陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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調子が出たり出なかったり…。
家にいるからダメなのか?集中できる環境はいったいどこだ!?
話が短かかったり、纏まりがない時は調子が悪かったんだなと察してください。


8話

「雄弥くん旅行は楽しかった?」

 

「まぁ、それなりに」

 

「ふふっ、素直じゃないのね。そういうとこお姉さんにそっくりよ」

 

「それは紗夜に言われたくないな…」

 

「……なんのことかしら」

 

 

 俺と紗夜は疾斗の爺さんの喫茶店に来ていた。紗夜が今の授業で分からないところがあるらしく、それを俺と解いていた。俺が疾斗から教わっているのはあくまで部分的なものだから、紗夜に説明を補ってもらいつつ一緒に頭を悩ませていた。…今は休憩中だが。

 

 

「そういえば藤森さんは今日から羽丘に通っているのよね?」

 

「ああ。友希那とリサと三人で登校してたぞ」

 

「そう。やっぱり羽丘を選んだのね」

 

「学園祭で友希那と回った時に決めたみたいだな」

 

「…本当に仲が良いのね。……私達とは違って」

 

「…紗夜」

 

「私が一方的に避けてるだけなのだけれどね…。距離が掴めないのよ」

 

 

 紗夜はそう言っているが、紗夜なりに日菜と向き合い始めているのは知ってる。俺のように隠して逃げ続けているのとは違うんだ。…紗夜もまた強い人間なんだろうな。

 

 

「そういえば今日は彼らはいないのね」

 

「ん?…あぁ、みたいだな」

 

「皆さん揃っていないということは、何かあるのかしら?」

 

「なんだったっけな。……あーそうだ。たしか就職先のとこに挨拶に行ってるんだったな。春まで待たずに働き始めれるらしい」

 

「そうなのね。無事に就職できたのね」

 

「狙い通りの全員就職だとよ。ちょうど入れ替わるように退職時期と被ったらしくてな。一気に人手不足になったところに就職したらしい」

 

 

 そこを狙って爺さんは紹介したんだろうな。爺さんの知り合いがそこの社長だからコネを使ったんだろな。人手不足という理由も使えるし、ただまぁ実際に採用するかは社長の考え一つだ。あいつらの姿勢が社長に気に入られたんだろな。

 

 

「お祝いはするのかしら?」

 

「爺さんはその気だろうな。ただ…疾斗はどう考えてんだろうな」

 

「疾斗くんもお祝いしそうだけど?」

 

「それはな。だが、いつやるかは分からない。妥当な考えだと俺達のライブに呼ぶってことになるしな」

 

「雄弥くんたちのライブ?」

 

「今までは進路に集中させるために来ることを許してなかったからな」

 

「それは……。だけど…今のままでは…」

 

 

 紗夜の指摘通りだ。今まで来ることを禁止していた以上、瑛太たちを呼ぶからには完璧なライブにしなければならない。今の俺じゃあ足を引っ張るだけでAugenblickの演奏を壊すことになる。

 

 

「早急に治さないといけないな」

 

「…だから急いで治しても…」

 

「……それもそうか」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 日菜から無人島での出来事はあらかた聞いてある。あの子の話は飛び飛びになるから全容はわからないのだけれど、雄弥くんが日菜を助けたことで寿命をさらに削ったこと。雄弥の体のことを日菜が知っているということ、そして今井さんと向き合うようにさせたことを話したのは聞いた。…一部は推測で補ったのだけど。

 

 

「雄弥くんは将来をどう生きたいですか?」

 

「いきなりどうした……あー、紗夜もか(・・・・)

 

「分かってしまうのね…。ええそうよ。私も雄弥くんの体のことは知っているわ」

 

「また友希那か?」

 

「いいえ、日菜からよ。湊さんは口が重いでしょ」

 

「なるほど。友希那から聞き出した日菜に話を聞いたのか」

 

「そういうことよ」

 

 

 ギターの練習中に入ってこられたから怒鳴ってしまったけど、あの日菜が思い詰めた顔をしていたからすぐに練習を中断して話を聞いた。話を聞いたときは当然ショックだった。大人になれないわけじゃない。けれど怪我する度に確実に寿命が減っていく雄弥くんの体は、この先も寿命が減っていってもおかしくない。

 

 

「…無人島でどれだけの怪我をしたの?」

 

「川に当たるときにはできるだけ衝撃がないようにはした。…が、日菜に一切衝撃がいかないようにしたからその分骨がやられたな。後は岩に打たれたりなんだりでそれなりの出血だったな」

 

「それを日菜が起きるまでに全て治したのでしょう?」

 

「ああ」

 

「…どれだけ減ったの?」

 

「さぁな。さすがにそんな細かいことは分からない」

 

「そう…よね」

 

 

 前に聞いた今の上限を割り出せてるだけでも凄いのよね。通算でだいたいのことを推測できそうだけど、雄弥くんでも分からないというのなら私には無理ね。

 

 

「…雄弥くん。今井さんは今必死にベースを練習してます」

 

「リサはいつも本気だろ?」

 

「それ以上よ。『雄弥のベースに追いつかないといけないから』って、止めにはいるこちらがしんどいわ」

 

「俺のベースに?…リサのベースは俺にも出せない音だろうにな」

 

「…雄弥くんは今ベースをライブで弾けないでしょ?今井さんはそれを取り戻そうとしてるのよ」

 

「俺ですらリサのベースをできないんだぞ?」

 

「雄弥くんにできないことは、今井さんにもできないのかしら?」

 

「なに?」

 

 

 雄弥はどこかでそう思ってるのよね。ずっと前を走り続けて、誰からの期待にも応えてきたから、教える側で自分を超える人がいないから。

 

 

「雄弥くんは傲慢ね。私は今井さんならできると信じているわ」

 

「…重ねてるのか?自分と」

 

「っ!……そうかもしれないわね。日菜と雄弥くん。私と今井さんを重ねてるのかもしれないわね」

 

「それで、リサが俺を超えれたら自分もそうなれるかもってことか?」

 

「そうね。ただ、今井さんは今井さん。私は私、それを理解してないわけじゃないわ」

 

 

 雄弥くんの演奏を一番理解している今井さんと、日菜の演奏を避けている私では同じなわけがないもの。それでも、今井さんの姿は見ていて心配になる反面、力を貰えているのも事実だわ。

 

 

「ところで話は変わるのだけれど、Augenblickのマネージャーさんは普段何をしているのかしら?」

 

「何って?」

 

「いえ、たまに話に出るだけで楽屋にお邪魔した時も会ったことはなかったから」

 

「あのマネージャーが普段何をしているのかは俺も知らないぞ」

 

「え?」

 

「俺たちがやりたいようにやれるっていう環境が整ってからはほとんど会ってないな。疾斗か愁がたまに連絡取るぐらいだ。まず日本にいるのかも分からないな」

 

「それはどうなのかしら…」

 

「俺たちは困ってないから別にいいんじゃねぇか?会社からも特に言われてるわけじゃないしな」

 

 

 それは雄弥くんたちがそうできるようにしたからじゃ…。あ、でも新しくなった時に言われてもおかしくはなかったのよね。それが何も言われてないということは、会社も問題なしと考えたのかしら。

 

 

「あのマネージャーは人材発掘ぐらいしか興味ないらしい」

 

「人材発掘?」

 

「ああ。埋もれた才能を見つけて活躍できる場に招く。そこまでを自分の役割だと考えてるらしい」

 

「それで作られたのがAugenblickなのね」

 

「まぁな。それでマネージャーは日本人じゃないからな。所属も正式に言えば今の事務所じゃない。フランスの会社からこっちに来てただけだ」

 

「…それで今は日本にいるのかわからないということなのね」

 

「そういうことだ」

 

 

 休憩もこれくらいということにして、勉強を再開した。私一人では解けなかった問題も雄弥くんと一緒に考えたら解くことができた。私はその解き方を忘れないようにすかさずメモを取って、それから次の問題へと移っていった。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 勉強が終わり、会計を済ませてお店を出た。雄弥くんに家まで送ってもらうことになり、今は二人並んで帰っている。

 

 

「そういや紗夜は進路のこと考えてるのか?」

 

「細かなところはまだね。大学に進学することは決めているけれど、どの大学にするかは決めていないわ」

 

「そうなのか。リサはたしか『Roseliaで一緒だったらいいなー』って言ってたぞ?」

 

「今井さんらしいわね。…それも悪くはないわね。その方が都合を合わせやすいし、練習も取り組みやすいわね」

 

「ははっ、相変わらずだな」

 

「雄弥くんはどうするのかしら?」

 

「ん?」

 

 

 雄弥くんの学力は決して低くない。高校卒業認定の試験を受けて大学受験をすれば、おそらく雄弥くんも大学に通えるはず。学業に従事しながら芸能活動をすることだって可能だ。実際に日菜たちパスパレや雄弥くん以外のAugenblickメンバーはそうしいている。

 

 

「今井さんと同じ大学に通うのもありなんじゃないかしら?」

 

「…それもいいんだろうけどな。別に大学での学びを必要と思ってないからなー。それで高校にも通ってないわけだし」

 

「そう。きっと楽しいとは思うのだけど、私がとやかく言うことではないわね」

 

「大学…か」

 

「どうするかはともかくとして、先のことを考えておくのはいいんじゃないかしら?目標があれば今の活力になるでしょ?」

 

「ま、少しは考えてみるか」

 

 

 雄弥くんの先のことなんてわからない。けどそれは誰でも当然のことだと思う。自分の先のこともわからないのだから。雄弥くんと肩を並べて歩くのを懐かしく思っていると、乱入者が現れた。

 

 

「あー!お姉ちゃんとユウくんじゃん!やっほー!」

 

「日菜も今帰りなの?」

 

「そうだよ〜。ねぇねぇ!あたしも一緒に帰っていい?」

 

「好きにしなさい」

 

「やった!お姉ちゃん大好き♪」

 

「こら日菜!」

 

「えー、腕に抱きつくぐらいいいじゃん。ね?ユウくん」

 

「それは人それぞれだろ」

 

「それもそっか」

 

 

 掴んでいた私の腕を離して私の横に並ぶ。私が雄弥くんと日菜に挟まれている状態だ。歩道を三人で横に並んだら他の人の邪魔になるのだけど、雄弥くんがいち早く気づいて動いてくれるからまだましね。

 

 

「そうだ!ユウくんも今日はうちで食べていきなよ!」

 

「いきなり何言ってるのよ…」

 

「だってお母さんも喜ぶだろうし、その方がるんっ♪てするじゃん!」

 

「当日のこんな時間に言っても用意に困るでしょ」

 

「えー」

 

「悪いな日菜。リサから『今日はアタシがご飯作るから食べに来てね』って今朝言われてるんだよ』

 

「…さすがリサちー、ガードが硬いね」

 

 

 今井さんも今井さんだけれど、日菜も日菜で大概よね。抜け目ないようにしてるというか、なんというか。

 結局雄弥くんを招くことに日菜は失敗していた。どうやら本人もあわよくば程度に思っていたらしく、わりとサッパリしていたわね。雄弥くんに家の前まで送ってもらい、夕食ができるまでギターの練習し、寝る前にも少し練習をした。寝る前の練習はもう少しやりたかったのだけど、日菜に話があると言われて練習を短めにした。

 日菜の話を聞いて改めて思ったわ。日菜はとことん雄弥くんのことが好きなんだなって。

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