「…リサちー大丈夫?」
「へ?なにが?」
「何って、その…うまく言えないけど、今のリサちーしんどそうだよ?」
「そうかな?いつも通り元気なんだけどな〜。日菜の気のせいじゃない?」
「…そうかな」
「そうだよ♪」
そう言ってリサちーは
けど、リサちーはそれを人に悟られないように笑顔を取り繕ってる。実際にほとんどの人はリサちーの危うさに気づいてない。リサちーと仲が深い人しか気づけてない。
だから今日も平然と授業を受けてるし、先生の頼みごとも率先して引き受けてる。あたしはそんなリサちーを見てられないから協力するけど、どうしたらいいのか分からないでいた。
「日菜、ちょっといいかしら?」
「あ、友希那ちゃん」
「…少し場所を変えましょうか」
「そうだね。カオルくん、リサちーのことお願い」
「任せたまえ。私も今の彼女の状態は放っておけないからね」
「ありがとう」
あたしは友希那ちゃんにクラスでのリサちーの様子を伝えるようにしてる。リサちーのことを一番理解してるのが友希那ちゃんだから。話をする場所はいつもバラバラで今日は教室からは見えにくい木の下で、ベンチに並んで座った。リサちーに気づかれるわけにはいかないから。
「リサちー、今日も
「……そう」
「…ねぇ、何があったの?ユウくんが帰ってきたときにリサちーはユウくんのとこに行ったんだよね?」
「ええ。…でも雄弥が帰ってきた日以降、リサと雄弥は会ってないのよ」
「なっ!なんで!?」
「雄弥が拒むからよ。…あの子の精神状態が良くないのよ。帰ってきて数日はろくに食事を取らなかったし、寝てる時も魘されてたわ」
「…ユウくんのせいじゃないのに」
「あの子はそう思えないのよ。毎日ベースの状態を確認していたから…」
ユウくんは責任感強いよね。…あの曲だったから余計に自分を追い込んでるのかな。自分で作った曲だったから。
それでも、ユウくんの荒れ方は酷いよね。リサちーのことが大切だから、失敗するわけにはいかない曲で失敗したから荒れるのは仕方ないと思う。その気持ちはあんまりわからないけど、でもなんとなくはわかる。だけどユウくんがリサちーを想う気持ちが
それはきっとユウくんがリサちーに隠してることと繋がるはず。
「…もう一つ教えてほしいことがあるんだけど」
「…なにかしら?」
「──ユウくんはリサちーに何を隠してるの?」
「っ!!…なんのことかしら」
「はぐらかさないで」
あたしが真剣に友希那ちゃんを見ていると、友希那ちゃんは諦めたようにため息をついた。青空を見上げてポツリポツリと言葉を選ぶように話してくれた。
「あの子は…長く生きられないのよ」
「…………え」
「雄弥の異常な傷の治りの速さ。それが原因ね」
「…ま、待って。…それ本当?」
「そうよ。お医者さんにそう聞いたし、雄弥からも聞き出したわ」
「そん、な…」
ユウくんが…長く生きられない?
あたしは頭がパニックになった。今の環境もこのことも全部嘘だと、夢だと思いたい。きっと今はまだ夏休みで、あたしは長い長い悪夢を見ているんだって。…だけど、これは現実なんだ。
「長く生きられないといっても大人になれない、というわけではないわ」
「そうなの!?」
「ええ。ただ、この先でまた大怪我をしたらまた寿命が縮むわ。そういう体になってるのよ」
「どういうこと?」
「人の体は細胞分裂の限界数が決まっているというのは知ってるわね?」
「うん」
「その限界数に迫っていくと人の体は老化を始める。だから高齢者たちは傷の治りが遅い。雄弥はその反対。傷を治すのに必要な細胞分裂の回数と時間があるのに、雄弥の体は時間を縮めるために必要以上に細胞分裂を繰り返すのよ」
「…そしてその分老化が早くなるんだね」
「そういうことよ。…けれど体は年齢に見合った見た目を保つみたいね。だから雄弥は誰にも限界を気づかれることなく寿命を迎えるわ」
…ユウくんの昔のことは前に聞いた。その時はユウくんは怪我なんて考えずに、それこそゾンビみたいに無茶なことしてたって。それで減った分の寿命とこの前のあの大怪我で、いったいどれだけ寿命を削ってるんだろう。
「人は体に異常なく生きれば140歳近くまで生きられると聞いたことがあるわ」
「あー、あたしも聞いたことあるけど、実際に生きた人は今もいないよね。110歳超えたぐらいが限界で」
「ええ。だけど、雄弥の寿命の限界も140歳を上限にしていたかもしれない」
「だけど、もしもの話は…」
「そうね。…けれどおそらくは140歳を上限にしていたのよ。だから雄弥の今の限界も…」
「…何歳までなの?今のままなら」
「……それでも還暦つまり60歳は迎えられないわ」
「…そっか。140歳から60歳って80年も削ってるんだね」
「それだけのことをしていたのよ…」
友希那ちゃんは悔しそうに唇を噛み締めてた。…ユウくんと友希那ちゃんが出会った時にはユウくんも限界の半分は寿命を削ってただろうに。仕方ないことなのに、それでも友希那ちゃんは自分のことのように悔しそうにしてた。
あたしはショックを受けてるけど、だからこそこれからどうするべきなのかを考えてた。あたしじゃあユウくんを立ち直らせることができない。ユウくんとあたしは同種だけど、いや同種だからこそできないんだ。だからあたしが発破をかけるべき相手はもう一人の方しかいないね。
「友希那ちゃん。合同ライブにRoseliaも出て」
「…今のリサの状態じゃ」
「だからこそ出るべきじゃないの?」
「美竹さん?」
「あー!蘭ちゃん!どうしたの?」
「珍しい組み合わせだったので。それより湊さん。あなた達も出るべきですよ。いや、出ないといけない。リサさんのためにも」
「…どういうことよ」
「音楽をしている人間なんだから、音楽をやらせるしかない。きっとみんなでライブをしたらリサさんも前を向くようになるはず」
「そうだよ友希那ちゃん!昨日聞いたでしょ?Augenblickも来るんだよ?ユウくんも来てくれるんだよ?」
彩ちゃんとお姉ちゃんから聞いたけど、ユウくんの今の状態は本当に酷いらしい。千聖ちゃんが見抜いたみたいで、今のユウくんは昔みたいに、いや昔以上に空っぽになってる。もうリサちーにしかユウくんを取り戻せない。だから今回の学園祭の合同ライブにリサちーも出てもらわないと。
「…わかったわ。Roseliaも参加する。リサが何か言いそうだけど、引きずってでもステージに立たせるわ」
「よろしくね!」
「…リサさん相手にそこまでしなくてもいいんじゃ」
(これでひとまずあたしにできることは終わったかな。合同ライブの件は結花ちゃんが率先して動いてくれるし。…帰ったらお姉ちゃんにユウくんのこと話さないとね)
〜〜〜〜〜
最近のアタシはどうしちゃったんだろ。心ここにあらずって状態になってる。いや、わかってる。雄弥と会えてないからだ。雄弥たちが日本に帰ってきた日に会って、それっきり一度も会ってない。電話も出てくれないし、メッセージを送っても返ってこない。
『一人にさせてくれ』、雄弥から言われた最後の一言がそれだ。いったいいつまでアタシは我慢しないといけないのか。そして、アタシはなんて無力なんだろうか。ずっと側にいたのに、大好きな彼氏のことなのに何もできないだなんて。
「リ・サ・ちー!」
「わっ!日菜?もー、びっくりするじゃん!」
「あはは!びっくりさせようと思ってやったんだもん。当然だよー!」
「はぁー」
「ため息なんてついてどうしたの?生理?」
「違うから。それと女子校だからってそんなの言わないで。オブラートに包もうね」
「えっと、じゃあ月のモノが来なくなったの?」
「言い方変えたと思ったらその後にトンデモナイこと言ってるね。それも違うから」
「あたしはてっきりユウくんとシたのかと」
「…日菜、怒るよ?」
「ごめんごめん。冗談が酷かったね」
てへぺろ、みたいな雰囲気で謝られてもね。…まぁでも日菜だし仕方ないか〜。相手のことなんて考えないんだから。
「そういえば、さっきまでどこ行ってたの?」
「それ聞くなんてリサちーもデリカシーないね〜。あたしのこと言えないよ〜?」
「あ、ご、ごめん」
「蘭ちゃんと喋ってた!」
「デリカシー関係ないじゃん!」
「あはは!ちょっとは元気になった?」
「へ?」
「リサちーが元気ないとあたしも面白くないしさー。まぁでももうすぐ学園祭があるし、るるるんっ♪てするイベントあるらしいから、そこまで気にしてないけどね」
「イベント?」
そんな話あったっけ?……、あんまり人との会話の内容を覚えてないや。先生が何を言ってたのかも覚えてないし。ノートはちゃんと取れてるけど。
「どんなことするの?」
「花咲川と合同で学園祭だよ♪」
「あー、そういえばそんな話だったね。それで何か特別なことがあるってこと?」
「まぁね〜」
「内容は?」
「友希那ちゃんかお姉ちゃんに聞いて!」
「日菜が教えてくれてもいいじゃん!」
「教えなーい♪」
「もう日菜〜」
「だけど、リサちーもそのイベントに参加してね。しなかったらあたし、リサちーのこと軽蔑するから」
「…へ?」
結局日菜は教えてくれなかった。そんな隠すようなことなのかな?よくわからないけど、友希那か紗夜に聞けばいいんだよね?今日の練習で聞こうっと。
「そんなわけで教えてくれない?」
「…湊さん」
「ええ。私から話すわ」
「へ?へ?」
「私たち羽丘と紗夜たち花咲川、学園祭の二日目にこの二つの学校に所属する全5バンドで合同ライブをするわ」
「ライブ!?」
「やったー!りんりんライブだって!」
「う、うん…けど…」
「ライブなんて…」
「リサ。参加することはもう伝えてあるの」
「そんなの勝手だよ!」
「今井さん…」
「リサ姉…」
無理だよ…。別にベースを弾けなくなったわけじゃない。ちゃんと練習に取り組めてるもん。…だけど、みんなの前で弾けるようなものじゃない!
「リサよく聞いて」
「…何?」
「これを企画したのはAugenblickよ」
「…なんで?だって活動休止してるって…」
「結花が考えたのよ。5人でやらなければAugenblickの活動にはならないってそんな言い訳をたてて」
「…雄弥は来ないってこと?」
あのメンバーで参加しない人が出てくるってなると、今の状況からして雄弥しか考えられない。雄弥の状態がどうなのか、アタシにはわからないけど。
「
「……え?」
「全員来るそうよ。ただ5人で演奏しないということね」
「…雄弥が、来るの?」
「ええ。演奏するらしいわ。それでもリサは、あなただけは立ち止まる気なのかしら?」
「……出る……アタシも出るよ。アタシもやれるだけのことするよ!」
「やったー!リサ姉ババーンって誰よりもカッコイイのやろうね!」
「あこ…そうだね!」
「決まりね」
アタシ達は学園祭ライブに向けて練習に取り組んだ。ここまで練習に集中できたのがなんだか久しぶりな気がする。いつもみたいにまたファミレスによって練習を振り返って、談笑して、遅くならないうちに解散する。
あこと燐子と別れて、アタシと友希那と紗夜の三人になったところで、紗夜が重そうに口を開いた。
「湊さん、今井さん。あなた達に話すことがあります」
「アタシ達に?」
「…雄弥のことね」
「え?」
「はい。昨日雄弥くんと藤森さんが花咲川に来ていて、その時に白鷺さんが言っていたのですが」
アタシは、紗夜からこのことを聞いて決断した。
「──今の雄弥くんは、人形そのものだそうです」
アタシが雄弥のことを助けてみせるって。