8評価 ユユヨさん。
ユユヨさんには推薦も書いていただきました…嬉しい限りです!!
ありがとうございました!
奉太郎「ま、感謝するのは《やるべき事》だからな。ユユヨさん、ありがとうございました」
ハル「お前素直になれよな。ユユヨさん、これからもこの作品をよろしくお願いします!」
♣︎05
《ワイルドファイア》が始まった。僕も頑張るから、ハルも頑張るんだよ!
そう思いながら僕は、《神高クイズタッグ》が開始されているであろう体育館に目を向けた。
《ワイルドファイア》に参加するチームは全部で四チーム。
エントリーナンバー一番、チーム《あじよし》
三年生男子のチームだ。爪が長いから、あんまり料理はしないのかな?
エントリーナンバー二番、チーム《ファタモルガーナ》
谷くんのチームだ。さっきも宣戦布告しに来たよ。どうやらB組の須原君っていう子が定食屋の息子で、このチームに入ってるらしい。
まぁ、僕らは名前を売りに来たんだ。勝ち負けなんてどうでもいい。
エントリーナンバー三番、チーム《天文部》
このチームにはなんとあの二年F組の沢木口先輩がいる。こりゃぁファタモルガーナより手ごわいね。
そして最後、エントリーナンバー四番、チーム《古典部》
僕は力強く右拳を振り上げた。隣にいる千反田さんはどうしていいか分からないというふうに、見物客にお辞儀をしている。なかなか律儀だねぇ。
摩耶花はどうやら漫研が忙しいらしくてまだ来ていない。でも大丈夫。《ワイルドファイア》は一チーム三人のメンバー順番で料理していく。摩耶花を大将にすればいいんだ。
すると、ステージに立っているお料理研部長が大きな声で言った。
「ルールは先程説明した通りです。三品、作ってもらいます。食材は会場中央にあるカゴから早い者勝ちです!!もし無くなってしまっても、この神高内であったら補給を認めます。」
「では先鋒の皆さん、位置について……」
「じゃぁ行ってくるね」
先鋒は僕、副将は千反田さん、大将は摩耶花だ。
「頑張ってください!福部さん!」
「ワイルドファイア、スタート!!」
僕は、カゴに向かって走り出した。
♥04
福部さんが確保した食材は、《米》、《煮干し》、《油揚げ》、《甘酢みょうが》、《豆腐》、《大根》、《長ネギ》、《じゃがいも》、《黒ごま》、《豚肉細切れ》、《甘エビ》、《片栗粉》です。調味料はそれぞれのチームの台に用意してあります。
福部さんが鍋に水を入れ、沸騰させています。加えて味噌を溶かし始めました。これは、おみおつけですね。煮干しでだしを取っているのもグッドです。
実況の方が福部さんを解説します。
『おおっと!!チーム古典部!!仕事が丁寧だ!』
福部さんが次に用意したのは豚バラです。なるほど、おみおつけではなく、豚汁ですね。
個人の持ち時間の二十分が経つ頃には、豚汁が出来上がっていました。
『さぁ!二十分経過!選手は交代してください!』
福部さんが走って戻ってきます。第一声、こう言いました。
「た、頼んだよ千反田さん!」
「まかせてください!」
パチィン!
こんなに勢いよくハイタッチをしたのは初めてかも知れません。
JOKER09
《神高クイズタッグ》の予選が始まった。参加者数はざっと百人前後、つまり約五十チームいることになる。
まずは人数を減らすためのマルバツ問題が始まった。ここまでは、昨日の《クイズトライアル》と同じだな。チームが三チーム残るまでこれを繰り返すらしい。
読み上げ嬢がクイズを読み始めた。
『第一問、クジラの生む卵は縞模様であるか、〇か✕か!?』
クジラの生む卵、これは……。俺は隣の桜をチラリと見る。
桜も分かっているようで、俺たちはバツの方に向かって走り出した。
クジラはそもそも卵を産まない。相手の心理をうまく使ったフェイク問題だ。
今のは知っていたから良かったけど、こんな問題が立て続けに出てきたら……。こりゃぁ遠くから聞いていたとはいえ、昨日の《クイズトライアル》より問題は難しい。一筋縄じゃないかないってことか。
面白くなってきたじゃん!!
♣︎06
千反田さんの料理、すごい。速い!動きも速いけど、要領がいいって言うのかな。実況も注目している。
『チーム天文部副将沢木口!あれはなんだァァァァァァ!!!なんの料理……ていうか料理なのかァァ!?おおっとここで、チーム古典部副将千反田!!これは見事な桂剥き!!はやい!!はやいぞぉぉ!!』
スルスルと大根が一枚の薄い紙のようになっていく。まな板には長ネギの青い部分と甘みょうがが既に準備してある。……おっと、千反田さんの動きが十秒ほど止まった。
大慌てで動き出す。そうだよ千反田さん!ご飯だよご飯!!それにしても、いい不思議ちゃんぶりだね。やっぱり千反田さんだ。
大慌てで米を研いでるいけど、これもなかなかのスピードと手際の良さだ!さすがは農家の娘!
『チーム古典部、米を研ぎにかかりますが……六リットルしかない水を惜しみなく使っています!米のうまさにリソースは惜しみません!
素晴らしい!!素晴らしいぞ副将千反田ァァァ!!!』
実況もノリノリだ!水の分量が決まり、米を入れた鍋に火をかける。
『チームあじよし、二品目も一品目と同じ味噌汁だァァァ!!味噌汁尽くしか?味噌汁尽くしなのかァァ!?おおっとチームファタモルガーナ!いよいよ照り焼きが完成しようとしているぅぅぅ!!ああっと、チーム天文部副将沢木口!!料理から紫色の泡が出ています!!他の部員達は既に四つん這いになって絶望している!!!』
千反田さんは米を炊いている間にほかの作業に取り掛かった。甘エビを手際よく袋から取り出すと、素早く頭の殻をとり、長方形の皿に先程剥いた大根で作ったつま、その上にエビを置く。隣の小皿にはわさび醤油。なるほど、甘エビのお刺身か!
千反田さんの料理はまだ終わらない。ジャガイモを大きめのボウルの中に入れ、それをすり潰す。豆腐一丁を手の上に出し、すり潰したじゃがいもが入っている大きめのボウルに入れ、それを混ぜる。
次いで、小さめのボウルに水と片栗粉を少々。水溶き片栗粉を作り、じゃがいもと豆腐のボウルに少しずつ加えながら、さらに混ぜる!
フライパンに油を引き、キッチンペーパーでそれを引き伸ばす。フライパンが温まる前に、千反田さんはじゃがいもと豆腐の混ざった種を手で一口サイズに分け、フライパンに入れる。その上から醤油……、これはまさか!!
『チーム古典部!!あれは芋餅だァァ!!香ばしい匂いがこちらまでとどいてきているぞぉぉ!!チームファタモルガーナ、照り焼き完成!チーム天文部、謎の料理完成!!そして……!!』
千反田さんは焼き終えた芋餅を丁寧に素早く皿に盛り付け、菜箸を置いた。
『チーム古典部、芋餅と甘エビの刺身の完成だァァァァァ!!おおっと、ここで副将戦は終了!!大将に変わってください!!』
千反田さんは微笑みながらこちらに戻ってきた。
「どうでしたか?」
「いやぁ素晴らしいよ千反田さん。でも……」
「でも?」
実況が叫んでいる。
『チーム古典部!大将が現れません!!ここまでは素晴らしいパフォーマンスでしたが、果たしてどうなるう!?』
「摩耶花さん、心配ですね。」
「う、うん。それもそうなんだけどさ。あれ……」
「ほえ……あっ!」
僕はたった今千反田さんが善戦した古典部専用のキッチンを指さした。そこに残っているのは、桂剥きで削られた大根と、長ネギの切れ端しか残っていなかった。ほぼ生ゴミ同然だ。千反田さんが、ほぼ食材を使い果たしてしまった……。
ははは……ごめん。摩耶花。
♦︎04
漫研の仕事を終えた私は、部室を飛び出した。まず微かに聞こえてきたのは、南雲が参加してる《神高クイズタッグ》の実況だった。
『予選も残り十チーム!!決勝進出を決めるのはどのチームか!?』
南雲が生き残ってるかは分からないけど、アイツはしぶとい。きっと生き残ってるに違いない。
次に聞こえてきたのは、グラウンドで行われている今から私が向かう、《ワイルドファイア》の実況だ。
『さぁ!チームあじよし。デザートにリンゴを剥く構え!ん?なぜリンゴを角切りにしているのかァァァァ!!チームあじよし!!さぁ、チーム古典部の大将は未だに現れません!恐れをなして逃げたのかァァ!?』
誰が逃げるか。
階段を掛け下がった私は靴に履き替えるのも面倒で、上履きのままグラウンドまで走った。
《ワイルドファイア》の人だかりから見えたちーちゃんが私に気づいて、実況の人に何かを言っている。
「おおっと!?あの私服の少女!あれが古典部の大将か!?しかし間に合うのかァァァァ!!」
私服の少女?私は思い出した。そうだ、私コスプレをしているんだ。一気に体温が上がった気がする。
ええい!どうにでもなれ!!
私なふくちゃんとちーちゃんのそばまで駆け寄ると、ふくちゃんは声を上げて実況の人に聞いた。
「審判!遅れてきたチーム古典部の大将のために、若干の説明をすることをお許し願います!」
「短くね」
と言ってくれた。ふくちゃんは早口で私に言った。
「右の鍋はご飯を炊いてる。もう蒸らしに入っていい頃だ。左の鍋は豚汁。出す直前に温め直して、材料なんだけど……」
一方ちーちゃんは泣き出しそうな顔をしている。ふくちゃんが泣かせたんじゃないでしょうね?
「すみません、摩耶花さん」
「キッチンに残ってるもの以外は校内からなら調達できるルールだ。いつも貧乏くじを引かせてごめん。後で埋め合わせるから、頼んだよ摩耶花!」
ふくちゃんに背中を押された私は、キッチンに向かって走り出した。しかし、キッチンに残されているものを見て、目を見開いた。
残っているのは桂剥きされた大根にネギの青い部分。材料が入ってたと思われるかごを除いても、そこには小さな玉ねぎと氷しか残っていない。
出来上がっている料理を眺める。どの料理も美しく盛りつけされていた。多分ちーちゃんだろう。
ここで変な料理を出したら、ちーちゃんの料理の足を引っ張りかねない。どうする?
『さぁ!チーム古典部、一難去ってまた一難!もう食材がのこっていないぞぉぉお!!!作らなければチーム古典部はゼロ点。ここまでかぁぁ!!』
♠︎06
『さぁ!チーム古典部、一難去ってまた一難!もう食材がのこっていないぞぉぉお!!!作らなければチーム古典部はゼロ点。ここまでかぁぁ!!』
俺は窓から《ワイルドファイア》を眺めていた。俺も古典部として彼らに力を貸したいところだが……さて……
どうする、今俺に出来ることはなんだ?
♣︎07
「摩耶花さん。あれだけの食材でどうするつもりでしょうか。私、気になります」
いや、誰のせいやねん。
これがハルやホータローだったら裏拳ツッコミが出来たのに、惜しいものだよ。
でも、もうやりようがない。摩耶花はじっと考えている、その時だった。
『チーム古典部、打つ手があり(さ……としー)ません!残り時間はあと十分!このままタイムアップを待つしかないのか?』
今僕を呼ぶ声が聞こえたような。
『チーム天文部、これはもはや地球の食べ物ではありません!天文部らしく異星人の食を作ろうとしているのでは!?バナナを出汁で煮ています!』
バナナもちょっと興味あるけど……
「里志!!!」
ホータローの声だ!遠い、どこだ?
「福部さん、あそこです!」
千反田さんが指を指す。信じられない!!あのホータローが教室の窓から身を乗り出して僕らを応援しているというのかい!?あのホータローが!?
「里志!!!こい!!!真下まで!!!」
なんだなんだ。僕は地学講義室の真下まで小走りで行く。見上げて、手でメガホンを作る。
「どうしたのーー?」
「受け取れよ!」
ホータローが落としてきたのは……薄力粉!?
♦︎05
折木の元から戻ってきたふくちゃんがこっちに向かって投げてきた黄色い袋には《薄力粉》と書いてある。なんで折木がこんなものを?
実況が今の一部始終を見ていたのか、興奮したような声で言った。
『チ、チーム古典部!!凄まじい展開です!参加していないメンバーから救いの手が差し伸べられたァァァ!!これぞ、友情、努力、勝利になるのかァァァァ!!!!』
小麦粉……。小麦粉と長ネギと、大根、玉ねぎ、そしてご飯。
いける!!
♣︎08
摩耶花が動き出した!
ボウルに小麦粉を開け、水を注ぐ。フライパンに油を注ぎ、加熱開始。長ネギ青い部分とをザク切りにし、玉ねぎを薄切りに、大根をおろし金で下ろす。そして……
『おおっと、チーム古典部!先程副将千反田が捨てた甘エビの頭をかきあつめていぞ!これをどうしようというのか!?』
甘エビの頭をどうしようって言うのさ摩耶花!頭を悩ませている僕の横で千反田さんが呟いた。
「かき揚げ!」
そうか!摩耶花が作ろうとしているのはかき揚げだ!誰もが生ゴミだ思ってい食材の輝きを摩耶花は見逃さなかった。例えゴミだとしても輝けるということを摩耶花は僕達に証明してくれた!ゴミなんてないんだ!誰もが輝けるんだ!摩耶花バンザイ!本当の僕達バンザイ!
《ワイルドファイア》はあと五分。頼む、間に合ってくれ!!
「料理研!!おたまくらい用意しなさいよ!!」
おたま!?おたまなんて初歩的な物も置いてないのかこのお料理研は!!!部費減らすぞ!!!馬鹿野郎!!!
するとそれに気づいたお料理研の部員が他の使っていないチームのおたまをこちらを持ってきた。摩耶花はそれをひったくるように受け取る。
かき揚げの種を油に落とし、揚げる。
その隙間時間を使い、摩耶花は豚汁を温め、おろし金で大根を下ろし、醤油とみりんでつゆを作り、丼にご飯を盛った!!ん?丼?
そうか!!摩耶花が作ろうとしているのはかき揚げじゃない。あれは!!
「これであがりよ!!!」
『しゅーりょーー!!!!!』
摩耶花がかき揚げ丼を盛り付けると同時に、《ワイルドファイア》は終了した。
僕達は、自分の足から力が抜けていくのを感じた。
あっぶな〜。ありがとう……摩耶花。
♥05
摩耶花さんは料理が終わりこちらに戻ってくる時に、どことなくイライラしているように見えました。私は私の失態を思い出します。私が謝ろうとしたその直後……
「おたまが無かった!!」
「いや、ほんとに申し訳ない!」
隣から声をかけてきたのは先程から実況されていた方でした。
「調理器具は何度か確認したんだけど、まさか基本的なおたまを忘れるなんてね」
「まぁ、いいんですけどね」
何度か確認したのに、調理器具が無くなるなんて……私、気になります。
試食は既に始まっていました。天文部さん作成の料理を口にした審査員の方は、固く目を瞑って天を仰いでいます。お一人がどこかに走っていきました。
あの料理。私、気になりません。
不意に私はチーム古典部の調理器具が置かれているシンクに目を向けました。
「あら?」
グリーティングカードが置かれています。それに開いたまま伏せてあるこれは、しおり《カンヤ祭の歩き方》です。この組み合わせは、どこかで見ました。
「福部さん、摩耶花さん!こんなものが……」
お二人に私はグリーティングカードを見せました。そこに書いてあったのは、思った通り、前に見たことのある文字列でした。
【お料理研から、おたまは既に失われた 十文字】
「これは……」
福部さんの目が輝きます。私は勢い込んでいいました。
「占い研と同じです!」「囲碁部とおんなじだ!!」
「「え?」」
私と福部さんはお互いの顔を確認しました。
《カンヤ祭の歩き方》の方に視線をずらすと、三十三ページ、参加団体一覧のページが開かれています。
摩耶花さんは福部さんの、次いで私の顔を見て、おもむろに言いました。
「これ、なに?」
私にも、分かりません。
【氷菓完売まで あと百四十部】
次回《決着!神高クイズタッグ》