氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第四話 不可視の侵入

 中城案を却下してから一日。

 

 地学講義室に集まった俺たち古典部は、江波が訪れるのを待っていた。時間を見ると十二時半……江波がやって来るのが一時なのでまだ三十分も時間はある。さて、どうしたものかね。

 

 奉太郎は小説を片手に日差しから遮られた場所に座っている。

 それとは真逆、日差しに炙られる場所から外のグラウンドを見ているのが千反田。あんな場所にいつも座ってるというのに、奴は日焼けのひとつもしていない。お嬢様のメラニン色素はどうなってるんだ?

 里志、こいつも読書。いつもなら常に不気味なほど微笑んでいる里志だが、本を読みながら微笑む程の変人ではないようだ。

 伊原、文集《氷菓》の制作責任者でもある伊原はなにやら文集に手を加えている。『まだ文集を書いているのか』と奉太郎が聞いて怒られていたので、何も言わないことにしよう。

 

 俺の目の前にあるのは夏休みの課題の一つである数学の問題集。俺は古典部ではあるが理系だ。だが別に数学や理科が好きな訳では無い。配られた課題問題集の章末問題が解けずにイライラしているところだ。

 

「ところで」

 

 里志がいつのまにかペーパーバックを閉じて、誰にともなく口を開いた。俺も問題集を閉じ、耳を貸すことにしよう。

 

「ところで、みんなはどれくらいミステリー小説を読んでるんだい?昨日の中城先輩の案を聞いたところによると、ミステリーって言っても一括りじゃまとめられないものが多い。そういうものの差をいっぺん知りたくて」

 

 うむ。昨日の中城案、あれは刑事ドラマを彷彿とさせる展開であった。確かに警察が主体となった小説もミステリーのジャンルに勿論入るし、最近だとキャラクター性に重点を置いた、ライトミステリーなんていうものも出てきている。

 

 伊原が答える。

 

「私は普通よ。クリスティーとかクイーンくらいかしら」

 

 アガサ・クリスティにエラリー・クイーンか。王道だな。

 

「ホータローは?」

「俺は読まんな。黄色い表紙の文庫本をいくつか……」

「日本人作家か、割と固いところだ。ハルは?確かミステリーも読んでたよね」

「俺も王道ばっかりだよ。最近だと、米澤穂信先生とか読んでるぜ。昔はそうだな、コナン・ドイルに手を出した事もある」

 

 俺がそう言うと、待ってましたと言わんばかりの顔で里志は言った。

 

「違うよハル。ドイルは元々歴史小説家さ」

 

 さいですか。

 

「千反田さんは?」

「私は、読みません」

 

 これも聞いたな。

 

「へぇ、意外だね。千反田さんはミステリーファンだと思っていたよ」

「ミステリーは合わないのではないのかと思うほどまでに読みました。ここ何年かは全く」

「お前はどうなんだ?」

 

 奉太郎が里志に聞く。

 

「ぼく?僕は……」

「ふくちゃんはシャーロキアンに憧れてるのよね!」

 

 里志が言い終わる前に伊原が口を挟んだ。

 

 シャーロキアン。聞いたことあるぞ、確かシャーロック・ホームズの熱心なファンの総称だ。

 

「いやぁ、シャーロキアンじゃなくてホームジストなんだけど……」

 

 柄にもなく小声で訂正する里志。何が違うんだよ。

 その後江波が訪れ、俺たちは地学講義室を出た。江波によると今日はC組を確保できなかったようで、彼女らのホームのF組での話し合いだそうだ。

 向かう途中に江波が口を開いた。

 

「今日会ってもらうのは、小道具班の《羽場智博(はばともひろ)》という者です。特に役割はありませんが、でしゃば……、積極的に動いてくれるので細かいこともよく知ってると思います」

 

 ふーん、でしゃば……、積極的に動いてくれてるなら、いい情報を得られそうだな。

 

 伊原が口を開く。

 

「でしゃば……、積極的な人ならどうして役者になってないんですか?」

「なろうとしましたが、多数決で落とされたんです」

 

 全員が苦笑になる。でしゃば……、積極的過ぎたんだろうなぁ。

 F組の前についたところで、千反田が口を開いた。

 

「あの……江波さんは本郷さんと仲がよろしかったんでしょうか?」

 

 ……?なぜそんな質問を?

 

 江波は少し黙ったあとに答えた。

 

「本郷はきまじめで、注意深く、馬鹿みたいに優しく……脆い。私の親友です」

 

 江波は俺達を教室に入れると、どこかに戻っていった。俺たちと羽場と引き合わせてくれないのか。

 中を見ると映画製作のためかかなり散らかっている。用具がほっぽり投げられている様子から、切羽詰まっていることが良くわかる。

 

 そしてその奥、椅子に座る男は俺たちを見るなり立ち上がった。

 

 眼鏡をかけており、中肉中背というには少し細身の男だ。江波の様に健康そうな細身ではなく、不健康そうな。奴が羽場だろう。

 羽場は俺達を無言で席まで誘導させると、わざとらしく両手を広げ名乗った。

 

「君たちが入須の頼んだかオブザーバか。羽場智博だ、よろしく」

 

 差し出された手を俺は代表して握った。その後俺達も自己紹介。羽場は俺たちの名前を何度も復唱し、覚えきったというような顔をしたあと、口を開いた。独特な人だな。

 

「ミステリーの話が出来るんだってね君たちは。うちのクラスの奴らはミステリーに疎くて……困ったものだよ」

「私たちは古典部です。」

 

 羽場の俺たち全員がミステリー好きという勘違いを解くためか、千反田は返した。

 

「古典部?そうか、じゃあつまり、黄金時代のものを読んでいたりするのか?参ったなぁ」

 

 ダメだこの人……根本から勘違いしてやがる。どうやらこの人はミステリーファンらしいな。

 千反田は言いたいことが伝わらなかったのに動揺したのか、隣で目を丸くしながらオロオロしている。席についた俺は千反田の肩に手を当て、『もういい』という風に座らせた。

 

 羽場は未だにブツブツと何かを呟き、一枚の紙を机に乗せる。これは……、劇場の見取り図の本物じゃないか!しかもちゃんと使えない出入口や窓にバツ印を付けている。

 それに気づいたのか里志が声を上げる。

 

「羽場先輩!これは見取り図じゃないですか!」

「なんだ、君たちはこれを貰ってないのか?僕はこれを使って推理を進めていたんだ」

 

 羽場は続ける。

 

「ミステリーを読者と作者の対決と読むのなら、アマチュアの本郷じゃぁ物足りなかったけどね」

 

 まるで自分がプロみたいな言い方だな。自分を棚に上げて人を見下す態度……正直こういう人は苦手だ。だが流石に『だったら先輩が書けばよかったじゃないですか』とは言えない。

 

「ま、本郷も脚本に取り掛かる前にミステリーを勉強していたみたいだけどね。見てみなよ、そこに一夜漬けの跡がある」

 

 羽場が顎だけをある方向に向けると、俺たちはその方向へ視線をずらす。千反田が近寄り、文庫本を開いた。あれは……シャーロック・ホームズか?

 

「ホームズで勉強をしたの?」

 

 伊原が言う。

 

「そう、だから初心者だって言ったんだよ」

 

 ホームズを読むのが素人だと?ここにはホームズファンが二人もいるんだぞ。俺ならともかく、里志はシャーロキアンだかホームジストだかを目指してるってのに。無神経な言い回しだな。

 

 まぁ、当の里志はあんまり気にしてないみたいだけど。

 

「南雲さん、折木さん。これをみてください。なにか妙です」

 

 千反田は二冊の本を俺たちに一冊ずつ渡した。奉太郎は冒険。俺は事件簿だ。

 目次の上に印が書いてある。

 

 

 シャーロック・ホームズの冒険

 

〇ボヘミアの醜聞

△赤髪組合

✕花婿失踪事件

△ボスコムの谷の惨劇

◎唇のねじれた男

 

 

 シャーロック・ホームズの事件簿

 

〇高名な依頼人

◎白面の兵士

✕三破風館

◎三人のガリデブ

 

 

「何が妙だ。使えるネタに丸をつけただけだろ」

 

 そう言いながら奉太郎は千反田に本を返した。

 いや、まてよ……。この印の付け方、妙だ。なんだ…何か引っかかるぞ。

 くっそ、シャーロック・ホームズを呼んだのは随分前で、それに加えて冒険と事件簿は読み返してない。なんだ……この違和感は。

 

「もうそれはいいだろう。そろそろ推理を始めないか?」

 

 俺の考えを阻むように羽場が声を発した。俺はハッと気づくと視線を羽場に移す。

 千反田は手の中の本とイライラしている羽場を見比べ、席についた。よろしい。

 さて、いい推理を期待してますよ。ミステリーのプロ。

 羽場はゴホンと咳払いをしたあと、話し始めた。

 

「まず考えられるのは、このミステリーはさほど難しいトリックじゃないのは分かるかな?」

 

 羽場は全員の反応を見る。俺は無反応。

 

「まず、この事件は計画的に行われたものではない。いや半計画的と言った方がいいかな。犯人が海藤を殺す条件が劇場で出来上がっていた。これはいいかな?」

 

 ミステリーに詳しいと言っているだけあって、なかなか鋭い。普通にあの映画を見てたんじゃまずこの結論には辿り着かない。確かに考えてみればそうとも言える。なぜなら……

 

「何故ですか?」

 

 千反田が聞いた。羽場はそれを待っていたという風に口を進めた。

 

「なぜなら、これが計画的犯行だった場合どうやって海藤を右側通路の上手袖に誘導するんだい?あのメンバーは鴻巣が持ってきた鍵を適当に取り、散った。誰かが誰かに指示をした訳じゃない。つまり、犯人は海藤が上手袖に向かった事で咄嗟に殺害をしようと思い立ったわけさ」

 

 羽場は次の話に入る。

 

「次だ。殺害現場の上手袖についてだが、出入口は玄関ロビーから舞台ホールに入る扉、左側通路奥から下手袖に入る扉、右側通路奥から直接上手袖に入る扉の三つ。前の二つは施錠されていたためここからの侵入は不可能。窓からの侵入が無理なのは君たちも検討はついてるだろう?夏草が生い茂っているため窓から侵入したとなると夏草が折れている必要があるが、その跡はない」

 

 中城が出した案までこんなに早くたどり着いき、更に否定論まで述べてしまうとは……、なかなか。

 

「それで犯人がどのようにして密室の上手袖に潜り込んだのか、これを考えてみようか。まず一つ、犯人は海藤が上手袖に入った時点で殺害した。その後マスターキーで扉を閉めた。だが、これは面白くない。いくら本郷がアマチュアでもこのトリックは考えないさ。まぁ一応検討してみる」

 

「マスターキーがあるのは玄関ロビーのすぐ横の事務室。つまり、マスターキーを取るには玄関ロビーを通らなくちゃいけない訳だが、これは無理だ。玄関ロビーは常に二階にいた杉村の監視下にあった。これじゃぁ鍵は取れない。逆説的に杉村は鍵を取れたのか、これも無理だ。ほかの四人に見られていない幸運を祈るしかない。幸運は探偵小説のルールに則られていない」

 

「そして、この『玄関ロビーを通ることが出来ない』というのはとても重要だ。これでは上手袖どころか右側通路にすら誰一人侵入出来ない。その意味はわかるかな?」

 

 突然見取り図から顔を上げた羽場は俺達古典部員を見渡す。俺は速攻で顔を伏せる。当てられたのは伊原だった。

 

「君、どう思う?」

 

 伊原は短く答える。

 

「物理的トリックを仕掛ける余地がなかったってことですか?」

 

 羽場は一瞬失望した顔を見せるが、すぐに愛想のいい顔に戻る。

 一発で当てられたことにイライラしてるのか、羽場はどことなく尖った声質で話を進めた。

 

「その通りだ。例えば糸かなにかでドアを閉めるなどが密室トリックで有名どころだが、そんな仕掛けをする余裕はない。ではどう殺したか、理由は二つ考えられる。一つは、犯人が殺害時刻に現場にいなかった場合。二つ、被害者発見時にはまだ海藤が殺されていなかった場合」

 

 なるほど、機械仕掛けの殺人と早業の殺人か。

 

 機械仕掛けの殺人というのは、あらかじめその部屋に罠を仕掛けていたということ。トラップワイヤーフックなんかが有名どころだ。ボウガンや毒針が使われる。

 一方早業の殺人というのは、メンバーがドアを開け、海藤が死んだと確認されるその一瞬で殺したというパターンだ。

 

「ところが、この二つのトリックはある要素によって否定される。これは分かるかな?次は……君なんかどうだい?」

 

 指名されたのは俺だった。俺は無意識に伊原の方へ視線をずらすと、『言っちまえ』というふうな顔を出したので遠慮なく答えることにした。

 

「死体の状況ですよね。海藤の死体は腕が……」

 

 全て説明しようとした途端に、羽場の声が被さる。

 

「腕が飛ばされていた。これほどの斬撃は機械仕掛けも早業も否定する。要するに、本郷の作ったこの密室は正面から突破するのは難しい」

 

 羽場は再び俺に視線をずらし、挑戦的な眼差しで俺に聞いた。

 

「南雲くん。君ならこの密室をどう解く?」

 

 再び伊原の顔を見る。伊原は俺が先程はっきり答えたのが気に入ったのか、『いけいけいけ』という顔をした。

 いいだろう……。この(羽場)の性格はどうもカンに障るし、今日は何故か伊原とウマが合う。

 

 羽場は今までわざと勿体ぶっていたようなルートを残していた。多分それが羽場の言いたいことだろう。

 俺は答える。

 

「さぁ……分かりません。羽場先輩の案とは違うと思いますが、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言った途端に周りの反応を見る。

 奉太郎は、『また面倒くさいことを……』という顔。里志はメモに向き合っているから分からないが、千反田はキョトン。

 伊原に関しては笑いをこらえている。

 

 当の羽場は恨めしい顔で俺を睨み付けたあと、答えた。

 

「……そうだ。僕は小道具班でね。こんなものを本郷から用意してくれと頼まれたんだ」

 

 出てきたのはザイルだった。ビンゴ。

 

「本郷はむらっ気があってね、血のりの量が足りないなんて事もあったけど、このザイルだけはと念を押されたよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()これでもう、犯人は分かるだろ?」

 

 羽場は俺と伊原を視線から外し、他の三人……一番鈍いと思ったのか奉太郎を指名した。

 しばしの静寂。羽場は奉太郎が理解していないと思い少しだけ上機嫌に戻り、口を開いた。

 

「ヒントを出そう。海藤が殺されていた上手袖の上、玄関ロビーから右側の階段を上り、ちょうど上手袖の真上にいた人物は誰かな?」

 

 奉太郎は俺と伊原の顔を見る。『いけいけいけ』という顔をするが、奉太郎はため息をついたあといった。

 

「分かりません」

 

 俺たちの誰も答えなかったので、羽場はとっておきの秘密を告げるように結論に至った。

 

「ダメだなぁ、そんなんじゃぁ!一階から入れないのなら二階から入ればいいんだよ。寝床の探索中に二階に居たのは鴻巣だ。鴻巣はザイルを使い上手袖の丁度真上の窓から外に出た。そして、侵入し殺害。同じルートを辿って戻って言ったと。僕がこの映画にタイトルをつけるなら、そうだね……《不可視の侵入》と言ったところかな!」

 

 数秒の羽場のドヤ顔。その後羽場は俺たち、いや俺に聞いた。

 

「どうだい、南雲晴くん?」

「素晴らしい推理だったと思います。二階からの侵入は勘が当たっただけだったので、先輩のような推理は組み立てられませんでした」

「君は?」

 

 伊原だ。

 

「見事な推理でしたよ羽場先輩。入須先輩にいい報告が出来そうです」

 

 満足気な様子で羽場は頷いた。

 

 その後千反田はシャーロック・ホームズに目をつけると、いった。

 

「すみません。これをお借りしても?」

「あぁ、構わないよ。本郷のものだから早く返してくれよ」

 

 自分のものでもないのに勝手に許可するなよ。

 

 F組をあとにしようとしたところで、一度奉太郎が振り返り、言った。

 

「羽場先輩はあのビデオを見たんですか?海藤先輩の腕、よかったですよ」

 

 羽場は苦笑いしながら返した。

 

「実は、まだ見てないんだ」

 

 奉太郎はその答えに満足したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、地学講義室。

 

「ぷぷー、やるじゃない南雲。あの時の羽場の顔を見た?」

「ぷぷー、見た見た。悔しそーな顔してなぁ!ま、最後は後輩として先輩の顔を立たせてやったがなぁ伊原氏!」

「おぬしもワルよのう。南雲氏!」

 

 俺と伊原という珍コンビは何度も両手でハイタッチを交わす。

 

「性格が悪いぞお前ら」

「分かってたのに黙りこくったお前もな」

 

 奉太郎のツッコミにツッコミを返すと、やれやれという風に里が口を挟んだ。

 

「で、どうだい。羽場案は女帝陛下に奏上しても構わないかい?」

 

 迷いを残すような口ぶりで続ける。

 

「結構面白い案だったとは思うけどね。本郷先輩がロープを用意するように言ってたのは決定的だよ。遠からずとも当たってたと思う。」

「ああ、羽場が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の答えに、里志は「おっ」という顔をする。

 

「南雲さん!やっぱり矛盾点が!?私もおかしいと思っていたんです。昨日の中城先輩の案の時と同じように違和感を感じました。一体それはなんなのですか!?」

「ちょ……近い千反田。」

「ああ!!ごめんなさい!!」

 

 いや、そんなにしょんぼりしなくても……。

 

「奉太郎、お前が説明すっか?」

「お前がしろ」

 

 分かりましたよ。

 

「これも至ってシンプルな矛盾点さ。映画では海藤の死体を発見したあと、勝田は最初になにをした?じゃぁ君答えられるかな?」

 

 先程の羽場を真似たような言い方で千反田を指名する。(ついでに口調も似せて)

 

「ええっとですね……窓の外を見ました。」

「ダメダメそんなんじゃ、あと少し前に戻らなきゃ。映画を観ていない羽場なら絶対に気づかないことがあるはずだぜ?」

「言い方がウザイ……」

 

 奉太郎の呟き。羽場を真似てるだけだからね?

 すると千反田は思いついたかのように声を張りながら答えた。

 

「そうです!窓はなかなか開きませんでした!!つまり、矛盾点はこうです。」

 

 ほう、いくらヒントをやったとはいえ千反田が《解説役》とは珍しい。俺たち四人は千反田に視線を向ける。

 

「海藤先輩の死体を発見した勝田先輩はまず、窓を開けようとしました。ですが長年使ってなかった窓は錆びていたのか、建付けが悪くなっていたのか、なかなか開くことができませんでした。羽場先輩の推理通りなら、海藤先輩が上手袖に入って寝床を捜索、仮にその時に鴻巣先輩がザイルを使って二階から侵入しようとしたのなら、建付けの悪い窓を開けようとするのに手間と時間がかかってしまいます。そうなった場合は必ず海藤先輩は鴻巣先輩の存在に気づいてしまうため、羽場先輩の案は……」

 

 千反田は分かったことが嬉しく興奮しているのか、両腕を大きく交差して言った。

 

「バツです!」

 

 一同頷く。

 

「なるほど」

 

 俺は隣から聞こえてきた声に聞き覚えがなかったので不意に横を向くと……

 

「うわぁぁ!!江波先輩!?いつからいたんですか!?」

 

 江波は一度ムッとした顔で俺を見たあとにいった。

 

「千反田さんが話し始めてからすぐです。どうやら今回もダメのようですね。明日に三人目を用意するので、またいつもの時間にお願いします。」

「はぁ……」

 

 江波はさらに俺たちに畳み掛けるようにいった。

 

「明日の者が《探偵役》最後の一人です。ここで分からなければ、撮影、脚本ともに間に合いません。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 江波が深々と頭を下げたので、俺達も続いた。

 

 そうか、次の日曜日は夏休み最後の日曜日。楢窪での撮影は夏休み期間しか撮影出来ない。今日が水曜だから、こりゃいよいよヤベェな。

 

 明日は()()()()()だといいなぁ。

 

 

 タイムリミットまで、あと三日。

 

 




 古典部の伊原摩耶花よ。

 羽場案は見事にバツ!南雲と気が会う日なんてのも来るのね。

 次は最後の二年F組《探偵役》の登場よ。

 って、ええええええ!!!なんなのこの人!?

 次回《Bloody Beast》

 別にいいじゃない、鍵くらい
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