、孫は可愛がるんだろうなって思ってる。雄弥と一緒にその子にもいっぱいの愛情を注ぎたいって」
「っ!!!……そうだな。俺たちの子供だけじゃなくて、孫も愛してやらないとな」
「うん!家族なんだからね!」
(ごめんなリサ。きっとその願いを俺は途中で壊させてしまう。中途半端な形でしてか叶えてやれない)
「雄弥?どうかした?」
「なんでもない」
「そう?」
「ああ。子供の世話って大変だろうなって思ってただけだ」
「きっと大変だよ〜。雄弥も手伝ってね?」
「当たり前だろ。リサだけに負担をかけるわけがない」
「ありがとう♪」
…これって、雄弥と結婚できるってわけだよね。もちろん雄弥と結婚したいって思ってたけど、雄弥もそう思ってくれてたってことだよね!?…うわ、超嬉しいーー!やばいよ、顔がニヤけちゃうよー!
「リサ」
「ふぁい?」
「……。そろそろ花火が上がるぞ」
「今の間は辛いよ…。1発目からちゃんと見ないとね!」
「そうだな」
雄弥の体にアタシの体を預ける。雄弥はしっかり受け止めてくれるだけじゃなくて、アタシの肩に手を回して引き寄せてくれた。何回やっても慣れないから心臓がすっごい音を立ててる。…けどこれはこれで慣れなくていいやって思える。雄弥を意識してるって証だから。
そうして待っていると、5分も経たずに花火が打ち上げられた。1発目って大きいよね〜。花火が始まる合図でもあるからかな?
「…きれー」
「そうだな」
「どれぐらい上がるんだっけ?」
「8000発だな。都市部の1万発超えに比べたら少なめに思えるが、全国的に見たら大規模な数だ」
「そうなんだ。…調べたの?」
「いや疾斗が語ってた」
「好きそうだもんね〜」
この花火も日本の伝統芸。職人技で誕生する一つ一つの花火は簡単にはできない。何年も修行を積んでやっとできるようになることらしいし、そこに色んな形や色も入れるとなると腕の見せ所らしい。
アタシも雄弥もずっと花火を見てた。アタシは時折、思い出すように、存在を確かめるように雄弥の手を握り直したり、体を少し動かして雄弥の体に当てたりしてた。
「…終わりかな?」
「いや、時間からして一旦止めただけだろう。今の間に水分補給するか」
「そうだね!」
買っておいたお茶でしっかり水分を取る。脱水症状になって雄弥に迷惑をかけたくないからね。
「リサなら俺が抱きかかえて帰れるが、俺が倒れたらどうしようもないな」
「その時は大輝を呼ぶね♪」
「その時は来ないけどな」
「あはは。それが1番だよね♪」
「再開したな」
「ホントだ〜」
さっきと同じぐらい大きくて派手な花火が次々と上げられていく。たしか花火って上げ方にも工夫がされてるんだよね。アタシ達の見えないところで一生懸命工夫してくれてる職人さんに感謝しないとね。
花火が今日1番の派手さでドンドン上げられていく。きっとフィナーレが始まったんだね。形、色、大きさ、上げる高さ、上げる角度、色んな工夫が全部盛り込まれていく花火が、真っ暗な空に輝きを彩りを与えていく。けれど、それももう終わってしまった。
花火の余韻に浸りながら横にいる雄弥に顔を向ける。何を考えているのかわからないけど、雄弥はまだ夜空を見上げていた。アタシはそんな雄弥に何故か不安感を覚えて横から押し倒した。
「リサ?」
「……」
「リサどうした?具合悪いのか?」
「ううん」
「じゃあどうした?」
「雄弥、
「…は?」
「ゆ、結花から聞いたの。雄弥も、その、思春期に入ったかもって友希那が言ってたって」
「それとこれがどう繋がる?」
「だって、こうしたら、その…」
アタシの頭はすっごいゴチャゴチャになってた。雄弥への謎の不安感を抱いて、どうしたらいいかわからなくて、それでさっき子供の話をしたから。だからこうすればいいと思った。
アタシ自身こういうのってどうしたらいいのかわからない。けど、今のアタシはきっと普段のアタシが見たら頭を引っぱたくような思考になってる。だからゆっくり雄弥の手を取ってアタシの胸に導く。
「おいリサ」
「こ、こうしたら!雄弥と繋がったら、雄弥がいなくならないでしょ!?」
「…どういうことだ?」
「だって、雄弥もこういうのその興味あるでしょ?けどアタシがこういうのしたがらないから…」
「…馬鹿か」
「ゆ、雄弥?」
「思春期かどうかは俺も分からないが、仮に思春期だとしてもそれと性欲を一緒くたにするなよ」
アタシの手を振りほどいて胸から手をどけた雄弥はそのまま起き上がった。雄弥を押し倒してたアタシも起きることになって、今雄弥と向かい合うように雄弥の上に座ってる。アタシはこんな行動しちゃったから雄弥に嫌われたと思って、静かに涙を流しながら顔を伏せてた。
いっそ逃げようかと思ったけど、雄弥の腕がアタシの後ろに回されてるし、アタシが跨るように座ってるからそれは無理だった。雄弥は反対の手をアタシの頬に添えて軽く上げた。
「何泣いてんだよ」
「だ、だって、こんなの…おかしくて…アタシ変になったから…雄弥も嫌いになったでしょ?」
「なるわけないだろ。理由があるんだろ?落ち着いて1個ずつ話してくれ」
「……」
「…はぁ、じゃあまずは女子会のことだ」
「…!」
「結花から『やり過ぎたかも』って言われてたからな。内容までは聞いてないからよくわからなかったが、関係してるんだろ?」
「…それは」
「…日菜が何を言った?」
「な、なんで!?……あ」
「やっぱりか。ならだいたい分かった。安心しろ、俺が日菜を抱くことはないから。あの子に魅力が無いってわけじゃないが、俺はリサ一筋って決めてあるから」
「ゆうや」
雄弥の真剣な目を見たら、その言葉を疑う余地が一切ないってことが分かった。だからアタシは、一つ胸の中の不安が消えた。だけど不安が全部無くなったわけじゃない。アタシにもよくわからない不安が広がってる。
「それで、俺がいなくなるかもって、どういうことだ?たしかに海外ライブには行くが、必ず帰ってくるぞ?」
「…アタシにもよくわかんないよ。けど、雄弥がどこかに行っちゃいそうに見えた。アタシにはどうしょうもない、どこか遠くに行っちゃいそうで…」
「それで俺を繋ぎ止めようと思って、さっきの発言と行動なのか」
「…うん」
「安心しろ。絶対に俺はリサの側にいるから。どこかに行っても必ず帰ってくるから」
「絶対?」
「ああ」
これも信じられる。雄弥は絶対にアタシの側にいてくれるんだって、強く思える。…だから、もっと未来のことも約束しなきゃ。雄弥とずっといるためにも。
「アタシ達が大人になっても、お爺ちゃんお婆ちゃんになっても、どれだけ歳をとっても側にいてくれる?」
アタシの心からのお願いを言葉にした。不確かな未来でも、確実に待っている未来を今作るために。
「
雄弥がはっきりとそう口にして、アタシは嬉しくて自分から雄弥の唇を奪った。合宿の時のようなものじゃないけど、それでも長い時間口を重ねた。そうやって幸せを感じていた。
──けど、さっきのは雄弥が初めてついた嘘だった。絶対に嘘をつかない雄弥が、人生で初めて、そしてきっとこの先もつかないであろうたった一回の優しくて、残酷な嘘をついた。
「よかった♪約束だよ♪」
そしてアタシは──
──この嘘を見抜くことができなかった。