氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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お気に入り400&評価者様40突破ありがとうございます!

これを記念とし、アンケートを実施します。解答は活動報告にお願いします。

《古典部達の休息 春の巻》にて、『晴とのコンビのこういう話を見たい』等がありましたら、下記に記されている登場人物の番号とおおまかな内容を活動報告にお書き下さい!出来る限りお答えします。一人幾つでもOKです。

 晴とのコンビ以外のお話も受け付けています。

 例 奉太郎、里志の原作コンビ
   千反田、伊原、桜の女子会

時系列的には《遠まわりする雛》の後のお話にしようと思っています。

※『〇〇との話なら、内容はなんでも大丈夫です。』と言って頂ければ、お話はこちらで考えさせて頂きます。
また執筆する際にお名前を出させて頂きますので、『名前を出されたくない!』という方は活動報告にその記入もお願いします。

①折木奉太郎
②千反田える
③福部里志
④伊原摩耶花
⑤勘解由小路晴香
⑥桜楓

活動報告にて、お待ちしております。




第四話 最悪の判決 ※前書きにてアンケート実施中

 【十二月十日 水曜日 十九時十五分】

 

 

 特別棟三階にある生物講義室に着くのは、そこまで苦労を伴わなかった。途中二階の男子トイレで見回りの教師から隠れ、その後三階へ。

 生物講義室は特別棟三階の一番奥に位置しており、壁新聞部が部室として使っている。以前に生物講義室にある古典部の文集のバックナンバーを取るために、壁新聞部の元部長の遠垣内将司の不法行為をダシに使ったが、あれは悪い事をした。人の弱みを握るなど、もってのほかだ。

 《十文字事件》の時も似たような事をしてしまったが。

 

 俺と奉太郎は生物のレポート用紙を一枚取り、四つ折りにしてポケットに忍ばせる。

 そして奉太郎が言った。

 

「ミッションコンプリートだな。さて、帰るか。もう一度トイレで教師陣をまこう」

 

 無言で頷くと、里志は不機嫌そうな顔と声で言う。

 

「なんだ、自分たちの用が終わった途端におさらばかい?夜の学校に侵入出来たのは誰のおかげだと思ってるのかな、まったく。《月夜の背教団》の調査に付き合ってくれてもいいんじゃない?」

「お前が事前に開けておいた窓は閉められていたろう。家庭科室を選択した俺のおかげといっても過言ではない」

「過言だね」

「話を聞こうか」

「過言さ。家庭科室の窓が基本的に閉められない情報を奉太郎に教えたのは他でもない僕さ。その僕からの義理を果たさないとは、いくらホータローでも頂けないね」

 

 奉太郎は一度ムッとした声で返した。

 

「お前は貸しをつくらない主義じゃなかったか?」

「それはいつの僕だい?福部里志は常に変化してるんだよ。アップデートさ」

「口が減らないやつだ」

「何をいまさら」

「お前ら一旦落ち着けよ」

 

 奉太郎と里志のいつもの言い争いを両手で止めた俺は、里志の方に向き直る。

 

「里志。今日、《月夜の背教団》が学校に侵入してるっていう証拠付けでもあるのか?」

 

 俺の言葉に、里志は得意げに首を竦めた。そして自分の後ろをこちらを向いたまま親指で指した。

 

「ここじゃぁ教師陣に見つかるのも時間の問題だ。話はトイレの中にしよう」

 

 俺達が階段近くの男子トイレに入ると、里志はポケットから一枚のルーズリーフを取り出した。それを携帯の明かりで照らす。

 そのルーズリーフにはこう記されていた。

 

 

 

 

 

 総務委員会 侵入者発見日時

 

 12月1日 月曜日 19時38分頃 普通等 2F 3年E組前

 12月3日 水曜日 19時26分頃 特別棟 3F 美術室前

 12月5日 金曜日 19時19分頃 特別棟 1F 会議室前

 12月8日 月曜日 19時32分頃 普通等 4F 一年B組前

 

 

 

 

 

 

「これは?」

 

 奉太郎の言葉に里志が続ける。

 

「昨日の総務委員会の会議で田名辺先輩が教師陣から貰った、《月夜の背教団》の生徒が見回りによって発見された日時を場所をまとめたものさ。それで注目してほしいのは……時間と曜日。君達なら、見れば判断が着くと思う」

 

 俺たちじゃなくても、これは分かる。

 

 《月夜の背教団》が侵入する日時には条件がある。

 月、水、金の三日。加えて、十九時半前後だ。

 

 まだ《月夜の背教団》が発見されてから一週しか経っていないため確定は出来ないが、今日は水曜日、この資料を見る限り今日侵入する確率は高い。そして、只今の時刻は十九時二十三分。

 しかし、だとしたら、《月夜の背教団》はどうやって学校に侵入した?家庭科室の鍵は閉まっていた。俺達と同様に家庭科室の窓から侵入したとしたら、廊下に出る為には内側からのロックを外さないといけない。勿論外側からのロックは手動では閉められないので、仮に《月夜の背教団》が家庭科室を侵入経路としたのなら、家庭科室から廊下に出るためのドアのロックは外れていなければならないのだ。

 

 俺はおもむろに言った。

 

「《月夜の背教団》の侵入ルートは……家庭科室以外のどこかって事か?」

 

 奉太郎も頷き、口を開いた。

 

「そうだな。だが、一階の廊下の窓の鍵は断定するには早いが、《全部閉められてる》。家庭科室と同様に教室内の窓を使って侵入したとしても、内側からのロックは家庭科室を除いて、鍵がなきゃ開けない。抜け道はどこにある?侵入経路はどこなんだ?」

「そうだね。それが問題だ。僕らでも知らない学校への穴があるって言うのなら、話は別だけど」

 

 俺たち三人は頭を抱えるが、一向にそれらしい答えは出てこなかった。そうしているうちに時間は二分ほど過ぎ、そこで里志がおもむろに言った。

 

「考えるのは明日にしよう。窓のロックがかけられてる事が分かった時点で収穫さ。今日は一度帰ろう」

「《月夜の背教団》を捕まえに来たんじゃないのか?」

 

 俺が意外そうな声に、里志は首を竦め『ばかな』と言って笑った。

 

「それは無理な事だよハル。仮に《月夜の背教団》を捕まえたとして、どうやって教師陣に突き出すのさ。『生物のレポート用紙を取るために学校に侵入していたら、近頃先生達の間で問題視されていた、学校に不法侵入している生徒を捕まえました』って?それじゃぁ僕らも共犯にされかねない」

 

 目的は違えど侵入してる時点で俺達も共犯みたいなもんだろ。

 

「それに、総務委員以外の生徒はこの件を知らないことになってるんだ。僕ならともかく、総務委員じゃない君らが知ってるのはおかしなことになるんだよ」

 

 総務委員会以外は知らないだって?ほう……、だとしたら、なんで事件解決に()()()()の天津が動いてるんだ?

 と、言おうとした時には、既に里志はトイレの入口に歩き出していた。……ったく、大方、俺らを動かすために天津に情報をたれ込んだんだろうな。

 

「二人とも……今は教師陣はこの階にはいない……今のうちに出よう。」

 

 奉太郎と顔を見合わせ頷き、俺達はトイレを出る。すると。

 

 

 カツン、カツン、カツン

 

 

 足音が聞こえた。その音に思わずギョッとし、俺たち三人は聞こえる方向に視線を向ける。そして、目を見開いた。

 

 特別棟三階……廊下の遥か彼方に、一人の制服を着た中肉中背の男子生徒が立っていた。そして、俺達を挑発するかのように上履きを廊下のフローリングに叩く。学校は闇夜に包まれており、顔は見えない。

 

 あいつが……。《月夜の背教団》の一人……。

 

 男子生徒は上履きを鳴らすのをやめ、こちらを見つめていた。里志がおもむろに聞く。その声はどこか抑揚しており、興奮してさえ聞こえる。

 

「やぁ!君が最近学校に侵入している生徒の一人なのかい?」

 

 無言。里志はなおも続ける。

 

「君たちの事は教師陣もかなり問題視している。捕まるのも時間の問題だ。どうだい?僕は個人的に君達に興味を抱いている。正体と目的を教えてくれるんだったら、総務委員会の僕が君達が捕まらないように手を回してあげても構わない。いい手段でしょ?」

 

 とんでもない総務委員だな。まったく。

 俺は男子生徒の方へ視線を向ける。校章の色を確認しようとするが、やはり遠すぎるのと暗いので見えない。色さえ分かれば学年だけでも確信を持てるはずのなのに。

 

「二人とも、捕まえよう。」

「捕まえる気はなかったんじゃなかったのか」

 

 奉太郎の声。

 

「うん。捕まえても教師陣には突き出さない。顔だけでも確認して、あとから報告する。三二ーで行くよ」

「お、おい里志!!」

「三……」

 

 奉太郎の軽いため息、そして何とか走る準備を整えた。

 

「二……」

「一……」

 

 ダッ!!

 

 俺達は三人は同時に廊下の床を蹴り、男子生徒に向かって走り出した。向こうも少し遅れて、()()()()()()()()走り出す。

 男子生徒と俺達のちょうど中間地点に階段がある。このまま行けば、捕まえることは楽勝……、なに!?

 

 男子生徒は俺達が階段に着くより早く、階段に到着し、したに降りていく。足が速い……!!

 

 俺達も階段を降り二階へ、一段ごとに降りるのではなく、ほぼ三段や四段飛ばしで階段を降りていく。しかしそれは男子生徒も同じだ。しかも俺らより早い。

 二階からさらに一階に降りていく気配を感じ、俺達は一階へ勢いを緩めること無く降りる。そして俺は、ここで男子生徒を捕まえられることを確信した。

 

 特別棟一階には外へ出る手段がない。特別棟にも昇降口はあるが、それこそ鍵が閉められているはずだ。特別棟から出るには一度二階の連絡通路を渡って普通等に移らなければならないのだ。勿論廊下の窓からの脱出は可能だが、そんな事する余裕がある程、奴と俺たちの距離は離れていない。……が

 

 

 

 

 それは、俺らの()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 一階に降りたところで、右、左と長い廊下を確認するがそこには男子生徒の気配なく、闇に包まれた廊下だけが静かに俺達を待ち受けていた。そして……一階から二階への階段の踊り場から、一閃の光と共に、大きな声が飛んできた。

 

「おい!!お前ら!!そこで何をしている!!!こっちへこい!!」

 

 見回りの教師の一人に、見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は普通棟一階の職員室を通った先にある、生徒指導室に放り込まれた。

 

 押されるように生徒指導室のソファに座らせられ、俺達を脅かすかのように……いや、今まで黙って侵入されていた鬱憤を晴らすかのように生徒指導部は丸めた冊子のようなもので、ソファの目の前にある机を勢いよく叩いた。

 

 ズカァン!!!!

 

 俺達は無反応。

 男性教諭は口を開く。名札を見たところ、この男性教諭は《永尾康敏(ながおやすとし)》というらしい。

 

「てめぇら、自分が今まで何をしたか分かってんのかコラ?学校への不法侵入……お前らが生徒だったから救いはあるかもしれねぇが、これは立派な犯罪なんだよ!!!

 

 語尾の部分だけ声を荒らげる。俺は反論の意を述べた。

 

「先生。確かに今日俺たちは無断で学校に入りました、ですが、今までとは?俺達は今日が初めてです。」

「あ?」

 

 そう。俺達は《月夜の背教団事件》。つまり、教師間で話題になっている不法侵入の生徒達の情報を知らないことになっているのだ。

 

「しらばっくれてんじゃねぇぞ、コラ。お前らは、これまでやってきた事を反省してねぇのか?」

 

 『お前らは』の部分で、一文字区切りながらご丁寧に五回机を叩いた。

 奉太郎も口を開く。

 

「先生が何を言っているのか、俺達には理解できません。ですが……俺達の他にも()()()()学校に侵入している生徒がいます。俺たちとは無関係ですが」

 

 次に里志。

 

「はい、ですので、もし良ければ特別棟一階をもう一度本格的に捜索してみては……」

 

 『いかがでしょう?』そう里志が言い終わる前に、永尾は再び机を叩いた。そしてその瞬間、永尾のポケットから金属のものが音を立てて落ちた。

 永尾はイライラしながらも、それを拾い上げる。

 

 しかし、俺たち三人はそれが何かすぐに確信した。

 

 マスターキー。この神高全てのドアを開けることの出来る鍵だ。……そしてその瞬間に、俺達の余裕は焦りと疑問に変わった。

 俺達が今まで永尾からの怒りに余裕を覚えていたのは、俺達が《月夜の背教団》ではないという明確的な証拠付けが出来る可能性があったからだ。

 しかし永尾がマスターキーを持っているとなると、それは限りなく絶望に変わった。

 

 そんな、それなら、どうやって……?

 

 俺達はおもむろに顔を下げる。そして、永尾は順番に俺達の名前を口ずさんだ。

 

「南雲晴、折木奉太郎、福部里志……《古典部》か。お前らが今まで学校で何をやっていたかはわからん。けどな……それはどうでもいいんだ。今回は特別だ、黙って家に帰れ。次に侵入するような事があれば、容赦はせん。そして」

 

「《古典部》は二週間、活動禁止だ。部室への立ち入りも禁ずる」

 

 

 そんな、()()()()()()()()は、俺達の耳に入らなかった。ただ俺達の中に残るのは、疑問…ただその一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありえない、ありえない、ありえないじゃないか!!」

 

 帰り道、自転車を押しながら里志は同じ様な言語を繰り返していた。

 

 俺達の心境は、多分同じだ。

 

 特別棟一階に男子生徒を追い詰めた時、俺達は奴を見失った。

 

 昇降口もなく、窓も開けておらず、教室への全てのドアがロックされたあの場所、いわば《密室》で、俺達は奴を見失ったのだ。

 ならどこへ隠れたのか?理由は一つしか思い浮かばない。

 

 ()()()()

 

 俺達はあの男子生徒、《月夜の背教団》がなんらかの方法でマスターキーを手に入れ、それを使って今までの教師陣や、今日の俺らを撒いたのではないかと予想を立てていた。しかしその推論は、永尾がマスターキーを持っていたという明確的な証拠が打ち砕いた。

 

 ならどこへ奴は逃げた?仮に窓から脱出したとなれば、開いた窓から夜風が必ず廊下内に侵入し、音が鳴る。犯人の心境からして俺達には追われている最中に窓から脱出し、ご丁寧に開いた窓を閉めるという手段には出ないだろう。これは確定と言ってもいい。

 

 だから奴の逃げ道は教室内と思って間違いない。奴はなんらかの方法でロックが掛かっている教室内に侵入出来る方法を知っている。

 俺達に追われている中、迅速に教室内に入れる方法を。しかし、それは何一つ思い浮かばない。

 

 商店街のアーケード下をくぐり抜けると、奉太郎が俺と里志に聞こえるような声量で、言った。

 

「《古典部》、二週間活動禁止だと……」

「あぁ、千反田さんと摩耶花になんて説明したら……」

 

 あはは、それも考えなくちゃな……。

 

 十二月の星空の下……《月夜の背教団》に冤罪を負わされた俺達古典部は、光り輝く月夜を、ただ眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神山高校、とある教室。

 

「どういう事だ?俺達の他にも学校に侵入してる生徒がいたぞ!!」

 

 男が声を荒らげた。

 

「まさか……一体どこから入ったんだろう」

「知るかよ……だが、永尾に捕まってた」

「間抜け」

「馬鹿が。そいつらも俺達と同じで、()()()()()()()()を知っている。今日逃げ切れたからと言って、あまり調子に乗るなよ。そいつらは俺達の計画を潰しかねない危険分子だ。警戒だけは怠るな。……それで、今日の分は終わりだろ?」

「うん」

「この行動に、意味があるのかねぇ。教師陣の俺達に対するマークも、かなり高まって来てる」

「大丈夫……多分順調のはず」

「なら安心。最高の舞台で、俺達は《復讐》を果たす」

「うん。最高の舞台……」

 

 

 

 

「《神高ホーリー・ナイト》で………」

 

 

 





次回《調査開始》


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