氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第三話 嵐の予感

 ♣︎02

 

 神山高校クイズ研究会主催、クイズトライアル。

 

 このクイズ大会は僕にとって一日目の目玉だ。こいつは落とせない。真のデータベースが誰か教えてやるぜ!!

 明日の二日目にも神高クイズタッグっていう大会があるんだけど、明日はお料理研の料理大会ワイルドファイアに出場する予定だから僕はトライアルを選んだ。ワイルドファイアとタッグは時間帯が一緒なんだ。タッグの方にも参加したかったよ。

 タッグにはハル辺りに出場してもらおう。

 

 僕は今開催場所のグラウンドにいるんだけど、これは驚いた。見た限りでは参加者は二百人。(目分量だから確定は出来ないけど、百人以上いるのは確かだ)古典部と手芸部にも分けて欲しいもんだよ。

 まぁ参加者が多いのは検討がついていた。放送部の擬似ラジオがお昼に放送されており、その中でクイ研部長へのインタビューが行われていた。まぁこんなところさ。

 

『今回で七回目です。まぁ結構いい賞品も用意してありますし、いわゆる「クイズが得意な人」ばっかりが有利にならないように作ってありますよ!これはチャンスです!誰にでも優勝する権限は平等に与えられています。皆様、ご健闘を!』

 

 この放送の他にも、壁新聞部がクイ研に関して言及をしていた。

 文化祭期間中、壁新聞部は二時間に一本号外を出すことになっており、それの《一日目、十二時号》でクイ研が面白そうだぞ、って記事があった。

 

 宣伝効果は馬鹿にならないね。あとで千反田さんとハルにも教えてあげなくちゃ。

 

 クイ研の部長が朝礼台に上がり、『マイクテス、マイクテス』とお決まりの言葉を言ったあと、続けた。

 

「ようこそクイズトライアルへ!参加者の多さにびっくりしています。今回で七回目のクイズトライアルですが、みなさん……楽しんでいってください!!!!」

 

 歓声。いいねぇ、これぞ文化祭だよ。

 

「では、早速クイズを始めましょう。まずは予選のマルバツ問題、正解だと思う方のプラカードを上げている部員の方へ向かってください!残りが五人以下になるか、用意したクイズが尽きたら予選終了となります!それでは、クイズトライアル、スタート!!」

「第一問。金剛石とはダイヤモンド、緑柱石とはエメラルドのことである。〇か✕か!?」

 

 ふふん。第一問からこんなもんか!!

 

 もちろん正解はマルだァァァァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分の時が流れた。

 

 「だるいの英語のダルが語源である。〇か✕か!?」

 

 制限時間が終わり、マル側に五人、バツ側に四人入っている。

 

 ○×クイズが予選ならば、これが最後の問題だ。

 

「正解は……」

「バツでしたー!!!!よせんしゅーーりょーー!!!」

 

 いやっほう。

 

「おめでとうございます!バツ側に立っている四人の方が決勝戦へ進みます。壇上へどうぞ!」

 

 これを待ってた!ここで《氷菓》のアピールをして、売り上げに火をつける。

 多分にやけ顔で壇上に向かう僕の肩を誰かが叩いた。

 

「よぉ、福部。お前も生き残ったか」

 

 ……

 

 ちょっと待って。今思い出すから。

 ま、まぁとりあえず。

 

「まぁね」

「お前俺に気づいてなかったろ」

「クイズに集中してたからさ」

 

 えーっと、総務委員でもないし……手芸部でもない。勿論古典部でもない。

 クラスメートで注目に値する人といえば《桁上がりの四名家》の一角をになう、十文字(じゅうもんじ)さんくらいだと思うんだけど。あっ……!

 

「で?(たに)君。囲碁部はどう?」

 

 谷惟之(これゆき)。囲碁部員。クラスメートだ。うっかりうっかり。

 がっしりとした体つきに角顔、団子っ鼻となかなか味のある顔をしている。決して馬鹿にしてるわけじゃないよ?

 けど僕の記憶に残ってなかったっていうことは、これまで非スタンダードな行為をしてこなかったんだろうね。

 

 僕は意外性のある人が好きだ。例えば千反田さんなんかは意外性で溢れてるし、神高入学以後のホータローには随分と驚かされる。

 なによりダークホースのハル。ホータローと同じレベルの推理力に東京から越してきた人物なんてのは、記憶に残らないわけがない。

 

 でも谷くん。ここまで生き残るなんてね。これまでの問題だって甘くないものは幾度もあった。○×クイズだから運も絡んでくるだろうけど、ここまで生き残るってことは相当な知識量じゃないか。へぇ……。

 

 谷くんは得意気な顔で言った。

 

「囲碁部か。ちょっと面白い話があるんだが、聞くか?」

 

 面白い話ねぇ。谷くんに面白い話が出来るってイメージがないからなぁ。

 

「壇上へどうぞ!」

 

 再度クイ研の部員から呼びかけがあったところで、僕は谷くんに「行こう」と手のひらで朝礼台を示した。

 

 壇上に上がったところで、僕はホッとしたと同時に、少し驚いた。

 

 まずは驚いた理由を説明しよう。

 

 壇上に上がったのは四人。僕、谷くん、知らない生徒、そして。

 ハルとホータローと同じクラスの桜さん。

 

 あぁ。桜さんも結構な変人だよ?だって僕の記憶に残ってるんだもの。

 ハルに対して好意を抱いてるっぽいけど、本人は無自覚らしい。『ただの興味だ』なんて言ってるくらいだからね。

 しかし、桜さんにクイズが出来るほどまでの知識量があったとは驚いきだ。正直な話、いつもオロオロしてるからね。ほら、今もみんなに注目されてオロオロしてる。

 

 『楓!頑張れ!』っていう声が聞こえるから、多分友達かなんかに半ば強引に参加させられたんだろうね。多分桜さんの知識量を知っててこその推薦だろうけど。

 桜さんが僕に気づいたので、とりあえず手を振ってみる。

 向こうも知り合いの僕がいた事に安堵を覚えたみたい。敵に塩を送っちゃったかな?

 

 次に安心した理由。

 

 それはこのメンバーだ。もし桜さんの場所が、あの《女帝》入須冬実先輩だったり、《図書室のヌシ》十文字かほ、《書道部部長》勘解由小路晴香先輩、《総務委員会委員長》田名辺治朗先輩、《生徒会長》陸山宗芳先輩、辺りが残っていたら、最初から自信を失ったろうに。

 知識量だけじゃ負けてないだろうけど、あの人達に勝てる気は全くしない。

 

 谷くん、桜さん、名前も知らぬ生徒はそれぞれ名乗り、僕の番になった。マイクを受け取った僕は声を張り、言った。

 

「はーい!!四人目のファイナリスト、古典部の福部里志でーす!」

「は?」

 

 読み上げ嬢は一瞬面を食らったようだ。

 あー、古典部はさほど有名じゃなかった。

 

「なるほどー!古典部なんて部活もあるんですね!この学校変な部活多いですもんねー!」

 

 僕はさらに弁を続ける。

 

「古典部って言っても《徒然草》なんかを研究してるわけじゃないですよ。だからって何をやっているのかと言ったら、まぁ文集作りですよね。でも、この文集我ながらすごいと思うんですよ!力、入ってますよ〜!」

「なにしろ、このカンヤ祭の秘密を暴いたんですから!!」

「ほ、ほう!それは!?」

 

 読み上げ嬢は食いついてくる。彼女もクイ研だ。知識欲に関しては、そこらの一般人より高いだろう。

 

「カンヤ祭の名前の由来です!古典部はそれを解き明かしたんです!」

「へぇ……それは一体?」

「それはもちろん……」

「もちろん秘密です!!文集を買ってもらわなきゃこっちも困りますんで。たったの二百円で、神山高校文化祭三十三年の歴史があなたの手に!!!古典部文集《氷菓》は特別等四階、地学講義室。また、訪問販売にて、絶賛発売中でーーーす!!!」

 

 

 アピール大成功!!!!

 

 

 

 

 

 

 JOKER05

 

 

 

「絶賛発売中でーーーす!!!」

 

 遠くから里志の声が聞こえる。

 

「絶賛発売中なのか?」

 

 生徒会室、陸山は十部持ってきた俺に聞く。

 

「これから絶賛発売中になりますよ……多分」

「すごい部員がいたもんだな」

 

 陸山は俺を笑いながら見たあと、言った。

 

 

 

 

 その後《氷菓》十部を陸山に渡し生徒会室を出た俺は、次にどこに行こうか考えるために《カンヤ祭》の歩き方をケツポケットから取り出す。

 書道部に行ってみるかな。晴香なら承りまってくれそうだし。そのあとに文芸部だ。あそこは文集が人気だし、桜もいる。とある事件を解決した際に、部長とも顔見知りになった。事情を説明して、桜から話をつけてもらおう。

 

 俺は足を進ませると、廊下の遥か彼方に真っ黒な髪を下ろす女子生徒を発見した。俺人波を縫い、彼女の背中を叩く。

 

「よう千反田。おつかれ」

「あ、南雲さんですか……お疲れ様です。なにか成果はありましたか?」

「あぁ、生徒会室で委託販売してくれってさ。……てか、お前随分暗いな」

「私はまだ、成果を出せていないんです。落ち込みますよ」

 

 お、おぉ。なんか体全体から力が抜けてるように見えるぜ。

 

「ま、まーまー!!これからだよ!!気ィ張って行こうぜ!!」

 

 再び千反田の背中をポンポン叩いていると、不意に声が掛かった。

 

「ちょっと、えるを虐めないで。」

 

 見ると、階段の上がりたてのところに一つの小さなテントが貼られていた。俺と千反田は中をのぞき込む。すると、千反田が言った。

 

「ご、誤解ですよ。十文字(じゅうもんじ)さん!南雲さんは私を励ましてくれていたんです!」

「ふーん。女の子の背中を叩くのが励ましねぇ」

 

 十文字という女は俺を見つめる。なんだこの女。まてよ、十文字?

 

「《桁上がりの四名家》の……」

 

 不意に出た言葉に俺は口を紡ぐ。

 

「《桁上がりの四名家》?」

 

 十文字は首をかしげながら俺に聞いたが、興味が無いという風に顔を下ろした。

 危ねぇ危ねぇ。里志の創作言葉を全く関係の無い人物に使うところだったぜ。

 十文字……確か神山市で一番でかい神社、荒楠神社(あれくすじんじゃ)の息女だ。千反田に似た真っ黒な長い髪は三つ編みにされており、フレームの小さな眼鏡が目を惹く。

 たしか里志に聞いた話だと、《図書室のヌシ》なんて異名があったような。

 

 俺はテントの前に立てかけてあるプラ板をみて、小さな声で呟いた。

 

「占い研究部?他に部員は?」

「あたし一人なの、占い研究部。それで、どうしたのえる?肩をガックリさせちゃって」

「色々ありまして……」

「ふぅん。なんならうらなってあげようか?タロットカードとか、トランプ占い、色々あるけど」

 

 十文字はテントの中に置かれた机に次々とものを並べるが、不意にその手を止める。

 

「あっ、タロットカードはダメなんだ」

「え?どうしてですか?」

 

 千反田の目が光る。これは、少しまずい気が。

 

 でも、タロットカードか。夏休みに誰がこのカードだとか、このカードが誰だとか、話してたよな。

 たしか俺は……《隠者》だったような。

 

「……そうだよね。える、こういうの好きそうだもんね。君も見る?」

 

 十文字は俺に視線をずらしたので、とりあえず頷いた。なんだ?

 十文字は紙袋の中から俺たちに見えるようにグリーティングカードを取り出した。そして、そこには大きなフォントでこう記されていた。

 

 

 【占い研究部から、運命の輪は既に失われた。 怪盗十文字】

 

 

 なんだこれ?

 

 十文字は俺と千反田の顔を交互に見たあとに、口を開いた。

 

「一人でやってるから結構席を外すんだ。ちょっと離れてて、戻ってきたら《運命の輪》、《ホイール・オブ・フォーチュン》が無くなってて、このグリーティングカードが置かれてたの」

 

 俺は口を挟む。

 

「これはあんたじゃないのか?十文字って書いてあるけど」

 

 十文字はムッとしたあと、言った。

 

「あたしが自作自演、しかも自分の名前でこんなことして、人に見せると思う?」

 

 ごもっともで。

 

 うぅむ。誰が十文字の名を名乗って《運命の輪》を奪ったってのか?何でこんなことを。

 

「える、顔が明るくなってきたね。」

「そうですか?」

「これ、気になる?」

 

 おいやめろ。変なことを聞くな。

 

「はい、少し」

「少し……ね。じゃぁ最後にこれ」

 

 十文字が紙袋から取り出したのは、今俺のポケットにも入っている《カンヤ祭の歩き方》だった。千反田が聞く。

 

「これがどうしたんですか?」

「中身は出回ってるのとおんなじ。ただこれとさっきのグリーティングカードが一緒に置かれあったの。最後の参加団体一覧のページ、三十三ページを開いてね」

 

 参加団体一覧……。《カンヤ祭の歩き方》の巻末にあたるページだ。

 

「《運命の輪》を奪った奴は、どうしてこんなものを置いていったんだ?なにか……意味があるのかな?」

 

 不意につぶやくと、十文字は薄く笑った。

 

「さぁね。文化祭だもん。こんなことをするやつがいても不思議じゃないよ。あたしとしては早く《運命の輪》が見つかってくれれば、それ以外の事に興味はないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♣︎03

 

 

 クイズは七ポイント先取の早押しクイズだ。

 

 得点は僕と谷くんと桜さんが六ポイント。残りの男子生徒も五ポイントを取ってるから、随分いい戦いだ。

 けど、ここで終わらせてもらおう!!

 

「では次の問題です。神山高校の……」

 

 ローカル問題、一本集中。

 

「生徒会長のフルネーム」

 

 分かる。でも、もう少し……パラレル問題の可能性も考慮しなくてはならない。

 

「は、何でしょう?」

 

 よし、電光石火の早押し!!

 

「はい、桜さん!」

 

 あれ?僕じゃない?

 

 桜さんは場になれてきていたのか、落ち着いた声で答えた。

 

「陸山宗芳先輩でふ……」

 

 噛んだけど。顔が真っ赤になってるよ。いやぁ感情がコロコロ変わる人は見てて面白いねぇ。

 そして、読み上げ嬢さんは、右手を高くあげ、威勢よく叫んだ。

 

「せいかーーい!!クイズトライアル、優勝者は、一年B組、桜楓さんでーす!!」

 

 

 

 

 

 

 いやぁ、残念無念また来年だね。

 

 表彰式のあと僕は個人的に桜さんに賞賛の言葉を述べた。

 

 どうやら彼女は中学時代クイ研だったらしい。文章を書くのも好きだったみたいで、高校の方では文芸に興味が湧いたからそっちに言ったらしいけど、元クイ研じゃぁ強いのも無理ない。

 負け惜しみをいうわけじゃぁないけど、相手が悪かったな。

 

 でも、なかなか楽しかったよ。古典部のアピールもできたし、満足すべき時間だった。さぁて、次は……

 

「おい、福部」

 

 谷くんだ。

 

「やぁ、惜しかったねお互いに」

「だな、引き分けってとこだ」

 

 別に僕は君と勝負してるつもりは無いんだけどなぁ。僕は愛想よく答える。

 

「そうだね」

「それより、決勝が始まる前に言いかけた、《面白い話》だが……」

 

 あぁ、そんなことも言ってたな。減るもんじゃないし、聞いてあげよう。

 

「そうだったね。囲碁部がどうかした?」

「碁石がいくつか盗まれた?」

「なくなったんじゃなくて、盗まれたね。どうしてそう言いきれるの?」

「碁笥に犯行声明が入っていた」

 

 谷くんはニヤリと笑った。

 

「碁石なんか盗んで、どうしようって言うのかな?」

「そりゃあもちろん、五目並べでもするんだろ」

 

 あまり面白いジョークには聞こえないなぁ。それに《面白い話》ってのがこれで終わりなら、わざわざ引っ張った程じゃないな。

 

「囲碁部の人の冗談じゃない?」

「まぁ、そうだろうな。ところで福部、お前これからも大会に出るつもりだろ?どこに出るんだ?」

「明日のお料理研、《ワイルドファイア》かな」

「OK!この勝負の白黒はそこで付けよう。()()()()()()!」

 

 大いに一人で盛り上がった谷くんは、そう言って行ってしまった。

 

 気づくとグラウンドにはほとんど人は残っておらず、僕の校舎に向かって歩き出した。

 

 さぁて、みんなはどうしてるかな?

 

 

 

 ()()……ね。

 

 

 

 【氷菓完売まで あと百七十五部】




次回《嵐の始まり》


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