氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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古典部達の夏休みを描いた短編集です。


古典部達の休息 夏の巻
晴と晴香


 ────ミーン、ミンミンミン

 

「ミーン、ミンミンミン♪」

 

 イライラ

 

 ────ミーン、ミンミンミン

 

「ミーン、ミンミンミン♪」

 

 イライラ

 

 ────ミーン

 

「うるせぇ!!」

 

 夏休み。《氷菓》の件が解決して一週間、八月にも突入し夏休みも四分の三を切った。

 それなのに……今俺がいる場所は地学講義室。その他にも、奉太郎、千反田、里志、伊原が席についている。

 

「ちょっと南雲、なんで蝉にイライラしてんのよ」

「そうですよ。ミーン、ミンミンミン♪ですよ」

 

 わけわからん。

 

 蝉は嫌いではない。『昔は触れた』が代名詞である蝉ではあるが、未だに触ることも出来るし、捕まえられる場所にいようものなら思わず掴んでみたりするものだ。

 俺がイライラしてるのは、ここに俺たちを呼び出した()()()が姿を表さないから。もう十分過ぎてんぞ。……と思った時、奴は現れた。

 

 突如地学講義室のドアが勢いよく開かれ、夏だというのに元気な声で奴は口を開いた。

 

「おっす!!古典部の諸君!!」

「勘解由小路さん!?」

 

 来たか、晴香。

 

「誰だ?」

 

 奉太郎と伊原が首を傾げる。そうか、こいつらは会うの初めてだったよな。里志は顔くらいは認知済みらしいけど。

 言われなくても、里志が説明を

 

「奉太郎、摩耶花、この前話したろう。勘解由小路さんはね」

 

 ほらみろ

 

「《桁上がりの四名家》に対抗できる神山の名家、畜産の勘解由小路家の息女だよ。勘解由小路家が育てた神山発祥の神牛はこれまた絶品さ」

 

 何とも大袈裟に里志は両手を合わせ、舌をペロッとだす。

 

「おっ、絶品とは嬉しい事言ってくれるねぇ……。じゃぁ初めの人に自己紹介!」

 

 晴香は部室に足を踏み入れると誇らしげに自分の旨に手を置き、口を開いた。

 

「はじめまして。勘解由小路晴香でっす。趣味は書道に読書と、晴をイジる事。嫌いなものは、不機嫌な晴!!よっろしくぅ!!」

 

 沈黙。晴香のノリに付いていける者はなかなか居ないからな。しかし、こいつはめげない。

 

「ハル、知り合いなのか?」

「知り合いじゃない、とは言えない。まぁちょっと縁があるっていうか……。それで今日は何しに来たんだ晴香。俺らを神聖な夏休みに集めるなんてよ」

「何しに来たって、約束を果たしに来たんだよ」

「約束ぅ?」

 

 なんの約束だ?こいつと約束なんて……あっ。

 

「千反田と書道部の体験に行ったやつか?」

 

 そういった途端に千反田も思い出したのか、顔をパァっと上げる。椅子から立ち上がり俺の前に立つ。

 

「そうです!!勘解由小路さんと南雲さんの関係を教えてもらうんでした!!」

「関係?確かに、二人って仲良さそうに見えるね」

「なんだい、千反田さんは知らないのかい?勘解由小路家と南雲家の関係を」

「ほえ?福部さんは知ってるんですか!?」

「当たり前だろ?神高データベースを舐めないでよ。ハルと勘解由小路さんの関係はハルと出会った日に調べたよ」

「はぁ!?お前知ってて黙ってたのか!?」

 

 里志は両手を上げながら答える。

 

「データベースは結論を出せないだけじゃなくて、結論も言わないんだ。」

 

 もうお前はいい。

 しかし、正直、俺と勘解由小路家の関係を言い出すタイミングも失ってて、どうしたものかと思ってたところだし。いい機会だ。ただ、これをネタに茶化される可能性も高くなったがな。

 ちょっと遊んでみるか。

 

「まぁ待てお前ら」

 

 俺は晴香の隣に移動し、肩に手を置く。

 

「こいつと俺の関係を知りたくば、ちょっとしたゲームをしないか?」

「ゲームだって?」

 

 里志が何やら嬉しそうに問いただす。

 

「あぁ、ゲームだ。」

「ちょっ、ずるいですよ南雲さん!書道部の体験に行ったら教えてくれるって勘解由小路さんが……!!」

 

 千反田はオロオロした様子で俺に詰め寄るが、それには動じない。

 

「せっかく学校に来たんだ。関係を知って、はい解散というのも、味気ないだろ?まぁ簡単なナゾナゾだよ」

「へぇ……いつもはハルやホータローが解く謎を僕らに君が提示するわけか。面白いじゃないか!その謎、ホータローが乗った!」

「なんでだ……」

「古典部の探偵役同士の対決……燃えるじゃないか」

 

 ホータローは千反田と伊原にも詰め寄られる。千反田の目はアメジスト色に光り輝いており、《興味》への関心が高まっている。奉太郎は溜息をついた後、答えた。

 

「手短に頼むぞ……ハル」

「手短に終わるかはお前次第だ」

 

 俺達は数秒間視線をぶつけ合わせる。

 そして、晴香が口を開いた。

 

「おーおー、なんだなんだ!?いつになく燃えてるねぇ晴。面白い!お姉さんもその勝負に乗った!折木くんだっけ?君が晴の問題に答えられたら、私と晴の関係を教えてしんぜよう!!」

 

 俺は軽くニヤッと笑ったあと、頭の中で組み立てた問題文を口に出す。

 

「問題」

「お願いします!折木さん!」

「頼んだわよ、折木」

「期待してるよ。ホータロー」

 

 

「あるパーティーの参加者には一から千までの番号札が与えられた。その後パーティーで殺人事件が発生…死因は撲殺。ダイイングメッセージには血で書いた刃物の絵。さて、犯人は何番の参加者でしょうか?」

 

 

「死因が撲殺なのに、メッセージは刃物の絵?不思議ね……」

 

 伊原は呟く。千反田と里志も顎に手を当て考えるが、答えが出ないのか頭を抱え出す。

 

「南雲さん!ヒントをお願いします!」

 

「はえぇよ。仕方ない……この問題のヒントとなるのはアイツだ」

 

 俺が指を指した方向には、一冊の本。それは

 

「《氷菓》!?」

 

 千反田の驚愕の声に、俺は軽く頷く。

 

「あぁ、そして、この問題は()()()()()()()()()()。いいか?初心に帰れ、無駄なことを考えるな。」

()()()()()……なるほどな」

 

 奉太郎の呟きに、この場の全ての視線が奉太郎を向く。ちょっとヒントやり過ぎたか?

 

「早すぎ……」

 

 伊原は不服そうに奉太郎を見つめる。舌打ちが聞こえたみたいだけど、空耳ということにしておこうか。怖いし。それと、怖いし。

 

「なにか思いついたみたいだね。」

「教えてください!折木さん!」

「分かった分かった……いいか?」

 

 奉太郎はゴホンと咳払いをし、喉の調子を整えたところで話し始めた。

 

「いいか?こいつが言った《氷菓》がヒント、というのは、検討会の俺たちの反省をさせようとしていたんだ」

「検討会の反省?」

 

 奉太郎は頷き、続ける。

 

「俺達は無駄な事ばかりを調べすぎていた。《氷菓》だけを見ていれば、あんな壮大な話し合いなくとも真相に辿り着けていたはずだ。だからこいつは言ったんだ。『無駄な事は考えるな、初心に戻れ』とな」

 

 おぉ、奉太郎が一番最初に解くとは思ってたけど、ここまで推理されるなんてな。

 

「死因が撲殺だとか、血で書かれた……は完全なミスリードということになる。被害者がダイイングメッセージを書く理由は、間接的に犯人を教えるため。つまり注目するのはダイイングメッセージの刃物の絵で充分なんだよ。そして、《氷菓》から与えられたヒントはミスリードだけではない。アイスクリームのように、語呂合わせになっていた」

 

「刃物の絵……殺人に使う刃物といえば代表例はナイフ。ナイフを数字に言い換えると。ナは九、イは一、フは二……つまり犯人は、九百十二番の参加者だ」

 

 俺は数回拍手をしたあとに口を開いた。

 

「早すぎだろ……もっと考えろよなぁ」

「手短に…と言ったろ?」

「違いない。正解だよ」

 

 次の瞬間、待ってました。と言わんばかりの表情で千反田と伊原が目を光らせながらこちらを向く。

 あまりにも早く問題を解かれたのを煽るかの如く、晴香が俺の頭をつつくがそれを払ったところで、俺は口を開いた。

 

「分かったよ教える。俺と晴香の関係は」

 

 俺は三文字の口にした。辺りは数秒間静寂に包まれ、そして

 

 

「「従姉弟!?」」

 

 

 千反田と伊原も驚きつつ興奮した声が部員の中を反響した。そして、晴香は付け足すように説明を加える。

 

「そう。私のお父さんの妹が晴のお母さん。勘解由小路家の正統継承者(せいとうけいしょうしゃ)の資格は長男、長女に与えられるからね。晴のお母さんは晴のお父さんの名字になったってわけ」

 

 次いで俺も口を開く。

 

「これは余談だが、俺も一応生まれは神山だぞ。育ちは東京だけどな」

 

 すると伊原は未だに驚きを隠せない様子で口を開いた。

 

「じゃぁつまり古典部には、ちーちゃんと南雲……、二人も神山の名家の血統者がいるってこと?随分豪華ね」

「人を装飾品みたいに言うな。俺は勘解由小路家で育ってないから結果論でいえば一般人だ」

 

 千反田は戸惑いつつも言った。

 

「千反田家と勘解由小路家は言ってしまえばら共営関係にあります。千反田家で育った作物を勘解由小路家の牛に、勘解由小路家の牛の糞を肥料として千反田家は使用しています。勘解由小路家は縁が深い家系とは思っていましたが……勘解由小路さんに従弟がいたなんて、知りませんでした!」

 

 千反田の反応は面白い。せっかく言ったんだ、これくらいの反応してくれなきゃ困るぜ。それに加えて……

 俺は後ろに座る奉太郎と里志の方に視線を移す。

 

 あいつら、里志は知ってやがったし、奉太郎はてんで興味ないって感じだし。ちくしょう!!

 

 視線を戻すと、千反田が言葉を続けようとしていたので耳を貸す。

 

「じゃぁ南雲さんの今年に引っ越してきたというのはお母様の帰省という事ですね!今度ご挨拶に伺っても?」

「来てねーよ」

「へ?」

「勘解由小路家に今来てる南雲家の人間は俺だけだ。父さんも母さんも東京だよ」

「えっと、それはどういうことでしょうか?」

 

 俺は軽く俯く。隣で晴香の「やっちまったなぁ」という呟きが聞こえた。

 

「じゃぁこれで俺とコイツの明らかになったし……俺は帰るぜ。またな」

「え?南雲さん…!」

 

 俺は何も言わずに、部室をあとにした。

 

 俺はもうこの場には居なかったから分からないが、こういう話が繰り広げられたらしい。

 

「何よアイツ……突然」

「なんか怒ってなかったかい?ホータロー」

「あぁ……」

「か、勘解由小路さん……!私、私……!!」

 

 俺を怒らせてしまったと思ったのか、少し潤んだ目で晴香に聞いた。

 

「あー泣くな泣くな、える。大丈夫。晴はあんなんで友達を嫌うやつじゃないよ」

「で、でも私、南雲さんを怒らせて……」

「あれは怒ってるんじゃないと思うよ。多分……思い出したんだよ」

「家族となにかあったんですか?」

 

 奉太郎は立ち上がり、晴香に聞く。晴香は俺が去ったドアを眺めながら、答える。

 

「んにゃ、家族じゃなくて、あっち(東京)の友人関係らしいけどね。私も叔母さん、晴のお母さんからしか聞いてないけどさ」

「なにがあったんですか?引っ越してまで距離を取ろうとするなんて……」

 

 里志の質問に、晴香は答える。

 

「ごめんな。あんまり他言できる話じゃない。ただ言えるのは、アイツは悪くないと思うんだけどね。多分あいつが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でも」

 

 晴香は一度古典部全員の顔を眺めたあと、言った。

 

「晴は君たちの事を信用してると思うんだ。だからいずれアイツから話すと思うよ。その時はアイツの話を聞いて欲しい……いいかな?」

「特に折木くん。君は、晴に一番信用されてるんじゃないか?」

 

 奉太郎は「はぁ」と溜息をついた後、口を開いた。

 

「話を聞くぐらいなら、誰でも出来ますしね」

「違いない。それじゃぁ今からうちに行って、晴を元気にしに行くぞ!!!お前らついてこい!!」

「なにぃ!?」

「よしっ!いい方法を思いついたんだけど……やるかい摩耶花!?」

「もっちろん!南雲のアホ面見に行くわよ!」

「わ、私も謝りに行きます!!」

 

 この時、晴香は思った。

 

 よかったな晴。お前を心配してくれる奴は……、こんなにもいるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────自室────

 

 

 机に突っ伏していた俺は手紙用の用紙と睨み合いをしていた。そして、筆を進める。

 

 

 前略

 

 ────殿

 

 

 お前に何も言わず勝手に引っ越して悪かった。こっちは元気だ。

 

 古典部に所属している。面白い奴らばっかりだよ、お前にも紹介してやりたい。……いや、すまん、やっぱり部活動の話はやめよう。

 

 ……お前は、俺のことを恨んでるか?そうだよな、俺は()()()()()()()()。俺の行動で、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 当分は神山にいるよ。決心がついたらそっちに顔を出そうと思う。

 

 出来れば返事が欲しい。

 

 またな。

 

 南雲晴

 

 敬具

 

 

 

「ふぅ……」

 

 俺は手紙を四つ折りにすると、それを封筒に入れる。

 ポストに出しに行こうと、部屋のトビラを開けようとした、その瞬間。

 

 

「たのもーーー!!!」

 

 

 晴香や古典部の連中が俺の部屋に突入。

 俺は口をあんぐり開きながら、馬鹿ども(古典部と晴香)を見つめる。

 

「はーはっはっはっ!!晴!!貴様勝手に帰るとは何事だ!!」

「あははは!!南雲なにその顔!!」

「いやぁ傑作だね摩耶花……クックックッ……!!」

 

 こいつら……!いつにもなく楽しそうな顔しやがって……!!

 

「な、南雲さん!!」

「千反田?」

 

 千反田は尻餅をつく俺の目の前に座りながら、口を開いた。

 

「ごめんなさい!私……なにも知らずに余計なことを……」

「別にいいよ。言葉の通り、知らなかったんだから」

 

 すると、目の前に右手が差し出される。俺はその手の主をみた。

 

「大丈夫か?ハル」

「お前らが俺の部屋に入ってきた時点で、大丈夫じゃねぇよ」

 

 俺は軽く笑いながら奉太郎の手を掴み起き上がった。

 

「おい晴!お前高校生の癖にムフフ本の一本も持ってないのか!?」

「人の本棚を勝手に見るな!!おい千反田、なぜベッドの下を覗く!!やめろやめろ!!」

 

 この関係はいつまで続くのだろうか。

 

 こうやって何気ないことで笑えるのは、幸せな事なのだろう。

 楽しい時間は、いつまでも続かない。いつかこいつらとも、別れの時は来る。

 だが……

 

 俺はきっと、この関係を後悔することはないはずだ。

 

 

 

 




今回のお話は、この物語のオリジナル長編の伏線回です。

書くのは随分先になると思いますが、このお話を心の片隅に置いていただければ嬉しいです。

次回《夏祭り》
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