明日辺りに《古典部達の休息 春の巻》にて、番外編を更新しようと思います。
友人や知り合いがその人間らしからぬ行為や言動を取った時に、それを見た第三者は何かがあったのではないかと思考する。
しかし思考が追いつかず、明確な『答え』というものが見つからなかった時は、自分に非があるのではないかとステップアップするのだ。
そしてその場合は然るべき行動をするのが、いわば頭を下げるのが世の常、人の常、だからこそ
「「「すみませんでした」」」
伊原が口を開く。いや、俺達が謝っている間は常に口を閉じていなかったのもかもしれない。
「大体あんたらはその月夜のなんちゃら団を捕まえないって言ってた癖に捕まえようとしたしその為にわざわざ先生達の目を掻い潜って夜の学校に侵入して挙句の果てに見回りの教師に捕まって古典部が活動禁止を二週間も強制されましたってのはなんなのほんとあんたらがどう動こうがあんたらの勝手だけどそれに善良な生徒の私とちーちゃんを巻き込んだことに怒ってるのよ私はそれになんちゃらかんちゃら……」
怖い、句読点がない。でもそれ以上に怖いのは……
「……」
千反田ァァァァァァ!!なんでずっと黙ってるんだ千反田ァァァァァァ!!
俺達がいる場所は普通棟四階一年B組。数十分間頭を下げ続ける俺達を横目に帰宅するクラスメイトの視線など、今はどうでもいいと感じてしまう。
昨夜、学校へと無断で侵入してしまった俺達は、見回りの教師の一人である永尾康敏に見つかり、生徒指導部から古典部の二週間活動禁止を命じられてしまった。今日が十二月十一日なので、次に地学講義室に入れるのは二十五日のクリスマスな訳だが、その時には冬休みが始まっている。つまり次俺たちが地学講義室に入れるのは年明けの新学期になるわけだ。……あぁ。
「ほら、ちーちゃんからもなんか言ってあげなよ。まーたこいつら、悪さするから」
「いつも悪さしてるみたいに言わないでください」
「なんか文句あんの?」
「イエナニモ」
「折木さん?」
「はい」
「福部さん?」
「なんでしょう姫」
「南雲さん?」
「へい」
千反田の目は伏せた顔の影響で垂れた前髪で隠れているが、光が失われていることが分かった。ここて、『おのれうらめしや』なんて言われた日には学校帰りに神社に寄ってしまうかもしれない。
そして千反田は、呟くように言った。
「許せません」
奉太郎が言う。
「当たり前だ。つくづくすまない」
「あなた達……いえ、私達に冤罪を浴びせるなんて……」
「へ?」
里志の情けない声。
「ちーちゃん?えっとね、確かにこいつらが見つけた生徒に冤罪を浴びせられたわけだけど、こいつらもこいつらで勝手に学校に侵入したわけなんだから、自業自得っていうか……」
伊原の説得も遅く、千反田は伏せられていた顔を勢いよく上げた。そして、その二つのアメジスト色の大きな眼球は、俺と奉太郎を捉えた。
「やっぱり、気になります……」
ゾクリ。千反田からのお説教は上手く回避出来たと思ったが。これは、まさか。
里志と伊原は千反田に視線を送る。千反田は興奮気味の、顔と声で俺と奉太郎の手を片方ずつ握って持ち上げた。
「何故《月夜の背教団》さん達が夜の学校に侵入し……先生方を惑わせたのか!どうやってこの学校に侵入したのか……その目的は一体なんなのか!!!」
「私、気になります!!」
「……ぐぬぬ、ハル……どうする?……いや、流石に決まっているか。生憎、俺は昨日の一件で虫の居所が悪い」
そうだ。そんなの決まってる。俺はおもむろに言った。
「《月夜の背教団》は一人残らずとっ捕まえる。俺らに罪をかぶせたことを後悔させてやる」
「おぉ!!」
里志の面白そうな声。そして里志の興味は奉太郎に向かった。
「それにしても、まさか……《省エネ》主義の奉太郎が自ら謎解きに挑むなんて、狐の嫁入り以外の何物でもないね」
「ふん。二週間の部活動が無くなったんだ、その分の過処分エネルギーを使うだけさ」
「ちょっとあんたら、そんな事言ってただこの状況から逃げたいだけじゃないの?」
伊原の声に、ギックリしなかったと言えば嘘になる。俺は言った。
「なにをいう伊原一等兵。俺達はこの学校に潜む悪の組織をだな」
「あーはいはい、そういうのいいから。わかったわよ。正直、《月夜の背教団》が何を目的として夜の学校に侵入してるのか、私も少し興味あるし」
見ると、千反田の顔はいつも以上に輝いており高揚した声で俺達に言った。
「それでは行きましょう!!《月夜の背教団》の正体を突き止めて、捕まえましょう!私達《古典部》なら出来ますよ!」
俺達は、誰にともなく頷いた。
side 田辺
「おーっすジロー」
生徒会長である《陸山宗芳》、ムネが会議室のドアを開けて入ってきた。全く……
「お前はノックを知らないのか?ここは一応総務委員の場所だぞ?」
「こまけーことは気にすんな。お前しかいないんだからな」
「はぁ……それで、何の用だ?」
「そうそう、聞いたか?古典部のこと。アホだよなぁ、あいつら!」
ムネはニヤニヤ笑いながら聞いてきた。大方、昨日古典部の数人が夜の学校に侵入してるのを見回りの教師に発見されて、活動禁止を食らったという話だろう。
発見時間は十九時半……今月に入ってから行われている《不法侵入の一件》の犯人が見つかっている時間帯とほぼ同じことだから、今までの犯行も彼らのものだと断定されたらしい。
「聞いたよ。あの中には僕の後輩もいたんだよね。全く、総務委員のくせにやってくれる」
「どう思う?」
ムネの顔はいつの間にか真剣なものに変わっていた。僕はそれに習うように、真剣な声で答える。
「……今までの犯行を行なった犯人は、彼らじゃない。今まで発見された生徒はみんな単独で行動していた。やり口が違う」
「同意だ。大方、犯人を捕まえるかなんかしようとして、見つかったってことだろ。ミイラ取りがミイラになるとは、このことだな。クク……」
「笑い事じゃない」
南雲くん。……僕、《十文字》を最も追い詰めた生徒。探偵……。
「それで、どうするんだ?この学校の総務、平和と秩序を維持する総務委員長様は」
「平和と秩序を維持するのは生徒会長のお前の役割だろ。ったく。……決まってるさ」
僕は笑った。
「可愛い後輩達が冤罪を負わされたんだ。黙ってるわけにはいかないだろ。ムネ、力を貸してくれ。不法侵入してる生徒を捕まえる」
そう言って、拳をムネに向ける。
「ハッ!そう言うと思ったぜ、上等!」
僕とムネは拳同士をぶつけ合わせた。
side 入須
普通棟一階総合掲示板。
古典部が活動禁止か。理由は、数回に及ぶ夜間の学校への不法侵入。
「入須……どうかした?」
江波が私の横で不思議そうな顔をした。私は視線を掲示板に向けたまま、返す。
「江波、お前はこの件……古典部が本当に犯人だと思うか?」
「ううん。少なくとも、あの人たちじゃない」
「何故そう思う?」
江波は片手で口を抑えながら笑うと、こう言った。
「だって、折木さんと南雲さんがこんな《面倒なこと》するはずないじゃない」
「ふっ、違いない」
私は後ろを振り向き、足を進める。
「入須、どこ行くの?」
「ちょっと用がある。不法侵入とは、くだらないことをするやつがいるもんだな」
さて……どう動くのかな?南雲くん、折木くん。
今回は私も、力を貸そうじゃないか。
side 天津
「はぁぁぁぁぁぁあ!?」
なんや、この掲示板。《古典部》は数日に及ぶ夜間の学校への不法侵入により、二週間の活動禁止って。
いや……でもこんなんおかしい。さとっちから聞いた《月夜の背教団》は常に一人で行動しとる。ここに書いてある通りだとすれば、昨日の夜に見つかったのは三人……。
今までの犯人のやり口やない。
……。
おもろなってきたやないか……この事件……!!
《月夜の背教団》、絶対ウチが捕まえたるでぇ!
勝負や!古典部!
────────探偵達を動き出させる運命の歯車は、既に回り始めている。