氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第十二話 伝統ある古典部の推理 (けつ)

 既に外は日が落ちかけており、橙色の夕焼けをバックに俺たち男三人は自転車のペダルを漕いでいた。

 当たる風は涼しく、先程の白熱の舌戦にて火照った体を冷やしてくれる。すると、里志が口を開いた。

 

「正直言って驚いたよ。ホータローの案が本当なら、僕達のカンヤ祭は一人の生徒の高校生活の犠牲によって成り立ってるわけだ。けど、それよりも驚いたのは、ホータローとハルの推論についてさ。」

「俺はお前らと同じく、仮説をだしただけだぜ?」

「そんなことは無いよ。君の仮説はほぼ当たっていた……あれだけの資料であそこまで読み取れるなんてね。正直今日で事件の結論がでるなんて思ってもみなかった」

「俺たちの能力を疑ってたのか?」

 

 奉太郎が冗談めかして答えると、里志は愉快そうに続けた。

 

「入学して以来、君たちは様々な謎を解いてきた。《密使の部室》、《愛なき愛読書》、《壁新聞部の部長の件》……、ホータローの場合は《女郎蜘蛛の会》。ハルの場合は《入れ替わりし名作》、《仲間はずれのチョコ》とかね」

 

 《女郎蜘蛛の会》?俺が知らない間に何かあったのか?

 

「たまたまさ……」

 

 奉太郎が返す。

 

 そう、たまたまだ。何度も言うようだが、今まで解いてきた謎は閃しだいでは誰でも分かった事だ。

 俺と奉太郎に特別何かがあるわけじゃない。俺たちは平凡な男子高校生だ。

 

「結果はどうでもいいんだよ。問題は君たちのモットーについてさ。《灰色》のホータローが謎解きなんて《やらなくてもいい》面倒なことを、《無色》のハルが謎解きなんて《厄介な色》を自分のキャンパスに塗るなんてさ。それに君たちが謎解きをしている時は、なんだ楽しそうに見えるんだ」

 

 俺は里志の言葉に首をかしげた。

 確かに資料集めや仮説の作成はやり甲斐があった。たがそれを楽しいとは思わなかったけどな……。

 

「なぜ君たちが謎解きをしたのかはわかってる、千反田さんのためだろ?」

 

 千反田の為、か。そう言われればそうなのかもしれない。《パイナップルサンド》で依頼された時は千反田を助けようと思い、俺というキャンパスに色を塗った。だが……本当にそれだけなのか?

 

 断ることは出来た。《無色》の俺は平凡を望む。なのに、俺は千反田に依頼された時、悩んだのだ。

 

 そう考えているうちに、奉太郎が先に答えた。

 

「いい加減、《灰色》も飽きたからな」

 

 ?

 

「お前らを見てると、たまに落ち着かなくなる。俺は落ち着きたい。だが、俺はそれを面白いとは思わん」

「確かにな……」

 

 俺は不意に声を発していた。

 

「俺も同じだよ。自分に色がないってのは、なんだか味気なく感じる事もあるのかもしれない。だから、今回はお前らに一枚かんでみたんだよ」

 

 里志は、俺と奉太郎の言葉を聞いたあと、少し間を開け答えた。

 

「二人は、《薔薇色》が羨ましかったのかい?」

 

 俺たちは、何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────自室────

 

 

 夕飯を食べ終わった俺はベッドに横たわり、小説を開いていた。

 

『でも……、だったら私は、どうして泣いていたのでしょうか?』

 

 内容が頭に入ってこない。いつもなら物語に浸り、自分が主人公になっているはずだ。だが、今の俺はただの物語を読んでいる第三者に過ぎない。こんなのは俺の読書じゃない。

 

 千反田が泣いた理由?関谷純が退学という最悪の実行主義に当てられたからだろう?それに千反田の依頼内容は『何を聞いたか思い出させて欲しい』だ。『泣いていた理由を思い出させて欲しい』ではない。

 

 こういうのを世間一般では屁理屈と言うんだろうな。

 

 ふと、奉太郎の姉貴の手紙を思い出す。

 

『きっと十年後、この毎日のことを惜しまない』

 

 関谷純は、惜しまなかったのだろうか。

 奴は反発運動のリーダーとして生徒達を率い、そして伝説的な勝利を収めた。自分を犠牲にして。

 

 そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まてよ、たかが文化祭?そうだ、()()()文化祭だ。

 

 その時、俺の中で塗り潰されそうになりつつ有る千反田の問題が、白の絵の具の下から滲み出てくるのを感じた。

 

 仲間のために殉じて、全てを(ゆる)す。こんな英雄がいてたまるか……。高校生活は《薔薇色》のはずなんだ、これは《薔薇色》なんて言えない。関谷純は俺と同じだ……《無色》だったんだ。だから染まった、染められた!!

 

 俺は乱暴にベッドから起き上がると、リュックサックから今日の資料をすべて取り出し、並べる。

 

 考えろ、考えるんだ。読み取れ、この資料から全てを。関谷純がなぜ《薔薇色》を捨てたのかを……

 

考えろ!!!!

 

 今までの全ての記憶が、推測が、俺の脳内を駆け巡った。

 

 

 

『あれは英雄譚などでは決してなかった』

 

『もう一年になる』

 

『非暴力的不服従が……』

 

『果敢なる実行主義により』

 

『友に裏切られた先輩は……』

 

『学力重視を……』

 

『氷菓?』

 

『覚えていてはならない』

 

 

『でも、だったら私は、どうして泣いていたのでしょうか?』

 

 

 

 

 俺は、瞳を開ける。

 机に置いてある携帯を取り、開く。すると

 

 ピロロロロ……!!

 

 着信 折木家

 

 俺はニヤッと笑うと、携帯を取る。

 

「遅いぜ奉太郎」

 

『悪い。お前も感じたんだよな、違和感を』

 

「あぁじゃぁ早速……」

 

 

 

「答え合わせと行こうぜ、奉太郎」

 

 

 

 

 

 

 

 





次回《氷菓》
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