氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第十一話 眠れない夜

 JOKER17

 

 

 

 文化祭二日目が終了した夜。家に帰ると雨がおり、今日の勘解由小路家の食卓は盛り上がった。

 時間は既に一時を回ろうとしていた。基本的に寝るのは遅い体質だが、明日も早い、早く寝なければならない。

 

 水でも飲もうか……。俺は部屋から出ると階段降りてリビングに向かった。勘解由小路家の屋敷は千反田邸には劣るがそれなりにでかい。

 しかしそれは見た目だけであって、千反田邸のように全てが和室で形成されてはいないのだ。

 リビングに降りると、明かりがついていることに気がついた。晴香がソファに座って何かを読んでいる。

 

「よう」

「まだ起きてたのか晴」

「お互いにな、なに読んでんだ?」

 

 「ん」と、晴香は俺に今まで自分が読んでいた冊子を渡してきた。漫画だと思っていたがカバーは随分チープで、《氷菓》のような質感を覚える。

 表紙に描かれていた猫がアクロバットをしている絵に、俺は思わず「おお」と声を上げた。

 

 上手い。絵のことは伊原のように詳しくはないが、商業誌に掲載されていても不思議では無い。題名は……

 

「《ボディートーク》、どこで買ったんだ?」

 

 晴香は両手を頭の後ろに回し、体重をソファに掛けながら答えた。

 

「同人誌さ。友達にもらった。即売会で買ったんだって」

「ふーん」

 

 俺は《ボディートーク》をソファの前においてある机に置き、晴香の隣に座った。

 しばしの沈黙。気まずくはない。

 

「文化祭も、明日で終わりか」

 

 晴香がボヤいた。そうだ。晴香は三年で、今年の文化祭が最後の年となる。

 俺は薄く笑ったあとに、らしくない言葉を発した。

 

「楽しかったか?」

「そうりゃァ勿論。今年の《カンヤ賞》は書道部がもらうよ」

 

 《カンヤ賞》、一般客からのアンケートで、最も人気のあった参加団体が貰える賞だ。閉会式で発表される。

 

「古典部だって、《氷菓》が完売すればまだ分からないぜ」

「一年目のガキが生意気言ってんじゃないよ」

 

 晴香は俺の頭を人差し指でどつくと、自室に戻って行った。

 

「おい、《ボディートーク》忘れてるぞ」

「やる。もう私は読んだから」

 

 ふむ。

 

 眠れるまで読むか。

 

 

 

 

 

 

 

 ♥09

 

 

 

 

 今日は疲れました。

 

 田名辺さんに頼んで、遠垣内さんに頼んで、入須さんに頼んで……私は頼んでばっかりです。これでいいんでしょうか?

 

 福部さんはマイクアピールでお客さんの客足を伸ばしました。南雲さんも訪問販売で《氷菓》を沢山売り上げています。

 

 私は人にものを頼むのが向いていないのかも知れません。言ってしまえば才能がないのです。千反田家の人間として、これではいけません。

 

 もっと他にあるはずです。私にしか出来ないことが、諦めてはいけません。でも、

 

 

 今日は……やっぱり疲れました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎07

 

 

 

 

 

 私は今自室のベッドで《ボディートーク》を開いている。眠れなかったので、これを読もうと思ったのだが、あまりの面白さと話のテンポの良さに次がきになって目が覚めてしまう。

 これを睡眠剤代わりに使うのは向いていない。これで寝ようなんて考えるのが間違いだった。

 

 《ボディートーク》。主人公は相手の体に触れるだけでその相手と意識下の中で会話が出来る能力を持つ。

 主人公はこれまたトラブルメーカーで、様々な問題に巻き込まれるという一話完結型の漫画だ。

 それに加えて、それぞれのコマで意味なく登場する猫のような狐のような動物がアクロバットをしている姿はどことなく笑える。多分作者の持ちキャラだろう。

 

 でも《ボディートーク》は《夕べには骸に》に比べれば全体的な総合評価では劣るだろう。

 勢いに任せすぎていたり、背景があからさまに書きかけの部分が多かったり、セリフの前後関係が分かりにくいところがあるのは事実だ。

 

 私がお遊びで描いた漫画よりかはそりゃ天と地の差はあるけどさ。

 多分それをほかの人に読ませたら睡眠薬代わりになるのは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♠︎10

 

 

 

 

 

 リビングにあるパソコンを開き、俺はインターネットブラウザを開いた。神山高校文化祭公式ページに向かう。

 

 通信販売コーナー……こんなものもあるのか。売るのは当然、文化祭で出品されているものだろう。是非とも《氷菓》も売っていただきたいものだ。

 

 注文はメールフォームから行うらしい、管理しているのは……総務委員会か。ふむ。

 

 

 寝よう。眠れないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♣︎11

 

 

 

 

 

 夜の散歩に出た。一風呂浴びてさっぱりした体を十月の涼しすぎる夜風に当てる。

 

 神高に入学して、僕は千反田さんという希なる触媒に接して、ホータローの力を見た。

 それは今まで僕の前では発揮することのなかったホータローの真価、推理能力というべき代物だろう。

 ホータローは単なる灰色一色の人間ではなく、僕の好む意外性のある人間だった。

 

 ハルの能力についても僕は驚いた。古典部に入るまでは、ホータローと同じクラスで隣の席の男子、という印象しかなかったんだ。

 正直言ってしまえば、いつも本を読んでる意外性のない人間だとも思った。

 しかし、彼は古典部で僕達に類まれなる力を証明した。《女帝事件》の時には入須先輩の企みに気づいて、誰よりも早く行動を起こしていた。自分のことを《無色》なんて言ってるのにねぇ。

 

 能ある鷹は爪を隠す。二人がそういう人間であると気づいた時、僕は心からそれを愉快な事と思っただろうか。

 二人が事件を解決している時、僕は一歩後ろで見ているだけしか出来なかった。

 

 だから僕は、二人には向いていないこの《十文字事件》を……二人に期待することなく解決する。

 

 

 さて、《十文字》だけどまず僕が気になったのは、選んだ部活だ。何故アカペラ部だった?何故囲碁部だった?何故占い研だった?

 特にお料理研のおたまだ。あれは多分ワイルドファイアが始まる前には既に取られてた。けど、始まる前からあの場には沢山の観客が押し寄せていた。人目に見られるリスクを負ってまで、なぜお料理研だったんだ?

 《オカルト研》も《応援団&チアリーディング部》でも良かったんだ。

 

 次。さっきも言ったけど、《十文字》はイベントの最中にモノを奪うんじゃなくて、イベントが始まる前に既に盗みを働いている。

 なら、明日は早起きだ。『く』のつく部活を徹底的に張り込んでやる。『く』のつく部活は《クイ研》と《グローバルアクトクラブ》。《クイ研》はもうイベントはないから、《グローバルアクトクラブ》の可能性が高い。

 

 データベースが結論をだす、世にも希な瞬間。もしかしたら僕はこの文化祭で自分の中に眠る意外性に出会うことができるかもしれない。

 

 僕は踵を返すように頬を思いっきり叩くと、犬に吠えられた。

 

 

 

 

 

 【氷菓完売まで あと百八部】

 

 




 《クドリャフカの順番》編もあと三、四話で完結です。




 次回《クドリャフカの順番》
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