10評価 シアサトさん
8評価 umirakさん、もりもっこりさん
ありがとうございました!
学校の怪談話や七不思議を信じるかなんて話は、たわいのない世間話にもならないほど話された古来からある話題であろう。
かく言う俺はこの手の話題を振られた時にどう答えただろうか。覚えてはいない。しかし、今の俺ならこう答えるだろう。
目に見えるもの以外は信じてない。
この答えにつまらないと言われてしまえばそれで終わりだ。その人間に何かを言い返すことはないし、自分の価値観を押し付けようとも思わない。こいつとは気が合わなかったんだ。そう思うしかほかないのだ。今年の夏、伊原の親戚が営む旅館にて、俺は幽霊の枯れ尾花の正体を見た。伊原や千反田はそれを幽霊だと思いこみ、身を震わせていた訳だが、俺が幽霊という存在を信じていなかったからこそ、真相に辿り着けたと言えよう。
ところで、学校の怪談で有名どころといえば、やはりトイレの花子さんが有名どころただろうな。
なぜトイレの花子さんという可愛らしくも何処か狂気じみた名前になったのか、諸説はあるが俺の知っている限りだと……
休日の小学校に遊びに来ていた花子という女子生徒が変質者に見つかり、女子トイレの三番目に隠れたが見つかってしまい殺されたという。
この由来が本当なら花子が出るのはその小学校だけに限られる。仮に自分の恨みを晴らすためにほかの学校のトイレを渡り歩いているというのなら、実に迷惑な話だ。
だから俺は《トイレの花子さん》なんて怪談話は信じることはないし、小学校でもないこの神山高校に花子が出る訳がないの……だ……
「ハックション!!!」
「風邪か?」
「いや、花粉症。最近時期になったばっかだからなぁ……まだティッシュ持ってきてねぇんだ」
「そうだね、今年は早いって今日新聞で見たよ。ここ一週間は花粉が酷いらしいね、はい」
「サンキュー、チーン!!!」
文化祭が終わり一ヶ月の時が流れた。十一月上旬。放課後。俺達はいつもの様に言葉遊びをしていた。
言葉遊びと言っても実にくだらない話だ。昨日の帰りは何だったかな、『総務委員会と生徒会の有用性の違い』。時には『世界平和』というのを議題にして話してい時もある。今日がたまたま『怪談話の真意』だったというわけだ。
今俺達がいる場所は一年B組の教室だ。なぜ俺と奉太郎、加えて里志が放課後にまでこの教室に居座っているかというと、選択授業の音楽の課題だった。
音楽というのだから、歌を歌っておけばいいものを何故尊敬する音楽家の生涯をレポートに移さなくてはならないのか、俺は抗議をしに行きたい。里志なら「その話乗ったね。さっそく総務委員を通じて署名運動とでも洒落こもうじゃないか」とか何とか言いそうだが、残念ながら里志の選択授業は書道だ。つまり俺たちと居残っている理由はないのだが、この自称データベースは楽しそうに俺と奉太郎が頭を悩ませているを見ている。ええい、暇人め。
「大体僕には君達が頭を悩ませている理由が分からないね。そんなのスラスラっと書けばいいじゃない。君たちの得意分野だろ?《灰色》と《無色》くん」
「俺達はお前のように博識じゃない。簡単にスラスラ書けるか」
奉太郎が吐き捨てるように言った。全くだ。
その後の沈黙、頬杖を付きながら外の運動を眺めていた里志は思いつたかのように笑いながら切り出した。
「あぁそうだ。退屈してる君たちに面白い話が二つほど仕入れてあるんだけど、聞くかい?それとももう聞いた?」
あいにく俺と奉太郎は巷で流行っている話題については疎い。聞くまでもなく知らないだろう。それは里志も知っている事だ。
面白い話といえば、今日の朝のホームルームで担任が、『普通棟三階男子トイレの一番奥の大便器がある部屋の壁に生徒が寄りかかったら壁に穴が空いてしまい、女子トイレと穴が見事に開通した。』という話を聞いた時は思わず笑ってしまった。どんだけ薄い壁だったんだよ。まぁ穴っつっても、拳ほどの大きさだったらしけどな。
しかし、この福部里志という男の『聞くかい?』は、俺達がどう返答しようと話してくる。仕方ない。
「話してみろよ。余興話ってやつをさ」
奉太郎が促すと、里志はわざとらしく咳払いした。
「まずは一年E組の転校生ちゃんの話をしようかな。夏休み明け辺りから神高に来たらしいんだけど、あんまり変人じゃなかったからノーマークだったんだよ。でも最近面白い話を聞いてね。この前E組の女子生徒の体操着と上履きが盗まれた事件があったろ?」
「そんなのもあったな。犯人が見つかったのか?それともその転校生ちゃんが犯人?」
俺が笑うと、里志は首を竦めながら返した。どこか興奮しているようにも見える。変人め。
「それがさ、その転校生ちゃんが犯人を引っ捕らえたんだよ!!」
「現行犯でか?そりゃすごい」
レポートに向き合ったままで奉太郎が答えた。まだ苗字と名前しか書いていない。
「ちっちっちっ、甘いねホータロー。推理したのさ」
「推理だって?」
「あぁ、盗まれた現場に残されたモノと、類まれなる推理能力でね。つまり、君たちと同じ探偵がこの神高にもう一人現れたんだよ!!いやぁ新しい探偵とは実に熱いね」
推理小説じゃ探偵が複数人出てくるのはアウトだろ……。それなのにこの状況が熱いとは、こいつの心境は分からんな。
里志は話が終わったことでレポートに再び向き合う俺たちをみて、ムッとした。
「なんだい、随分としけてるね。同じ神高のホームズとして、挨拶やら宣戦布告に行こうとは思わないのかい?」
「俺達はホームズじゃねぇよ。勝手に決めんな」
「君達がホームズなら、僕はワトスンだね。摩耶花がレストレードだ。千反田さんは、なんだろうな」
こいつは俺の話を聞いてないのか。里志はニヤリと笑った。
「入須先輩、供恵さん、勘解由小路先輩がアイリーンかな?」
それはブラックジョークだろ、ワトソンくん。
アイリーンがなんで三人もいるんだよ。ホームズ騙されまくりじゃねぇか。
「次の話を聞こうか」
奉太郎はいつの間にかレポートを机の中に押し込んでいた。かくいう俺もレポートを無視して里志の話に興味を持った時点で、レポートに飽きていた証拠だろう。
里志は満足気な顔で答える。
「これはお約束のような話さ。《神山高校七不思議 その三》、聞きたくはないかい?」
「その三?一と二はどうした?」
「ホータローが知ってるさ」
「本当か?」
「その話はいいだろう」
なんだなんだ。妙に隠すじゃないか。まぁ興味はそれほどないが。奉太郎が切り出した。
「それで早く聞かせろよ。福部里志作、《神山高校七不思議 その三》」
「失礼な。確かに神高高校七不思議なんて異名を付けた提唱者は僕だけど、この話自体は有名だよ。証拠付けとして、現に探偵小説研究会の羽場先輩が動いてる」
羽場?どこかで聞いたような。まぁいいか。
「まぁ聞きなよ。一週間ほど前からかな?普通棟三階女子トイレから、啜り泣きが聞こえてくるらしいんだ。それを聞いて不思議に思った女子生徒は啜り泣きが聞こえる個室を覗き込んだらしい。そこでビックリ!!その個室はトイレじゃなくて用具入れだったんだよ。加えて誰もいなかった。でも、啜り泣きだけは無人の女子トイレに響き渡った。君達も聞いたろう?今日の朝のホームルーム。この女子トイレの個室と隣の男子トイレの個室に穴が空いたんだ」
里志の声質がドンドンと高揚していく。
「あぁ、しかしホータロー、ハル!!若しかしたらその啜り泣きは、昔女子トイレで変質者に殺された女子生徒の霊なんじゃないか!?昔は普通の個室であったにも関わらず、用具入れにされた事を恨めしく思って、男子トイレと繋がるように穴を……」
「殺された女子生徒なんていたのか?」
里志が言い切る前に奉太郎が声をかぶせるように言った。里志は笑った。
「いたかも知れないね。」
適当な奴だ。
「しかしね、二人共。面白いのはここからなんだよ。女子トイレでの啜り泣きなんてどこの学校にでもありそうな話さ。でも流石奇人変人の集まる神山高校!!その程度じゃ終わらない!!」
里志は拳を天井に突き立てる。自習や、読書をする為に居残っている生徒達がギョッとした様子でこちらを見た。奇人変人はお前だ。
恥ずかしいからやめてくれ。
「こういう霊が見える時間帯には条件がつくだろ?例えば、四時四十四分四十四秒にドアをノックとか、入って三個目の個室のドアを三回ノックとかね。しかしね、この啜り泣きには条件が存在しないんだ。啜り泣きが聞こえる主な時間帯は日中。つまり授業中だ。啜り泣きを聞いた目撃者たちは、授業中にトイレに出た生徒達らしい」
里志の声は白熱し、畳み掛けに入る。
「時間帯もまばら、出現条件も無し、人呼んで、《気まぐれ花子》。まぁ出現場所は普通棟の三階女子トイレに限られるんだけどね」
「本当に《人呼んで》なんだろうな?」
奉太郎は里志を眉を寄せながら見た。実に同意見だ。
「これから呼ばれるさ。それより二人とも」
「まだなにかあるのか?」
「なにって程じゃないけど、実はこの教室に来る前に千反田さんと会ってね。《気まぐれ花子》の話をしたんだけど……」
「「な、なにぃ!?」」
「そろそろ来るんじゃないかな?部室で待つって言ったけど、千反田さんの事だから」
ガラガラガラ……!!
里志の言葉を遮るように、突如としてB組の横開きのドアが開かれた。入ってきたのは黒くて長い髪を垂らした女子生徒。
俺たちを見つけるなりニコニコした様子でこちらに向かってくる。
教室に居残っているほかの連中も、美人と思われる女子生徒がクラスでもあまり目立たない俺と奉太郎の方に寄っていくのだ。それは注目するだろう。倉沢が俺たちのことをなんて言ってたかな?《ナマケモノ二人衆》。おのれ桜の友人にして失礼なヤツめ。
いつの間にか俺たちの目の前まで詰め寄ってきた千反田は、言った。
「《気まぐれ花子》さん!!私、気になります!!」
本当にこいつは大事なことを飛ばす人間だ。
しかし、今回に限っては説明はいらなかった。
千反田に逆らうことは出来ず、俺と奉太郎、里志と千反田は普通棟三階の女子トイレ前に訪れた。しかし……
「調査するったって、俺達男子三人は入れねぇぞ?」
「まぁハル。今は放課後だろ?部活の人達はみんな特別棟にいる。見つかりゃしないよ」
こいつの言いたいことはわかる。俺を犯罪者予備軍に仕立て上げようとするのはやめろ。
「はい、千反田さん。これ」
里志はお得意の巾着袋からメモと万年筆を取り出すと、それを千反田に渡した。
「これで間取りを撮ってきてよ。そうすれば中に入らなくても済む」
「迷惑じゃないのか?千反田の気持ちを考えろ!!」
奉太郎の素晴らしい演技。省エネのためならエネルギーの消費は伴わない。その姿勢に敬礼。
「いえ、簡単なことです。心配してくれてありがとうございます」
「あぁ……そうか……」
はは……急に萎れた。……ん?
廊下の彼方から、一人の女子生徒が歩いてくる。
着崩したセーラー服は千反田の様にスカートの中にしまわれておらず、スカートの丈も短い。
肩ほどまで伸びた髪は伊原の様に軽く茶髪がかっており、七三で分けられた前髪をピンで止めている。
背丈は女子の平均サイズほどであろう。
俺はその女子生徒を眺めていると、そいつは俺の目の前で足を止めた。
俺とそいつが目を合わさていることに気づいた他の三人は、その女子生徒を不思議そうに眺める。すると
「なんや?」
「え?」
「うちの顔になんか付いとるんか?」
関西弁……。
「え、あぁ、いや……」
「だったらどきぃ、うちは調べることがあるんや」
関西弁の女子生徒は俺達に向かって『しっしっ』という風に手の甲で払った。なんだ、失礼な奴だな。
「あぁぁぁぁ!!!」
突然なんだと思ったら、里志が女子生徒に向かって指を刺しながら大声をあげていた。
「
なんだなんだ。
「福部さん、お知り合いですか?」
「そうだね、千反田さんには話してなかった!ホータロー、ハル、この人だよ!」
奉太郎が言った。
「なんだ、俺はお前みたいに変人は知らんぞ」
「違うよ、この人が、転校してきた“三人目”の探偵……!!」
「天津木乃葉さんだ!!」
「あんたら、うちのこと知っとるんか?」
天津……木乃葉……。
一話完結にしようと思ったら、長引いてしまった…。
次回《その名は天津木ノ葉