氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第十話 祭りの中のお祭り騒ぎ

 ♥08

 

 

 

 

 折木さんと南雲さん、それに雨さんが見つけてくださった《十文字事件》の法則性を手に、私は壁新聞部へ赴きます。遠垣内さんに《十文字事件》の事を話し、新聞記事を頂くのです。

 入須さんに教えてもらった交渉術は『相手に期待すること』、こちらの利益を小さく見せること。そして、人気のない場所で異性に頼むこと。

 

 何故そうなるのかシステムはわかりませんが……。

 

 壁新聞部さんの部室である生物講義室に訪れた私は、中を覗きます。なにやらかなり慌ただしく見えます。

 遠垣内さんを含む六人はそれぞれ携帯電話を片手に誰かとお話をしているのです

 そのうちの一人が通話を終え、こう言いました。

 

「お料理研だ。部長さんが確認してる」

 

 不意に、すぐ近くから声をかけられます。

 

「やぁ千反田さん。なにか壁新聞部に用かい?今ちょっと立て込んでてね」

 

 遠垣内さんが私に話しかけてきてくれました。チャンスです。

 

「遠垣内さん。お忙しいところ申し訳ないのですが、少しお話があるのですが……」

 

 遠垣内さんは少し困った顔をしたあとに、口を開きました。

 

「まぁ、少しだけなら」

 

 と、受け入れてくれました。そう言えば、遠垣内さんは異性です。ここは部員達の人目があります。

 私は生物部講義室のドアから1mほど離れます。遠垣内さんも不思議な顔をしながら進んできました。そこで私は、生物部講義室のドアを閉めます。

 

「古典部の事なんですが……」

「古典部が?」

「壁新聞部さん以外にはお伝えする相手がいませんでしたので」

「ふぅん?」

 

 早く終わらせたいという態度をとっていた遠垣内さんが少し興味を持ってくれたようです、

 

「実は、この文化祭の参加団体から色んなものを盗難している人がいまして」

「《十文字》!?」

「え?」

「十文字について何か知ってるの!?」

 

 予想外の反応です。まさか十文字さんのことがここまで有名になっていたなんて……。私は、十文字さんの法則性に付いて説明しました。

 

「なるほど、五十音順か。そうか、料理研は『お』が最初につくんだったな。加えて占い研もやられていたなんて。だからか……」

「だからとは?」

「ここは、『か』べしんぶんぶ。だろ?」

「ということは……!」

「あぁ、カッターナイフをやられたよ取材でちってる間に、あっさりな」

「今お忙しいそうだったのはそれで」

 

 遠垣内さんは頷きます。

 

「まぁそれもあるけど、こういうハプニングも望んでいたんだよ。怪盗事件なんて望んでも得られない絶好の機会だからね。いい記事が書けそうだ。しかし、ほんと助かったよ。十文字がそんな風に盗みを進めてるなんて……。よく気づいたね」

「はい、南雲さんと折木さんが」

「あぁ……あの二人か。」

 

 遠垣内さんは微妙な顔をしたあとに、もう一度私に言いました。

 

「じゃあ、ありがとう。助かったよ」

 

 私は微笑みながら、講義室に戻る遠垣内さんを見送ります。そして、ドアが閉められようとしたその瞬間、心の中で叫びました。

 

『あぁ!!ちょっと待ってください!古典部のことも新聞の記事に!!!』

 

 やってしまいました……。

 

 

 

 

 

 

 

 ♣︎10

 

 

 

 

 

 僕は神高に入学してから、ハルとホータローの鋭さをみた。雨ちゃんの話じゃハルはどうやら東京にいた頃から謎解きをしていたらしい。ホータローに関しては、中学からの付き合いだけど、あんなことが出来るなんて思いもしなかった。

 

 《女帝事件》の時も、二人の力を知っていたからこそ、期待した。あれをどうにか出来るのは二人しかいないと思っていたから、僕は二人のサポートに回っていた。

 大きな事件としてすぐに頭に出てくるのは《氷菓事件》、《女帝事件》の二つだけど、その他にも二人が活躍していた場面も多々ある。

 時には協力して、時にはそれぞれ別個人で。

 

 でもこの《十文字事件》、()()()()()()()()()()

 

 ホータローは店番もあって地学講義室から離れられない。この事件は安楽椅子探偵(あんらくいすたんてい)のホータローには向かない。

 ハルもいるけど、ハルは商売での意外な才能をこの文化祭で発揮して、今はそっちに勤しんでいる。いくらハルが鋭いといっても二つのことを同時に出来るかと言われれば話は別だ。ハルはそこまで器用じゃない。

 

 我らが南雲晴と折木奉太郎に期待が出来ないのなら?

 

 僕がやるしかないよね。

 

 僕の人脈をフル活用したところ、十文字が動いたルートはこうだ。

 

 

 一日目

 

 午前十一時半頃 アカペラ部から アクエリアスが盗まれる

 午後十二時半頃 囲碁部から 石?が盗まれる

 午後二時頃 占い研究会から 運命の輪が盗まれる

 

 二日目

 

 午前九時頃 園芸部から AKが盗まれる(グリーティングカードを発見したのは十二時頃だが、AKが無くなったたのはこの時刻だという。 )

 

 午前十一時半頃 お料理研から おたまが盗まれる

 

 

 

 そしてさっき廊下でばったりと千反田さんに会ったところ、どうやら壁新聞部からカッターナイフが盗られたという情報が入った。今は二時だ。

 十文字は二時間に一回のペースでものを盗んでいるのが分かる。初日に三つ。二日目に三つ。最終日に四つってい考えもあるけど、最終日は片付けの関係で、終わるのが三日間の中で一番早い。つまり、今日四つ盗まれる可能性が高いわけだ。

 

 次の文字は『き』。参加団体できから始まる部活は《奇術部》しかない。僕は二時半から公演を見る為に、すでに奇術部の教室、二年D組に訪れていた。

 突然僕の名を呼ぶ声がした。

 

「福部じゃないか」

 

 谷くんか……

 

「ワイルドファイアじゃお世話になったな。お前に負けちまったよ」

「豚汁を作るだけで精一杯だったけどね」

 

 まだ勝ち負けにこだわってるのか……。

 

「ところで、お前知ってるか?」

「なにを?」

「《十文字》を名乗る怪盗の事だよ」

 

 僕は肩をすくめながら答えた。

 

「さすが、話が早いね谷くん」

「なんだ、知ってるのか」

「だから僕がここにいるんだろ?」

「それでな、壁新聞部のヤツらがキレてたぞ。次のトップ記事は十文字の話だ。賞品を用意して、《十文字》逮捕キャンペーンをやるらしい。賞品ってのは、号外一号まるごと提供だ」

 

 その話は知らなかった。娯楽としてこの事件を楽しみたかった僕からすると興醒めもいいところだ。

 谷くんは僕の肩を叩いて、笑いながら言った。

 

「悪いがこの勝負は頂くぜ。こう見えても俺、ミステリーファンなんだ」

 

 《女帝事件》の時も、自称ミステリーファンがいたよね。

 

「お手柔らかに頼むよ」

「せいぜい期待してるぞ、福部!」

 

 

 

 

 

 

 ♦︎06

 

 

 

 

 

 お昼ご飯にかこつけて古典部に居座っちゃったけど、漫研に戻らなくちゃ。今部室に残っているのは私と折木の二人だけ。折木が私に声をかけてきた。

 

「伊原。お前はクリスティは読んでるって言ってたよな」

「読んでるって言っても、代表作だけよ」

「ABC殺人事件は代表作だよな?」

「当たり前じゃない」

「確かあれは、犯行現場にABC時刻表を残して行った……《十文字》がABC殺人事件をなぞってるとしたら、ABC時刻表は《カンヤ祭の歩き方》になるわけだ」

 

 私は事を確かめるように聞いてくる折木に、溜息をつきながら答えた。

 

「それ以外ありえないでしょ?」

「ふぅむ……」

「あんた、《十文字》を捕まえようとしてるの?」

「俺がか?」

 

 心底意外そうな顔をする。それはこっちがしたい顔だ。折木は続けた。

 

「多分ハルもだぞ。理由は千反田だ。あいつが気になると言った以上、最後の最後で十文字が誰なのか聞かれる」

 

 南雲と折木の今までの功績は、正直無視出来ない。コイツらならほんとに十文字をとっ捕まえて来そうな気もするけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、こいつらだ。

 

「そうだ折木。小麦粉ありがとう、助かったわ」

「お、それそれ。あれは実はわらしべプロトコルで手に入れたやつなんだよ」

 

 わらしべプロトコル?

 

「なによそれ」

「わらしべ長者……知らんのか?」

「それの逆版ね。小麦粉やったから何かよこせってこと?」

「ないならいい。これで終了だ」

 

 私は少し考えた、胸についているブローチを取り外した。

 

「これでいい?」

「でもそれだとコスプレが……」

「コスプレっていうなバカ!!」

 

 私は折木にハートのブローチを投げつけ、地学講義室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漫研に戻った私は、ものの数分でその場をあとにした。何故かあの場には居ずらかった。私は特別棟と普通棟の連絡通路から、中庭を見下ろしていた。

 ふと、河内先輩の言葉を思い出す。

 

 『面白いと感じるかは、個人の主観に過ぎない』。私はその言葉を否定したかった。私は個人にしろ、客観にしろ、名作は万人が受け入れることの出来るものだと信じていたから。

 《夕べには骸に》を河内先輩に見せれば、先輩はそれを納得してくれると思っていた。

 

 ……ふくちゃんに会いたいな。多分またどっかのイベントで馬鹿みたいにはしゃいでるんだろうな。それとも、《十文字事件》の調査をしてるのかな?

 誘いに来てくれたら、多分私はもう漫研には戻らない。

 

「伊原」

 

 ふと誰かに話しかけられた、私は振り向く。そこに居たのは湯浅部長だった。

 

「ごめんね伊原。なんだか変な雰囲気になっちゃって……」

 

 湯浅部長は一度息を飲み、続けた。

 

「亜矢子はね、本気じゃないの」

 

 本気じゃない……、河内先輩の言葉が?

 

「『面白さを感じるのは個人のアンテナの高さ』っていう話ですか?」

 

 湯浅部長は小さく頷いた。

 

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「友達だから……私も、亜矢子も、春菜(はるな)も」

 

 春菜?誰だろう。

 

「誰ですか?春菜って」

 

 湯浅部長は少し驚いた表情を私に見せた。

 

「あれ?知らないの?《夕べには骸に》の原作者、安城春菜(あんじょうはるな)

 

 えっ?安城春菜……?聞いたこともない。というより《夕べには骸に》の原作者の名前はもっとペンネームらしいペンネームだったような気がする……。確か

 

「でも《夕べには骸に》の原作者の名前は、アンシンイン?みたいな名前でしたよ。安心するに、寺院の院」

「そうなんだ、じゃぁペンネームを使ってたんだね。でも原作者は春菜だよ。作画は別の人が担当してたみたいなんだけど……」

 

 これは驚いた。《夕べには骸に》は原作と作画が別の人間だとは知っていたが、こんな場面でその名前がわかるなんて、私は聞いた。

 

「安城春菜さんは、何年何組ですか?」

 

 湯浅部長は首を横に振った。

 

「春菜は転校しちゃった」

 

 残念だ。通りで誰も原作者を知らなかったわけだ。しかし、私は今の話が河内先輩の話とどう関係があるのか分からなかった。

 私の口調は随分尖っていた思う。

 

「部長と河内先輩、安城春菜の三人が友達だってことに、河内先輩の話がどう関係するんですか?」

 

 湯浅部長は少し困った表情をした。その表情は、どこか悲しげで、曇っていたようにも見えた。

 

「そうだよね。それじゃぁわかんないよね。説明したいな……。でも、出来ないんだ」

 

 言ってくれなくちゃ分からない。河内先輩のことも。湯浅部長のことも。安城春菜のことも。

 私は今、深いことは考えたくなかった。

 もう少しだけ、風に当たっていたかった。だから

 

「すみません部長。もう少ししたら戻りますから」

「伊原……」

 

 私はもう一度いった。

 

「もう少ししたら……、戻りますから。」

 

 だから、放っておいて下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER16

 

 

 

 

「会長絵上手いっすね」

 

 素直に、そして率直に無意識に出た言葉だった。

 地学講義室から出た俺は、生徒会室の《氷菓》の売れ行きを確かめるために、生徒会室に訪れていた。

 そこで会長である陸山宗芳が描いていたのは、ある一枚絵だった。

 《welcome to カンヤ祭》と書いてあるので、ポスターにでも使うのだろう。

 聞いたところ、今日一日中これを書いていたらしい。

 

「そうか?普通だろ。それと《氷菓》二十部目完売だ。今日はもうそろそろ終了だから、次は明日持ってきてくれ」

「了解です。」

 

 しかし、この文化祭期間中にここまで生徒会長と仲良くなれるなんて思ってもいなかった。俺は不意に世間話のように話を振った。

 

「漫画とか書かないんすか?」

 

 陸山の手が一度止まった気がする。しかし、陸山はGペンを走らせながら言った。

 

「無理だよ。昔から絵を書くのは好きだけど、ストーリー構成はできなくてな」

「じゃぁ俺ストーリー考えますよ!」

「お前とか?寝言は寝て言えよ」

「酷くない!?」

 

 陸山は薄く笑ったあと、手のうえに顎を乗せ、生徒会室の窓の外を見ながら言った。

 

「漫画は書かないよ。どんなに仲のいい友達、例えジローに頼まれたとしてもな」

「ふぅん。でも、そこまで上手くなるって相当努力したんすね」

 

 無意識に俺から出た言葉に、陸山は驚いた顔を見せた。

 そんな話をしていると、生徒会の連中が戻ってきた。生徒会の生徒達は、陸山に手短に連絡事項や資料を渡し、再び小走りで生徒会室をあとにした。忙しいそうだな、生徒会。

 するともう一人、陸山の近くに生徒会の生徒が寄ってきて耳打ちをした。『十文字事件というものが起こっているようです』と聞こえた気がする。陸山は俺の方を向いて、言った。

 

「《十文字事件》ってのが発生してるみたいじゃないか。知ってるか?」

「あぁ……ええ、まぁ」

「お前古典部だろ?もしかしたら最後の標的になるかもな。奪われんなよ?」

「なってくれれば、氷菓が売れてお祭り騒ぎっすよ。じゃぁ忙しいそうなんで、俺そろそろ戻ります」

「おう、じゃぁな」

「うっす」

 

 俺はそういうと、生徒会室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♠︎09

 

 

 

 

 

「やられたよ、ホータロー……」

 

 文化祭二日目もそろそろ終了しようとするところで、地学講義室に最初に戻ってきたのは里志だった。

 聞くところによると、里志は《十文字》が奇術部の公演中にモノを奪うものかと思っていたが、イベントが始まる前には既に「キ」ャンドルは奇術部から奪われていたらしい。

 

 そもそも《十文字》がイベント中にモノを奪ったケースはなく、《十文字》が自分の都合のいいようにターゲットのイベント開始時間を設定できるわけがない。だから《十文字》はイベント最中か否かを問わず都合のいい時間に盗んでいると思っていたのだが……というのを説明したところ

 

「知ってるなら教えてよ」

 

 ボヤかれてしまった。

 

「お前がどうするつもりなのか俺は知らなかったんだ。それで、犯行声明はあったのか?」

「うん。二年D組の前に落ちていた」

 

 なるほど……誰でも犯行は可能ということか。神高の総生徒数は約千人。その他の一般客も加えれば更に人数は多くなる。うぅむ。

 

「千反田はどうだったんだ?」

 

 俺が聞くと、千反田は大きく頷いた。

 

「はい!二年F組にお預けした《氷菓》の売れ行きは快調だそうです!」

 

 二年F組、入須か……。あの人には何となく借りを作りたくないのだが…。

 

「それに加えて、神高月報に《十文字事件》のことが取り上げられていました。五十音順の法則も。それでですね、《古典部》のことも載っていたんです!『最後の標的は《古典部》または《工作部》であると推測される』って」

 

「工作部……そっちに行かれたら計画は台無しだな……」

 

 俺は視線をハルの方向に向ける。ほう。

 

 こいつがある一点を見続ける時は、何かを考えているのだ。一日中ここにいた俺より、ハルの方が情報を掴んでいるのは確かだろう。

 それとも、《十文字》以外の事を考えているのか?

 

「ハル。お前の方はどうだった?」

「え?あぁ、生徒会室の《氷菓》二十部目完売だ。加えて文芸部に預けた十部から三部。書道部に預けた十部からも三部。訪問販売で四部。売れ行き上々だろ?」

 

 むむ。数えられるのはそれだけだが、《神高クイズスクエア》でのマイクアピールを含めればさらに上乗せは出来るだろう。やはりこいつには交渉術や商売、宣伝の才能があるのだろうか。

 ハルの成果を聞いた千反田が少し落ち込んだ様子を見せた。

 

「ホータローの方はどうだったんだい?」

「十六部だ」

「へぇ、昨日より売れてるじゃないか。」

 

 まぁな。だがこれで半分だ。明日の土曜日が本番な訳だが、《十文字事件》を利用しないと完売は難しい。

 俺は机から製菓研のビスケットを取り出した。

 

「これはなんだい、ホータロー」

「製菓研のビスケット。一人じゃ多いからな、よかったら食ってくれ。味は保証しよう」

 

 呼びかけると、伊原もこちらに寄ってきた。

 

 俺達がビスケットを食べているあいだに、文化祭二日目終了のチャイムが流れた。

 

 

 文化祭二日目、終了。

 

 

 【氷菓完売まで あと百八部】

 

 

 




時間《眠れない夜》



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