氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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2021年 5月26日
現時点で、誤字脱字の修正や会話文の改行等の作業をおこなっています。


第1章 氷菓
第一話 伝統ある古典部との邂逅


 高校生活と言えば薔薇色、薔薇色といえば高校生活。

 

 そうみんなが口を揃えていうほど、高校生活は薔薇色として扱われてるよな。西暦二千年の今では果たされていないが、広辞苑に乗る日も遠くなはないだろう。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 さりとて、全ての高校生が薔薇色を望んでいるかと言われれば、俺はそうは思わない。

 

「ちょっと、どいてどいて!!!」

「なんだ……?」

「一年じゃね?」

「入学式から遅刻かよ」

 

 例えば、勉学も、スポーツも、時には色恋沙汰も興味を示さない人間もいるのではないのか……と。

 

 いわゆる、灰色を好む生徒がいてもおかしくはないんじゃないか?

 

「一年B組……ここか!!」

 

 激しく息を切らしながら教室のドアを開けた俺は、まず目の前の教卓に視線を向ける。

 

 立っていたのは縁なし眼鏡をかけた若い男、紺色のスーツの中には縞模様のネクタイが絞められており、ネクタイピンも備え付けられている。

 

 次に、俺は視線を斜め左に向ける、四十個ほどの机と、それに座る俺と同じ制服を来た生徒達は突如として現れた俺に視線を向けていた。

 ︎︎そして教卓の前に立つ担任は、俺を指さし、言ったのだ。

 

「お前、クラス委員な」

「……は?」

 

 まぁそれって、ずいぶん悲しい生き方だよな。

 

 

 

 

氷菓

〜無色の探偵〜

 

 

 

 

 

 

 

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 衝撃の入学式から一週間の時が流れた。

 

 入学式のあの日、まだ神山に引っ越してきたばかりの俺こと、《南雲晴(なぐもはる)》は自宅付近で迷子になるという珍プレーの他に、着いたと思ったら別の高校の入学式に紛れてしまうという醜態を晒した。

 

 そして遅刻の罰として、ちょうど俺が教室に入る直前に決めようとしていた、誰も立候補しようとしない《クラス委員》に抜擢されたってわけだ。

 そして、今もこうして放課後にまで学校に残り、クラスの奴らのプリントを整理してる……。あまりにも慈悲深い俺に乾杯。

 

「ホータローに自虐趣味があったとはね」

 

 聞こえてきたのは隣の席からだ。確か名前は……《福部里志(ふくべさとし)》。

 クラスは違うが、よくこの教室に遊びに来ているので名前は覚えた。

 

 で、福部が話しかけてる奴は……

 

「俺が灰色だって?」

「そう言ったかな?けど、勉学にもスポーツにも色恋沙汰にも興味が無い、何に対しても後ろ向きの君は《灰色》そのものじゃないの?」

「別に後ろ向きな訳じゃない。《やらなくてもいいことならやらない、やらなければいけないことは手短に》、だ」

 

 《折木奉太郎(おれきほうたろう)》。福部とよく一緒にいるけど性格は全くと言っていいほど真逆で、こいつが目立った行動をしているところは見たことがないな。

 やらなくてもいいことならやらない……か。

 

「ところで、君はどうだい?南雲くん」

「え?」

 

 突然話しかけられた事で困惑した俺は、裏返った声で福部の呼びかけに答える。

 てか、なんでこいつ俺の名前知ってんだ?

 

「なんの話?」

「ホータローの在り方についてさ、それが一体灰色なのかそれとも薔薇色なのかさ」

「うーん……」

 

 俺は折木の方へ視線をずらす。そして、少し考えた後、答えを発した。

 

「人それぞれなんじゃないかな?」

「へぇ、その心は?」

「なんていうか、灰色だとか薔薇色だとかは人によって違うって思うんだ。大勢でいなきゃ不安って人もいるし、一人でいる方が落ち着くって思う人もいる。結局は人の心情さ。折木が《灰色》だと思ってなくても福部は《灰色》だって思うんだろ?けど折木と同じ考えを持つ奴はそれを《灰色》だとは思わない……だからそれは自分で決めるものだよ」

 

 ︎︎興味なし、という態度で聞いていた折木は鼻を鳴らした。

 

「南雲の言う通りだ。灰色、灰色ってお前に言われる筋合いはない」

 

 折木は「話は終わりだ」と言わんばかりに手をひらひらと振り、言った。

 

「とっとと帰れ」

「帰れ?珍しいね」

「なにがだ」

「無所属のホータローが放課後にまで学校に残るなんて事さ。何か用でもあるのかい?」

「あぁ」

 

 そう言うと折木は右ポケットから一枚の半紙を取り出す。福部はそれを受け取ると、目を見開きこの世の終わりのような表情を作る。

 

「そんな!まさか!」

「お前は心底無礼だな」

「入部届けって……、一体どういう心境の変化だい?えっと……古典部?」

 

 福部の呟きに俺は少し驚いた。そして、ポケットに入っている《あれ》に触れる。

 

「姉貴に頼まれてな……これは断れない」

「なるほど、お姉さんの頼みか……そりゃ、やらなくてもいいことも、やるべきこと、になるね」

 

 すると福部は妙に明るい声で、入部届けを折木に返しながら言う。

 

「確か古典部には部員がいなかったよね?古典部の部室はホータローの独り占めじゃないか!結構いいもんだよ。学校の中にプライベートスペースを持てるって言うのはさ!」

「なにがプライベートスペースだ、馬鹿馬鹿しい。教室は公共空間だろ?」

「ものの例えってのを分かって欲しいね。行ってらっしゃいホータロー、あぁ僕は手芸部の方にいるから、寂しかったら呼んでくれても構わないよ!」

「いらん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ファイト!ファイト!ファイト!」

 

 折木の後を追うように教室を出た俺の耳に、校庭から運動部の威勢のいい声が聞こえてくる。

 ああいうのを薔薇色って言うんだろうな……。

 

 ここ、神山高校は生徒数も立地も、さほどの大きさ多さではない。

 

 総生徒数は千を越すか越さないか程だろう。一応この辺では進学校で通ってるらしいけど、部活動での文化祭の出し物が人気なだけで特に学業でこれといった功績はない。……お!

 

 長い廊下の遥か彼方に、かったるそうに歩く一人の少年がの姿を俺は捉えた。

 俺は足の動きを早め《彼》に近づき、その背中を叩いた。

 

「よっ」

「南雲?」

「さっきも思ったけど、俺の名前知ってんだな折木」

「隣の席だからな……嫌でも覚える。……で、何の用だ?」

「いや、こいつを見ろ。折木」

「……っ!?お前……こいつは」

 

 俺がドヤ顔で折木に見せつけたのは、先程折木が福部に見せたものと同じ紙……入部届、そして部活名は……

 

「俺も入るんだよ、古典部。だから一緒に行こうぜ」

「お前も物好きだな……なんでまた古典部なんかに?」

「入ろうとしてるお前が言うか?えと……まぁ特にこれといった理由はないけど……部活入ってた方が進学の時とかに役に立つだろ?それに古典部は部員いないって聞いてたし、名前だけ借りよっかなって」

 

 折木は理由を聞いた途端に「はぁ」と息を漏らし、答えた。

 

「俺といいお前といい、ろくな理由じゃないな」

「違いない……鍵は?」

「もう取った、行くぞ」

 

 俺は先をスタスタと歩く折木の後ろを追いかける。

 古典部の部室は特別棟四階……神高のなかでも最辺境だ。

 

 四階まで上がる途中で、三階との踊り場でハシゴを持った用務員とすれ違った。俺と折木はどちらともなく頭を下げると、向こうも軽く頭を下げてきた。

 そして四階へ到着し、俺たちはさらに奥に進む。地学講義室。どうやらここが部室だろう。

 俺はドアに手をかけ開こうとするがビクともしない。当然だ、なんせ鍵がかかってるんだからな。

 折木は『ん』とだけ言うと俺に鍵を差し出す。俺はそれを鍵穴に入れ、右に捻る。

 

 俺達は部室に足を運ばせると、眩しいほどの夕焼けが俺たちを照らした。そして、一つの人影を見た。

 

 背中まで伸びた黒い髪、セーラー服がよく似合っており、女子高生というかは一昔前の女学生のような印象を与えた。

 だが、それら全ての印象から離れて瞳が大きく、活発的な印象を残した。

 

「こんにちは、南雲さん、折木さん。あなた達も古典部だったんですね?」

「「誰だ?」」

 

 俺と折木の声が被さる。高校生活が始まって一週間、名前までとはいかないがそれなりにクラスのヤツらの顔なら覚えているつもりだ。

 しかし、俺たちはこの女を知らない……なのに何故こいつは俺たちを知っている?

 

「分かりませんか?《千反田(ちたんだ)》です。千反田えるです!」

「ごめん千反田さん……全然……」

「あなた達はB組ですよね?」

 

 俺たちは軽く頷く。

 

「私はA組なんです」

 

 これで分かったでしょう?という顔を見せる千反田さんだったが、俺はその意味をまるで理解出来なかった。

 そもそも同じクラスのヤツらですら名前を覚えられてないのに隣のクラスのヤツなんて覚えられるか……

 いや、まてよ……。千反田さんはA組……普通に学校生活を送っているとすれば、関わることのない人間だ。あるとすれば、部活動、生徒会、委員会、友人経由……そして……

 

「音楽の授業で一緒だったか?」

 

 俺が答える前に折木が隣で一語一句同じ言葉を発した。

 

「はい、そうです!」

 

 そうだ。ABCの三組合同で行う選択授業、俺と折木は音楽を選択している。そしてこの千反田という女も、音楽を選んでいるのだろう。そして言い当てられた事が嬉しかったのか、笑顔で千反田さんは答えるが、その刹那、俺は心の中で叫んだ。

 

 ────ありえない!音楽の授業はまだ一回しかやってない。つまり、そのたった一回の授業の自己紹介の時に、この女は俺たちの顔と名前を覚えたって訳だ!

 なんて記憶力だよ……。

 

「しかし、千反田さんも古典部に?なんでまた」

 

 不思議そうに俺が聞くと、千反田は俯きながら答えた。

 

()()()()()()です。」

「ほう……じゃぁ俺は帰るてん鍵は閉めといてくれよ」

 

 何故か少し嬉しそうな顔でこの場を去ろうとする折木の腕をつかみ、それを制した。

 

「な、なんで帰るんだよ!?」

「お前と千反田が入部するなら、姉貴の青春の場は守られた。俺はお役御免ってわけだ、薔薇色の青春を送ってくれたまえよ。鍵ならここに置いとくからな」

「いやいや、鍵をとったのはお前なんだから責任もってちゃんと……。鍵をとったのは……折木のはずだよな?」

「何を言ってる、当たり前だ。お前が一番知っているだろう」

「じゃぁどうして千反田さんは……俺たちより先にこの《密室の部室》の中にいたんだ……?」

「鍵がかかっていなかったからです。どなたかいらっしゃると思っていたので」

 

 なるほどな、古典部が部員ゼロ人という情報はそこまで有名じゃないのか。

 

「でも、おかしいな……俺と折木が来た時は鍵はしまってたぜ」

「あぁ、そう言えばそうだな……。南雲が鍵を差し込み、確かに回していた」

 

 すると、千反田さんは意識してか、無意識にか、一歩、二歩と俺たちに歩み寄る。

 

「ということは……私は閉じ込められていた、と。」

「あぁ、そういうことだね……んな!?」

 

 いつの間にか千反田さんが俺達の目の前までグイッと詰め寄ってきていたのだ。鼻同士がぶつかりそうな程近く、吐息が軽く当たる……そして……

 

 身体が動かなかった。千反田さんの俺たちを見る大きな瞳からは、溢れる活力、そして今起きている事象への疑問を捉えることが出来た。

 

 そして彼女は俺と折木が、これからの高校生活で永遠と付き合うであろう言葉を発した。

 

「私……気になります!」

 




いかがだったでしょうか?

第一話だというのにオリ主が今回は目立ちませんでしたが……

感想、またはアドバイスを頂けたら嬉しいです!

この作品は完全に不定期更新にするつもりですので、更新頻度は高くはありませんが……よろしくお願いします!

次回《伝統ある古典部の結成》
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