陽だまりをくれる人   作:粗茶Returnees

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19話

「ライブ?」

 

「うん。来週の土曜日にアタシ達のライブがあるから、それを見に来てほしい」

 

「もちろん見に行くぞ」

 

「ありがと♪…今度のライブはアタシの全てを込めるから、一瞬も目を離さないでね」

 

「わかった」

 

 

 修学旅行から帰ってきたリサたちは、平日ながらも今日は休みらしい。修学旅行中も電話をしていたから、ある程度のことは聞いている。大体は思っていたとおりだったが、紗夜の日菜への接し方が甘くなったことは驚きだ。紗夜はどちらかというと不器用だから、もっと時間がかかると思っていた。

 そんなことを思っていたらリサに袖を引っ張られ、目を向けると不満そうに頬を膨らませていた。

 

 

「どうした?」

 

「他の女の子のこと考えてたでしょ?」

 

「…そうだな。紗夜が思ってた以上に丸くなったと思ってな」

 

「…まぁそれはアタシも思ったけど、今は二人きりなんだし他の子のことは考えないでよ」

 

「わかった。ごめんな」

 

「ん♪」

 

 

 リサの頭を撫でると、リサは嬉しそうに目を閉じて体を預けてくる。それをしっかりと受け止め、久々に過ごすこのゆったりとした時間を味わうことにした。

 しばらくその時間を満喫していたが、今日は二人で出かけようと話をしていたことを思い出し、リサの肩をポンポンと叩いて合図を送った。

 

 

「そろそろ出るの?」

 

「そうしようと思ってな。今から出て少し早い昼ご飯にしてから買い物でいいだろ?」

 

「うん。それでいいよ」

 

「支度は?」

 

「できてる」

 

「流石だな。それじゃあ出るか」

 

「うん」

 

 

 当然のように、自然とお互いに手を差し出して重ね合う。指を絡めさせたらリサと肩を寄せ合い、ほぼ密着してるような状態で家を出た。

 

 

「それで、どこに行く?」

 

「アクセショップに行きたいかな〜」

 

「ならまずはそこに行くか」

 

「うん!」

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 アタシがいつも行くアクセショップに着いて、新しく出たやつを見ていく。そういえば衣装は燐子に全部任せてるけど、衣装に使うアクセとかを燐子はどこで買ってるんだろ?

 

 

「アタシが知らないとこもまだまだあるのかな…」

 

「なんの話だ?」

 

「アタシ達の衣装に使ってるアクセのこと。燐子に任せてるんだけど、どこで買ってるんだろうなって思って」

 

「なるほど…。燐子に教えてもらったらいいんじゃないか?」

 

「そうしよっかな。…それなら今度燐子と一緒に買い物に行くよ。いつも全部任せちゃってるし」

 

「ああ。…それにしても衣装も含めて全部自分たちで用意するのってすごいよな」

 

 

 珍しく雄弥が感心したようにそんなことを言ってきた。アタシ達はそれでやってきたから何とも思って無かったけど、雄弥に言われるってことは結構凄いことなのかな?

 

 

「俺達は衣装の考案はしても作るのは委託してるからな」

 

「あ、そっか。…んーでも、周りのバンドの子達も自分たちで衣装作ってるんだよね〜」

 

「…たしかに。衣装作りってそんな簡単じゃない気がするんだがな」

 

「あはは、そこはアタシ達が勝ってるとこかな〜」

 

「ま、今さら自分たちで衣装作ろうとも思わないけどな」

 

「雄弥はそうでも結花とかノリノリで作りそうじゃない?」

 

 

 鼻歌歌いながら衣装作りに励む姿が想像できるよ。それで完成できたらメンバーよりも先に友希那に報告するとこまでがセットね。

 

 

「リサは知らないのか」

 

「何が?」

 

「結花はそこまで裁縫できないぞ」

 

「うそ!?」

 

「本当だ。友希那ほど壊滅的じゃないがな。…ま、練習してたら凝ったやつまで作れるようになるだろうが、現時点じゃ衣装作りは無理だな。マフラーなら作れるらしいが」

 

「一応それって女子力高いんだけどね〜」

 

「衣装を作れる子が周りにいるせいで感覚が狂うな」

 

「あ、あはは…そうだよね」

 

 

 アタシも裁縫はできるけど、たぶん結花と同じぐらいかな。マフラーとか手袋までだね。燐子みたいにあんな凄い衣装作れないよ。…料理なら得意なんだけどね。雄弥も得意だからな〜。

 

 

「リサどうかしたか?」

 

「ううん。なんでも」

 

「…そうでもないだろ?何かあるだろ?」

 

「…見抜かれちゃうか。…アタシって女子力あるのかなーって。燐子みたいに服を作れるわけじゃないし。料理だって雄弥と同じぐらいだし」

 

「馬鹿か」

 

「あたっ。雄弥?」

 

 

 アタシの頭を優しくチョップした雄弥は、心底呆れたような雰囲気を出してた。表情はあんま変わってないんだけどね。

 

 

「裁縫の方はともかくとして、料理はリサの方が上手いだろ」

 

「そうかな?雄弥のほうが上手に作ると思うんだけど…ほら、海の家の時とか」

 

「あれは作りやすい料理だったからだ。俺は作れる料理のレパートリーが少ない。数少ないレパートリーを上手く作れるようになっただけだ。な?断然リサの方が料理できるだろ?」

 

「うーん…そう言われてもな〜」

 

「なら今日は二人でご飯作るか。それで分かるだろ」

 

「変な証明みたいになってるのが気になるけど…、まぁいっか。雄弥とご飯作るの楽しいだろうし!」

 

 

 アタシの手料理を食べてくれることはよくあるし、いっつも美味しいって言ってくれるけど、アタシは満足した出来の方が少なかったりする。半分はアタシの実力不足だと思うし、もう半分は雄弥だから(・・・・・)ってのもあると思う。

 

 雄弥が心から笑ってくれたことがないから。

 

 だからアタシはまだまだだって思う。でも、雄弥と一緒にご飯を作ったらきっといつもより上手に作れる。乙女の勘ってやつかな♪

 

 

「料理の話になっちゃったが、アクセサリーも見るだろ?」

 

「そうだね!雄弥に買ってもらったやつがあるから、買うわけでもないんだけどね〜」

 

「ウィンドウショッピングだな」

 

「うん。けどそれも楽しいじゃん!」

 

「リサが欲しいやつなら買うぞ?」

 

「ううん。いいの。どんなのが出てるか見たかっただけだし」

 

「そうか」

 

 

 アタシ達はアクセショップに置いてあるのをゆっくり見て回った。アタシが気になったのがあるとすぐに雄弥が気づいてくれて、アタシがつけたらどうかを言ってくれた。似合うって言ってくれる時もあれば、それならこっちのほうがってはっきり言ってくれたりした。

 全部褒められるわけじゃないのがいいよね。その分似合うって言われたやつが本当にそう思ってくれてるんだって分かるからね!

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 アクセショップの後は、アタシと雄弥の服を何着か買いに行ってから夕食に使う食材を買いに行った。雄弥ってほんと服に無頓着なんだから!バリバリにオシャレしてほしいってわけじゃないけど、ある程度はしてほしいかな。服を選ぶセンスは良いんだから。

 

 

「夕食は何にするんだ?」

 

「無難に肉じゃがかな〜。作るのは難しくないし」

 

「味の個人差はよく出る料理だけどな」

 

「だからやるってのもあるけどね。雄弥の好みの味つけにしたいしさ」

 

「俺はリサが作る料理ならそれで満足なんだけどな」

 

「アタシは満足じゃないの!」

 

「そっか。…ならリサが満足できる料理にするか」

 

「頑張るけど、雄弥もよろしくね?」

 

「もちろんだ」

 

 

 家に着いたら買った服を片付けて、今から使う食材以外を冷蔵庫に片付ける。買い物に行って食材をある程度余分に買うのは、よくあることだよね。今日は父さんも母さんも帰ってこないから、雄弥と二人っきりでいられる。雄弥に頼んで今日は泊まってもらうことにしたしね。

 

 

「雄弥って肉じゃが作ったことあるの?」

 

「一人で作ったことはないな。何年か前に母さんの手伝いで作ったぐらいだ」

 

「えっ、そうなの?てっきり定番のやつは一通り作れるのかと思ってた」

 

「俺が料理する時は必要に迫られたときだけだからな。だから基本的に手軽に一人分だけ作れる料理しかしたことないな。肉じゃがはあまり一人で食べようと思わないだろ?」

 

「たしかに…。そっか…それで海の家でも焼きそばとかをあれだけ手際よくできたんだね。あれ?でもたこ焼きは?」

 

「それはAugenblickでタコパしたことがあるからだ」

 

「あー、なるほど」

 

 

 たしかに、それなら作れる料理のレパートリーが少ないってのも納得だね。今までは雄弥が作れるやつしか見てこなかったから…。そうなると、今日は雄弥に教えながら作るってことだね!

 

 

「アタシがみっちり教えこんであげるね♪」

 

「お手柔らかに」

 

「はーい♪」

 

 

 食材の切り方の名称は全部知ってるみたいだから教えるのは簡単だった。アタシが雄弥に教えるのって小学校の時以来だと思う。あの時は人付き合いの方法を教えてたけど、今はそれとは全く違う。

 なんか嬉しいな。こうやって雄弥に教えながら同じことをできるのって。

 

 

「それじゃあ食べよっか。味付けは雄弥好みにできたと思うんだけど…」

 

「それは食べてからのお楽しみだな。いただきます」

 

「ど、どうかな?」

 

 

 すっごいドキドキする。今までも雄弥には色々とアタシの料理を食べてもらってきたけど、それはアタシの好みの味付けだった。もちろんそれも緊張するんだけど、今回は雄弥の好みに合わせにいってる。だから余計に緊張しちゃう。

 

 

「うん。バッチリだ。俺が好きな味になってる」

 

「ほんと!?やった♪」

 

「リサも食べろよ?手伝ったとはいえほとんどリサが作ったんだしな」

 

「そんなことないけど…。ま、いいや。いただきます」

 

「リサの舌には合うか?」

 

「…そっか。雄弥はこの味が好きなんだ…。アタシの好みとはちょっと違うね」

 

「ま、一致するとは思ってなかったけどな。次作るときはリサの好みにしてみるか」

 

「へ?いや、いいよいいよ!雄弥の好きな味にしようよ!」

 

それは俺が満足できない(・・・・・・・・・・・)

 

「なっ……、雄弥のバカ。そう言われたら断れないじゃん」

 

「知ってて言った」

 

 

 雄弥も意地悪な言い方するようになったな〜。嬉しいような悲しいような。嬉しさもあるけど、やられたら嫌だね!

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 食器を洗ってお風呂も済ませてあとは寝るだけ。リサと一緒にリサの部屋に来てるが、どこかリサの様子がおかしい気がする。体調が悪いわけじゃないんだろうが…。

 

 

「……ねぇ雄弥」

 

「ん?どうしたリサ」

 

「アタシに、何を隠してるの(・・・・・・・)?」

 

「っ!?…なんのことだ?」

 

「とぼけないで。…今ならわかるんだ。祭りのあの日、雄弥はアタシに嘘をついたよね。ずっと(・・・)は一緒にいれないんだよね?」

 

「…いや、ずっと一緒にいる。それは絶対だ」

 

「うん。そこはそうだろうね。けど、そうなれない理由があるんだよね?そこを教えてほしい」

 

「……」

 

「教えてよ雄弥。アタシ達が歩み続けるためにも教えてよ!」

 

「…ライブの時まで待ってくれ。ライブの後に必ず言うから。それまで待ってくれ」

 

「…わかった。約束だよ?」

 

「ああ。約束だ」

 

 

 リサに口を重ねられそのまま押し倒される。まさかリサに気づかれるとは思っていなかっただけに動揺が大きく力が入らなかったからだ。リサという愛おしい存在を感じながら、己の弱さを実感する。

 リサはきっと自分が悲しむと分かっていながら聞いてきたんだ。それなのに俺はその話を先延ばしにした。逃げるなと、リサと向き合えと言われていたのに。

 

 俺はこの選択を後悔することになる。先延ばしにしなければと、約束を破らなければと。だが、もう後には戻れない。

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