陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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14話

 

 雄弥たちが海外に行っても、アタシ達はいつも通りに過ごしていた。いや、そうしないといけないんだ。だって、Roseliaは歩み続けないといけないんだから。

 それに、アタシもそうしていないと寂しさでおかしくなりそうだったから。毎日雄弥と電話してるし、結花から毎日写真が送られてくるけど、やっぱり寂しさが残っちゃう。

 

 けどそれももうすぐなくなる。今日が雄弥たちのライブ最終日、ローマ公演の日で、日本でもそのライブの様子がテレビで見れることが決まってるから。

 

 

「リサ、気持ちは分からなくもないけど今は集中して」

 

「あ、ごめん」

 

「…私だって今日のことは楽しみにしているわ。だからこそ今日の練習は最高のものにするのよ」

 

「友希那…、そうだね!」

 

「あこもババーンって演奏します!」

 

 

 そうだ。アタシだけじゃない。みんなも今日のことは楽しみにしてるんだ。気持ちを切り替えなきゃ!

 

 

「それじゃ、1曲を頭から全部やるわよ」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 練習が終わったらよく行くファミレスで反省会をしていた。改善点を話し合いながら、飲み物や軽食を口にする。反省会が一段落ついたらタイミングよくアタシと紗夜の携帯に連絡が来た。

 

 

「あ、結花からだ」

 

「どうやらリハーサルが終わったようですね」

 

「…みたいね。私にも今来たわ」

 

「リサ姉どんなのか見せてー!」

 

「いいよ♪ほら燐子も」

 

「失礼…します」

 

 

 雄弥とは毎日電話しているけど、結花からは毎日メッセージと一緒に写真が送られてくる。今はリハーサルが終わったという連絡と5人で楽屋で撮ったであろう写真が送られてきてた。

 

 

「みんな楽しそうですね!」

 

「うん。…すごい…笑顔だもんね」

 

「実際楽しめてるようよ。結花から電話が来るたびに色んな話を聞いてるもの」

 

「え、友希那、結花と電話してるの?」

 

「意外ですね。湊さんは電話されない方かと思ってました」

 

「私だって電話がきたら出るわよ。自分からは電話しないだけ」

 

「たしかに友希那ってそうだよね〜。ねぇ、結花とどんな話してるの?」

 

「どんなって…」

 

「あこも気になります!」

 

 

 だよね〜、気になるよね〜。結花が友希那と接すると甘えるようになるってのは聞いてるけど、実際にどんな話してるのかは知らないからね〜。アタシも反撃できる材料がほしいし。

 

 

「はぁ…。基本的に訪れた場所の感想を聞いてるだけよ?」

 

「Augenblickなら色々と面白いことするでしょ?」

 

「…そうね」

 

「それを聞きたいです!」

 

「仕方ないわね」

 

 

 友希那って丸くなったよね。頼まれたらほとんど断らないようになった。音楽だけだった友希那が、他にも目を向けてる。中学時代に雄弥が出ていって、戻ってきた時から少し意識が変わっていたのは気づいてたけど、それでも音楽を追求してた。それを変えたのって結花だし、結花のことだから友希那も話してくれるんだよね。

 

 

「ドイツでは愁の家にお世話になったそうよ。たしかメルセデス・ベンツ、だったかしら?首脳級が乗る車に乗ったってはしゃいでたわ」

 

「…どういう家なんですか」

 

「そこは聞いてないからわからないわ。ただ、雄弥が言うには国に口出しするだけの力があるとか」

 

「…想像が…つかないぐらい…大きいですね」

 

「こころの家ぐらいって思っとこ。そうしよ」

 

「そうだね」

 

 

 こころの家もだいぶ発言力があるらしいし、とりあえずそれぐらいって思っとこ。というかそれ以上は燐子が言うように想像できないし。

 

 

「ドイツの次はフランスだったわね。パリでライブをして、たしかバンジージャンプをしたって言ってたわね」

 

「それってみんなやったんですか?」

 

「そう聞いてるわ。結花はさすがに怖かったらしいから、雄弥と一緒にしたようね」

 

「…へー?」

 

「…それぐらい許してあげなさいよ」

 

「別に怒ってないもん…」

 

「たしか川下りもしてましたよね。その時の写真も送られてきたのですが」

 

「ええ。途中までセーヌ川を下っていったらしいわね。みんなでヴァイキングの真似をしたって聞いたわ。よくわからなかったけど」

 

「りんりん、ヴァイキングって何?」

 

「昔の海賊だよ…あこちゃん。北欧の人達が…大船団を率いて…ヨーロッパ中を周ったの。…それがヴァイキングって…呼ばれてて、…一部のヴァイキングが…フランスの…セーヌ川から侵入して…パリを包囲したの」

 

「へー!りんりん詳しいね!」

 

「…ちょっと…興味持った…時が…あったから」

 

 

 燐子ってけっこう博識だよね。アタシなんて、ヴァイキングっていうのがいたとしか知らないもん。

 

 

「フランスの次がイギリスだったよね。…ここで評価されたから今日日本のテレビで放送されるようになったって聞いたよ」

 

「そうね。…さすがにあの子も緊張してたようね。イギリスでの話はほとんどなかったわ。失敗したらどうしようって、そういう相談を受けたわ」

 

「藤森さんもそういう事を言うのですね」

 

「前からたまに雄弥が相談を受けてたらしいけど、家に来てからは私にすぐに言うようになったわね」

 

「…そうですか(これが姉妹の形、なんでしょうね)」

 

「イギリスでも…無事に…ライブが…成功したん…ですよね」

 

「テレビ放送が決まってるもんね!」

 

「ええ。電話越しだったけど、あの子が大喜びしてるのがよく伝わってきたわ。それでいつもの調子に戻ったようで、イギリスのご飯が美味しくないなんて愚痴られたわ」

 

「あ、あははー。日本食に慣れてたらたいていの国のは口に合わないらしいし、仕方ないんだけどね」

 

 

 まぁでも、たしかにイギリスの美味しい料理が何か聞かれてもアタシも答えれないんだけどね。…本当に何が有名なんだろ?雄弥が帰ってきたら聞いてみよっかな。

 

 

「イギリスの次がスペインね。スペインでは夜行列車に乗ってバルセロナまで行ったらしいわ。だからあまりスペインの話は聞いてないわね。…プロのサッカー選手からサインを貰ったのと、サグラダファミリアに行ったっていうのは聞いたわね」

 

「十分な土産話になってるよね」

 

「そうですね。…よく貰えましたよね」

 

「ライブに来てくれた人に頼んだそうですよ。お互いに交換という形で」

 

「あー、なるほど!」

 

「バルセロナの後はローマまで地中海をフェリーで行ったそうよ。『フェリーなんて初めて!』って電話しながら探検して、中に何があるか教えてくれたわ」

 

「どんなフェリーだったんですか?」

 

「…豪華客船ね」

 

「…え?」

 

「だってデパートみたいな施設とか、プールとか、映画館とか入ってるのよ?豪華客船としか言えないわ」

 

「…そうですね」

 

 

 どっからそんなお金……あー、みんな稼ぎ方がおかしいからか。しかも大金持ちの家の子が3人いたらね。

 

 

「ローマでも観光してたらしいわよ。教会がでかかったって言ってたわね。まぁヨーロッパの教会はどれもでかいのだけれど」

 

「そうですね。ドイツにいたのならケルンの大聖堂を見ていてもよかったのでしょうけど」

 

「あーたしかに。あれって超デカイらしいよね〜」

 

「そうなの?りんりん」

 

「うん…。ヨーロッパ最大級って…言われてるよ」

 

「ほぇー」

 

「それでさ、みんなもしよかったら、なんだけど」

 

「どうしたのリサ姉?」

 

「みんな家に来てライブを一緒に見ない?」

 

「いいねー!あこは行くよ!りんりんも行こ?」

 

「うん…いいよ」

 

「友希那と紗夜は?」

 

「…構わないわ」

 

「私も行きます」

 

「やった!じゃお泊りだね♪」

 

(結花が雄弥と同じ部屋で寝たことや眠っている雄弥のベッドに潜り込んで一緒に寝たことは黙ってた方がいいわね)

 

 

 紗夜と友希那がなんか言いたそうにしてるけど、もう遅いよ。あこも燐子も同意してくれてるんだしね♪

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 みんなが家に来てくれて、家がすっごい賑やかになった。元から賑やかな家なんだけど、こうやってお客さんがきたらもっと賑やかになる。

 ご飯を食べてお風呂も済ませてみんなでリビングにいると、雄弥から電話がかかってきた。アタシは驚いて慌てながら席を外して電話に出た。

 

 

「も、もしもし雄弥?どうしたの?」

 

(雄弥から電話かけてくれた!)

 

『最後のライブ前にリサと電話しようと思ってな。今大丈夫か?』

 

「うん大丈夫だよ。今日はRoseliaのみんが家に来てくれて、みんなでライブを見るよ!」

 

『そうなのか。失敗できないな』

 

「あはは、雄弥たちなら大丈夫でしょ」

 

『期待に応えてみる』

 

「うん」

 

 

 ライブ前だっていうのに電話してくれた。そのことが嬉しくて、目を閉じて雄弥の声に集中しながら電話してた。そのまましばらく話をして、ライブが始まる直前になって電話をやめた。

 

 

「雄弥、大好きだよ。頑張ってね♪」

 

『ああ。俺もリサのことが大好きだ。応援しててくれ』

 

「もちろん!」

 

 

 電話を終えてリビングに戻ると、みんなから温かい目で見られた。バレバレだったみたい。アタシは笑ってごまかしながら友希那の隣に座った。

 

 

「リサ姉始まるよ!」

 

「うん」

 

「結花がどれだけ歌えるようになったか楽しみね」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「…緊張…しますね」

 

 

 今回のライブは順番に登場するんじゃなくて、みんな一斉に出てきた。というか、最初シルエットで映ってて、イントロが終わると同時に幕が一気に取り払われた。

 驚いたのは最初の1曲目が"Louder"だったことだね。まぁ結花はお義父さんの歌が好きみたいだし、友希那がカバーしたから歌いたかったんだろうね。友希那も目を大きく開けて驚いてたけど、すぐに柔らかい笑みに変わった。

 

 Augenblickのライブは相変わらず凄いね。お客さんの心をしっかり掴んでライブを盛り上げてる。MCでも雄弥と疾斗と愁がイタリア語で喋ってたし、英語でも喋ってた。日本語の翻訳したり、逆パターンもあったり、そのおかげできっとライブ会場の人もテレビで見てる日本のファンも話の内容がよくわかるね。

 

 そうやってドンドン進んで行ったライブは、いつの間にか最後の1曲になった。雄弥たちは持ってる曲が多いからどの曲になるか予想しづらいけど、今回はわかった。だって、合宿で練習してたあの曲がまだだったから。

 

 

『次で最後の曲になるな』

 

『日本で一度だけ歌って、このツアーでもまだ一度も歌ってない曲だ』

 

『完成版のこの曲を披露することになるのは今回で初めてになるね』

 

『ローマと日本に同時にできるっていいよな!』

 

『そうだな。結花、一緒にタイトルコールするぞ』

 

『うん!雄弥が作った曲だもんね☆』

 

『『"Verbindung-絆-"』』

 

 

 やっぱりね。やっぱりこの曲を歌ってくれるんだね。

 

 この曲の時だけ雄弥のベースの音色が若干変わる。ほとんど変わらないけど、支えるベースという雄弥のやり方に暖かさが追加される。この時の雄弥は、見ていて本当に楽しそうだ。

 

 

 けど、ラスサビに入ってから明らかな異常が発生した。

 

 

 

 

──雄弥のベースの弦が切れた(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「え?」

 

 

 いったい誰の声が漏れたのかわからない。アタシかもしれないし、他の誰かかもしれない。けどそれを確かめられない。その余裕なんてないから。

 

 画面の中でAugenblickはそのまま演奏を続けてた。雄弥もベースの弦が1本切れたけど、残りの弦で演奏してた。その姿に雄弥の信念が表れてた。

 

 

 

 だけど

 

 

 

 そんな雄弥を嘲笑うかのように異常は続いた。

 

 

 

 次々と弦が切れていった。

 

 

 

 アタシには、そうやって弦が切れるときの様子が、まるで雄弥の心が壊れていくように見えた。弦が切れるときの音が、心の悲鳴に聞こえた。

 

 

 演奏が終わった時には弦が一つも無かった。そして、雄弥の目から光が無くなってたし、アタシと色違いの雄弥のベースもいつもより輝きがないように見えた。

 

 みんなは誰かの陰謀だろうと怒ってた。雄弥が楽器の状態を把握してないわけがないからだ。

 

 

 アタシは心がおかしくなるんじゃないかってぐらい締め付けられて、泣きじゃくった。雄弥の側に駆けつけたいのに、側に行きたいのにそれができないから。

 

 

 アタシは、雄弥に何をしてあげられるんだろう……。

 

 




最近ドタバタしてる間にいつの間にか評価してくださった方が増えてました。
どなたか把握できてませんが、ありがとうございます!!
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