氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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 ありがとうございました!

 今回から本格的な捜査&推理パートです。《月夜の背教団》の正体と目的に迫っていきます。


第七話 入ることの出来ない教室

 【十二月 十一日 金曜日 十二時半】

 

 

 

 side 桜

 

 

 

「え、あんた、まだ南雲の事誘ってないの」

「さ、誘ってないよれそれに誘うように唆して来たのはナギちゃんと伊原さんだし」

「だってあんた南雲の事好きじゃん」

「好きじゃないって!!ただの興味だよ!!」

 

 ナギちゃんはあからさまにため息をついた。

 

「それが好きって感情なんだって。一緒にいたい、触れ合いたい、笑い合いたい、楓の中に南雲に対してそういう気持ちが少しでもあるんなら、それはもう立派な《恋》なんだよ」

「で、でも私……人を好きになったことが今まで無くて……」

「あーはいはい。そういうのいいから。てか、早く誘わないと時間ないよ?《ホーリーナイト》まではまだ二週間あるけど、社交ダンスに出るなら社交ダンス部の練習会に出席しなきゃまともに踊れないっしょ。練習に一週間いるとして、今日が金曜日で、当日は練習会がないから……土日を除いて……あと三日?」

 

 三日、この期限を逃したなら南雲君とは《ホーリーナイト》で踊れない。

 でも……

 

「でも、断られたら立ちなおれる自信が無い……。ふふふ……」

「ネガティブねぇ」

 

 私は、南雲君の事をどう思ってるのだろうか。

 

 自分でも、それがなんの気持ちなのか分からないんだ。

 

 

 

 

 

 

 【十二月十一日 金曜日 十六時半】

 

 

 

 side 晴

 

 

 

 放課後。生徒会室に辿り着いた俺達古典部は、代表して俺が生徒会室のドアをノックする。

 

「いいぞ」

 

 陸山の気のない声が帰ってきた。別に陸山に気を使う理由はないので、勢いよく横開きのドアを開いた。

 生徒会室の中はそこまで広くはなく、通常の教室の大体三分の二程の大きさだろうか。

 俺に続き、里志、伊原、千反田、奉太郎と続いて教室に入る。

 

 そして俺達は、中にいるメンバーを見て目を見開いた。

 

「よう、はるっち、えるっち、さとっち、たろー。久しぶりやなぁ!……あれ?古典部ってまだメンバーいたんや!」

「やぁ、古典部の諸君。改めて、ビデオ映画では世話になったな」

「福部、南雲君。夜の学校はどうだった?」

 

 天津、入須、田名辺の三人が生徒会の連中に紛れて椅子に腰を下ろしていた。里志が声を上げる。

 

「ど、どうしてあなた達がここに……!?」

 

 伊原が天津を見ながら言う。

 

「だれ?あの子……」

「来たな、古典部」

 

 陸山は椅子から立ち上がると、俺たちの前まで寄ってくる。顔に笑みを浮かべたまま俺達より少し離れたとこらで歩みを止めた。

 

「どういう事か説明して頂けますよね、陸山会長」

 

 奉太郎の言葉に陸山は頷くと、人差し指を立てながら陸山は言った。

 

「一つだけ聞きたいことがある。今まで夜の学校に無断で侵入していた生徒の集団ってのは、確かにお前達の事じゃないんだよな?」

 

 陸山の目は真剣だった。俺達を見据えている。

 ここで嘘をつく義理もないし、意味もない。俺はおもむろに言った。

 

「当たり前でしょ。善良な生徒の俺達が、そんな真似をするわけがない」

「そうか。でも、一昨日無断で侵入したのは言い逃れ出来ねぇな」

「ぐっ……それは……」

 

 俺、奉太郎、里志が肩を落とすと、横目でジトーっと千反田と伊原が睨んでくる。

 

「はは…、確かに一昨日にお前らが不法侵入して見つかった事に関しては自業自得だ。だけどな、たった一回の侵入ってだけで部活が活動停止になるほどこの学校の校則は厳しくない。今まで《不法侵入》している生徒達が居たからこそ、教師達は鬱憤が溜まってたんだろうな。だからこそ、お前らがその罪を被り冤罪を負わされた事は実に俺達にとっても虫が悪い。だからこそ」

 

 陸山は腕を大きく広げ

 

「だからこそ、俺達はここに集まった。お前達の冤罪を晴らす為にな。どうだ、最高の人材だろ?」

 

「《一年E組女子体操着盗難事件》の解決者、天津木乃葉」

 

「《女帝》入須冬実」

 

「《総務委員会委員長》田名辺治朗」

 

「そしてこの俺、《生徒会長》の陸山むねよ…」「もういいでしょう。さっさと始めましょう。会長」

 

 陸山の最後の締めを遮った言葉には、とても冷厳なものを感じた。最初は入須が放った言葉だとも感じたが、入須はその声が聞こえた方へ視線を向けていた。

 俺達も、言葉を放った生徒の方へ視線をずらす。

 

 三人いる生徒会の連中の真ん中、千反田や入須と同じ長い髪に、スラリとした体型。小さな丸眼鏡に鋭い目付き。

  陸山は言った。

 

「おい、邪魔するなよ。《木原(きはら)》」

 

 木原……、聞いたとこのない名前だな。丁度隣にいた奉太郎に視線を移すが、奉太郎は首を振る。次に里志に視線を向ける。里志は俺が視線を向けているのにも気づかないまま、木原と呼ばれる女子生徒を興味深そうに見つめていた。なるほど、それなりにこの人も有名人… 、いや変人ってわけか。

 木原は冷厳な言葉を続ける。

 

「この方達が今まで侵入を重ねていた生徒であろうと、なんであろうと、()()()()()()()()は校則違反です。例え一回であろうと、活動停止の処罰は正当な処罰です」

 

 なんだなんだ。

 里志が俺と奉太郎にそっと耳打ちをする。

 

「いやぁ、こんな所で対面出来るなんて……実に光栄だね二人とも」

「光栄……?あの女は一体なんだ?」

 

 奉太郎の言葉に里志は首を大きくすくめる。多分こいつが言いたいことは『やれやれ、君達はそんなことも知らないのかね』だ。

 里志は声を大にした。

 

「いやぁ《木原青佳(きはらせいか)》先輩。こんな所で出会えるとは光栄です。一度お近づきになりたかったんですよ。相変わらずの《女王》っぷりです」

 

 里志の言葉に伊原ムッとする。千反田はなんのことを話しているか分からないと言った様子だ。木原は里志の言葉に返す。

 

「《女王》、私はあなたにそう呼ばれる筋合いはありません」

 

 「おぉ怖…」と里志はわざとらしく身震いする。俺は聞いた。

 

「あの人がなんだってんだ」

「木原青佳先輩。二年生の生徒会副会長。入須先輩に似て人心掌握が上手い……。けどね、彼女の人心掌握の方法は入須先輩のものとは打って異なるんだ。入須先輩は無意識の内に人の心を掌握する。だけど彼女は違う。意識的に自分の言う事を相手に従わせる。いや、正確に言うと意識的に従わせる他なくさせるんだ。卓越した美貌と、意識的に相手を自分の手駒にする姿から、 その異名は……」

《女王》。そうだよな、木原」

 

 里志の言葉に被せたのは、入須だった。木原は入須を軽く睨むと、続けた。

 

「あなたにも《女王》と呼ばれる筋合いはないです。《女帝》入須冬実」

 

 うわぁ……散ってる。火花散ってるよ……。

 

「なんだよ木原、お前いつも《女王》って言われてもあんまり反応しないのに」

「黙ってください、会長」

 

 はは……入須に言われたから気が立ってんだな……。

 ん?

 

 俺は自分の足元に一枚の紙が落ちていることに気付いた。すぐ横に画鋲も転がっていたので、なにかの衝撃で落ちたのだろう。

 俺は紙と画鋲を拾い上げた。

紙に視線を落とす。

 

 

 

 

 生徒会十二月活動予定

 

 M 部活動報告書提出。

 

 W 定例会議

 

 F 総務委員会との合同雑務

 

 

 

 

 

 生徒会の予定表……。いや、待てよ。こいつは

 

 視線を感じたのでその方向を見ると、奉太郎が生徒会の予定表を覗き込んで来ていた。奉太郎は予定表から視線を俺にずらした。そして軽く頷いた。

 すると

 

「あの……私たちの冤罪を晴らしてくれるというのはとてもありがたい事なのですが、一体どうやって頂けるのでしょうか?」

 

 千反田が生徒会室にいる全員におもむろに言った。陸山はニヤッと笑うと、『まぁ座れ』と言いながら俺達を席に促した。俺は拾った紙を机の上に置く。

 俺達と、陸山、田名辺、入須、天津、木原、他生徒会の二人は生徒会が会議に使っているであろう長机の前に腰掛けた。

 

 他二人の生徒会は男女で一人ずつ。後で分かることなのだが痩せ型で頬杖をついている女は一年生徒会書記《小嶋菫子(こじますみれこ)》。

 初対面の俺達にオドオドとしている男の方が一年生徒会会計《大山内托(おおやまうちたく)》。

 

 田名辺が代表して口を開いた。

 

「先ずは僕達の目的を古典部のみんなに教えよう。第一に君達が受けた冤罪を晴らすこと。そして第二の生徒の集団を確保すること。これ以上夜の学校で暴れてもらっては、教師陣の気性も荒くなるばかりだ。誰かが誰かに疑いの目を向けるのは、生徒や教師の信頼関係にも傷が出来る。これは防ぎたい」

「教師との信頼関係なんて、あってもなくてもさほど変わらんやろ」

 

 天津の意見。確かに、俺たち生徒と教師の関係は端的に言ってしまえば、授業料を払って契約を結んでいクライアントの関係でしかないのだ。

 陸山が天津の質問に返す。

 

「いや、一概にはそう言えないんだ。《カンヤ祭》。あんなに盛り上がる文化祭を教師は生徒に全責任を預けている。それこそが俺達生徒と教師の信頼の結果だ。もしこの関係にヒビが入れば、《カンヤ祭》や二週間後に開催される《ホーリーナイト》には教師陣が関与し、今までのような自由な行動や出し物が制限される。そんな事があれば…暴動が起きる可能性も考えられる。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の横に座っていた千反田の体がピクリと揺れる。三十三年前の《六月闘争》。あれに似たことが起きるかもしれないという事か。

 

「ジロー、続けてくれ」

 

 陸山は田名辺に継続を促した。田名辺は一度咳払いをし、司会進行を続ける。

 

「ま、そういう事だ。考えすぎかもしれないが、ムネの可能性も否定出来ない。それで……南雲くん、折木くん、福部。一度《不法侵入》していた生徒と接触した君達に聞きたい……先ずはその時の状況の説明、それとなにか分かったことはあるか?」

 

 里志が口を開いた。

 

「じゃぁ状況説明は僕が。一昨日僕達が《月夜の背教団》を見つけた時は……」

「ちょっと待て、《月夜の背教団》ってなんだ?」

 

 陸山の鋭く素早いツッコミ。伊原はおもむろに言う。

 

「私達が呼んでいる、不法侵入している生徒達の総称です」

 

 陸山は一度笑った。

 

「《月夜の背教団》、うん、いいネーミングセンスだ。俺たちもそう呼ぼう、うんうん《月夜の背教団》ねぇ……」

 

 陸山は『ククク』と笑う。里志はそんな事を気にすることなく先程の続きを話し始めた。

 

「僕達が一昨日《月夜の背教団》のメンバーを見つけたのは特別棟三階生物講義室前です。……いや、正確に言うと僕達が生物講義室前に居て、メンバーは生物講義室から階段を挟んで同じ距離の位置にいました。

それで……僕達は《月夜の背教団》のメンバーを捕まえるためにその生徒に向かって走ったんです。けど、あっちの方が遥かに足が速くて、階段を挟んで同じ距離だったにも関わらず先に階段を降りられてしまいました」

 

 入須が呟く。

 

「遥かに足が速かったか、これだけで断定するのは難しいが、《陸上部》という可能性は考えられる」

「と、言うことは他のメンバーも陸上部の可能性もあるということですね」

 

 木原が言った。その言葉に千反田は反応。

 

「え?え?どうしてですか?確かに南雲さん達が見つけたメンバーは陸上部の可能性は考えられます。ですが、ほかのメンバーも運動部の可能性が高いとは?」

 

 奉太郎が続ける。

 

「考えてみろ千反田。《月夜の背教団》が集団だとしたら、そいつらはどういう集まりだと思う?」

「えと、お友達……ですかね?」

「大体当たりだ。《月夜の背教団》が全員神高の生徒だとしたらそいつらは《月夜の背教団》である以前に《なにかの集まり》なんだ。同じ部活や、同じクラスという()()()()()()()()()だから俺達が見つけた生徒が運動部の可能性があれば、他のメンバーも同様にその可能性が割り振られるんだよ」

「なるほど……流石折木さんです」

「俺……というか、多分全員気づいてるぞ」

「私は気づいてなかったけど」「僕もだね」

 

 里志と伊原の弁。はは、墓穴掘ったな。

 

「うるさい。里志、早く続けろ」

「あいあいさー。それで僕達はメンバーを追って特別棟一階へ。生徒会の皆さんなら当然分かるとお思いですが、昇降口が閉められているため、外への脱出は不可能です。窓から出るという手もありますが、犯人の心境からして窓から出るという手段は取りにくい。遥かに足が速かったと言っても、窓を乗り越える時間に僕達が追いつけないはずがないですからね。……ですが僕達が特別棟一階に着いた時には、既にメンバーの姿はありませんでした。ここで見回りの教師の先生に見つかったというわけです」

 

 田名辺は一度顎に手を置き、考える仕草を取る。

 

「特別棟一階に着いた時には、既に姿を消していた……か」

「はい。じゃぁ分かったことは君達が説明してくれるかな?神高の《探偵役》よ」

「《探偵役》?」

 

 木原は里志の言葉に眉を寄せた。里志は続ける。

 

「はい。この二人は意外と僕達の盲点を付いてくれるんですよ。まるで探偵みたいに」

「じゃぁ頼むぜ」

 

 陸山の言葉に俺と奉太郎は頷く。最初は俺が口を開いた。

 

「まず一つ目。里志は特別棟一階でメンバーは消えたと言いましたが、これに関しては少しこじつけが説明出来るんです。生徒が消えた。なぜ消えたか、どうやって消えることが出来たのか。加えて特別棟一階にはトイレがない。これを考えれば消えた場所は一つしかない」

「教室、ちゅーことか?」

 

 天津の言葉に頷く。

 

「そう。奴は教室に入ったんです。……そう仮定していました、見回りの教師に見つかるまでは」

「ほう。というと?」

 

 田名辺は言う。

 

「教室のドアは勿論ロックされています。ならそれを開けるには《鍵》が必要です。この神高の鍵を開ける方法は、里志の情報網からは主に二つ。実に無難な方法です。一つ、その教室の正規の鍵。二つ、マスターキー。まず一つ目の正規の鍵という案は抜きましょう」

「ふむ、なぜだい?」

 

 入須の言葉に俺は視線を彼女に向けながら答えた。

 

「追われているというに、どこの教室に逃げ込むかなんて事は一々考えていられません。仮に特別棟一階にある歴史資料室の正規の鍵を持っていたとしましょう。そうなった場合は必ず追いかけて来ている人物から、その場所まで逃げなくてはなりません。その人物に、逃げ込む場所を見られたとしたら?そいつはそこでゲームオーバーだ。だからメンバーは、追われている途中に一番見つかりそうにないタイミング……端的に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうなった場合は正規の鍵一つで逃げるのは難しい。どこの教室にも逃げ込める、マスターキーが一番いいんですよ」

「でも、それこそ無理な話じゃないかしら」

 

 俺の二つ横に座っていた伊原が切り出してきた。

 

「マスターキーは私の知っている限りじゃこの学校に一つしかないわ。その一つの鍵をメンバーは何でもっているの?」

「あぁ、その推理ならまだ考えてない。というか……考える必要はなくなった。」

「どういう意味よ」

「その一つのマスターキーは俺達を見つけた教師が既に持っていたんだよ。《月夜の背教団》のメンバーがそれを持っているという説は、その時に消え失せた」

「じゃぁ二つ目のマスターキーっていう案もバツになるじゃない!」

「あぁ」

「あぁ、ってあんたねぇ」

 

 伊原は深く溜息を付くが、俺は伊原を視線に捉えたまま続けた。

 

「だが、教室に入ってやり過ごす以外に方法は考えられない。何かあるんだ……見回りの教師が持っていたマスターキーと正規の鍵の他に、教室に入れる方法が……」

「苦しい推理ですね」

 

 俺はその声が聞こえた方へと視線を向ける。

 

 木原……。

 

「正規の鍵も無理。マスターキーも無理。あなたは物理的に、論理的にこの二つの方法を否定出来ているというのに、まだメンバーは教室へ入ったという案のみは否定できていない」

「黙って聞いていたらどうだ……木原。君は彼らの推理を聞くのは初めてだろう?」

 

 入須の反論。

 

「苦しい推理じゃぁ無いぜ」

 

 陸山は笑いながら言った。木原は一度陸山を睨むような反応を見せ、こう言った。

 

「会長、あの存在を一般生徒に教えるんですか?」

 

 あの存在……?その反応に、少しだけ他の生徒会メンバーもピクリと動いた。

 

「別に生徒会だけの秘密ってわけじゃないしな。ちょっと待ってろ」

 

 陸山は一度立ち上がり、教卓の引き出しを開ける。そしてその中から取り出したブツを会議用机に放り投げた。

 ガシャという音ともにブツは俺の目の前に落ちる。そして……

 

「これは……!!」

 

 千反田が叫ぶように言った。

 

「マスターキー!!??」

「そう。この神高の()()()()()()()()()()()()

「どうしてこんなものを!?」

 

 里志の質問に、陸山は答える。

 

「簡単に言うと、生徒の教室への立て篭り対策だ。生徒の問題は生徒で、神高の相場はそう決まっている」

 

「で、では!《月夜の背教団》さん達が使ったマスターキーは、これということですか?」

「それは考えられんで、えるっち」

 

 天津が口を挟む。

 

「仮に《月夜の背教団》がこの鍵を使っているとしたら、前提としてどうやってこの鍵を入手するんや?」

 

「夜の学校は全部の教室のドアは閉まっとるんやろ?だったら、この生徒会室も例外やない。この鍵を取るにはまず生徒会室の鍵を持っとることが大大大前提や。生徒会室の鍵だけが職員室に戻ってなかったら流石のアホ教師達も生徒会に焦点を当てるやろ。それに……会長はん。あんたが生徒会室に来た時にこのドアの鍵は閉まっとったやろ?」

 

「あぁしっかりな。と言っても、いつも生徒会室の鍵を開けてるのは木原だ」

「どうなんや、女王はん」

「あなたに女王と呼ばれる筋合いはありません。そうですね……鍵は閉まってました」

 

 天津は木原の答えに満足したのか、ご機嫌な顔で続けた。

 

「せや。例えば《月夜の背教団》のメンバーが生徒会室にあるマスターキーを生徒会室が閉じる前までに何らかの方法で手に入れたとする。そうした場合… ……どうやってマスターキーを元の場所に戻すんや?」

「というと?」

 

 千反田が首を傾げる。

 

「マスターキーを元の場所に戻したら、《月夜の背教団》のメンバーの元には鍵はなくなる。だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そもそも《月夜の背教団》のメンバーは生徒会室に保存されている鍵を取ること自体不可能。このやり方は物理的に不可能ってことや」

 

 全員が頭を悩ませると、田名辺が切り出した。

 

「ダメだ考えても今は埒が明かない……他になにか《月夜の背教団》と接触して気づいたことはあるかい?南雲くんが答えたから、折木くん。どうだい?」

 

 頬杖をついていた奉太郎は、田名辺の言葉にハッと気付く。おいおいまさか今までボーッとしてた訳じゃあるまいな。

 

「気づいたこと……そうですね。アピール、ですかね?」

「アピール?」

 

 田名辺の言葉に頷く。

 

「はい。俺たち三人がメンバーと接触した時に、そいつは廊下の床を蹴っていたんです……こんな風に。」

 

 タン、タン、タンと奉太郎は生徒会室の床を蹴っていた。

 

「明らかに俺達を挑発していました。俺達を教師と見間違えたから挑発したのか、俺達が生徒だとわかったから挑発したのかは分かりません。ですが、仮に前者だとしたら。《月夜の背教団》は教師陣に何かを伝えようとしていた。……いや、自分達を捕まえることの出来ない教師陣を嘲笑っている。そういう感じですかね」

「つまり、《月夜の背教団》は何らかの恨みのようなものを教師陣に抱いているりその鬱憤を晴らすために夜の学校に侵入して、わざと教師陣の前に姿を表しているかもしれない。そういう事か?」

 

 陸山は腕を組みながら、椅子に深く寄りかかった。奉太郎は頷く。

 

「はい。ですが、やり方が少しおかしく、回りくどいとは思いませんか?わざわざ夜の学校に侵入し、教師陣の前に姿を現す。教師陣に恨みを持ち嫌がらせの様な行為をしたいというのなら、もっと他に方法はいくらでもあるはずですり加えて、出現時間は十九時半前後、なぜこの時間なんでしょう」

「全くだね。謎が謎を呼ぶ。実にミステリアスでもどかしい展開だよ」

 

 流石の里志もなかなか決定打となる結論が出ない事に痺れを切らしたのか、勢いよく椅子にもたれかかった。

 

 そして、俺達の沈黙を破るかの如く生徒会室のドアがノックと共に開かれた。普通入っていいという返事があってから入るものだろう。

 

 入って来たのは三人、その中の一人には見覚えがあった。俺が口を開く。

 

「朱宮?」

「南雲?それに折木も。生徒会室でなにやってんだ?」

「まぁいろいろなまぁ色々な」

 

 そして朱宮に続いて入ってきた二人、一人はかなりでかい体格で顎が四角いいかにも体育会系という姿だ。

 もう一人は中肉中背の男。髪がワックスやスプレーで遊ばれておりどこか目付きが悪い。しかし、朱宮が一緒ということは。

 

 体格のいい男が陸山の前まで寄り、低いトーンの声が生徒会室に鳴り響いた。

 

「悪いな。活動報告書だ。遅れた」

「ったく、先生に言い訳するのめんどくさかったんだぜ。これで貸一だ。小黒(おぐろ)

 

 俺が小黒と呼ばれる男と陸山のやり取りを見ていると、朱宮が近くに来たので挨拶がわりに聞く。が、それくらいはもう分かっている。朱宮が着ているのは制服ではなくサッカー部のユニフォームだった。

 

「よう。んで、これなんの集まり?」

「ん?サッカー部だよ。活動報告書をまだ部長が出てないらしくてな」

「ふーん。どっちが部長?」

「あの体格がいい方がキャプテンの《小黒朋希(おぐろともき)》先輩。隣のチャラいのが《白石明来(しらいしあくる)》先輩」

 

 ほほう。活動報告書、そんなものあるのか。俺は千反田の方を見ると千反田は『え?』という顔をしている。次に里志の方へ視線を向ける。あれは、グッジョブサインだ。千反田の代わりに里志が適当に書いて出しているという意味だろう。

 すると、俺の斜め右正面に座っている木原に気づいた朱宮が言った。

 

「おっ、《女王》さんもいたんすね」

 

 知り合いか?

 

「そうね。それより、まだ報告書を出してなかったのかしら?小黒くん、白石くん」

 

 白石という男は木原の冷厳な声と視線を感じ取りながらも、ヘラヘラとした口調で言った。

 

「まぁまぁ木原ちゃん。こうして生徒会長も受け取ってくれたことだし、ラッキーじゃーん」

「無駄口を叩くな白石。帰るぞ、陸山受け取ってくれてありがたい」

「おう」

「待て」

 

 出て行こうとするサッカー部三人を止めたのは入須だった。

 

「黄瀬隼人は最近どうだ?」

 

 入須は黄瀬を知ってるのか?……いや、入須家が経営している《恋合病院》は神高のすぐ近くに位置している。黄瀬が練習試合で怪我を負ったというのなら、治療はそこで行われたと考えるのが妥当だろう。

 小黒が代表して答えた。

 

「あぁ、最近はいいぞ」

「そうか。だがまぁあの程度ならもう病院に来る必要は無い。あとは薬を飲んで、完治を待てと伝えておいてくれ」

「了解した」

「じゃ〜ね〜。入須ちゃんと木原ちゃん」

「南雲、折木また明日な」

 

 そう言って、サッカー部三人は部室をあとにした。

 

「なんかシケちまったなぁ……」

 

 陸山がおもむろに言うと、田名辺が軽く頷いた。『ふぅ』と息を漏らし、俺達全員に言う。

 

「今日はもう解散にしよう。また何かあるようなら、個人的に連絡を送らせてもらうよ。それじゃぁお疲れ様」

 

 俺達は誰ともなく礼をした。

 

 

 

 

 

 田名辺と入須はカバンを持ってさっさと帰ってしまい、残ったのは俺達探偵団と天津、生徒会の連中になった。

 

「生徒会の皆さんは帰らないんですか?」

 

 里志の言葉に陸山は笑う。

 

「まだ仕事が残っててなぁ。それじゃぁまたな」

「はい。お疲れ様でした」

 

 陸山を見ていると、天津が無言で俺の肩を叩いてくる。俺は振り返る。

 

 生徒会室は普通棟一階の一番端に位置しており、人気がない。しかし、生徒会室から出るとすぐそこには職員用玄関がある。そしてその職員用玄関から、いま俺達がいる廊下を……しっかりと監視カメラが写していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月十一日 金曜日 十八時半】

 

 

 商店街アーケード下。女子陣と別れた俺達男子三人は、何も話すことなく帰路を歩いていた。

 里志が不気味な笑みを浮かべたまま、口を挟む。

 

「それで、何が分かったのかな?」

「なんの事だ?」

 

 奉太郎が言う。

 

「とぼけても無駄さ。君達は今回の会議で何かに気づいてた。どうしてあの場で話さなかったんだい?」

 

 俺はわざとらしく首をすくめる。

 

「おかしな点はいくつかあった。だがそれだけだ。まだ時は満ちてないのさ」

 

 アーケード下を出ると、十二月の冷たい空気が俺達を包んだ。

 

 俺達は何も言わず、交差点にてそれぞれの道を曲がった。

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