氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第七話 あきましておめでとう

 俗信に年を越す際にやっていた事は一年間繰り返すことになると、昔誰かに聞いた覚えがある。

 去年の俺はなにをやっていただろうか?いや、そんな事は今はどうでもいい。

 

 もし仮に元旦にやった事は一年間繰り返す。というものがあるのだとしたら、俺は今すぐにこの行為を辞めなくてはならない。しかしそんな訳にも行かないのが世の常……うぅむ。

 

「何やってるんだい、ハル。早く二人の場所を推理しておくれよ!」

「早くしなさいよ南雲!」

「南雲くんすごい唸ってるね… ……」

「南雲くんはこういうのは得意なの?」

 

 俺の周りを囲っているのは、里志、伊原、桜、十文字の四人。

 

 俺の目の前に並べられている物は三つ。伊原が言うには千反田のと思われるハンカチ、奉太郎のと思われるデニム地の二つ折りの財布、凶のおみくじ。

 

「うーーん、むむむ!!」

「「「「分かったの!?」」」」

「わからん」

 

 『だぁ!!』と四人はその場に倒れ込んだ。さて、どうしたものか。

 

 何故俺がこんなものを眺めながら頭を悩ませているというと、一時間ほど前に遡るだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一月一日、元旦。

 

 俺の今日の予定は夜までない。勘解由小路家の家の付き合いには俺は参加しなくてもいい義理にはなってるし、一人で約束の時間までゴロゴロしながら時間が経つのを待っていた。

 ケータイのテレビ機能で《新春お笑いスペシャル》とやらを見たあとに、《新春ドラマスペシャル 風雪急小谷城》とやらを鑑賞。神山高校一、社会科目が苦手であると自負している俺だが、時代劇は別に嫌いではない。言っていることは理解できないが。

 

 物語は信長の朝倉攻め、織田の勝ちで勝負はついたところで、信長の妹から陣中見舞いが送られてくる。小豆を入れて、上下を縛った巾着袋。これは《袋のネズミ》という意味らしい。それの意味に気づいた信長が妹が捕えられていることを知り、浅井が裏切ったと気づいたのだ。

 

 気づくと時計の針は約束の時間の四十五分前を指していた。俺は部屋着から着替え、東京に越してきた際に持ってきた冬物の服が入っているダンボールを開ける。……む。

 

「コート、実家に忘れたんだった」

 

 

 

 

 

 

 結果、俺は自分の腹に二枚ほどカイロを貼り、持ってきた服で一番暖かそうなパーカーを羽織った。加えて黒色のマフラーも着用。

 

 何故俺が正月の夜に家から出るかと言うと、簡単に言えば初詣という奴だ。一昨日の千反田からの電話、伊原が十文字家で巫女のバイトをしているので見に行きたいらしい。ついでに自分の着物も自慢しに。

 

 荒楠神社(あれくすじんじゃ)に到着した俺は辺りを見渡す。夜だというのに荒楠神社は人で賑わっており、篝火に焚かれた灯篭が、夜の神社の雰囲気を更に盛り上げている。石鳥居の辺りまで移動すると、既に奉太郎が来ていた為、俺はお約束の挨拶をかました。

 

「よう、あけおめ」

「おう、あけおめ」

 

 なんとも簡単な挨拶だろうか。まぁ、友人ならこのくらいの挨拶の方が気軽でいいのかもしれないがな。

 時折通りかかる知り合いとも「あけおめー」という挨拶を交わし、俺達は千反田を待った。

 

 すると、鳥居の前で一台のタクシーが止まった。出てきた女の人は落ち着いた赤と金色を主体とした着物を着ており、その上から黒い縮緬を羽織っている。手には藤色の巾着。髪は後ろに縫い取られており、かんざしが揺れている。

 俺はその人を見て言った。

 

「あの人きれーだな」

「あぁ、確かに……な……」

 

 その女性は俺たちを見つけると、軽く手を振りながこちらによってきた。なんだなんだ!奉太郎め、こんな人と知り合いなのか!?俺にも紹介しろ!!そう言おうと思った時だった。

 

「あけましておめでとうございます」

 

 千反田だった。不意の言葉に俺と奉太郎は行儀よく返す。

 

「「お、おめでとうございます」」

「本年も相変わりませずよろしくお願いします」

「「あ、こちらこそ」」

 

 相変わりませず、ねぇ。

 

 千反田は俺たちに向かって着物の袖を掴み両腕をちょこんと持ち上げた。

 

「見せびらかしに来ました」

「おー、似合う似合う」

 

 ちょっとばかし適当な返事だったろうか。

 

 しかし千反田はそう言われただけで満足そうだった。右手に一升瓶を抱えている。奉太郎は歩きながら聞いた。

 

「それはなんだ?」

「お酒です。こちらの神職さんとはお付き合いがあるんです。お年始の挨拶みたいなものです。」

「大変そうだな」

 

 奉太郎が返すと、千反田は笑った。

 

「大変だったのはむしろ昼間です。ずぅっと、ずぅっと、親戚挨拶でいい子してました」

「ほう、という事はハルもか?」

 

 ギクっ!とした。俺は見えを張りながら返す。流石にずっとゴロゴロしてました!とはいえん。

 

「あぁ、ずぅっと、ずぅっと、いい子してたぜ」

「ふふ、南雲さん。嘘はいけませんよ?」

「へ?」

「勘解由小路さんも家に来てましたけど、南雲さんはその場にいませんでしたし、勘解由小路さんが部屋でゴロゴロしてるって言ってました」

 

 晴香の野郎!!そういや、千反田家にも行くって言ってたな。千反田家とは共営関係にあるだけで、親戚じゃねぇだろ。

 

 俺は笑ってそれを受け流した。

 

 古典部の業務の上で、里志には伊原が連絡を する。それは伊原が里志と話したいから……という理由ではない。あの二人と俺は携帯を持っているが、奉太郎と千反田は持っていないのだ。

 俺に関しては千反田からの連絡を待つのだが、俺の携帯をもっと有効活用してもいいのではないか?と、伊原に前に言ったところ、『あんたは携帯に電話しても、メールしても出ないでしょ!!』と返されてしまった。

 

 いつの間にか俺達はお参りの拝殿に付いており、その列に並んでいた。

 俺は財布から五円玉を取り出し、投げる。ふむ……どうしたものか。

 

 

 誰にも染められることのない一年になりますように。

 

 

 よし、これてメインイベントは終了。あとは千反田の持ってる酒を置いて、伊原をからかって退散しよう。寒いし。

 

 縁起物を買おうとしている連中の人波をの縫おうと、俺と奉太郎は足を進ませる。

千反田が言った。

 

「どこ行くんですか?」

「伊原をからかいに」

「それでしたら社務所の中で会えますよ。神職さんにご挨拶に伺いますから」

 

 社務所の玄関前には数人の男達が顔を赤くしていた。八十歳ほどのご老人もみえる。多分手伝いにきた氏子たちだろうな。

 

「ごめんください!」

 

 千反田がいう。すると、玄関から白髪の老人が現れる。

 

「なんだね」

「あけましておめでとうございます。千反田鉄吾(てつご)の名代として伺いに来ました。千反田えると申します。」

 

 おまけの南雲と折木です。

 

「ああぁ!千反田さんの、どうぞお上がり下さい」

 

 男に大広間に案内される。何十畳かある和室で、だるまストーブがいくつも並んでいる。それを真ん中として鎮座する長机には男達が酒を飲みながらお節をつついている。

 

 俺たち三人は隅っこの方へ移動すると、そこに腰をかけた。すると

 

「あけましておめでとう」

 

 振り向く。そこには巫女姿の大人びた少女が立っていた。むむ、こいつは。

 

「あけましておめでとうございます。十文字さん!」

 

 十文字かほ。占い研唯一の部員だ。いつか、俺が千反田を虐めていると勘違いされたものだ。加えて、《神高クイズタッグ》で決勝で当たった。

 奉太郎は俺に耳打ちで聞いてきた。

 

「だれだ?」

「十文字かほ。里志と同じクラス、だった気がする。」

「同級生か!?」

 

 奉太郎の素っ頓狂な声を聞いて十文字は笑った。確かに、十文字は年上に見えなくもない。老けている、という意味ではなく、褒めた形で言っている。

 

「あの。摩耶花さんに会いたいんですけど。大丈夫ですか?」

「摩耶花……?あぁ、あの子なら多分そろそろ休憩だと思うけど。そっちから売店の後ろに行けるよ」

 

 俺達は十文字の言われた通りの方向へ向かい、横開きの木戸をそっと開く。様々な商品が並んだ売り場。巫女姿の女が計三人。そのうちの一人に千反田は声を掛けた。

 

「摩耶花さん」

 

 長い髪のエクステ?をつけた伊原は千反田の声に笑顔で振り向き、俺と奉太郎を見るとしかめっ面になった。感情豊かなのはいいが、そういうのはやめた方がいいぞ。

 

「見ないで」

 

 エクステを隠す。見られたくないならそんなもの付けるな。

 

「あと一時間で上がるけど、ちーちゃん達はどうするの?」

「多分広間でお呼ばれの形になります。福部さんは?」

「昼間に来てたよ。《新春ドラマスペシャル 風雪急小谷城》を見るんだって。また来るって言ってたよ」

 

 やはり里志も見ていたか。奴はああいうのに目がないのだ。

 伊原の横には財布やら携帯電話やらが転がっている。俺の視線に気づいた伊原は言った。

 

「氏子の人達が落し物をすぐに届けてくれるのよ」

 

 それはありがたい。無くしても大丈夫だ。いや、無くさないのが一番いいのだが。

 

 その後千反田の勧めで俺達はおみくじを引くことになり、伊原は俺に六角形の筒を渡した。

 

「はい、神の御加護がありますように」

 

 ドラクエか。

 

「わぁ、大吉です!」

 

 先に引いた千反田が声を上げた。ほう、大吉とはこれまた珍しい。

 

 隣で奉太郎が苦い顔をしている。俺は言った。

 

「どうした?末吉でも引いたか?」

 

 おみくじをのぞき込む。

 

 【凶】

 

「ぶっ、ははははははははははは!!!だっせぇ!!」

「やかましい」

「南雲さん、人の不幸を笑っては……」

「凶って、私も初めて見たわ……」

 

 ふふふ、大吉、凶と来たらまぁ中吉辺りだろう。つまらないが、俺にはそれくらいの方が向いている。

 

「伊原、十三番」

 

筒から出た木の棒の番号を確認し、伊原に言う。

 

「十三と言えば、十三日の金曜日ですね」

 

隣で怖い事を言う千反田を無視する。

 

「ん」

 

伊原がいくつかある引き出しから一枚紙を取りだし、俺に渡してきた。俺は紙を開く姿勢を取る。

 

「ありがとよ奉太郎、凶を引いてくれて……!!」

 

 バッと、俺は伊原から渡されたおみくじを開いた!!

 

 

 

 【大凶】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャー

 

 体が冷えたのか、伊原の場所から戻った俺はトイレに出ていた。水の流れる音と共に、俺の精神も流れていきそうだ。

 別に神やらおみくじやらを信じたことは無い。中吉だろうが、例え大吉だろうが、今年は何かいいことがあるのかな?程度にしか思わないし、凶なら今年は気をつけよう。程度にしか思わない。

 しかし、大凶ねぇ。こんなもの本当に入ってんのかよ。あとで一番高いところに結ぼう。

 俺はおみくじをポケットにしまうと、先程までいた大広間に戻った。しかし

 

 奉太郎と千反田の姿が見当たらない。どこ行ったんだ?

 

「やぁ、あけましておめでとう」

 

 声の方向を見ると、ストーブの近くで体を縮こまるせている里志の姿があった。俺はそちらに向かい、言う。

 

「あぁ、おめでとう。ところで、千反田と奉太郎は?」

「ん?いないのかい?僕も今来たばかりなんだ」

 

 むむ。じゃぁまだ戻ってないのか。

 

 俺たちの目の前を十文字が横切ろうとしたので、俺は声を掛けた。

 

「あぁ、十文字。千反田と奉太郎は?」

 

 十文字は眉をひそめると、口を開いた。

 

「あなた達も知らないの?」

「十文字さん、あけましておめでとう。突然だけど、あなた達もって?」

「福部くん、あけましておめでとう。そうね、南雲くんが席を外した時に、二人には蔵に酒粕を取りに行って貰ったんだけど、まだ帰ってこないのよ。」

「様子を見てくるよ。十文字、蔵はどこにあるんだ?」

「私もちょうど休み貰ったから行くわ。福部くんはここに居てちょうだい。すれ違いで戻ってくるかもしれないし」

「あいあいさー、二人とも行ってらっしゃい」

 

 俺と十文字は、社務所から蔵に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いねぇなぁ……」

「いないわねぇ……」

 

 俺と十文字の声が蔵に響く。酒粕が入ってすぐ左に置いてあったので、まだ取られていないということだ。まだ着いてないのか?いや、そんな訳は。

 

「なぁ、十文字。荒楠神社には蔵がもう一つあるのか?」

「ないわ」

 

 んー。弱ったな。あいつらが頼まれ事を放棄してどこかに行くとは考えられないし。

 

「一度戻ろう。もしかしたら場所が分からなくて社務所に戻ってるかもしれない」

「そうね」

 

 俺達が社務所に戻る途中には、甘酒を配っている巫女に客が集まっていた。それを横目に十文字と並びながら歩いていると

 

「おっ、桜!」

 

 ピンク色のコートを着た桜とその友人の倉沢が甘酒をちびちびと飲んでいた。俺は二人に手を上げる。

 

「あけおめ」

「な、南雲くん。あけましておめでと……う……」

 

桜は俺の隣の十文字を見ると固まった。

 

「倉沢もあけおめ」

「南雲」

「なんだよ」

 

 新年の挨拶もせずに失礼なヤツめ。

 倉沢は俺と十文字を交互に見たあとに言った。

 

「彼女?」

「ナギちゃん何を聞いてるのかな!?」

「いやぁ、あんたの将来の為だって」

「余計なことは言わなくていいから!!!」

 

 ほんと余計な事言わなくていいから。俺ここにいるから。聞こえてるから。

 

「知り合い?」

 

 十文字が耳打ちで聞いてくる。

 

「あぁ、同じクラスの桜楓と、倉沢凪咲」

「ふぅん」

 

 十文字は薄く微笑むと、桜を見ながら言った。

 

「桜さん。安心して、私とこの人は恋人じゃないから」

「良かったね、楓」

「べべべべべ別に……」

「じゃぁ南雲、あとはよろしく!楓、十文字さん、またねー!」

 

 倉沢は素晴らしいスピードで人波を駆け抜けて走っていった。

 

「ナギちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

「賑やかな人達ね……」

「うるさいの方が形容できてるがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、どうだった?」

「蔵には居なかった。どこ行ったんだろうな……」

 

 俺が顎に手を置きながら考えると、俺の後ろに居た桜に里志が手を挙げた。

 

「やぁ、桜さん。あけましておめでとう」

「うん、おめでとう福部くん。話は聞いたよ、折木くんと千反田さんがいなくなっちゃったって」

 

 俺達若者四人が宴会が行われている大広間の角で頭を悩ませていると、後ろから声がかかった。

 

「ねぇ、ちーちゃん達見つかった?」

 

 伊原だ。

 

「まだだね。見つかったら報告してるよ」

「そうよね……あっ、さっちゃん。あけましておめでとう!」

 

 さっちゃん……。桜の事か。伊原お得意のあだ名付けだ。

 

「うん、あけましておめでとう。伊原さん」

「それでね、みんなに見てほしいのがあるんだけど……」

 

 伊原は無意識に円を作るように座っていた為、その円の真ん中に伊原が二つの物を置いた。

 

「ハンカチと財布……?」

「うん、このハンカチちーゃんのなの。財布の方は」

「ホータローのだね。間違いない」

「伊原さん、これはどこで見つけたの?」

 

 桜が聞くと、伊原は愛想よく答えた。俺にもそれくらいの笑顔で返せ。

 

「さっき南雲には言ったんだけど、氏子さん達が落し物をすぐに届けてくれるのよ。でね、この二つが見つかった場所が、どっちも納屋の近くなんだって」

 

 納屋?

 

「なぁ、十文字。もしかして二人は納屋に間違えて入ったんじゃ」

「それないと思うよ。折木君だけならまだしも、えるも居るんだから納屋と蔵を間違えるわけないわ。それに、うちの納屋は基本鍵が閉まってるし、外側からしか鍵は閉められないの。だから、二人が納屋にいるのは有り得ないわ」

 

 最もだ。

 

「うわっ!!なんだこりゃぁ」

 

 里志が奉太郎の財布の中身を見て大声を出した。あんまり人の財布を見るのは趣味のいいことじゃないが……。

 

「見てよみんな。【凶】のおみくじだ。なんでこんなものが中に入ってるんだろう?しかも、入ってるのはおみくじだけで、お札も小銭も入ってないよ!加えてカードもだ」

 

 【凶】のおみくじをみた桜が言った。

 

「えぇ、十文字さん!荒楠神社って凶も入れてるの!?」

 

 十文字は笑った。

 

「ふふ。それだけじゃないわよ。毎年一枚だけ、【大凶】も入れてるんだ。まぁ大体引かれずに終わっちゃ……」

 

 バン!!

 

 俺はポケットから取り出した【大凶】のおみくじを叩きつけた。

 

「はは、逆に運がいいね。ハル」

 

 やかましいわ。

 

 しっかし、中身が入ってない財布。落として中身を抜かれてまた捨てられたって考えもできるがなぁ。ふむ。

 

「おっ、ハル。何か考えてるね」

「人の心を読むな。考え出したところだ、少し黙ってろ」

 

 俺は考えてみた。

 

 

 

 

 考えること数分。ダメだ。何も思い浮かばん。何も話さない俺に耐えきれなくなったのか、里志が声を上げた。

 

「何やってるんだい、ハル。早く二人の場所を推理しておくれよ!」

「早くしなさいよ南雲!」

「南雲くんすごい唸ってるね……」

「南雲くんはこういうのは得意なの?」

 

 こうして今に至る。

 

「うーーん……むむむ!!」

「「「「分かったの!?」」」」

「わからん」

 

 『だぁ!!』と四人はその場に倒れ込んだ。さて、どうしたものか……。

 

 

「伊原さん!」

 

 その声の主は伊原と同じ格好をした巫女だった。多分同い年くらいだろう。伊原と同じアルバイトか?

 

「変な落とし物が届いたら教えてって言ってたよね。これなんかどうかな?しかも、納屋の近くで拾ったって」

 

 また納屋。これも奉太郎の凶がなせる技か。

 

 伊原はそれを受け取ると、今までの落とし物に並べた。

 

 それは藤色の巾着袋。口は縛られており、加えて、下の方に縛るような形で、紐が巻きついている。

 

 巾着袋の両端を紐で……

 

 こ、これは!!!

 

 俺と里志は跳ねるように立ち上がった。俺と里志は互いの顔を確認して頷く。

 

「ど、どうしたのふくちゃん、南雲」

「《新春ドラマスペシャル 雪急小谷城》だ!!」

 

 俺が言う。

 

「はぁ?」

「どういうことかな?」

 

 伊原と桜の弁。里志が続けた。

 

「信長が朝倉を攻めていた時に、信長の妹婿の浅井が裏切ったんだよ。信長の妹は信長に小豆袋を送った。上下を紐で縛ってね!この意味は……」

「「《袋のネズミ》」」

 

 そう言い残した俺と里志は、社務所を出ると星空の下、全力で駆け出した。

 里志は走りながら言った。

 

「ふぅーー!!分かるって気持ちぃぃ!!!」

 

 

 

 

 納屋についた俺と里志は互いの顔を確認し合い、頷く。

 

 案の定、納屋の(かんぬき)は閉められており、俺はそれを横に引き抜いた。

 

「ホータロー、いるかい?」

 

 里志がそういうと、納屋の向こう側から首を竦めた奉太郎が言った。

 

「助かった……寒くて死ぬとこだったぜ……」

 

 千反田は信じられない、というような顔をしながらこちらを見つめていた。

 なんでこいつらが納屋に閉じ込められてたのかは分からないが、よかった。

 

 里志は奉太郎を見るなり、笑いながら言った。

 

「やぁ、あけましておめでとう」

「違ぇだろ、里志」

 

 俺が言うと、里志も奉太郎も笑った。同時に口を開く。

 

「「「あきましておめでとう」」」

 

 冬の風を受け、千反田が小さくくしゃみした。





次回《手作りチョコレート事件 起》


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