氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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 再び評価を頂きました!
 鍵一さん、9評価ありがとうございます!



第二話 それぞれの...

 ♥01

 

 僭越ながら、ハートマークは私、千反田えるが担当させていただきます。

 よろしくお願いしますね。

 

 オープニングセレモニーが始まります。先程南雲さん達と別れて、今私はクラスの列に並んでいるところです。

 仲の良いお友達の塚原さんとおしゃべり中です。

 

 オープニングセレモニーが始まりました!ブラスバンド部の演奏、ブレイクダンス部のダンス!!素晴らしいです!!

 ブレイクダンス部さんたちの頭を使ってクルクルするのは摩擦熱がかからないのでしょうか?私、気になります。

 

 ダメですダメです!!私はやることがあるのです。

 

 私は気になる事があったらそちらに目がいってしまうのですが……今日はそういう訳にも行きません。

 

 ブレイクダンス部さんのダンスが終わりました。ここからは自由行動です。これから始まる落語研究会も気になるところですが、私には向かわなければ行けないところがあります。

 

 私は体育館から出ると、総務委員の本部である会議室に向かいました。

 途中で目を引くものもあったのですが……ダメです。我慢です。今どき小学生でも出来ます。

 

 特別棟の廊下は慌ただしく、まだ準備の終わっていない部活の皆さんがせっせと働いています。会議室につきました。私はノックします。

 出てきたのはメガネをかけた男子生徒の方でした。私は頭を下げ、こういいます。

 

「おはようございます。総務委員長の田名辺さんですね」

「ああ、おはようございます。僕が田名辺ですが……総務委員になんの御用で?」

 

 私は、何度も脳内で練習した言葉を言いました。

 

「古典部の売り場を増やしてください」

「え?」

 

 田名辺さんは目を丸くします。ああ、いけない。『お前は肝心な説明を省くのが悪い癖だ』と、この前、折木さんに言われたではありませんか。

 

「突然すみません。私は一年A組、古典部部長の千反田えるです。古典部の売り場を増やして欲しいんです!」

 

 田名辺さんは困った顔になります。不安です。

 

「なんだかよく分からないのだけれど、うちは決まった通りにカンヤ祭を進めるだけだからなぁ。お好きにどうぞというわけにも……。それとも何か事情でもあるのかな?保証はできないけど、特例を出せるかもしれない」

 

 それを聞いた私は、目を大きく開き、

 かくかくしかじかと説明します。

 うんぬんかんぬんと説明します。

 

 田名辺さんは一度難しい顔をしたあと、言いました。

 

「それは大変だね。三十部のつもりが、二百部かぁ。うーん、それでも悪いけど、特例は出せないな」

「そうですか……」

 

 ごめんなさい。南雲さん、折木さん、福部さん、摩耶花さん。私は役目を果たすことができませんでした。

 

「ああ、でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは……委託販売というものでしょうか!?

 

「それはいい案ですね!ありがとうございました!」

「ああ、完売を祈ってるよ」

 

 私は、田名辺さんに頭を下げたあと、地学講義室に一度戻ることにしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER04

 

 ブレイクダンス部の発表が終わったところで、俺は体育館をあとにした。

 確か千反田が総務委員長、奉太郎が店番、里志が宣伝だったよな。

 俺は訪問販売兼、売り場作り兼、宣伝。なんだこれ?俺と奉太郎でダブルスタンダードじゃねぇか。

 

 とりあえず生徒会室に行ってみよう。陸山生徒会長に売り場広げを頼んでみるか。

 

 俺は生徒会室に向かい、入る。

 

 ノックは要らない。俺は一応クラス委員だ、生徒会直属の組織に所属する生徒の出入りは、自由になっている。

 

「陸山先輩、ちょっとお話が」

「ん?確かお前は、一年のクラス委員の」

 

 すげぇな。もう顔覚えたのか。記憶力は千反田並じゃねぇの?

 

 陸山は全体的に体の線が細くシュッとしている。顔も整っており、美形というに事足りているだろう。

 

「実はですね……」

 

 かくかくしかじかと説明する。

 うんぬんかんぬんと説明する。

 

「なるほどなぁ、二百部かぁ。漫研でもそんなに売れないぞ?」

「ですよね。心底困ってます。助けてください先輩。一部二百円です」

「俺に買わせようとしてるだろお前」

 

 ちっ、バレたか。

 

「一部くらい買ってやるよ。それと、売り場を増やすのは無理だが、他の売り場に置くことは出来る。ここの生徒会室を使え。落し物も届くし、PTAの方達も結構な頻度で来るからな」

「いいんですか?」

 

 少し驚いた顔で言うと、陸山はニヤッと笑い言った。

 

「特例だ。ジローには内緒だぞ?」

 

 ジロー。総務委員長の田名辺治朗のことか。

 

 しかし、どうやらこの生徒会長は遊び心もあるようだ。俺もニヤッと笑い、返した。

 

「じゃぁ十部ここに持ってきますよ。時々様子見にくるんで、その時売り切れたらまた十部お願いしますよ、先輩!」

「ちゃっかりしてやがる……」

 

 俺はそういったあと、地学講義室に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎01

 

 ダイヤマークは私、伊原摩耶花が担当するよ。

 

 ブレイクダンス部が終わったあと、私は漫研の方に向かった。

 

 本当は古典部の方に行きたい。発注ミスをしたのは私なのに、尻拭いをみんなにやらせるなんて。

 でも、古典部に行きたい理由は文集のことだけではなく、()()()()()()()()()という気持ちも半分あった。

 

 漫研の部室は一般棟二階の第一予備教室。廊下には《漫画研究会》という看板が貼られており、あまり派手な雰囲気はない。部長の湯浅尚子(ゆあさしょうこ)先輩の方針だ。

 私はドアを開け、言った。

 

「おはようございます」

「おっ、来たね伊原!」

 

 最初に私に話しかけてきたのは、河内亜也子(こうちあやこ)先輩。活動的で絵も上手く、ふくちゃんが賞賛している折木や南雲なんかよりも頭の回転は早いと思う。

 漫研でコスプレをしようと言ったのも彼女だ。言い出しっぺだけあって、レベルが高い。

 私は河内先輩の服を見て、言った。

 

「キョンシーですか?」

「オフィシャルだと、チャイニーズコートね」

 

 さいですか。

 

 河内先輩は私の服、コスプレをみたあとに

 

「靴も工夫した方がよかったね」

 

 と言って、他の人のところに行ってしまった。

 私のコスプレに先輩は批判の何も言わなかったけど、ピリピリしていたのは確かだ。

 コスプレ案に最後まで抵抗したのは私だから。

 

「伊原、おはよ」

 

 次に話しかけてきたのは湯浅先輩だ。着ているのはコスプレではなく普通のセーラー服。神高の制服だ。まぁ元々コスプレ組とそうじゃない組で分かれているからね。

 湯浅先輩は歳が一つしか違わないのに、何となく大人な雰囲気を醸し出している。

 包容力というか、寛容さというか。猫と縁側が似合いそうで、おっとりとした感じ。

 

「コスプレ、あまりお金かからなかった?領収書とかあったらちょうだいね」

「いえ、着まわせるし、大丈夫です」

 

 部長はそれ以上は言わなかった。古典部よりかは部費は貰っているだろうけど、それでも余裕がある訳では無い。

 

 私はコの字型に並べられている机の上に置かれた、今回の漫研の目玉。《ゼアミーズ》を見た。古今の漫画百本のレビューをした文集だ。

 その他部員達の実作がいくつか置いてある。これは無料配布。

 時間が経つにつれて人が増えていく。そうなることによって必然的にグループが三つに別れる。

 

 男子グループ。ほかの学校は知らないけど、うちの漫研は男子の方が女子より少ない。まぁ彼らは人畜無害。

 

 二つ目、河内先輩グループ。漫研の中心的グループだ。人数はそれほどでもないけど、部内での発言力は群を抜いている。

 ま、河内先輩以外は取り巻きみたいなものだけどね。

 

 そして第三のグループ。河内先輩についていけないものを感じる人達、単に騒がしいのが嫌いな人たち。そうした人達が集まるのが…

 

 私の周りなのだ。

 

 河内先輩に歯向かったことのある人間が私だけだからだと思う。

 

 空気が張り詰めている訳でもないし、火花が飛び散ってる訳でもない。みんな漫画が好きなのは一緒なんだけど、やっぱり私はこの文化祭期間中漫研からは出られない。

 私ができることと言えば、漫研で《氷菓》を委託販売すること。

 今は雰囲気的に無理だけど、出るだけ早く。

 

 古典部……ふくちゃんたちはどうしてるんだろう。ふくちゃんは会いに来てくれるかな?ちーちゃんはまだ自分の責任だとか思ってないかな?南雲も結構責任感じてたし。折木は、まぁボーッと店番でもしてるんでしょうけど。

 

「あの、もうやってます?」

 

 振り返ると男子生徒二人がドアの前に立っていた。私は渾身の営業スマイルで言った。

 

「いらっしゃいませ!!お客さん第一号でーす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♠︎02

 

 予想通り、読み通り、客は誰ひとりとしてやってこない。

 

 平和で、静かで、無為だ。文化祭らしい騒がしさといったら、開かれた窓を通じて聞こえてくる何かしらのイベントの実況のみ。

 素晴らしい。店番万歳。

 

 しかし、目の前に積まれている《氷菓》の原稿を見ると、現実に逆戻りだ。

 この山が片付くに越したことはない。なんせ俺とハルの原稿が一番多く《氷菓》の割合を占めているのだ。文集の目玉記事である《氷菓事件》をまとめたのは俺たちだからな。

 それに、この文集が売れずにゴミ箱行きとなれば、千反田や伊原どころではなく俺だって心を痛める。

 

 すると、ドアからひとつの人影が現れた。客か?

 

「おっす!店番やってるぅ!!」

「ハル、お前か……」

「期待はずれみたいな顔はやめろ。生徒会室で委託販売してくれるらしいからな。十部取りに来た」

 

 早いな。千反田と里志よりも早く交渉をしてくるとは。こいつの将来は会社経営などはどうだろう。

 

「〜♪」

「「ん?」」

 

 俺とハルは同時に反応し、窓際に近寄った。身を軽く乗り出し、中庭を見る。

 アカペラ部の喉鳴らしなのだ。俺たちのように最初のハーモニーに引き寄せられたのか、多数の生徒が中庭に集まってきていた。

 千反田や里志なら『古典部にもきてくださ〜い』、とでも言いそうだな。

 

 喉鳴らしをしていた一人の生徒が窓から見物している生徒と中庭にいる生徒に一礼をし、早速合唱が始まった。

 《ライオンは寝ている》だ。

 

 しばらく俺とハルはそれを眺め、合唱が終わったところで拍手。ハルが口を開いた。

 

「俺は音楽には明るくないけど、上手いな。市に呼ばれるだけはあるぜ」

「ネームバリューで言えば無名な俺たちとは雲泥の差だな」

 

  そう返しながら俺たちはアカペラ部を未だに眺めていた。彼らはそばに用意してあるクーラーボックスを囲み、一人がそれを開ける。

 

「ん?なんかアカペラ部の人達の様子おかしくねぇか?」

 

 ハルの言葉に俺は目を凝らす。クーラーボックスを指さし、しきりに何かわめいている様子が目視できた。

 まぁ俺達には関係の無いことだ。

 

 その後、ハルは十部をもって生徒会室へ。

 

 そのすぐ後にやってきたお客さま第一号が《氷菓》を一部購入。

 何故か姉貴に貰った使えない万年筆と、被服研のファッションショー参加ワッペンを交換した。

 

 いらね。俺はそれを机の中に放り込んだ。

 

 

 【氷菓完売まで あと百八十七部】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカペラ部、では。

 

 

「おい!用意していたドリンクが入ってないじゃないか!どうなってるんだ!?」

「知らないですよ。確かにさっきまではありました!見間違いなんてありえません!!!」

「とは言ってもなぁ……ん?なんだこれ」

「どうしたんです?」

 

 男が拾ったのは、グリーティングカード。

 

 そしてそこには、こう記されていた。

 

 

 

 【アカペラ部から、アクエリアスは既に失われた】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【怪盗十文字】

 

 

 

 




 次回《嵐の予感》






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