氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第九話 十文字事件

 JOKER13

 

 

 

 園芸部で桜と分かれた俺は、園芸部に置いてあったグリーティングカードを片手に見ていた。

 

 【園芸部から、AKは既に失われた 十文字】

 

 占い研究部と同じだ。確かあそこで取られたのは、《運命の輪》、《ホイール・オブ・フォーチュン》だったよな。

 AKとホイール・オブ・フォーチュン……共通点があるとは思えないけど。十文字の名を名乗った、《怪盗》。

 

「可愛い〜!!!」

 

 地学講義室前、中から伊原の声が聞こえた。可愛い?奉太郎や里志に言ってるわけでもないだろうし、千反田に言ってんのか?

 地学講義室のドアには『ただいま休憩中』という札がかけられているが、俺はそれを無視して開ける。

 

「うぃーっす。おつか……れ……」

 

 地学講義室を開けた俺は、その光景に目を見開いた。

 伊原が頬ずりしている少女、それを眺める千反田。「ほほう」という顔をする里志、弁当を無心で食ってる奉太郎。それぞれがそれぞれらしい行動を取っているが、俺の視線は伊原が頬ずりをしている少女に向いていた。

 

「雨!!?」

「あっ!お兄ちゃん、おっひさー!」

 

 我が妹、南雲雨。が、地学講義室にいたのだ。

 

「あっ、ハル。タッグ優勝おめでとう。おかげで氷菓も沢山売れたらしいよ。ホータローが言ってた」

「お、おう。お前らもワイルドファイア優勝おめでとう……。ってそうじゃねぇ!!」

「雨!!なんでお前がいるんだ!?」

「お父さんとお母さんに頼まれてお兄ちゃんが高校生活をちゃんとやってる見に来たんですー」

「余計なお世話だ!帰れ!!」

「うわーん!!お兄ちゃんがいじめるー!!摩耶花さァァん!!」

「南雲失せろ」

「酷くない!?」

 

 なんでこいつ伊原と仲良くなってんだ?それにしても、こいつも久しぶりに見たな。入学前から実家に帰ったねぇからな。ちょっと背ェ伸びたっぽいな。しかし、親父達に頼まれてきたってのはどうも口実な気がすんだよなぁ……。

 はっ!!こいつももう中三ということは、人間関係とかの相談俺に!?友達か……それとも……か、彼氏という奴か!?

 

「許しません!!お兄ちゃんは許しませんよォ!!」

「なんの話!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♠︎08

 

 

 

 

 南雲雨、やかましいのが増えたな……。ハルから妹がいるとは聞いていたが、こんなやかましい奴だったとは。

 

 千反田がなにかムズムズしているのが見えた。俺は聞く。

 

「千反田、なにかあったのか?」

 

 千反田は俺の言葉に気づくと、待ってましたと言わんばかりの顔で答えた。まずい

 

「はい!あのですね、見てください!!」

 

 渡されたのはグリーティングカード、

 

 【お料理研から、おたまは既に失われた 十文字】

 

 ふぅん。

 

「おたまが盗まれたのか?」

「うん。私たちのところだけね」

 

 答えたのは伊原だった。伊原はかき揚げ丼を作ったらしいので、一番の被害は伊原だろう。

 

「暇なやつもいたもんだな。ご愁傷様さま」

 

 グリーティングカードを千反田に返すと、里志が笑いを含みながら答えた。

 

「お料理研だけじゃないさ。囲碁部、アカペラ部、占い研究部もだ」

「園芸部も追加だ」

 

 ハルは左手で南雲雨を抑えながら、ポケットからグリーティングカードを取り出した。

 そう考えながらも俺はグリーティングカードに目を落とした。

 

 【園芸部から、AKは既に失われた 十文字】

 

「物凄く暇なんだな」

 

 話を矮小化しようとするが、千反田は一切の迷いを見せず、俺とハルを交互に見る。ハルもやばいという顔をしながらこちらを見てくる。お前が園芸部のグリーティングカードを見せるからだろ。

 千反田は興味をその瞳に捉えたまま、一語一句はっきりと言った。

 

「なぜ文化祭に乗じて盗難をするのか、なぜ十文字さんの名前を語るのか……」

 

「私、気になります」

 

 あぁ、とうとうその言葉を口にしてしまったか。しかし、俺はこいつを止める言葉を知っている。

 

「そんなことしてる場合じゃないだろ。文集が……」

「あぁ、文集の事なんだけどね。こうして地道にイベントに出たってそんなにでっかく売れるとは思わないよ」

「俺自分で言うのもなんだけど、結構売ってるぞ?」

 

 ハルの弁。尤もだ!

 

「うん。でもね、僕思いついたことがあるんだ」

「それは何、ふくちゃん」

 

 里志の目が笑っている。いや、笑っているのはいつもの事だ。里志は続ける。

 

「この連続盗難事件。いや、怪盗事件を壁新聞部に売り込むんだ。あわよくば明日のラジオの出演も頂く。完売は分からないけど、ハルに商売や宣伝の才があることは分かったし、ラジオも使えば三、四十部は上乗せできるよ」

 

 ……一理ある。昨日の里志のマイクアピールに今日の《ワイルドファイア》と《クイズタッグ》でさえ、かなりの効果だ。もしマスコミ系の部活が動けば……。だが。

 

「売り込むってたって。どう売り込むつもりだ?その事件は古典部と関係ないぞ」

 

 俺が言うと、里志はさらに悪い笑みを浮かべながら達者な口を開いた。

 

「そこさで、ハルとホータローの出番ってわけさ。《氷菓事件》、《女帝事件》の時二人は結構冴えてたからね」

「え?どういうことですか?」

 

 飲み込みの悪い千反田に、里志は笑った。

 

「つまりだね。こんな感じだ。『古典部の名探偵南雲晴&折木奉太郎、文化祭を騒がす怪盗十文字をとらへる。これまでの二人の活躍は文集《氷菓》にて詳しい由』。これで怪盗十文字よ正体も暴けて、古典部の宣伝にも……」

「「断る!!」」

 

 俺とハルは叫ぶようにいう。人をなんだと思ってるんだ。

 

「名探偵?お兄ちゃんがですか?」

 

 今まで黙って聞いていた雨は里志に聞いた。

 里志は子供の扱いに……と言っても一つしか違わないのだが、慣れているらしいようで、気前よく答えた。

 

「そう。聞くかい?南雲晴の神高謎解き伝説」

「いいえ。謎解きしてるのは東京でよく見てましたから」

 

 里志は「おお!?」と面白そうな声を上げた。

 

「ハルが東京でも謎解きねぇ。ってことは、東京にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 里志が聞くと、ハルはムッとした後に口を開いた。

 

「まぁ……な」

「しけた反応だなぁ」

 

 里志はそれ以上は追求しなかった。ハルが神山に越してきた理由は、東京での《ある事件》のせいだと勘解由小路先輩から聞いたことがある。その件について触れたくはないし、なによりハルも触れては欲しくないだろう。

 話は十文字に戻る。

 

「でも、やっぱり二人をピエロにするのはあんまり悪すぎる。十文字が古典部をターゲットにしてくれればいいんだけど」

 

 難しい話だな。しおりから文化祭の参加団体を見たとしても、ざっと五十。この中からランダムに奪われているのだとしたら、知名度の低い古典部が狙われる可能性はゼロに等しい。

 確か取られた部活は……

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER14

 

 

 

 

 十文字にモノを取られた部活は、アカペラ部、囲碁部、占い研、園芸部、お料理研、か。

 

 ちょっと待て……。まさか。

 

「ABCだ!!」

 

 俺は無意識に声を発した。里志、伊原、雨は俺の言葉で、ホータローは分かっていたように頷く。

 

「え?え?どういうことですか?」

 

 ついてこられない千反田に俺は説明する。

 

「いいか、千反田。モノが盗まれるのはランダムじゃない。法則性があるんだ。やられた部活の頭文字……共通点があるだろ?」

「えっと、アカペラ部、囲碁部、占い研……っ!!」

 

 途中まで言って気づいたようで、千反田は口を押さえた。

 

「五十音順ですね!」

 

 千反田が気づいた瞬間に、伊原はブツブツと何かを呟いている。

 

「ABC殺人事件……。Aのつく土地でAのつく人が殺されるのよね」

 

 伊原の予想は多分当たっている。アガサ・クリスティの超有名作《ABC殺人事件》だ。

 

 里志はいつの間にか持ち前の巾着袋から万年筆とメモ帳を取り出し、何かを書いていた。

 それにはこう記されている。

 

 

 ・アカペラ部 (アクエリアス)

 ・囲碁部 (碁石)

 ・占い研 (運命の輪)

 ・園芸部 (AK)

 ・お料理研 (おたま)

 

 

「碁石、じゃなくて石って捉えれば当てはまるわ」

 

 伊原の論に里志は書き換える。

 

「アカペラ部はなんでしょうか。泡盛、熱燗……」

 

 雨は口元に手を置きながら考えるが、これはあとからでも確認できる。

 

 しかし、これは、古典部にとって望んでも得られないほどの大チャンスじゃないか!?

 この事件……《十文字事件》はスルーできない。なぜなら

 

「でも、《十文字》さんはどこまでやるつもりなのでしょうか?」

「そうだね、それが問題だ」

「古典部まで来てくれればいいんだけど」

「皆さん何を言ってるんですか!?」

 

 立ち上がったのは雨だった。俺と奉太郎も頷き、何故か雨の後ろにつく。

 

「署名の名前はなんでしたか?」

 

 雨は声を大にして聞く。

 

「え、十文字(じゅうもんじ)さんでしたけど」

 

 千反田がそう言うと、奉太郎はため息をついた。

 

「お前はなぜそれを、《じゅうもんじ》と読むんだ?普通に読めば……分かる」

「だって、私のお友達に《じゅうもんじ》さん、という方が……。あら……?」

 

 奉太郎の言葉に、ほかの三人も気づいたようだ。伊原も里志も千反田も目を見開き、椅子から勢いよく立ち上がった。

 そして、俺が最後に言った。

 

「そう、普通に読めば《じゅうもじ》。お料理研で五文字目だとすれば……」

 

「そう、最後の十文字目は『こ』……。こいつは《古典部》を売り込むのには、充分な材料になるんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♥07

 

 

 

 私は早速壁新聞部の部長さん。遠垣内将司さんに古典部のことを売り込みに行きます。頑張ります!

 特別棟四階の階段を降りようとした時に、なにやら話し声が聞こえてきました。南雲さんと雨さんです。何故か私は……咄嗟に隠れてしまいます。

 

 

「実家にはいつ帰ってくるの?」

「さぁな。まだ見通しはついてない」

 

 南雲さんは……まだ一度も実家に帰ってないのでしょうか?

 

「みんな心配してるよ?お兄ちゃんのこと。」

「……そうか」

 

 南雲さんは答えません。何故でしょうか?すると、雨さんの声が大きくなりました。

 

(しらべ)ちゃんも、ずっとお兄ちゃんのことを……!!」

「詩の話はするな……!雨」

 

 詩さん。誰でしょう……。でも、南雲さんの顔も、声質もとっても怖いです。あの顔……私、嫌いです。

 

「あいつとは、会えねえよ。今は」

「分かった……じゃぁもう帰るね」

「もう帰るのか?」

「帰るって言っても、勘解由小路家の方だよ。明日までいるから、またね。古典部の人達にもよろしく」

「おう」

「千反田さん」

 

 呼ばれた気がして、体が少しビクッとしました。ですがそれは南雲さんに言った言葉のようです。

 

「が、どうした」

「詩ちゃんに、似てたね」

「……似てねぇよ」

 

 そう言った南雲さんを残して、雨さんは行ってしまいました。

 

 私に……似てる……?

 

 どういうことでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER15

 

 

 

 

 当たり前のことだ。詩は……千反田じゃない。

 千反田は……詩じゃない。

 

 そうだ……似てるわけないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 【氷菓完売まで あと百二十部】




次回《動き出す者達》



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