気づいたら三個も評価を頂いておりました…!まにゃもん太さん、土ノ子さん、naraさん、ありがとうございました!
第一話 祭囃子
JOKER 01
祭りの始まりに流れる音楽の一種だ。
そして今、この神山高校でも祭囃子が流れている。開会式セレモニーで行われる吹奏楽部の演奏リハーサルだ。
そして祭りとは第四十二回神山高校文化祭、通称《カンヤ祭》だ。まぁ、とある理由があって、俺たち古典部と一部の教員は
明日から盛大?に開催されるであろう文化祭に備えて、本日は全校をあげての一日準備期間だ。
とは言ったものの、古典部の出品作品である《氷菓》の準備は万端。正直もう俺のすることも、出来ることも無い。
今俺がいるのは第一会議室。文化祭の進行は総務委員会によって行われるのが例年普通だが、閉会式に限っては俺が半ば強引に引き受けさせられたクラス委員含む生徒会によって取り仕切られる予定なのだ。
俺の仕事は単純明快。閉会式開催場所の体育館の暗幕を下げるだけだ。
つまり、俺は閉会式までやることは無い。ゆっくり文化祭を楽しめるというわけだが、残念ながら古典部のとある問題によりそれは出来なさそうだ。
別に誰のせいというわけではない。言ってしまえば全員のせいであるとも言えるだろう。
俺は前に立つ生徒会長、
参加団体(登録順)
P30
剣道部
ブレイクダンス部
社交ダンス部
合唱部
演劇部
探偵小説研究部
被服研究会
漫画研究会
化学部
2年F組
応援&チアリーディング同好会
茶道部
美術部
P31
マーチングバンド部
水墨画部
おまじない同好会
文芸部
百人一首部
オカルト研究部
クイズ研究会
天文部
1のC
放送部
ディベート部
落語研究会
P32
書道部
華道部
生物部
将棋部
工作部
ビデオ映画研究会
写真部
映画研究会
SF研究会
物理部
グローバルアクトクラブ
歴史研究会
手芸部
製菓研究会
P33
軽音楽部
囲碁部
アカペラ部
壁新聞部
お料理研究会
園芸部
ブラスバンド部
奇術部
占い研究部
古典部
執行本部
陸山宗芳(生徒会長)《やりすぎんなよお前ら、言いたいことはそれだけだ》
木原青佳(生徒副会長) 《期間中は生徒会室に本部を置きます》
相変わらず部活動の数が尋常じゃないぜ。どこにこんな文化部の数がおおい学校があるってんだ。
気づいた頃には会議は終わっており、俺はリュックサックを背負い帰宅する。
「さぁて…明日からはどうすっかな…」
誰にも聞こえないように呟き、俺は帰路を歩いた。
JOKER 02
朝、普段より少し早い登校。神山高校文化祭当日。俺の隣を歩く里志は「あぁ、楽しみだ楽しみだ」も連呼するので、俺はそれを横目に言った。
「何が楽しみだ。ことの重大さを理解してないのはお前だけだぞ」
「甘いねハル。トラブル無しに開催される文化祭というのはないんだよ。トラブルも文化祭の醍醐味さ!」
こいつのポジティブ加減には呆れる。トラブルが起きないように昨日の一日準備期間が行われたわけだろう。
ちなみに一緒に歩いているのは里志だけではない。俺を真ん中とし右に里志、左には奉太郎が立っている。
「ところで二人とも…あれは摩耶花じゃないか?」
「「そうか?」」
里志は俺たちより数十メートル先を歩く私服姿の少女を指さしながら言った。うぅむ。よくわからん。
「小学生じゃねぇの?」
「お前殺されるぞ」
俺のボケに神速のツッコミ。俺たちでお笑い研究部でも作るか?奉太郎。
「ちょっとちょっかい出して来ようかな?」
里志はそう言うと、その少女に向かって走り出した。
♣︎ 01
あ、ちなみにクローバーマークはこの僕。福部里志が語り手だよ。いやぁ新鮮だねぇ。
僕はハルとホータローを置いて一人の少女に向かって走り出した。
少し強めの勢いで少女の背中を叩く。「ちょっと痛いじゃない!!」って言うのを期待してたんだけど、残念ながら今日はそんな気分じゃないみたいだ。
「あら、ふくちゃん。おはよう」
うーん。声質がネガティブ!
「おはよう摩耶花。後ろにもいるよ。」
摩耶花と共に後ろを振り向くと、同じような背丈の二人がこちらに向かって右手をあげた。
とりあえず摩耶花も右手をあげ、前に視線を戻す。
「似合ってるじゃないそのコスプ…うぐっ!」
まさかのボディブロー、お腹に力を入れてなきゃ今頃うずくまってただろうね。
「カタギさんの前でその用語は使わないで」
コスプレくらい今時気にすることでもないんだけどなぁ。まぁ摩耶花がシャイってのは長い付き合いだからわかってるつもりさ。
気を取り直した僕は摩耶花に再び聞く。
「んで、何その装いは」
「フロル…」
「フロル?フロルベリチェリ・フロル?」
「うん。」
わお。随分とコアな…。
まぁこのコスプ…、装いはコスプレには見えないし、普通に街中を歩いていても不思議には思われないだろう。
しかし摩耶花の顔も辛気臭いなぁ。僕は摩耶花には笑っていて欲しいと思ってる。
摩耶花の顔は子供っぽいけど、子供っぽい表情をなかなか浮かべない。起こったように唇を引き結んでいる。
まぁだからこそ、時折見せる笑顔には何者にも変え難い価値が生まれるのだけれど。(まだ出会って半年のハルなら分かるけど、小学生以来の付き合いのホータローがこの価値に気づかないのは頂けないよね。)
「今日は古典部に来れるのかい?」
「分からない。多分漫研が忙しくて。」
摩耶花は古典部の他にも漫画研究会にも所属している。《氷菓》の編集を担当していながら漫研の文集も書いていたとなると、相当大変だったんだろうね。
ホータローにも見習って欲しいよ。
「漫研の文集も読むよ。」
そう言ったら摩耶花はほのかに笑顔を見せる。
「ごめん…私がフォローしなくちゃいけなかったのに…」
再び俯きながら摩耶花は言ったので、僕は背中を叩いた。
「あんまり気にすることじゃないよ。起きたことは仕方ないんだ!ハルも会長に何らかの形で頼んでみるって言ってたしさ!」
「うん。」
気づくと僕達は校門を潜っていた。大きなゲート、校舎から下がる垂れ幕には《第四十二回神山高校文化祭》の文字。
さぁ!祭りの始まりだ!!!
♠︎ 01
スペードの担当は俺…折木奉太郎がやらせてもらう。
俺はポケットに入っている万年筆に触れた。
実は最近姉貴が家に帰ってきており、昨日の夜に《お守り》として貰ったものだ。
だがこの万年筆…既にペン先が折れており使い物になる代物ではない。ゴミを渡されたのだ。
まぁ『書けない』を『欠けない』に掛けて、これはこれで縁起がいいのかもしれない。
ハルとたわいもない話をしながら俺たちは階段を上っていく。その場所はもちろん地学講義室。俺たち古典部の部室だ。
俺たちは普通棟から特別棟に移った瞬間に、思わず苦笑をこぼした。
普段でも賑やかしい特別棟はいつもの数倍賑わっており、様々な部活の出し物やポスターが貼られている。既に数百人規模の生徒達がここに集まっているのは間違いない。
しかし地学講義室のある特別棟四階には、これと言って人の気配は無い。静かな場所が好きな俺にとっては最高のロケーションなわけだが、この文化祭に限っては最悪のロケーションだ。
神高の最辺境。果たして客が来るのやら。
地学講義室のドアを開くと、そこには既に一人の少女が座っていた。俺とハルを見た途端に立ち上がり、言った。
「おはようございます!南雲さん、折木さん!」
俺達も挨拶を交わすと、千反田は微笑みながら口を開いた。
「いよいよですね」
「いよいよだなぁ」
「そうだな」
「頑張りましょう」
「頑張りましょうつったって…」
ハルは見てはいけないものを見てしまったかのような目と声で言った。
「これ…どうすっかなぁ…」
ハルが見たものは文集《氷菓》。俺たち古典部の唯一無二の出品物だ。
一ヶ月前に終了した夏休みを使い、俺たちは《氷菓》の制作を行った。
完成品は素晴らしいものだった。伊原が書いた兎と犬のイラスト、所々に描かれている可愛らしい挿絵。伊原の功績は大きかった。
しかし、素晴らしいと賞賛する前に、俺含む俺たち古典部は…絶句した。
運んできた会議用机に並べられている《氷菓》。事前の打ち合わせでは発行部数は三十部。顧問用と部室常備用に一部ずつ、そして俺たちが一部ずつで、結果論で言えば文化祭で売り出すのは二十三部。
それだって売れ残り覚悟の数字だ。
ところが、掘りあがった《氷菓》は少しだけ多かった。
たった…
JOKER 03
たった…二百部。
印刷所に発注をしたのは伊原ではあるが…別に伊原を攻めようというわけではない。むしろその逆だ。
俺たちの方が非は大きいのかもしれない。
夏休み期間中、《氷菓》編集担当の伊原を手伝おうと何度か申し出たが、『自分は慣れているから大丈夫、むしろ何も知らない人にやらせると時間がかかる』と、言って全ての編集作業を伊原が行ったのだ。
俺たちは伊原に甘えた…。最終確認くらいは全員ですべきだったのだ。
伊原は奉太郎から聞くに自分のミスには厳しいらしく、今回の件について最も責任を感じているだろう。
『お前に全部任せた俺達が悪かった。あまり暗い顔をするな、里志や千反田まで暗くなる』と、言ったが、伊原はやはり自分のミスが許せないようだ。
背後でドアが開かれる音、里志が馬鹿みたいな笑顔で地学講義室に入ってきたのだ。そして、こう叫んだ。
「やぁおはよう!!過剰在庫に悩む諸君!!」
よし、お前を売り飛ばして、その資金で学校側と裏取引をしよう。
「やぁやぁ、あ、摩耶花はこれたら来るって言ってたよ。無理かもしれないけどさ」
「そうですか」
千反田は残念そうに俯く。
「では、私たちだけで始めましょうか。どうしたら《氷菓》を売ることが出来るのか。」
俺たち男子三人は頷き、考える。
ふぅむ。この文化祭は三日間行われる。今日の木曜日、金曜日、土曜日。一般客を狙える最終日の土曜日が狙いどころだが…
「問題は立地と古典部のネームバリューだよね」
「えぇ…そこが一番のネックだと思います。」
二人の意見に俺と奉太郎も頷いた。
古典部という部活が存在してることすら知らない生徒の方がこの学校には多いわけであって、もし俺や奉太郎が今年入部しなかったら廃部だったというのも聞いたことがある。
アカペラ部や茶道部の様に市のイベントに呼ばれている部活や、それなりに実績を残している晴香率いる書道部と比べれば、知名度は雲泥の差だ。
聞いたこともない部活の聞いたこともない文集を誰が買うのか。
よし、晴香には十部買わせよう。
すると、奉太郎が言った。
「つまりもっと目立つところに売り場を作ること、古典部の名前を宣伝すること。この二つが大前提だな。」
確かにこの二つをやれば《氷菓》は
ただ、
「あぁ、そうだ。訪問販売ってのどうだ?歩いて宣伝しながら《氷菓》を売る。加えて、余裕があれば売り場作りや知名度上げにも協力する。」
そういった後に、千反田は口を開いた。
「訪問販売はいいと思います。ですが…新しい売り場となると…当日に許されるんでしょうか?」
「ちょっと分からないね。古典部だけ特別という訳にも行かないだろうし、家の委員長に相談したらどうだい?ハルは生徒会長に会いに行ってくれるんだろ?」
「あぁ。あの人気前良さそうだし。」
「福部さんは総務委員会でしたよね。総務委員長と言うと?」
「二年の田名辺治朗先輩。総務委員は会議室にいるよ。」
「お前はどうするんだ、里志。」
奉太郎が言う。
「僕は宣伝さ。」
「何かいい手があるのか?」
「この文化祭のあちこちで開催されるコンテストや大会に参加しまくる。古典部の名でね!好成績を集めれば古典部の名も上がるって戦法さ!」
「それはいい案ですね!」
千反田が微笑みながらいうが…騙されるな!!
こいつは自分が楽しみたいがためにイベントに参加するだけだ。エントリーネームを福部里志から古典部に変更するだけの事だ。
「折木さんは?」
いやもう分かりきってるだろ。
「俺か?俺は店番だ」
胸張っていうこと!?
「南雲さんは?」
「え?俺…は…」
「ハルは自分で言ってたじゃないか!訪問販売兼、宣伝兼、売り場探しだよ!」
「俺一番大変!!!」
「さ、そろそろ話が決まったところで…あんまり時間が無いぞ」
俺強制!?
奉太郎が壁掛け時計を指さしたので、それを見る。
開会式まで十分を切っていた…これに出られなければ遅刻だ。
千反田は大きく頷いたあと、息を吸い、大きな声で言った。
「では、今の通りの分担で進めます!一部でも多く売りましょう。」
「目標は《氷菓》二百部完売です!頑張りましょう!!」
えいえいおー!
さぁて……祭囃子はこれで終わり。祭りの始まりだ。
【氷菓完売まで あと二百部】
古典部の南雲晴だ!
この二百部の《氷菓》…売り切れるかは絶望的だが…とりあえずは頑張ってみるか。
俺たち古典部は、《氷菓》完売のために動き出す。
次回《それぞれの…》