アタシは教室で友達と話をしながら人を待ってた。それはもちろん雄弥のことで、正門で待ち合わせをしようと思ってたんだけど、雄弥が教室に迎えに来てくれるみたい。
今日はライブまで雄弥と一緒に過ごすつもりでいる。そのために昨日はずっとクラスの手伝いをしてたんだから。
「リサそわそわしてるね〜。そんなに待ち遠しい?」
「そ、そんなことないから!」
「ほんとに〜?」
「ほんとほんと」
「あ、湊くんだ」
「え!どこ!?」
「嘘だよ♪」
「へ?」
「だからー、嘘だってば!可愛い反応ごちそうさま♪」
「うぅー」
簡単な手でハメられた。…まぁ雄弥が待ち遠しいことは本当だし、開き直ってもいいんだけど、…今の雄弥が不安っていう気持ちもある。帰ってきたあの日でさえギリギリだったのに、さらに心をすり減らしちゃってるから。
「…湊くんのことホントに好きだよね〜。付き合ってるの?」
「ふぇ!?それは……」
「リサ?……ごめん、踏み入りすぎちゃったね」
「う、ううん。そんなことないよ!ちょっと色々ね」
「…そうだよね。あんなことがあったんだもんね」
「…うん」
「あー!こんな空気やめやめ!せっかくの学園祭なんだから、楽しまなきゃね!私は今からクラスの手伝いしてくるから、リサは湊くんと楽しんできてね♪」
「もう、またそんなこと言っても引っかからないからね?」
「何に引っかからないんだ」
「だからー、ゆう……ん?……雄弥?」
振り向いたら雄弥が立ってた。さっきまでアタシと話してた子は、苦笑しながらアタシ達から離れていった。…雄弥、ちょっと痩せたね。見た目はあんま変わらないけど。
「リサどこに行くかは決めてるのか?」
「ううん。雄弥が来てから決めようって思ってたから」
「そうか」
「うん。……雄弥、ごめんね」
「…なんの謝罪だ。リサが謝ることなんてないだろ」
「ううん。あるよ」
雄弥の手を引いて廊下を歩きながらアタシは懺悔した。雄弥は絶対に「悪くない」って言ってくるけど、アタシがアタシを許せないから。これから真っ直ぐ向き合うためにも必要なことなんだ。
「雄弥たちが帰ってきた日にアタシ空港に行ったでしょ?」
「…そうだな」
「雄弥が心配だったって気持ちもあったけど、それ以上にアタシはアタシのことを優先したんだ」
「……」
「…あーやって雄弥に会わないと、雄弥の側にいないとアタシがおかしくなりそうだったから。雄弥が傷ついてたのに、アタシはアタシの心を守るために雄弥の側にいたの。…ほんとにごめん」
「……馬鹿だな」
アタシ達の最近の口癖になってる言葉。けっして相手を罵ろうと思って言ってるわけじゃない言葉。その言葉を言われると同時に優しく頭を撫でられた。けれど、その優しさとは裏腹に雄弥の顔は悲痛そうだった。
「謝らないといけないのは俺の方だってのに。…ごめんなリサ。側にいようとしてくれたのに、側にいたかっただろうに拒絶して」
「それは雄弥が「関係ない」…」
「そんなの関係ないんだよ。他の誰でもない、一番大切な人であるリサを俺は拒絶したんだ。俺はやっちゃいけないことをしたんだ。だからごめん」
「雄弥…」
「それで…身勝手なのは分かってるが、これからも側にいてくれるか?」
「もちろんだよ。もう雄弥に拒絶されても絶対に離れないんだから♪」
「ありがとう」
手を握るだけだったのをやめて腕に抱きつく。雄弥の心がこれで治っただなんて思ってない。これはそんな楽観視していいことじゃないから。根気強く支え続けないといけない。みんなに協力してもらいながら。
…なんせ一人の時の雄弥の行動を聞いてたからね。自分を責め続けて自分を追い込んで自分を傷つけて。まだ一人にしちゃいけないんだ。誰かといたら落ち着くみたいだし。
「そうだ!蘭のクラスに遊びに行こうよ!」
「いいぞ」
「やった♪」
「おいそんな引っ張らなくてもいいだろ」
「ダメダメ!蘭のクラスはタピオカやってるんだけど、すっごい人気なんだから!昨日なんてダントツの売上で一番最初に完売したんだよ!?」
「へー…」
むっ、これはタピオカをナメてるね。飲んだことぐらいあると思うけど、たぶん雄弥が飲んだタピオカに負けないんじゃないかな?
ダルそうなムードを醸し出し始めた雄弥を力いっぱい引っ張って、駆け足気味に移動する。蘭のクラスは予想通りでもう列ができてた。
「飲み物ぐらい自販機で買えばいいだろうに」
「タピオカだから飲むの!」
「謎のタピオカ理論だな」
「タピオカは毎年どこかしらがするからね〜。タピオカやったクラスは絶対に投票で上位に入るし」
「いっそタピオカ禁止にしてしまえ。保護者販売でいいだろ」
「売上持っていかれるじゃん!」
「タピオカに勝てるやつ考えろよ」
「例えば?」
「スムージーとかラッシーとか」
「学生の身分でそんなの用意できないからね!」
「…疾斗はやったらしいがな」
「…あれは例外でしょ」
一番基準にしちゃいけない人だよ。疾斗を基準にしたら世の中の9割はできない側になっちゃうからね。
他愛もない会話で盛り上がってると順番を待つのも苦じゃないね。アタシ達の順番が回ってきて気づいたけど、受付の係をしてる子のうち一人は蘭だった。
「…ひとまずは安心しました」
「あ、あはは…。蘭にもバレてたんだ。心配してくれてありがとう♪」
「なっ、…あたしは、別に…。ただリサさんが心から笑えてないのが嫌なだけで…」
「美竹さん、それ自爆してるよ」
「あ…」
クラスの子に突っ込まれてから気づいたみたいだね。蘭は顔を赤くしてそっぽを向いちゃった。うーん、可愛らしい後輩だね♪
「今井先輩ご注文のタピオカです♪」
「ありがとう♪……なんで容器が1個なのにストローが2本あるのかな?」
「え?お二人が付き合ってそうだったからですよ?…あー!安心してください!ちゃんと大きいサイズに入れときました!」
「そういうことじゃないよ!」
「リサ揉めても仕方ないだろ。後ろの人に迷惑だぞ」
「うっ、…そうだね」
「…すみませんリサさん」
「ううん」
蘭は謝ることないよ。雄弥は有名人だし、学園祭なんて多くの人目に触れちゃうだろうけど、仕方ないか。ま、言い訳もできるわけだし、ここは大人しく感謝しとこうかな!
〜〜〜〜〜
あー暇だな〜。学園祭でみんな盛り上がってるけど、モカちゃんは受付でじーっとしてるだけだから退屈だよ〜。
なにか面白いことないかな〜。…あ、さっそくはっけ〜ん!
「そこの新婚さん。ちょっと寄っていきなよ〜」
「新婚じゃない!って、モカじゃん。何してるの?」
「見ての通り受付ですよ〜。モカちゃん達のクラスはお化け屋敷やってるんですけどね〜。なんか本格的過ぎたみたいで客足がいまいちなんですよ〜」
「よくそこまでできたな」
「みんながつぐっちゃって」
「なんだそれ」
「そのままの意味ですよ〜。…それにしても、ひとまずは落ち着けてるみたいですね」
「…まぁな」
「リサさんも」
「あはは、モカにまで気づかれてたのか〜」
「むしろ私が気づかないとでも?」
本気でそう思ってるなら心外もいいところだな〜。リサさんとはバイトが一緒だし、仲良くしてもらえてるからわりと気にかけてるんだけどな〜。…まぁそんなこと絶対に言わないけど〜。
「モカー。そろそろ担当の時間終わりだぞって、リサさんと雄弥さんじゃないですか!お化け屋敷入るんですか?」
「いや、モカに声をかけられたから話してただけだ。…それにリサはこういうの駄目だからな」
「え?そうなんですか?」
「お恥ずかしながら、ね」
「いやいや全然恥ずかしがることないですって!うちの蘭だってこういうの駄目なタイプですから!」
「本人は認めたがらないですけどね〜。それよりトモちんももう終わり〜?」
「ああ!せっかくだし二人で色々周ろうぜ!」
「いいよ〜。リサさん達がこの中に入るのを見送ったらね〜」
「え"っ?」
ふっふっふー。逃しませんよ〜リサさん。受付はお客さんの呼び込みも仕事の一つですからね〜。ちょっとぐらい仕事しないとひーちゃんが後でうるさいし〜。
「ア、アタシはいいよ〜」
「モカ。リサさんはこういうの駄目って聞いたばっかだろ。無理強いは良くないぞ」
「けどお客さん来ないと〜、中の子が暇しちゃうでしょ〜?」
「まぁ、それもそうだが」
「それに本格的って評判になっちゃってるけど〜、高校一年生ができるレベルだから〜、私たちの年代にしたら本格的ってだけだし〜」
「言われてみればそうだな。リハーサルした時も高校一年生がするにしては怖いって印象だったな」
「でしょ〜?」
「だってよリサ」
「で、でも」
雄弥さんはリサさんに合わせるだけだよね〜。そうとなれば〜、狙い目はやっぱりリサさんだね〜。リサさんは優しすぎるから〜、さっきの『中の子が暇しちゃう』ってとこに引っかかってるんだよね〜。つまりー、もうひと押し〜!
「リサさ〜ん。これも思い出作りということで〜、ど〜か一つお願いしま〜す」
「……モカがそういうなら」
「やった〜」
「いいのか?」
「…優し目にしてもらえたら、たぶん」
「リサさん無理しないで下さい。アタシらがお客さんの呼び込みを頑張ればいいだけなんで」
「いいよいいよ。……頑張ってみる」
「はぁ」
言葉では前向きだけど、雄弥さんの腕にこれでもかというぐらい力を入れてしがみついてた。まだ中に入ってすらいないんだけどな〜。
「行ってらっしゃ〜い」
「…みんな手加減してくれたらいいんだけどな」
「青信号出したから手加減してくれるでしょ〜」
「は!?青!?モカ、青は"本気でやっていい!"って意味だぞ!?」
「あれ?そうだっけ〜?」
「すぐに赤連発しろ!」
「みんなリサさんのこと知ってるから優しくしてくれるでしょ〜」
『きゃあああーーーー!!もうやだぁーー!うわぁぁーーん!!』
「…モカ」
「…あとで謝りま〜す」
〜〜〜〜〜
「ぐすっ、ぐすん」
「リサ、もうお化け屋敷は終わったんだ。怖くないぞ?」
「や!」
「ユウくん、リサちーどうしたの?」
「モカたちのクラスのお化け屋敷行ったらこうなった」
「あー!あのるるるんっ♪てなるやつに行ったんだ〜。あれ面白いよね!」
「面白くない!超怖かったもん!」
「え〜?…ま、いいや。それよりユウくん見てみて!この服どう?クラスのみんなで用意したんだけど似合ってる?」
あたし達が今いる場所はあたし達の教室。席の隅っこにリサちーとユウくんが座ってて、リサちーはユウくんの胸に顔をうずめて今も泣いてる。そんなにアレって怖かったかな〜?
あたし達のクラスは喫茶店をやってる。花咲川だったら彩ちゃん達のクラスもやってるみたい。つまりお姉ちゃんと一緒♪ それで、衣装に身を包んだあたしをユウくんに披露してるんだけど、褒めてくれるかなー?
「よく似合ってるぞ」
「やった♪」
「…リサつねるな。結構痛い」
「アタシも着こなしてたもん…」
「リサちーは昨日頑張ってたよね〜。来たお客さんがリサちーにメロメロでさ〜」
「ほう?」
「みんなあしらったから」
「ならいいか」
今まで通りのやり取りだね!
リサちーはちゃんと気づけてるのかな?ユウくんの言葉が薄っぺらい言葉になってることに。あたしには演じてるようにしか見えないよ。
「リサちーが着てる時の写真は撮ってあるから後で送っとくね!」
「ありがとう」
「いつの間に!?」
「あはは、リサちーは甘いねー。クラスのみんなで取り合いっこしてたじゃん!」
「そ、そうだっけ?」
「…まぁリサちーは覚えてなくても仕方ないかー。一番頑張ってたし」
「そうなのか。すごいなリサ」
「ありがとう♪」
リサちー、泣きやんだんならユウくんから離れた方がいいんじゃない?あたし的にはなんでもいいけど、周りの人がチラチラ見てるよ?……離れないね。ならこのままということで。
「ユウくん!ライブ楽しもうね!」
「そうだな。日菜と一緒にやったことなかったもんな」
「うん!ズガガガーンって演奏しちゃうから、ユウくんもついてきてね!」
「ははっ、むしろ日菜が俺にのまれるなよ」
「ユウくんにのまれるなら別にいいんだけどな〜」
「駄目」
「だよね〜。リサちーのユウくんだもんね〜」
ほんと、見せつけてくれちゃって。まぁ前ほどの羨ましさがないんだけどね。少し気になる所があるけど、それはライブで分かるからいいや。
〜〜〜〜〜
雄弥は日菜たちパスパレに混ざって演奏する。ベースは千聖がいるから雄弥は日菜と一緒にギターを弾く。結花はアタシ達Roseliaに混ざって友希那とツインボーカルして、Augenblickの残りの三人は3ピースでする。
3ピース、ハロハピ、ポピパ、Afterglow、Roselia、パスパレの順番でライブが進行していく。
「うひゃー、みんな凄い盛り上がりだね〜」
「いい感じに場が温まってるね〜。友希那、私達でもっと盛り上げようね☆」
「当然よ。私達Roseliaと結花で盛り上がらないわけがないわ」
「だよね♪」
「結花ひっつかないで頂戴」
「やーだ〜。これでエネルギー補充するの!」
「…仕方ないわね」
「りんりん…友希那さんが」
「うん…丸いね…」
「お姉ちゃんあたしもー!」
「ちょっと日菜離れなさい!」
ほんと結花には甘々なんだから。さてと、時間だし準備しますか。その前に雄弥の様子は、と。……大丈夫…に見えてるだけか。演奏はできるだろうし、今はパスパレのメンバーと一緒だから心配はいらないだろうけど。
「リサ、行くわよ」
「うん!」
アタシの演奏でちょっとでも雄弥の力になれたらいいな。
そんな願いを込めながら全力で演奏した。
演奏が終わってステージから離れて雄弥の側に行く。雄弥は「よかった」って一言だけ言ってくれてアタシと手を握ってた。本当はこうしてる時間もなくて、雄弥も自分の楽器の準備に行かないといけないんだけど、麻弥が気を利かせてくれたみたい。
「雄弥」
「…大丈夫だ。演奏できる」
「…うん」
「まぁ、ベースを弾けるかは分からないがな。…家では弾けた。こういう場ではどうか分からない。今日はギターだし」
「そっか。…アタシはいつまでも待ってるからね。雄弥とまた一緒にベース弾けることを」
「ああ。そうだな」
準備が終わったみたいで、雄弥もステージに上がっていった。…やっぱり違和感があるね。紗夜から聞いたとおり、…人形…か。なんでアタシは雄弥の側から離れちゃってたんだろ。
「リサ」
「友希那?」
「悔やんでも仕方ないわ。…私なんて毎日顔を合わせてたのに何もできなかったんだから」
「……ごめん」
「協力できることは協力するわ。一人で背負い込まないで」
「…うん。ありがと」
雄弥とパスパレの演奏が始まってて、それを見てて気づいた。みんなで楽しそうに演奏してるけど、雄弥もちゃんと弾けてるけど
どうしたら…。
そう考えてたら、アタシの前に日菜が立ってた。悩んでる間に演奏も終わってたみたい。アタシは日菜に連れられてみんなから離れたところに移動した。
「日菜?」
「リサちーも聞いててわかったでしょ?今のユウくんの演奏」
「…もちろん。今までで一番酷かったもん」
「わかってるならよかった。それで、どうやってユウくんの演奏を取り戻させるかわかってる?」
「…わからないよ。どうすればいいかなんて」
「リサちーのバカ!」
アタシが弱音を吐いたら日菜に本気で怒鳴られてビンタされた。アタシは叩かれた頬を抑えながら日菜に怒り返そうとしたけど、それができなかった。日菜が泣いてたから。
「なんで…なんでわからないの!?リサちーにしかできないことなのに!あたし達には絶対にできないことなんだよ!?あたしはユウくんを支えたいのに、取り戻させてあげたいのに絶対できないんだよ!?」
「日菜…。なら教えてよ!!アタシは日菜みたいにわからないんだもん!雄弥と同種じゃないから、日菜みたいに直感で理解なんてできないんだよ!?」
「わからないわけないよ!リサちーとユウくんで共通してることあるじゃん!二人にしかないことがあるじゃん!」
「共通してること?…そんなの…」
「ベース」
「……ぁ」
「ユウくんから教わったんでしょ?ユウくんの演奏をリサちーが一番理解してるはずでしょ!?だったら今度はリサちーの番だよ!ユウくんから学んだ演奏を、ユウくんがやってたことをできるのはリサちーしかいないんだよ!!ユウくんにユウくんの演奏をリサちーが教えなよ!!」
「日菜…。ごめん、ごめん!」
アタシは日菜に思いっきり抱きついた。日菜に抱きついて思いっきり泣いた。
「もうー、カップル揃って仕方ないんだから〜。今のユウくんをリサちーから奪い取ってもいいんだけど、そんなのるんっ♪てしないからさ〜。ユウくんを取り戻して。あたしが、お姉ちゃんが、なによりリサちーが好きになったユウくんをさ」
「うん。うん!絶対に取り戻すから!」
「あたし達も手伝うから」
「うん!ありがとう」