氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第十四話 あなたが十文字ですね

 ♥12

 

 

 

 

 

 【古典部VS十文字 古典部、惜しくも敗北】

 

 

 壁新聞部さんの記事を見て、私は溜息をつきました。

 文化祭も終わりに近づき、他の方々は片付けに取り掛かかっています。閉会式後にも片付けの時間は正式に取られるのですが、それまでに軽くやっておきたいのでしょう。

 私は閉会式に向かう直前に、二年F組に寄りました。私を見つけたの入須さんは、最初にこう言います。

 

「《氷菓》、三十部。完売だ。定価で売ってやりたかったがな」

「いえ、本当に……本当に……ありがとうございました!!」

「える」

「なんでしょう?」

 

 入須さんは、一度苦い顔をした後に、続けました。

 

「校内放送聞いたぞ。言っておこう、お前にはああいうのは向かない」

 

 ショックは受けませんでした。どこかで気づいていたのかも知れません。私は、小さく頷きました。

 

「お前が《期待》を操ろうとすると、どうも甘えているように聞こえる。フリで続けていたことがいつの間にか本心に擦り変わるなんてよくある話だ。いいか?お前でいうならば、野菜は千反田家、肉は勘解由小路家、それがある日突然逆になったとしたら?向いていないことはするものじゃない。お前の交渉術はまるでなってなかった。その、回りくどいい方だが、分かるか?」

 

 分かります。入須さんは私を心配してくれているということも。私は、出来る限りの笑顔で返しました。

 

「ええ……私も薄々分かっていました。交渉術は私には、まるで向いていません。その……もう、こりごりです」

 

 入須さんも、少しだけ微笑んだようでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER20

 

 

 

 

 文化祭三日目。正午。千反田のラジオが始まる数十分前。

 

 奉太郎と里志と別れ、俺は文化祭雰囲気も届いてなく、人気のない学校の駐輪場で彼を待っていた。そして、彼はやってくる。

 

「それで、なんの用かな?」

「単刀直入に言いましょう。あなたが《十文字》ですね」

 

 彼、《十文字》は愉快そうに言った。

 

「あてずっぽうかい?僕の後輩に冗談が得意な奴がいるんだが、この冗談はちょっと笑えないな」

 

 俺は笑う。

 

「あてずっぽうで千分の一の確率を当てられたら、俺は多分一生分の運を使い果たしてますよ。あと俺の友達にも冗談の上手いやつはいます。多分同一人物でしょうね」

 

「手短にいきましょう。あぁ、今のは俺の友達の決まり文句なんですが……。じゃぁまずはこれ」

 

 俺はポケットから園芸部のグリーティングカードを取り出す。

 

「これはあなたが現場に残した犯行声明です。こいつはなぜ『頂いた』等ではなく『失われた』、という言い方をしているのか?」

 

 《十文字》は何も言わない。俺は続ける。

 

「答えは『く』にあります。『く』の文字のつく部活からモノは奪われなかった。いや、《失われなかった》。なぜか?一文字でも抜ければ《十文字の法則》は壊れてしまいます。ですがあなたは犯行を進めた。軽音部から弦を失わせた。そこで俺はこう考えました。俺たちの知らないところで、『く』のつく何かが既に失われているのだとしたら……。これが《十文字》の計画のひとつだとしたら……」

 

 俺は《十文字》の顔を見るが、表情ひとつ変えない。俺の考えが間違っているのか?いや、そんなはずはない。

 

「こうです。『くで始まる相手から、くで始まるモノは既に失われた 十文字』。《十文字事件》は元々、これ自体が暗号だったんじゃないですか?くで始まる相手に、『既に失われた』というメッセージを間接的に送っていた」

「随分難しい暗号だね。そりゃ伝わらないよ」

「そうですね。普通なら伝わりません。ですが、メッセージを送る相手がこの暗号の解読法を知っていれば、話は別です……。《クドリャフカの順番》。去年この文化祭で売られていた《夕べには骸に》の後書きにて今年()()()()()()()()()文集。ご存知ですよね?」

 

 《十文字》の表情が初めて動いた。目を見開き、動揺を隠せていない。

 

「なぜお前がそれを知っている……そういいたげですね。《クドリャフカの順番》と《十文字事件》はクリスティの超有名作をひねったものだ。《十文字事件》は《クドリャフカの順番》のトリックを使ったものではないのですか?そこで俺は、失われたモノは、《クドリャフカの順番》という線を立てました、そして《クドリャフカの順番》を知っていて、それを失った『く』で始まる人物とは……」

 

 

「陸山宗芳。現生徒会長であり、《夕べには骸に》の作画担当だ。違いますか?」

 

 《十文字》は顎に手を当て考える仕草をとる。そして切り出した。

 

「《十文字》の標的は部活ばかりだ。くだけ人名なのは頂けないな」

「なにも《十文字》は部活だけとは明言していません」

「苦しいね」

「苦しくないですよ」

 

 被さるように声を出した。俺はさらに丸めた《カンヤ祭の歩き方》の三十三ページを《十文字》に提示した。

 

 

 P33

 

軽音楽部

囲碁部

アカペラ部

壁新聞部

お料理研究会

園芸部

ブラスバンド部

奇術部

占い研究部

古典部

 

 執行本部

 

陸山宗芳(生徒会長)《やりすぎんなよお前ら、言いたいことはそれだけだ》

 

八崎慶太(生徒副会長) 《期間中は生徒会室に本部を起きます》

 

田名辺治朗(たなべじろう)(総務委員長) 《ゴミ箱は充分な数を揃えてありますが、分別にご協力ください》

 

 

「俺が思うに、これこそが被害者リストだったのではないでしょうか?《十文字事件》はクリスティの《ABC殺人事件》を模倣したものだ。あなたはABC時刻表の代わりに、《カンヤ祭の歩き方》を犯行現場に置いていった。被害者はすべてこの三十三ページから選ばれている。オカルト研ではなく、お料理研。映画研ではなく、園芸部」

 

 舌で唇を舐める。

 

「そしてこの三十三ページには『く』で始まる部活は乗っていない。乗っているのは、陸山宗芳生徒会長の名前だけだ。

なぜ被害者の部活がこのリストに集まったのか、偶然集まっていたから、事件を起こした。違うでしょう。五十音順のあからこまでが乗っているのは偶然にしては出来すぎている。ならなぜ揃ったのか、操作をしたからですよね?

ここで犯人は千人から、《カンヤ祭の歩き方》を制作した総務委員会の二十人に絞られます。畳み掛けましょうか?

《夕べには骸に》にて安城春菜とコンビを組んでいた陸山は《クドリャフカの順番》を元とした《十文字事件》の暗号を解くことが出来た。では《十文字》とは誰か、なぜ《クドリャフカの順番》を知っていて、なぜ陸山にメッセージを送ろうとしているのか

憶測ですが、『既に失われた』という記述から、陸山は《クドリャフカの順番》の原作を紛失してしまったのではないでしょうか?転校していった安城春菜が残した最高傑作を無くした陸山を、どうしても《十文字》は許すことが出来なかった。そして、嫌がらせとしてこの事件を起こした。

つまり、《十文字》が陸山に送りたかったメッセージはこうです。【陸山宗芳から、クドリャフカの順番は既に失われた】。加えて、《夕べには骸に》の後書きをかいたのは、安城春菜でも陸山でもない。第三者、背景の手伝いをした人間だ。安心院鐸波の第三のメンバー、そいつが《十文字》……つまりあなただ 」

 

 俺は奉太郎から借りたトートバッグの中から《夕べには骸に》を取り出す。

 

「安心院鐸波……妙なペンネームです。これは、《夕べには骸に》の作者三人の名前の頭文字を取ったものですよね?」

「というと?」

「あんじょう はるな。『あ』と『は』。くがやま むねよし。『く』と『む』。これを、あじむ たくは。から引くと『じ』と『た』が残ります」

 

 俺は畳かかけるように推理を進めていく。多分今の俺は笑っている。

 

「去年も文化祭に参加していて、二年生以上で総務委員。苗字と名前に『た』と『じ』のつく人物。加えて、陸山会長と親しく、彼が漫画をかけると知っている人間……そんな人間は、一人しかいない……」

 

 秋風が俺と《十文字》を包み込み、髪をなびかせた。視線と視線をぶつかり合わせ、とても冷徹な眼差しを向け合わせる。

 

 風が勢いよく強まり、俺は右手の親指と人差し指を立て、上から見るとLの字になるように、《十文字》を指さした。

 

「あなたが《十文字》だ。現総務委員会委員長……」

 

 

 

 

「田名辺治朗先輩」

 

 

 

 

 

 パチパチパチ……

 

 田名辺は拍手をしてくれた。俺はムスッとそれを返す。

 

「見事だ。安城さんと、ムネ以外に読み解ける奴がいたとは」

 

「俺だけじゃないですよ。古典部にもう一人います。」

 

 

 

 

 

 

 

 ♣︎16

 

 

 

 ハルが一人で歩いてるから追いかけたらこんな事態になってるなんて……。素晴らしいや。

 

「全く……。期待以上だよ。ハル、ホータロー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER21

 

 

 

 

 

「どうしてこんな回りくどい真似をしたんですか?」

 

 田名辺は一度考える仕草をとってから、笑いながら言った。

 

「もう気づいてるんじゃないのかい?」

「生憎、俺は理系なもんで、人の心とかわかんないんすよ」

 

 もう一度笑った。

 

「古典部なのにかい?そうだな……」

 

 田辺は深くため息をついた。

 

「口で直接言えなかった。それが一番の理由かな……」

 

 なにがあったのかは知らない。きっと三人のあいだで、何かがあったのだろう。だが、俺はそれを聞いて何が出来るわけじゃない。

 

「そこでモノは相談です」

「なんだい?」

 

 俺はトートバッグから《氷菓》の山を取り出した。

 

「《氷菓》、占めて三十部。買って頂きたい」

 

 田名辺は一度怪訝な顔をした。多分この人はこう思っているだろう。

 

「《十文字》の正体をバラされたくなかったら、これを買えって事かい?」

「まぁそういうことです。でも買うのは先輩じゃなくて、総務委員会です」

「バカな……!」

「出来るはずですよ。奉太…、友達から聞いたんですが、総務委員会は公式ホームページで文化祭商品の通信販売を行っているそうで、そこで《氷菓》を売って欲しいんです」

「理由なく売ることは出来ない」

 

 最もだ。

 

「しかし理由は出来るんですよ。それが《十文字》の完結だ」

「どういう意味だい?きみに正体を知られた今、《十文字》の犯行はできない」

「知られたからこそです。俺が《十文字》の犯行をサポートしますよ。古典部を最後の標的にするんです。加えて、地学講義室で《氷菓》を売ってるもっさり頭と、福部里志にも協力してもらいます。どうですか?」

 

 田名辺は再び顎に手を置く。どうやらこれは彼が考える時に行う癖のようだ。その状態のまま、数十秒。

 正直、この提案に乗ってくれる可能性は低いと考えている。《十文字》の正体をバラさない代わりに、文集を買えなんて脅迫じみた事を下級生にやられているのだ。いつ殴り掛かられてもおかしくはない。よしここで言おう。俺は喧嘩で勝ったことは無い。これまでも、そしてこれからも……。うぅむ。未来永劫この不動の事実は変わらんだろうなぁ。

 

 俺がくだらないことを考えているうちに、田名辺は顎から手を外した。結論が出たか……。

 

「通信販売の商品の充実、《十文字》事件の完結、君たち古典部の文集の売上向上……。利害は一致している。乗ったよ」

 

 ふぅ……

 

「そういうと思いましたよ」

「で?どう《十文字》をサポートしてくれるんだい?」

「俺たちは《校了原稿》を用意します。これから千反……、俺たちの部長がお昼のラジオに出演し、古典部のアピールをします。そうすればそれなりに客も来るでしょう」

「ほほう。それで?」

 

 むむ。楽しそうだなこの人。どうやら《十文字》をやる以前からこういう話には興味があるらしい。

 

「この文化祭で化学部が実演してるナトリウム爆発を使用します。《氷菓》を売っている最中にちょっとだけ覗いたんですが、かなりの威力です」

「爆発を行うのかい……?」

 

 田名辺の顔は少し不安を帯びる。俺だって神高が全壊するような爆発を起こしたくはない。

 

「爆発、と言っても小さいものです。ナトリウムの量を調節します。爆破方法は簡単です。何とかしてナトリウムを手に入れ、それを仕込んだ《校了原稿》を机の上に置いておきます。それに向かって、この水鉄砲を打ってください」

 

 俺は田名辺にグロック17の水鉄砲を渡す。彼はニヤリと笑って口を開いた。

 

「どこで手に入れたんだい?こんな代物」

 

 俺もニヤリと笑った。

 

「わらしべプロトコルです。《ボディートーク》という文集と、製菓研の連中が持っていたものを交換してきました」

 

 一回の交換でわらしべという言葉を使っていいのかはわからんが……。

 

「しかし、客の視線は《校了原稿》に向いているだろ?とても打てるタイミングはない……」

「そうですね……なら、俺と里志で田名辺先輩を客の死角になるように囲みます。奉太……、受付にいる奴にタイミングを見計らってあくびをするように言っとくんで、それを合図に打ってください」

「わかった。犯行声明はどうする?」

「《氷菓》に挟んで爆発と同時に落としてください。それ用の《氷菓》、一部二百円。」

 

 俺は人差し指と中指を立てる。すると、田辺は笑った

 

「ちゃっかりしてる」

「完売させたいんすよ」

 

 田名辺は俺に二百円を渡し、俺は代わりに《氷菓》を渡す。そして、俺がもう行こうとトートバッグを肩にかけた時だった。

 

「君……名前はなんて言ったかな?」

 

 そういや名乗ってなかったな。俺は一度わざとらしい咳払いをしたあとに答えた。

 

「一年B組、古典部の南雲晴です」

「南雲くん。君は、僕が《十文字》事件を起こした理由は、ムネが《クドリャフカの順番》を失くしたからと言ったね?」

「あくまで予想ですよ。違いましたか?」

「あぁ。違う。ムネは《クドリャフカの順番》を無くしちゃいない。僕の動機は、多分この世界で安城さん以外分からないだろうね?」

 

 ん?

 

「安城春菜にしか分からないとは?陸山会長に送ったメッセージでしょう?」

「そうだ、あの暗号のメッセージはこうさ、『陸山、安城さんの原作は描く気はないか?』」

 

 田名辺から発せされる言葉はどことなく力がなく、今までの微笑んだ表情が暗く冷たいものに変わった。

 

「ムネは、漫画を書く気はないんだ」

 

 それは知っている。なぜなら俺も彼にこの文化祭期間中に『漫画とか書かないんですか?』と聞いたのだ。 その返答は否定だった。

 

「君も読んだんだろ?《夕べには骸に》を。安城さんも天才的だけど、ムネがあれほど描けるなんて思いもしなかった。なのに、あいつは描こうとしない……」

「《クドリャフカの順番》の原作はちゃんとあるんだ!!あいつがその気になれば、《クドリャフカの順番》は《夕べには骸に》を超える作品になりえたんだ……。けど、漫画描きはあいつにとって、()()()()()()()()()()()()()()

 

 去年限りの、遊び?いや、でも……陸山は俺に……。

 田名辺は俺に言い続けた

 

「惜しいと思うだろ?勿体無いと思うだろ?才能を持っているのに、あいつは何もやろうとしない。あいつが一言やるぞと言ってくれれば、僕はなんだってするつもりでいた。あいつなら、いつか原作無しでも傑作を作れる力があるんだ!!!絶望的な差から生まれるものは、嫉妬ではなく期待になる。けどその期待に答えてもらえなかったら、行き着く先は失望だ。僕はムネが《クドリャフカの順番》を描いてくれる事をずっと待ってた、だからあいつに失望することは無かった!」

 

 田名辺の言いたいことはわかる。けど、それを共感し、感じることは出来ない。

 俺は彼らのように、誰かに期待し、嫉妬し、失望をしたことがない。いや、これは経験の差ではないのか。いつか俺にも《順番》は回ってくるのかもしれない。

 

「なら、あなたが本当に陸山会長に伝えたかったことはこうですか?」

 

 俺は口を開く。すると、田名辺も同時に口を開いた。

 

 

「「陸山、お前は《クドリャフカの順番》を読んだのか?」」

 

 

 一語一句被った事で、田名辺は軽く笑った。

 

「本当に見事だ……」

「それで……」

 

 

 

「あぁ、原作は、読まれなかったよ。安城さんの傑作、《クドリャフカの順番》は、開かれてすらいなかった……」

 

 

「メッセージは……伝わらなかったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にそうでしょうか?」

 

 俺の口から出た言葉に、田名辺は驚いた表情を見せた。俺は振り向き、田名辺に背中を見せたまま、口を開いた。

 

「この文化祭が終わったら、直接口でもう一度聞いてみてください」

 

 

 

 

「《十文字》が……田名辺治朗が、伝えたかった事を……」

 

 

 

 

 

『さぁ!!神山高校ラジオ!!略して神ラジのお時間です!!』

 

 

 

 千反田のラジオが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 JOKER22

 

 

 

 

 

 閉会式の時間が近づくにつれて、人が集まってくる。俺は体育館の暗幕を下ろし、階段を降りた。

 ここに集まっているのは一部総務委員会、クラス委員会、生徒会の三つの団体だ。

 

 俺は遠目で陸山と田名辺、知らない一人の男子生徒が話しているのを見かけた。深刻な表情をしている。どうしたんだ?

 

「あの……」

 

 俺の呼び掛けに最初に反応したのは陸山だった。隣の田名辺は俺を見て苦い顔をするが、すぐにいつもの引き締まった顔に戻る。陸山は口を開いた。

 

「おぉ、南雲か。実はちょっと問題が起きてなぁ……」

「ちょっとじねぇよ。大問題だ。これじゃぁ閉会式は《カンヤ賞》を発表して終わっちまう……。誰が校長や副校長のありがたいお言葉なんて聞きたいかよ」

 

 んー。思った通りことが深刻なようだ。俺に何が出来る訳じゃないが、聞いてみようか。

 

「よかったら教えていただきたいです」

 

 田名辺が口を開く。

 

「実は《カンヤ賞》を発表する前に有志の二人組が体育館で歌う予定でね、でもどうやらその二人組は運悪く、二人とも休みみたいなんだ」

 

 二人とも休み!?俺は思わず大きな声を出しそうになった。

 

「れ、連絡は届いてなかったんですか?」

 

 陸山は軽く頷く。

 

「その二人組は友達にも秘密にしていたみたいでな。さっき二人のクラスの担任に聞いたら、休みだそうだ。連絡がちゃんとこちらに行ってると勘違いしていた」

「そんな!じゃあ閉会式セレモニーはどうなるんですか!?」

 

 俺が焦ったように口を開くと、陸山は残念そうに首を振った。

 

「あぁ!!最後の最後で最悪だ!!こんな形でカンヤ祭を占めるなんて……!」

 

 見知らぬ男が言った。そういやこの声、千反田が出ていたラジオで聞いたな。放送部か。

 

「歌う曲はなんて曲なんですか?」

 

 なんとなく聞いた言葉だった。一人で歌う曲ならまだしも、二人で歌うデュエット曲となると歌う予定の曲をただ歌うだけじゃダメだ。二人の息の合った連携、そして信頼関係。この二つが絶対条件だ。カラオケならいいが、人前で歌うなら下手なことは出来ない。

 

 陸山はダメ元だろうが、俺に言った。

 

 俺は、その曲名を聞いた時に、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《まどろみの約束》……知ってるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【氷菓完売まで あと???部】

 




 次回で《クドリャフカの順番》編最終回です。

 

 次回《想い》






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