今回の推理の元ネタは、ある小説から持ってきています。
この話を書いてて分かりました。作者は甘い展開を書くのが苦手なようです。(血涙)
桜との一件から三日。ベッドの上でうつ伏せになりながら、俺は今こう思っている。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!死にたい、死にたいよぉぉぉぉぉ!!!なぁにが、『ちゃんと答えるから(キリッ』だぁぁぁ!!!恥ずかしいよぉぉぉぉがっこういきたくないよぉぉぉぉぉぉ!!!』
桜からも本格的に告白されちまったし……。
『大好きです!南雲くん!ずっとずっと、私の隣にいてくれませんか?』
顔と耳が熱くなった気がする。
「ちくしょう……あんな笑顔で言うのはずるいだろ……」
「いやぁ、我が従弟ながらキモいなぁ」
その声と共に俺は視線を部屋のドアに送る。
晴香が今までで一番楽しそうな顔をしながらこちらを向いていた。
「晴香ァァァァァァ!!てめぇぇぇぇぇ!!勝手に人の部屋に入るなぁぁあ!!」
「いや、用があったからノックはしたぞ。そしたらお前がベッドの上で枕に頭を突っ込みながら足をバタバタさせてたから」
俺は両手で顔を覆い尽くし、おもむろに言った。
「晴香……もう殺してくれ……」
「あ、いや、悪かったって。ところで、お前この後空いてるか?」
「断る」
「まだ何も言ってない。本を買ってきて欲しいんだ」
「断るって。自分でいけよ」
「私はこれから勘解由小路の付き合いがあるんだよ。それとも、お前がそっちに行ってくれるのか?安心しろよ、タダでとは言わない。この封筒に入ってる余ったお金で、お前の好きな本も買ってきていい」
「……」
悪くない条件だ。俺は晴香から封筒を受け取ると、ポケットに突っ込んだ。
晴香に指定された本は、神山の本屋には売っていないそうだ。隣町……木良市まで行かなければならない。渡された本屋までの道のりを書いたメモを片手に、俺はバス停まで向かう。
メンズ用のデニムパンツ、白いTシャツの上から青いカーディガンを着て、スニーカーを履く。
神山駅に位置するバス停に乗り、木良市の北
三十分程バスに揺られたところで降りる時に二百十円を払い、下車。北樽町三丁目近くにある本屋の《清風館》という本屋に足を運んだ。《清風館》に人は少なく、制服姿の学生の姿も見かけるが、全体的に年齢層が高い。
晴香から頼まれたアパレル本はすぐに見つかり、俺は自分用の文庫本コーナーに入った。
時代小説、ノンフィクション、ファンタジー、SF、ホラー、恋愛、ミステリー。
俺はふと、ミステリーの棚に足を踏み入れた。日本人作家と外人作家で場所が別れており、とりあえずは外人の方に目をそらし、適当に並べてあるものを取る。
《シャーロック・ホームズシリーズ》の緋色の研究だ。ホームズの最初の物語で、ワトスンとの出会いの物語も描かれている。棚に戻す。
次に手にしたのは《エルキュール・ポアロシリーズ》のアクロイド殺し。とある村の夫人が自殺を図るが、この夫人はとても裕福で、その村の富豪のアクロイドとの再婚も決まっていた。しかし、自殺した夫人は一年前に夫を毒殺しており、という話だった気がする。読んだことは無い。
俺は振り向き、日本人作家へと視線をずらす。
目に映ったのは、《市立高校シリーズ》と《ひきこもり探偵シリーズ》の二つ。どちらも見たことは無いし、あらすじもよく知らない。興味本意で片手を伸ばすが、それをすぐに引っ込め、もう一度外国人作家の方に向き直り、《エルキュール・ポアロシリーズ》のABC殺人事件を取りレジに向かった。すると……
何かにぶつかった気がするので下を向く。小学生ほどの背丈のボブヘアー?の女の子が冷たい視線でこちらを見ている事に気づく。
「あー、ごめんお嬢ちゃん」
俺を見る目が更に厳しいものになる。
「私はお嬢ちゃんじゃない。高校一年生……」
同い年か。
すると、女の子の後ろから一人の男子がこちらに向かって小走りでやってくる。
「
俺と同じ程の背丈の男が、小佐内と呼ばれた少女に近寄ってくる。小佐内はその少年を見るなり、おもむろに言った。
「あのね、
なんだこの女……。
「い、今から!?わかったよ小佐内さん……、えっと……ごめんなさい。小佐内さんがなにかしましたか?」
小鳩と呼ばれた少年は気前のいい笑顔で俺に聞いた。俺も出来るだけ愛想良く返す。
「いや。ぶつかったのは俺だから、気にしないで」
「それはどうも。それじゃぁ行こう、小佐内さん」
小佐内は黙って頷いた。二人は俺にお辞儀すると、《清風館》をあとにした。
俺と、《古典部》と《小市民》が、ある一つの謎に向かって動き出すことになるのは、また少しあとの話だ。
レジに並ぶと、俺より日一つ前に並んでいる少女の後ろ姿に既視感を感じた。肩を隠すか隠さないか程の髪、毛先を少し遊ばせているのか、セミロング気味になっている。伊原程ではないが低い背丈……まさか?
「よう」
「え?南雲くん!?」
我が一年B組、ん?終業式を終えたから違うのか?まぁ、同じクラスの桜楓が俺の前に立っていた。俺が話しかけると同時に桜の前の男が会計を済ませたようで、桜は俺とレジを見比べたあとレジに向かった。
俺の会計が終わり、《清風館》の外に出ると、桜が待っていた。
「お、待っててくれたのか?」
「う、うん。まぁ折角会ったしね!木良市まで来て何買ったの?」
「あぁ、晴香に頼まれてな、雑誌を。お前は?」
「私はこの本屋にはよく来るんだよ。ここは品揃えがいいんだ」
ほほう。たしかに、晴香に頼まれた雑誌は神山の書店には売ってないらしいな。
俺は袋から桜に視線をずらし、笑いながら話しかける。
「あんまり久々な感じしねぇな。三日ぶりか?」
「そ、そうだね……三日ぶり……えへへ」
そうか。桜は俺からの告白の返事待ちなんだよなぁ……。
な、なんだ……。なんか、気まずい。何か話しを振らねば!!!
「えと、髪切ったんだな!そういう毛先をクルンとやる髪型、最近流行ってるよな!」
桜は俺が髪型の話をしたのに、ピクっと反応し、一歩下がり自分の全体像が俺から見えるように立った。
薄水色のロングスカートに、黒と白の縞模様のインナーの上からスカートと同じ色のジャケットを着ている。桜らしい爽やかな服装だ。
そして、自分の遊ばせた毛先を親指と人差し指でクルクルといじりながら言った。
「ど、どうかな?髪、さっき切って来たんだけど……可愛い……かな?」
……これはまずい。何がとは言わん。これはまずい。俺は桜から目線を外しながら言った。
「似合ってんじゃねぇの?なんだ……可愛い……んじゃないか?」
桜は一度キョトンとすると、すぐに照れくさそうにクシャッと笑った。
「……ありがと!」
北樽町三丁目近くのバス停に移動した俺達は、到着したバスに乗り込む、が。
「人多」
「帰りのバスはいつもこんな感じだよ。」
「そうなのか?ま、たかが三十分だ。そこまで苦じゃないだろ。途中で降りる人もいるだろ」
「そうだね……」
ん?
ほぼおしくらまんじゅう状態で、俺と桜はバスの中に押し込まれる。このバスは民営の為、俺と桜は後ろのドアからバスに入った。
後ろのドアからすぐ目の前の一人乗りの座席がなく、手すりだけの場所に押し込まれる。
バスに乗った乗客がイイ感じに体勢などを立て直したのか、少しバスの中に余裕が出来たと思えば、その余裕に次々と入ってくる乗客。再びおしくらまんじゅう状態になった。
俺はなんとか桜を窓際によせ、桜を守る形で壁に両手をつく。……が、流石は文化部の俺。未だに乗り込んでくる乗客の圧力に負け、桜が寄りかかっている壁に付けている両腕の肘が見事に曲がり、桜との距離が物理的に近くなる。……やばい。
桜と俺の顔の距離が一気に近くなり、桜の吐息が鼻にかかりくすぐったい。
「悪い……」
「いいいいいい、いやいやいやいこちらこそ!!」
桜特有のテンパった声が耳元で聞こえる。そして、バスがやっと北樽町三丁目から出ようとした時に、ひとつのアナウンスが聞こえる。
『木良市役所からのお知らせです。六十歳以上の方は敬老パスをお使い下さい。平日は市内バス料金が無料。休日は半額となります。バス出発します』
俺らには関係の無いことだった。今日は平日なのでもし俺が六十歳以上だったら無料だった。ええい、いいから早くバスを出せ。
バスがようやく動き出したところで、俺は桜からなんとか離れようと顔を上げる。
すぐ左に降車ボタンがあった。手を伸ばせば押せる距離だ。そんなことを思っているとボタンが汚れているのが見えた。薄茶色のシミが付いている。これは、チョコレートか?
「南雲くん、大丈夫?」
「ん?あぁ、なんとか……」
大丈夫じゃない。背中に来る乗客の圧力が凄すぎる。しかしこのまま力を緩めたら桜が俺で潰れちまう。折角美容院で整えた髪型も台無しだ。すると、軽快な声の車内アナウンスが聞こえてきた。
『次は、
ブザーが鳴る。誰かがボタンを押したのだ。
『はい、止まります』
再び先程見たチョコレートで汚れたボタンに視線をずらすと、その汚れが拭われていることに気づいた。これだけの情報がれば、いま樽町二丁目で降りるために押された降車ボタンがこのボタンだと気づくのに、時間はかからない。
バスが止まる。
『樽町二丁目です』
しかし動きがない。誰一人として開いた前ドアに向かって人波……いや、肉壁を突っ切りながら向かう乗客はいなかった。
大方ボタンを押したのは、先程押された汚れたボタンの場所の近くに座っている二人のうちどちらかだ。前後に並んだ一人がけの座席。
前の座席に座っているのはブレザーを着てヘッドフォン着用している女子校生。その後ろに座っているのは杖を持った老女だ。この二人のどちらかが誤ってボタンを押してしまったのだろう。
運転手は誰も降りないことを見かねたのか、ドアを閉め再びバスを動かし始めた。
少し進んだ所でバスが大きく揺れ、乗客全員が前によろける。
「いた……」
不意に桜が声を出した。
「悪い、どっか当たったか?」
「ううん。実は、昨日家で足捻挫しちゃって……湿布貼ってるから大丈夫って思ったんだけど、痛み出してきちゃった」
家で捻挫とは。相変わらずドジ。いやいやいやいや、そうではない。なら立っているわけにもいかないだろう。仮に座席が空いたのなら!そこに桜を座らせなければ……。
そう思っているうちに、バスは次の目的地に止まった。
『東部事務所、東部事務所です』
東部事務所というのは知らないが、意外な人気スポットらしい。学生の二人組が定期券を運転手に見せて出ていくのが見えた。
乗客の三分の一程がここで降り、かなり余裕が出来た。俺は腕を壁から外す。
しかし、まだ座席が空く様子はない。
「桜、足大丈夫か?」
「うん、ちょっと痛いかな……」
先程間違えて降車ボタンを押した二人。事故ではなく、本当に聞き間違えてボタンを押したというのなら近々降りる可能性が高い。降りる方の前にいれば、桜をそこに座らせられる。
「南雲くん?」
俺の考えている顔を不思議そうに眺める桜に、俺は笑って言った。
「ちょっと待ってろよ。座らせてやるから」
「え?うん」
俺は考えてみることにした。
まず最初に視線を向けるのは路線図だ。こう記されている。
樽町二丁目→東部事務所→樽小学校→樽町四丁目→樽町図書館→樽町六丁目→南樽町二丁目→大河橋北→大河橋南→パノラマ・アイランド→大黒門→神山
樽町とつくバス停が多い。女子高生と老女が間違えて押した時のバス停は樽町二丁目。つまり、二人のどちらかは《樽町》とつくバス停で降りるのは間違いない。上手く行けば次の次、樽町四丁目か、遅くても南樽町二丁目で降りるはずだ。
ふむ。
俺はまず降車ボタンを挟んで後ろの老女に視線を向ける。首からかけている定期券のようなもの、あれは《敬老パス》だ。次に左手で杖を握っており、その握っている手だけに白い手袋を付けている。加えて右手には、なにやら小銭を握っているのが見える。民営バスなので老女が持っている金額が分かれば、どこで降りるかは大体の検討はつくのだが、見えているのは輝いた一枚の百円玉のみだ。これでは分からない。
次にその前に座る女子高生。ヘッドフォンをしているだけかと思えば、なにやら文庫本を開いている。そして、文庫本の上端から覗くしおり代わりに使っているのは学生定期だ。どこからどこまでかは本で隠れてしまっているので分からなかった。
いや待てよ。老女は首から《敬老パス》を下げているのに何故小銭を握っている?《敬老パス》を持っていれば平日は無料で土日祝日は半額。土日祝日ならまだしも今日は何も無い平日だ。老女が小銭を握る理由どこにある?
考えられる可能性は二つ。
一つ。《敬老パス》の存在を忘れている。
老女は《敬老パス》を最近手にしたばかり。または《敬老パス》自体が最近出来たばかりで、今までは通常通りお金を払っていた。だからその癖で小銭を握っている。
二つ。《敬老パス》の効果が切れている。
《敬老パス》にも普通の定期券と変わらず一定の間隔で更新をしなくてはならない。老女の持っている《敬老パス》は既に期限が切れており、更新を行っていない。
さて、どうしたものか。『もしもし、あなたがたはどこで降りるんですか?』なんて事は怪しすぎて流石に聞けないし。
気づくと樽小学校と樽町四丁目を過ぎていることに気づいた。まずい……このまま考えている内に二人の内一人が降りて、誰かに座られたら本末転倒だ。
考えろ…残された時間は少ない。思い出せ、今までの推論を、記憶を。
今までの記憶が、推測が、俺の脳内を駆け巡った。
『樽町二丁目です。』
『間違えて押したのか?』
『市内バスは料金が無料、平日は半額となります。』
俺は、すっと目を開けた。
そうか、簡単なことだった。
北樽町三丁目を出る時に運転手が言ってたではないか。
さらにここから
を取り出す。
そう。バスを無料で乗れる《敬老パス》の効果は、あくまで木良市の中のみなのだ。つまり《敬老パス》を持っているにも関わらず、老女が小銭を握っているということは彼女は少なくとも、
木良市内に位置するバス停は先程の路線図から引用すると南樽町二丁目までとなる。それ以降……つまり
ならば残りは消去法。樽町とつくバス停は全て木良市内に位置する。つまり、バスを降りるのは女子高生の方となる。
俺は桜の肩をポンポンと叩いて、
「こっちこい」
「?」
桜を女子高生が座っている椅子の前まで移動させる。
数分後、バスが止まり運転手が言った。
『樽町図書館です。樽町図書館です』
座っていた女子高生は名残惜しそうに文庫本を閉じて立ち上がった。
桜が信じられない、と言うような目で俺を見たあとに俺は桜に席に座るように言った。
「南雲くん、 ……凄い!ありがとう……!」
どういたしまして。
side桜
『え?南雲に「髪型可愛い」って言って貰えたの?よかったじゃ〜ん!』
夜。電話をしていたナギちゃんに、今日南雲くんと会ったことを話した。
「うん、それでね!南雲くんがバスの中で推理して、私に席を譲ってくれたんだ!」
『うん?バスの中で推理?よく分からないけど、それも良かったね』
「うん!」
『それより、やっぱり私の言う通りになったっしょ?』
ナギちゃんの言う通り、とは。三日前に遡る。
『え?南雲に告白した!?答えは!?』
「えっと……まだよく分からない……。とりあえずは保留って……」
『かぁー!程よくキープされてるんじゃないの?』
「南雲くんはそんなことしないよ!!」
『はいはい分かりしたよ。この南雲オタクが。それじゃぁここでお姉さんからアドバイス』
「南雲オタクって……。というなアドバイスってなにそれ……?」
『まずは適当な雑誌から選んだモデルの髪型に合わせてみな。自分が思う飛びっきり可愛いやつ』
「何でそんなこと?」
『男ってのは女の大きな変化に弱いんだよ。それで春休み終わって進級した時に会ったら、こういうんだ。『可愛いかな?』って』
「な、何でそんなこと……言えるわけないでしょ!!」
『内気のあんたには難しいかもしんないけど、そう聞かれたら……いくら南雲がデリカシーのない奴だったとしても、絶対こう言うって… 』
『可愛い……ぞ』
そして今に至る。
『ん?おーい、楓?』
「あ、なになに?」
『あんた、いつまでも浮かれてるんじゃないよ』
「え〜?うえへへへ……『可愛い』って言われたぁ〜!」
『笑い方が気色悪い……』
「酷いよ!!」
『それより早く南雲のハートをキャッチしなさい。古典部には美人が二人もいるんだから』
「え、えぇ!?」
『あ、十文字さんと天津さんも可愛いよね〜』
「そういうこと言わないでよナギちゃん!!!」
乙女の恋は、まだまだ続く。