氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第5章 月光下のアベンジャー
第一話 月夜の背教団


 【十二月九日 火曜日 十六時半】

 

 

 

 

 side 里志

 

 

 

 

 

 《退屈》という言葉ほど僕の趣向に合わないものはない。

 

 文化祭が終わってから約二ヶ月が過ぎようとしていた。

 

 今日は毎月恒例の総務委員会の定例会議だ。 今回の会議には生徒会の人達も参加している。生徒会長の《陸山宗芳》先輩と副会長の《木原青香(きはらせいか)》先輩。

 

 先月の十一月なんかは、特に学校でのイベントがないだけに、定期テストがどうやら、小さくなった体操着のリサイクルがなんやで、実に退屈だった。

 総務委員会以外のことで言えば《気まぐれ花子事件》にてやっとお近づきになれた天津木乃葉さんは実に興味深い。(別に摩耶花に聞かれてまずい意味じゃないさ)

 新しく転校してきた《三人目の探偵》……。いやぁ全く、この学校は僕を飽きさせてくれないね。

 

 ちなみに《退屈》だったのは十一月だけさ。今行われているのは十二月の会議。議題は実に面白い。

 

 《神高ホーリー・ナイト》、通称《ホーリーナイト》。

 

 見ればわかると思うけど、十二月二十四日にこの神高で行われる、クリスマスパーティーだ。主催はもちろん総務委員。

 一般生徒達にはまだだけど、僕ら総務委員には一足早くスケジュール表が配られる。僕は隣の総務委員の子から回ってきたスケジュールに目を通した。ちなみに回してきた子の名前は知らない。意外性がないからね。僕の記憶には残らない。

 僕はもう一度スケジュール表に視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《神高ホーリー・ナイト》スケジュール表。

 

 開催団体《総務委員会、一部生徒会》、担当責任者《永尾康敏》

 

 開催日時 12月24日 18時〜21時

 

 場所 神山高校体育館

 

 プログラム

 

 ・開会の辞 総務委員会委員長 田名辺治朗 18時〜

 

 ・アカペラ部 《僕らの歌声で盛り上げます》 18時15分〜

 

 ・天文部 《自作プラネタリウムで冬の星座を紹介します》 18時30分〜

 

 ・奇術部(有志団体) 《聖夜のマジックショー》 19時〜

 

 ・サッカー部(有志団体) 《男だけのクリスマスも一興。演劇やります》 19時30分〜

 

 ・社交ダンス部 《参加者の皆さんも気になるあの子を誘ってみてはいかがですか?》 20時〜

 

 ・閉会の辞 総務委員会一年代表 福部里志 20時30分〜

 

 

 

 

 

 

 

 ふふふ。そう、今年のホーリーナイトはこの僕が閉めることになっているのだ。全く光栄以外の言葉が見つからないね。この勇姿をホータローやハルにも見て欲しいけど、それは無理だと思ってる。

 ホーリーナイトの参加は自由なんだ。まぁそれもそうだよね、軽食を置く机なんかが並んでいる体育館に全校生徒を収容できるわけがない。これは学校側も望んだ方針だろう。

 しかし、プログラムの最後の《社交ダンス部》の社交ダンス。どうしたものかねぇ。これに関してはホーリーナイトの恒例プログラムだから、一般生徒達も行われることを知っている。

 摩耶花に誘われてるんだけど……。うぅむ、どうしたものか。

 

「会議はこれで以上だ。ホーリーナイトまでは定期的に会議を行うから、それぞれのクラスの担任から詳しくは聞いてくれ。それと……」

 

 司会進行役をしていた《十文字》、おっと、田名辺先輩は会議を閉めようとしたところで、何かを思い出したかのように言った。なんだ、また退屈な話はゴメンだよ。田名辺先輩は実に興味深いけど、興味深い人が話す話が面白いとも限らないわけだ。

 

「これはまぁ、みんなには関係の無いことだが、最近夜の学校に侵入している生徒が数人発見されている。そいつらの目的は不明だが、見回りの方が発見したらしい。未だ確保には至ってはいないが、自首をするか、これ以上の学校への侵入早めた方がいい。ここに犯人がいるかもしれないからな」

 

 田名辺先輩のジョークに辺りから微かに笑い声が漏れる。ふむふむ、この由緒正しき総務委員会の同志達を疑うなんて、随分なブラックジョークじゃないか。しかし、

 

 

 夜の学校に侵入する複数人の生徒、目的は分からず、確保には未だに至っていないと。なんだなんだ、面白い話じゃないか!

 

 僕の情報が正しければ、夜の学校の見回りをしている教師は四人。

そのうちの二人が普通棟、残りの二人は特別棟を見回っている。

そして、今田名辺先輩が言った通りなら、その生徒達は逃げ切るのに成功したってわけだね。

 

 仮に普通棟の四階で見つかったのなら、犯人の逃げるルートは二階の連絡通路を使用して特別棟に逃げ込むか、一階へ下るだろう。

 

 どちらがいい逃げ道かと言われれば、僕はこう答える。『どちらもハイリスクだね』と。

 特別棟に行ったとしても、そちらにも教師陣は二人いる。結局リスク的には普通棟にいるのと変わらない。一時的な安全が確保されるだけだ。

 じゃぁ下るべきか?それも無理な話さ。四階で見つかったことを前提としているなら、下ったどこかの階層。三階、二階、一階のどこかにいるもう一人の見回りに見つかる可能性もある。

 

 うーん。まって……今のは僕ながら冴えていた推論だとは思うけど、そうなった場合犯人達はどうやって逃げ切ったんだ?

教室は全部鍵でロックされてるし、正規の鍵もマスターキーも職員室にあるから、その生徒達は鍵を取れる状況じゃない。

 たまたま運良く見つからなかったと考えてしまえばそれで終わりなんだけど。

 犯人達を見つけた見回りの教師を振り切って、さらに別の見回りの目を盗むなんて事、そう何度も出来るのか?

 

 それに犯人たちの目的はなんだ?わざわざ夜の学校で………一体なにを……。

 

 これは……事件の匂いだ!!

 

 早速あの二人に相談してみよう!先に千反田さんに教えれば、あの二人も捜査をせざる負えなくなるよね……。

くっくっくっ、『どうやって逃げ切ったのか、私、気になります(里志全力の裏声)』ってね。

 

 しかし、犯人達って言うのもなんだか味気ないな。仕方ない、再び僕が新たなる提唱者になるとするか。そうだな、《七つの大罪》、駄目だ。犯人達が七人とは限らない。

 大罪って言い方がだよね。別に犯人達は法に触れるようなことをしているわけじゃないし。どっちかって言うと、完全下校以降は理由無しに学校へ入ってはいけないっていう教えに背いてるわけだ。

 

 夜の学校で、教えに背く者達……。

 

 

 《月夜の背教団》。よし!これで決まりだ!

 

 こんなくだらない事を考えているうちに、会議は既に終わっていた。僕は自前の巾着袋を片手に、資料整理を始める田名辺先輩をみた。

 

 まずは情報収集だ!

 

 

 

「田名辺先輩ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月光下アベンジャー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月九日 火曜日 十七時】

 

 

 

 side 晴

 

 クリスマスを日本が祝うというのは実におかしな話だ。

 

 キリストの誕生日だと言うのに、それに準じてやれパーティーやら、やれプレゼント交換やら、やれサンタクロースの正体やら。

 実におかしな話だ。

 

 しかしこのおかしな話を日本は恒例行事として受け入れている。今どきどのカレンダーを見たとして十二月二十四日、二十五日にはクリスマス、クリスマスイブと記されている。

 国という大きな概念がこれ認めているというのなら、俺が文句を付けることの方がよっぽどおかしな話になる訳だが、万人が認めたから行事にしようという考えが、流されているようで実に好まん。

 そういや、数学の宿題は明日までだったか?みんな今日出してたから俺も後で出そう。

 

 それにしても

 

 

 

 寒い。

 

 東京から越してくる際にコートを持ってくるのを忘れた俺は、登校下校どちらも学ランのままだ。

 

 ここは地学講義室。暖房は勿論石油ストーブもないこの教室は冬を生き延びるには不便すぎる。手もかじかんでしまい、文庫本をめくる手が痛い。

 俺の隣には真顔で本を読み続ける奉太郎、目の前には何かを話し込んでいる千反田と伊原の姿があった。

 伊原は俺が見てるのに気づくと、口を開く。

 

「ちょっとあんたらも見てよ。どれがいいと思う?」

 

 伊原が俺たちに向かって並べだしたのは五枚の写真だった。これはドレスか?てか

 

「伊原てめぇ……昨日『一眼貸して』って言ってたのはこんなもの撮る為かよ」

「別にいいじゃない。減るもんじゃねないし」

 

 減るよ。メモリーカードが。先程返された一眼をリュックの中から取り出し、メモリーをチェックする。

 手ブレ補正が付いているためブレた写真は無いものの、撮り方が気に食わなかったのかいくつか撮ってあった。俺はそれを無感情で消していく。

 

 大方、ホーリーナイトに着ていくドレスだろうな。里志を社交ダンスに誘ったって言ってたし

 

「奉太郎、里志は伊原の誘いをOKしたのか?」

「してないと思うぞ」

「伊原は行く気みたいだけど?」

「里志は総務委員でホーリーナイトの出席は決定事項だ。伊原が行くとなれば、踊ることは避けては通れない」

 

 はは……。そもそも里志が伊原のそういう色恋沙汰関連を避けている理由は分からんが。

 男子高校生たるもの、俺達男三人は帰り道によくやる擬似議論会で女子にまつわる話もするというのに。何を話しているかはここでは言えんが。

 

 クラスの男子に聞いた話によると、ホーリーナイトに女子から社交ダンスを誘われる時点で神高では勝ち組の部類に入るそうだ。大体の生徒は社交ダンス直前で帰り、社交ダンスを踊る男女ペアのみが最後まで残るらしい。悲しい現実よ。

 勿論俺と奉太郎には誘いは無し。誘う予定もない。

 そもそも俺達はホーリーナイト自体に参加しないしな。当日は勘解由小路家で七面鳥にでもかぶりついているだろう。

 

「で、あんた達はどれがいいと思う?」

 

 伊原の催促に俺と奉太郎は文庫本に目を通しながら答える。

 

「左から三番目」「一番下」

「見ていえ。一番下ってなによ」

「それで、ちーちゃんは決めた?」

「いえ、私は摩耶花さんが決めてからで大丈夫ですよ。貸してもらう身ですから」

「千反田もホーリーナイトに出るのか?」

 

 奉太郎の意外そうな声質に千反田は言った。

 

「えぇ」

「社交ダンスに誘われてるのか!?」

「いえ、私はただ参加するだけです。クリスマスパーティーに興味がありますので。クラスの男子ともそこまで仲良くは無いので誘われないんですよ」

 

 ふーん。千反田なら誘われてそうだけどな。

 

「ところで、南雲さんは服、どうするんですか?」

「俺?俺はホーリーナイトでないぜ」

「え、あんた桜さんから誘われてるんじゃないの?」

「俺がか?バカ言うな。喧嘩売ってんのか」

 

 千反田と伊原は顔を見合わせ、大きく溜息をついた。なんだよ、藪から棒に失礼な。桜とは毎日顔を合わせているが、そんなことは一言も言われていない。

 

「しかし、タダでご馳走が食えるとなれば、行く気も少しは起きるよな。里志をからかうことも出来るし」

 

 奉太郎がそう言うと、伊原が噛み付いた。

 

「へぇ、それは私に無理やり踊らされてるふくちゃんって事かしら?」

「いや、冗談だよ。冗談」

 

 奉太郎が伊原に詰め寄られたその瞬間、地学講義室ドアが勢いよく開かれた。そこに立っていたのは勿論

 

「やぁ、ホーリーナイトの話題で盛り上がっている我が同志達よ」

「里志、いつから聞いてたんだ」

「摩耶花の『あんた達はどれがいい思う?』から」

「最初からじゃねぇか」

 

 里志は『ふふん』と言いながら首をすくませた。なんだ、随分ご機嫌じゃないか。

 里志は俺たちに近寄ると、指を一本立てながら言った。

 

「ハル、ホータロー。面白い話があるんだけど、聞くかい?」

 

 里志がこう言った時には、なにを言おうが話し始める。だから俺達はこう答えざる負えないのだ。

 

「あぁ、話してみろよ」

 

 そう言うと、里志は両腕を演説でも始めるかの如く、大きく広げた。

 

「じゃぁ話させてもらうよ!《月夜の背教団事件》!」

 

 これが、《神高ホーリー・ナイト》を巡る、俺達古典部の新たなる謎解きの始まりだった。

 

 

 




次回《The School Of Night》


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