「明日校内清掃があるんだよね〜」
「校内清掃?…あー、なんか聞いたことあるな」
「学校側がランダムで班を決めるんだけどさ。なんと友希那と同じ班になったんだー☆」
「…それほんとにランダムか?」
「ランダムだよ。他の学年の人もいるし」
「へー」
まぁ組み合わせなんてどうでもいいがな。そもそも俺には関係ない話なわけだし。そろそろ寝ようかと思って結花を部屋から出そうと思ったら着信があった。こんな時間にかけてくる人物に思い当たる人もいないが、一応電話に出ることにした。
「もしもし?」
『あ、もしもし。湊雄弥くんの携帯でお間違いないでしょうか?』
「合ってますよ」
(この声……あー、
『夜分遅くに申し訳ありません。実は…、』
理事長が言ってた
〜〜〜〜〜
校内清掃かー。1年生の時はなんでやるんだろうって思ってたけど、慣れてきたら特に思うこともないな〜。強いて言うなら知らない人と仲良く慣れたりしたら面白い、とかかな。…今回はメンバー全員知り合いだけど。
「やっほ〜、麻弥」
「こんにちは、リサさん。日菜さんと薫さんも一緒でしたか」
「ま、同じクラスだしね〜。そうそう!あたしクジ引きに行きたいんだけど、行ってきてもいい?」
「もちろんいいですよ」
「止める理由もないしね」
「やった!薫くんも行こ!」
「ああ、構わないよ」
日菜と薫を見送って麻耶と二人で話しながら待っていると、最後の一人である蘭がやってきた。今回は1年生一人だけだね。
「今日はよろしくお願いします」
「こっちこそよろしくー☆」
「今日は頑張りましょう」
「それにしても見事に知り合いだけで固まったよね〜」
「学校側が決めているのにすごい偶然ですよね」
「むしろ知り合いだらけでよかったというか。…知らない先輩に囲まれるのはちょっと」
「あー、それわかるかも。緊張しちゃうよね〜」
「でも、今回はクジに行ってる二人も知り合いですしね」
「そ、そうですね」
ちょうど二人のことが話題に出たところで、クジに行ってた日菜と薫が帰ってきた。午前中はグラウンドの横のスペースで、午後は屋上みたい。
「瀬田先輩と日菜さんって仲良いんですね…」
「うん!あたし薫くんのこと大好きだよ!…あ、一番はユウくんだけど」
「そ、そんなに!?」
「だって薫くんといると面白いし!」
「あー、日菜にとっては薫って興味をひかれまくる存在だもんね」
「うん!薫くんっていっつもキラキラしてるし、言ってること変だし、一緒にいてるんっ♪てすることたくさんあるんだ〜」
「…悪口?」
「いえ、日菜さんなりに褒めてるんだと思いますよ」
日菜に慣れてないとそう思っても仕方ないよね〜。アタシも日菜と仲良くなってから日菜の言いたいことがだんだん分かるようになったわけだし。
「そういえば薫と仲良くなったのって今年からだよね?」
「そうだよー。…何で仲良くなったかは覚えてないけど、薫くんは覚えてる?」
「私も覚えていないね…。しかし、きっと運命の糸に導かれたのさ」
「わぁ!出たでた!薫くんの面白いセリフ!」
「…凄い楽しそうですね」
「まぁねー。アタシは同じクラスだからこの光景に慣れたけど」
「ところで、そろそろ担当場所に行きましょうか。ゲストを待たせるわけにはいきませんので」
「そうだね!」
ゲスト?アタシそんなの聞いてないんだけど…。どうやら蘭も知らないみたい。でも他の三人はそのことを知ってるみたいで、日菜が凄い笑顔で「るんっ♪てする人だよ!」って言ってきた。…いや、結局誰なの?
「…どうやらゲストはまだ来ていないようだね」
「まぁでも待たせるよりはこちらが待つ方がいいでしょう。先に掃除を始めてもいいかもしれませんね」
「あの、ゲストって誰なんですか?それとあの井戸の周りも掃除しないといけないんですか?」
「それは教えたら面白くないじゃん!井戸の方も掃除場所だし、やるんじゃないの?」
「アタシはそこだけはパスしてもいいと思うんだけどな〜」
「怖いからか?」
「…そうだよ。怖いのやだもん……あれ?」
「おはよう、リサ」
「……え?」
なんで雄弥がここにいるの?アタシそんなの聞いてないし、友希那と結花からも聞かされてないよ?…もしかして、ゲストって雄弥のこと!?
「ユウくんおっそーい!罰としてあたしの頭撫でて!」
「どんな罰だよ…。まったく…」
「えへへ〜」
「ちょっ、日菜なにしてんの!離れて!」
「えー、いいじゃんこれぐらい。リサちーはもっと
「なっ!?し、してないよ!」
「え?キスぐらいしてるでしょ?」
「……」
「顔を真っ赤にしちゃってー。リサちーはやらしいなー。何を想像したの?」
「や、やらしくないから!何もしてないもん!」
周りに助けを求めようとしたけど、このメンバーってアタシがこういう風に翻弄されるのを見慣れてない人ばっかだ。雄弥に助けを求めて視線を送ったら、雄弥が日菜を軽く叩いて止めてくれた。
「ちぇー。もう少しリサちーで遊びたかったな〜」
「それは迷惑だからやめてね?」
「さて!気を取り直して掃除を始めましょうか!…あの、雄弥さん。掃除始めるんで美竹さんと木陰で雑談始めるのやめてもらっていいですか?」
「ゆ・う・や?」
「掃除ってのは草むしりってことでいいのか?」
「ここだとそうなりますね。…あの井戸には近づきたくないですけど」
「あー、七不思議の一つだったか…。蘭も怖がりだな」
「べ、別に怖いわけじゃ…」
「それなら蘭はあそこ掃除な」
「うつ……」
「雄弥。蘭をイジメないでちょうだい」
〜〜〜〜〜
「麻弥ちゃーん。こっちの草むしり終わったよー」
「お疲れ様です。自分もだいたい終わりましたね。皆さんはどうですか?」
「ああ、庭園のような美しい茂みに生まれ変わったよ」
「うん。終わった終わった。じゃあ早くむしった草を持っていこう!」
「ですね!そうしましょう……!」
「そんなに急がなくても…」
「二人はホントに怖がりだな〜」
「二人はともくかく、どうして薫さんもそちらにいるんですか?」
「それはもちろん、怖がる二人の側にいてあげようと思ったからじゃないか」
へー、そういう理由だったんだ。まぁ薫ってこういうの結構気を回してくれるタイプだもんね。ありがたいや。…でも、
「ユウくんユウくん。リサちーが『雄弥が側にいてくれない』って不機嫌になってるよ?」
「そういうことじゃないからね?」
「そう言われてもな。四人がそっちにいたらバランス悪いしな。…井戸の近くを掃除したがらないし」
「別に井戸になにもないよね?」
「何もなかったな。この通り俺も生きてるわけだし」
「いいから雄弥も早くそこから離れて」
「だから何もないって…」
「いいから!」
「わかった」
雄弥がこっちに来たらすぐに雄弥に異常がないか、ペタペタ体を触って確かめた。アタシの手が止まったところで、雄弥に腰に手を回されて引き寄せられた。アタシは雄弥の心音を聞いて安心しながら、久しぶりのこの幸せを噛み締めた。
「…そういうのは昼休みか今日の掃除が終わってからにしてくれない?」
「わわっ!ご、ごめん!」
「まぁ、久々に二人がイチャついてるの見れたから大目に見るけどさ〜」
「いや、アタシたちは初めてなんですけど…」
「ふふっ、とても儚いじゃないか」
「い、今のは忘れて!」
「それは無理でしょー。ね?」
「そうですね」
「うぅー」
アタシが三人と話してる間に雄弥がまた井戸の方に行ってた。今度は麻弥と一緒に井戸を覗いて何か話し合ってる。
「ユウくん、麻弥ちゃん。何話してるのー?」
「実はこの井戸埋められてるようで、人を引きずり込むのは無理そうなんですよ。それなのになんでこんな噂が出てるのか気になりまして、それを雄弥さんと話してました」
「え?…あ、ほんとだー」
「…たしかに、浅いですね」
「たしか、生徒の安全のために大分昔に埋められたって話だったね。すっかり忘れていたよ」
「ちぇー。これならお化けも出てこれないね〜」
「で、出てこなくていいから!」
「それじゃあ面白くないじゃん。ね?薫くん」
「そうだね。出てきたら一緒にワルツを踊れたのにね」
だから出てこなくていいんだってば!…もうやめようよ、お化けの話は。そんな話したくないよ。
アタシが雄弥の服を引っ張ると雄弥が頭を軽く撫でてくれて、その後手を握ってくれた。それで少し落ち着いたところで麻耶が口を開いた。
「リサさんってこの手の話がとことんダメなんですね」
「ま、まぁねー。この井戸だって一人で覗いたら埋められてなくて引きずり込まれるとかだって思っちゃうし」
「それならいっそ詳しく調べてみましょう。こういうのは調べたら案外大したことじゃないってのが多いですから」
「そ、そうなの?」
「それ面白そう!今からお昼休みだし、色んな人に聞いてみようよ!」
「え、ほんとに調べるんですか?」
「それで怖くなくなったらるんっ♪て感じじゃない?」
「いいアイディアだね。稽古でも使うところだから演劇部の子もこれで怖がることはなくなるだろうし」
「では手分けして探しましょうか。二手に別れるのがいいですかね」
「それなら勝手ながらお願いがあるんだ。湊雄弥くんと同じグループにしてもらっていいかい?…聞きたいこともあるんだ」
「いいですよ。では、薫さんと雄弥さんと日菜さん。もう一つは自分と美竹さんとリサさんで」
「おっけー!張り切っていっちゃおー!」
雄弥とは別か…。まぁ薫の珍しい頼みだし、それぐらいはいっか。…なんの話をするのかわからないけど。
〜〜〜〜〜
「それで?俺になんの話があるんだ?」
「あぁ。その前に場所を移そうか。ここは子猫ちゃんたちが多すぎる」
「それなら屋上がいいんじゃない?」
「そうだね。着いてきてくれ」
役に入ったような言い回しが残っているが、それでも瀬田が真面目な話をしようとしてるのはわかった。雰囲気が変わったからな。日菜もわかってるようで、いつものような明るさを抑えていた。
「…うん、他の子たちもいないようだね」
「安心安心」
「で、聞きたいことというよりも、確かめたいんだろ?」
「!…そこまでお見通しなのか。すごいね。……実は私と千聖は幼馴染でね。それで君のことを聞いていたんだよ」
「あまりそういう話はしなさそうだったが、そうでもないのか?」
「いや、君の言う通り千聖はあまりこういった話はしない。君がゲストとして来るとは知っていたからね。それで千聖にどんな人か聞いたんだよ」
なるほど、白鷺から話したんじゃなくて、瀬田が白鷺から聞き出したのか。ま、事務所も同じだからそうするのが妥当だな。
「初めは君の人となりや評価を聞いたのだがね、最後に気になることを言われたんだよ」
「"人形"だろ?」
「…ああ。あくまで今の君の状態を一言で言うなら、という前提があるのだがね。…実際に会ってみてわかったよ。なぜ千聖が君のことを"人形"というのかを」
「…千聖ちゃん、ユウくんのことそんな風に言ってたんだ」
「日菜、白鷺に怒るなよ」
「……うん」
本当にわかってるのか?…なんかきっかけがあれば怒りそうな気がするんだが。
「千聖は君を"人形"と呼んだが、私はそうは思わない」
「は?わりと的を得た表現じゃないか?」
「たしかにね。…俳優と役者の違いと思ってくれ。受け取り方が若干変わるのだよ」
「なるほど」
「役者の私からしたら、君は今役者になりきっているように見えるよ」
「…薫くん、それってどういうこと?」
「千聖は"人形"と言った。それは空っぽで"自分"というものが消えているからだろう。ただ、役者からしたら"自分"を消すのは当然なんだ。なぜなら役者は自分を出したらいけないからね。その役になりきる。そこに自分の要素を加えてはいけない」
「…俳優の役作りは自分というものがあっても役を演じれていればそこまで問題はないからな」
「そういうことだ。だから私は君のことを役者だと表現させてもらおう。君は今、周りが望む
俺が俺を演じている、か。なるほどな。上手いこと表現するな。…どうやら俺が元に戻るにはもう少しかかってしまうようだ。
井戸の謎の話は実に大したこともない話だった。演劇の役作りをして、練習していた薫がお化けだと勘違いされ、そこに日菜が現れて二人一緒に井戸に落ちたのが噂の原因らしい。リサは「人騒がせ」と文句を言っていたが、第三者からしたら勘違いするのも仕方ないだろうな。
さて、麻弥も言っていたが、七不思議の一つが勘違いなら、本当のもう一つは何なんだろうな。