氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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 後半文章がグダってしまった…。


第八話 疑惑の推理

 【十二月十四日 月曜日 八時五十分】

 

 

 

 

 自分が大物かと聞かれれば、俺は小物だと言えるだろう。

 近頃になって千反田や里志が《氷菓事件》を思い出し、俺や奉太郎の事を大物だ、やら只者では無いと言ってるくるのだが、それは俺達にとって不愉快以外の何者でもない。

 平穏な日常を過ごすことを志す俺達にとって、『大物』や『只者ではない』という言葉は武士がタキシードを着るようなものだ。文化レベルで似合わない。

 

 常人、悪人の真似をさらねば悪人ならず。俺達が探偵の真似をしようが俺達は探偵ではないのだ。

 

 朝のホームルームの担任からの連絡事項を頬杖を付きながら聞いていた俺に、前に座る名前も知らない女子二人の話し声が聞こえてきた。

 十二月、既に神高に入学してから約八ヶ月経つというのにクラスの人間の名前も覚えていないとはこれまたいかに、と思われるかも知れないが、別にそれは悪いことでは無い。好きの反対は無関心……俺は目の前に座る女子に興味が無いからこそ、彼女達の事を知らない。その理由は最もだと言える。

 

「ねぇ、今日の社交ダンス部の練習会でさ……」

「えー、まじー?よかったじゃーん」

 

 前の女子二人も《ホーリーナイト》で社交ダンスを踊る者達なのだろうか。登校時間よりずっと早くから来て、ご苦労な事だ。

 俺はポケットから先週の月曜日に生徒会室で手に入れた生徒会の活動予定表を取り出した。

 

 

 

 生徒会十二月活動予定

 

 M 部活動報告書提出。

 

 W 定例会議

 

 S 総務委員会との合同雑務

 

 

 

 

 更にここに殴り書きをする。

 

 

 第二のマスターキー

 生徒会室前、職員玄関の監視カメラ

 窓は開かない

 正規の鍵は入手不可能、同様に第一のマスターキーも不可

 月水金

 十九時半前後

 犯人は複数人?

 

 

 ペンを握ったまま口元に手を置く。

 俺の中にはある一つの予想が立っていた。しかし証拠が不十分過ぎる。それにこの考えが当たっているのかも怪しい。

 

 フーダニットもハウダニットも何もかもが曖昧だ。なぜ《月夜の背教団》は夜の学校に侵入する。

 メンバーは?動機は?

 

「それと南雲、折木!放課後生徒指導室にこいだそうだ」

 

 担任の言葉により、教室がザワめいた。その心は『いつも大人しい南雲と折木が生徒指導室!?一体なにやったのだ!』だ。

 しかし、何人かは事情を理解しているものもいたようだ。

 

「古典部が夜の学校に侵入したらしいぜ……」

「おいおい、そんな事やって教師陣を怒らせちまったらどうしてくれんだ?」

「文化祭の萎縮とか……」「ホーリーナイトはどうなる?」

 

 先程《ホーリーナイト》について話していた俺の前に座る女子二人が振り向いてきたので、俺はメモを取っていた紙を裏返した。

 

 「余計な事しないでよね」と振り戻りざまに言ってきたが……ふん、別にお前らがどうなろうがこっちは知ったこっちゃないんだよ。

 

 心の中でしかこう思えない俺は、やはり小物なのだろう。

 自分の存在意義を再確認した俺は、裏返した紙を元に戻した。

 

 

 

 

 

 

 【十二月十四日 月曜日 十二時半】

 

 

 

 購買で購入した昼食のホットドッグにかぶりついた俺は、俺の前の席に座りくるみパンを頬張っている奉太郎に視線を移した。

 奉太郎もルーズリーフに俺と同じ様な書き込みを施しており、今俺の机の上にはルーズリーフの束が数枚程置かれている。

 

 これの光景を見た里志や伊原は声を上げて驚くだろう。だから俺達はこうして日中の学校で推理を進めているわけだ。

 俺達が進んで推理をしているのには特に理由がある訳では無い。

 『人間は何かしらの理由がなければ行動が出来ない』とどこかで聞いた覚えがあるが、あれは一種の屁理屈であろう。確かに行動するのには理由は存在する。歩く理由は目的地があるから。寝る理由は身体を休めるため。食べる理由はエネルギーを蓄えるため。しかしこの理由を一々意識して動く人間など、相当の物好きでなければ存在しないだろう。

 

 俺達は平穏な日常を一秒でも早く取り戻す為に動いている。これが理由と理論づけるのに相応しいというのならそう捉えてもらっても構わない。

 しかし俺達にとっての平穏な日常は無意識的にあるものなのだ。もっと言えば、無意識的になくてはならない。これはそれこそ、歩く理由、寝る理由、食べる理由と同じなのだ。

 まぁ、他に理由があるとすれば

 

「どうやったら千反田を沈められるかなぁ」

「沈める?意識を落とすってことか?協力するぞ」

「物騒だな」

 

 俺のつぶやきに奉太郎が反応した。

 千反田。あいつが気になると言った以上俺達は何としてでも《月夜の背教団》の正体を掴まくてはならない。そうでなくては……永遠と聞かれることとなるのだ。『《月夜の背教団》さん達の正体……私、気になります!』とな。

 これが一刻も早く平穏な日常を取り戻す為の理由と言えるだろう。

 

「ふん。まぁ、考えてもわからんことは分からん。目的やメンバーは愚か、俺達は侵入ルートすら分かってないんだぞ」

 

 奉太郎が資料を机に放り投げると、大きく伸びをした。

 

「俺達とおなじ家庭科室……ってのは無理があるよな。俺達が入った時には家庭科室のドアは閉められてた。確かあそこは内側からのロックの開閉は手動でできるが、外側からは鍵が必要だ。《月夜の背教団》が鍵を持っていなきゃ物理的に不可能だもんな。仮に鍵を持っていたとしたら、奴らは日中の時点でマスターキーか家庭科室の正規の鍵を手に入れなきゃならない」

 

 奉太郎は一度考える仕草を取る。そのまま数十秒……そして……

 

「ハル。一度侵入ルートの事は忘れないか?」

「というと?」

 

「先週の金曜日、生徒会室で話し合った時もそうだが侵入ルートは考えても分からなかった。これでは埒が明かん。つまり、俺達が考えるべくは、犯人メンバーとその動機だ。昨日の会議で、メンバーの特徴はかなり上げられていた」

「なるほどな。よし、じゃぁまずは犯人候補を並べていこう」

 

 奉太郎は頷き、人差し指を立てる。

 

「第一に、金曜日に入須が言っていた《運動部》の可能性を並べよう。この学校は運動部が少ないから、多分俺でも覚えている。確か……」

 

「野球部、テニス部、サッカー部、バドミントン部、陸上部、ラグビー部、水泳部、バレー部、卓球部、ダンス部だ」

 

 奉太郎がいう部活名を俺は新たなルーズリーフに書き込んでいく。俺は言った。

 

「田名辺の話じゃ《月夜の背教団》には髪型から判断するに、女のメンバーが少なくとも二人いたそうだ。更にここから、男子のみの部活を抜こう。そうすれば容疑部活は……」

「テニス部、バドミントン部、陸上部、水泳部、バレー部、卓球部、ダンス部」

「更にここから、あまり足を使わない部活を抜こう。」

「テニス部、バドミントン部、陸上部、バレー部」

「この辺か……」

 

 俺は呟いた奉太郎を見ると、奉太郎は一度溜息を付いた。

 

「しかし…そもそも足が早かっただけで《運動部》という推理が当たっているのかも怪しいからな。考えが早計かもしれん。そして一つだけ候補に入る例外の部活がある……」

「あぁ」

 

 その通り。最終的な候補には入ってはいないが、一つだけ、候補に加えるべき例外の部活が存在した。

 俺がその部活名をルーズリーフに書こうとした、その瞬間だった。

 

「あんたら何二人でブツブツ言ってるの?」

 

 突然脇から掛けられた言葉にいち早く反応した俺達は、机に散らばっていた資料を音速の如くまとめあげた。

 推理してる所をクラスの奴らに見られるなんて溜まったもんじゃない。俺は話しかけてきた主、倉沢にいう。

 

「気配殺して近寄ってくんな」

「殺してないよ。あんたらが気づかなかっただけ」

 

 さいで。

 

「な、南雲くん!!」

「お、おお!?居たのか桜!!」

 

 倉沢の後ろにちょこんと桜が立っていた。背丈が低いから気づかなかったぜ。

 

「え、ええっとぉ……そのぉ……」

 

 千反田と伊原の声が俺の頭の中で蘇る。

 

 『え?あんたまだ桜さんに社交ダンス誘われてないの!?』

 

 『桜さんは南雲さんのことを誘おうとしていますよ』

 

 『『はぁ…』』

 

「……桜」

「ん?」

「俺と社交ダンス行くか?」

「え……?」

「……っ!?」

 

 倉沢の声にならない声が俺の耳に聞こえた。俺は続けざまに言う。

 

「今日は用があるから、社交ダンスの練習会は明日の朝からでいいか?」

「え……あ……うん。……ごめん」

 

 そう答えると、桜は自分の席に戻って行った。俺はそれを無感情で目で追った。残ったのは俺、奉太郎、倉沢の三人。奉太郎が口を開いた。

 

「ハル……お前今の」

「南雲……」

 

 奉太郎の声に、倉沢の声が被った。元々高い声では無かった倉沢の声が、いつも以上に低く、そして感情が篭っていた。そして俺に向かって言った。

 

「南雲……あんた、放課後残れ。」

「告白か?そりゃ困る。呼び出しが終わったあとなら聞いてやるよ」

「……」

 

 倉沢は何も言わずに振り向き、桜の元へ走った。

 一時の静寂。奉太郎は先程倉沢に邪魔されて言い出せなかった言葉を発した。

 

「ハル、お前今のはなんだ」

「桜を社交ダンスに誘ったんだ」

「そうじゃない。言い方の問題だ。俺はお前と同じ種族だから分かるぞ。あれは、あからさまにその場しのぎの言い方だ。もっと言えば、いつまでもウジウジしてる桜が面倒くさかった。だから社交ダンスに自分から誘った。……そんな感じか?」

「憶測でモノを語るなよ。疲れるだろ?」

「そうだな。だが、桜の性格を知っていながらあの言い方……」

 

 奉太郎は資料をまとめて席を立った。椅子に座る俺とのすれ違いざまに、言った。

 

「少し……失望したぞ……」

 

 奉太郎が自分の席に戻ると同時に、昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side 奉太郎

 

 

 

 

 六時間目の終わりのチャイムと共に、俺は席を立った。ハルと合流して生徒指導室に行くのも気まずいので、俺は一人で教室を出た。

 生徒指導室前まで辿り着くと、そこには既にニヤケ顔の里志が待っていた。俺は軽く手を上げる。

 

「やぁ」

「ん」

「ハルは?」

「さぁ、そろそろ来るんじゃないか?」

「……なんだい、どうも機嫌が悪そうじゃないか」

「黙ってろ」

 

 そう思うならニヤケ顔じゃなくてもっと真剣に聞いてきたらどうなんだ。

 この福部里志という男は友人の喧嘩ですらも娯楽として楽しもうとは……。

 

 その後ハルも到着し俺達は生徒指導室へ。

 待っていたのは先日夜の学校に侵入した俺達を見つけ、古典部の活動禁止令を出した教師だった。確か名前は

 

「今日は一体どう言ったご用件で?永尾先生」

 

 里志が言った。《永尾康敏》。生徒指導部だ。

 

「まぁ、座れ」

 

 永尾の声はこの前とは違いどこか落ち着いたものだった。いや、声を抑えているのか?

 俺達三人は生徒指導室のソファに腰をかける。

 

「先週の金曜日、十九時二十八分。特別棟二階放送室前にて侵入者が発見された。……今まで通り犯人は制服を来ていて、加えて行動は単独」

「それがまた僕達だと?」

 

 里志が首をすくめる。永尾は一度俯き、話し始めた。

 

「陸山と田名辺からの説得を受けた。……侵入している生徒は全員が単独で行動していること、奴らは自ら教師陣の前に現れるということ。犯人は古典部では無いと説得されたよ」

「で、では……!?」

 

 里志が『古典部の活動禁止を解除してくれるんですか?』そう言おうとした、直前に永尾は言った。

 

「生徒会長と総務委員長……例えこの二人がお前らでは無いと説得したとしても、絶対的なアリバイは証明されない。そこで、生徒指導部からある決断をお前らに下すことを決定した」

 

 ある決断……?

 

「侵入している奴らも所詮はお前らと同じ生徒だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 おい、まさか。

 永尾はスゥッと息を吸った。そして……

 

「お前らのアリバイはお前らで証明しろ。不法侵入している生徒を、お前らが捕まえてみせろ。ただし条件がある。一つ。お前らの行動範囲は放課後を含む日中の学校内。夜の学校への侵入は許さん。二つ。危険だと思ったら直ぐに調査を中断し、俺たち教師への報告を怠るな」

「ですが先生、俺達古典部の活動禁止はそれこそ《ホーリーナイト》当日までです。そんな条件出されたとしても、活動禁止は解けます」

 

 今まで黙っていたハルが口を挟む。いや……

 

「確かにそうだが、お前らに疑いの目をかけられたまま活動禁止が解かれたとしても、次に再び学校への侵入が見られた場合……今以上の処罰対象になりうる可能性がある。お前らがアリバイを証明出来なければ、古典部は永遠に活動は出来んぞ」

「つまり、俺達に侵入者を推理して捕まえろと」

「推理しろとは言っとらん。だが、俺達生徒指導部も夜の学校での調査を怠るつもりは無い。俺達が生徒を捕まえる事が出来た場合にも、お前達のアリバイは証明されたことになる。やってみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永尾の話が終わり、俺達は生徒指導室をあとにした。

 廊下を歩き始めると、里志はまるでクリスマス前の子供のような輝いた目と、抑揚した言い方で言葉を放つ。

 

「いやぁ!!実にいい!!実にいいとは思わないかね二人とも!!!」

「なにがだ」

「考えてもみてよ!今この学校を騒がせている《月夜の背教団》を捕まえる依頼を、教師直々に授かったんだよ!?これで伝統ある古典部の未来は僕達に託された訳さ!!」

「……」

 

 里志は一度俺とハルを交互にみて、深く溜息を付いた。

 

「あのねぇ君達。何があったかは知らないけど、僕の前でギスギスしないでくれる?」

「ふん。知ったことか……俺は教室に戻るぞ。」

「なんでだい?」

「さぁな、殴られでもするんじゃないか?」

 

 そう言ってハルは下駄箱に付いた俺達に視線もよこさずに、教室へズカズカと歩いていった。里志は言う。

 

「ほんとに何があったのさ」

「……はぁ……少し言い過ぎたかもしれん。」

「だろうね。なにをハルがやって、君がなにを言ったのかは知らないけど、君の様子から見ればそんな感じさ」

「奴も奴なりの考えがあったのかもな」

「当たり前さ。同じ人間なんていない。だからこの世は楽しいんだよ」

 

 本当にそうなのだろうか。折木奉太郎というどこにでもいるような小市民的人間は、俺唯一の個性なのだろうか。

 

「喫茶店に寄るかい?コーヒーでも奢るよ」

「たまにはな」

 

 俺と里志は神高をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side晴

 

 

 

『少し、失望したぞ……』

 

『南雲……放課後、教室に残れ』

 

『ごめん……』

 

 一年B組に向かう足取りが重く、昼休みの奉太郎と桜、倉沢の声が頭の中に響いた。

 

『いつまでもウジウジしてる桜が面倒くさかった。だから社交ダンスに自分から誘った。そんなとこか?』

 

 そんなつもりじゃなかった。俺には……桜と向き合うことは許されないんだ。俺は同じ過ちを繰り返すことは出来ない。

 

 俺はそっと自分の右手のひらを見た。

 握れるはずだった手を、握れなかった……この手。

 

 俺は手のひらを握り、踵を返すように自分の頬を叩いた。

 一年B組前。俺は、横開きのドアを開ける。

 

 そこに立っていた少女。いつも桜と共に行動しており、影ながら俺達(俺と奉太郎)のことを《ナマケモノ二人衆》と呼んでいるスポーティーな髪型の女。

 

「よう。倉沢」

「遅かったね。南雲」

 

 しばらくの沈黙。先に切り出したのは倉沢だった。しかしその一言は、とても深いものだった。

 

「気づいてんでしょ。楓の気持ち……」

「……あぁ……そうだな。あんなの、気づかない方が馬鹿だ」

「っ…!!!!」

 

 ズガン!!

 

 倉沢は俺の胸ぐらを掴むと、教室のドアに俺の体を叩きつけた。

 

「じゃぁなんで、あんな言い方した!!!」

「なに?」

「良いなら良いって言えよ!!!嫌なら嫌って言えよ!!!楓は言ってた、あんたの笑ってる顔が好きだって!!!なのに、なんだあの面倒くさそうな顔は……!!」

 

 倉沢の胸ぐらを掴む力が強くなり、押し潰されそうな力で壁に押し付けられる。俺はなんの抵抗もしない。

 

「お前、馬鹿にしてんのか……!!楓の事を!!自分の事が好きだからって思って、手のひらでいい様に転がしてんのか!?ふざけんな!!人の気持ちを……恋を……侮辱するな!!」

 

 

「私の親友を……!!!侮辱するな!!!!」

 

 

 

 

 

 

 倉沢は俺の胸ぐらを突き放すように離した。俺は力無く壁を伝い、その場に尻もちをつく。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 倉沢は怒りの感情を顔に移したまま、自分の机の上から鞄を取った。

 そして、教室を後にしようとする。ドアから出る時に口を開いた。

 

「暴力振って悪かったね。でも……これくらいしたい気持ちだったから」

「気が済んだか……?」

「あんたに何で楓が惚れたのか……私にはわからない。」

「そうだな……俺にも分からない。……向き合えたら……どれだけ楽なんだろうな……」

「意味わかんないよ」

 

 廊下を歩く音が聞こえた。前のドアに視線を移すと、そこには誰もおらず……沈黙だけがこの教室に残った。

 

 

 

 倉沢が去った後に、俺は倉沢の机の上になにか置いてあるのに気が付いた。歩み寄ると、机の上に置かれていたのは一年B組の鍵と一枚の用紙だった。そこにはこう書かれている。

 

『戸締りよろしく』

 

 あのアマ。

 一年B組の鍵を閉めると、ふと思ったことがある。最後の戸締り……誰にもバレずに鍵を入手するのはこの方法が有効なのでは……?と思ったがその推論は自分の記憶の中で打ち破られた。

 例え正規の鍵を持っていたとしても、使えるのはその特定の教室のみ。教室に逃げ込む為に使うのはリスクが大き過ぎる。

 

 というか……永尾がマスターキーを持っているのなら、《月夜の背教団》を見つけた際にはそのマスターキーを使って逃げんこんだと思われる教室の中をチェックしてくれ。と頼むべきだったろうか。

 いや、教師陣がどのようにして《月夜の背教団》に逃げ切られたかが問題だ。俺達の場合は教師陣より足が早かったから《月夜の背教団》になんとか追いつけてたもの、教師陣の場合一度《月夜の背教団》を見失えば、どこに隠れたか分かったものでは無い。

 

 職員室に着いた俺は無言で引き戸を開ける。鍵を戻す時にはドアのノックは必要ないのだ。

 俺は一年B組の鍵を所定の場所に掛ける。ふと、地学講義室の鍵を見た。

 

 神高で鍵を借りる場合には、職員室で鍵を取ったあとに鍵が掛けられてるフックのすぐ下にあるホワイトボードに名前を記さなければならない。もちろん地学講義室のしたのホワイトボードに何も書かれていない。

 

 地学講義室の隣の鍵は《生徒会室》だった。《二年、木原青佳》と書かれている。今日は生徒会の活動日なのか。ん?

 ふと目に映ったのは一つの貸出中の鍵。《和室》の鍵だ。確か、茶道部の部室だったような。そして借りている生徒は

 

 《木原》

 

 木原……何故二つも鍵を借りている?

 

 俺は生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 

 【十二月十四日 月曜日 十七時四十五分】

 

 

 

 生徒会室に着いた俺は、ノックの後に部屋に入る。中はかなり慌ただしく、陸山、木原、生徒会の二人、田名辺の五人が居た。

 最初に俺に気づいたのは陸山だった。

 

「お、南雲じゃねぇか!!ちょっとこの資料の整理頼むわ!」

「は、はぁ!?あんたの仕事だろ!?」

「時間がねぇんだわ。完全下校までに終わらせろよ!!」

「あーもう!」

 

 田名辺も気づき、『ご愁傷さま』とでも言いたそうな顔で見てきた。

 俺は適当な席に着くと、陸山から渡された資料を見た。

 

 仕事は簡単。この資料は全ての部活の活動報告書だ。俺はこの生徒会の判子を報告書に押していくだけだった。手短に終わらせて貰おう。

 

 まずは野球部から顧問名、部長名、全部OK。ポンと。

 

 仕事は順調に進んでいき、俺はある部活の資料に手を止めた。これは。

 

 

 

 

 サッカー部 顧問 永尾康敏

 

 活動日 月火木金

 

 部長 小黒朋紀

 副部長 白石明来

 部員 藤崎裕太

    野山海斗

    大池和

    茅森翼

    真鍋歩

    松木俊一

    朱宮優斗

    小川武

    黄瀬隼人

    木原青佳

 

 

 

 サッカー部の顧問は永尾なのか。ふむ。次は……

 

 

 

 

 茶道部 顧問 柳原敦

 

 活動日 月水金

 

 部長 木原瑠菜(きはらるいな)

 副部長 長嶺つくし

 部員 大宮城葛葉

    秋元美佐子

    宮野真奈

 

 

 

 

 

 茶道部部長、木原瑠菜。二学年には二人も木原がいるのか。そこまでメジャーな名前だとは思わないけどな。

 まぁつまり茶道部の部長の名前が木原という事は、先程職員室で見た和室の鍵を借りているのは、ここにいる生徒会の木原では無く茶道部の木原というわけか。

 

「おーい、手が止まってんぞ南雲ぉ!」

「今やってますよ!!」

 

 ……ったく。さて……さっさと終わらせますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月十四日 月曜日 十八時四十分】

 

 

 生徒会の仕事を終わらせた俺は、一人帰り道携帯をいじっていた。

 

 

 今日はごめん。

 

 

 今日はごめ

 

 

 今日は

 

 

 本文を打ち込んでください

 

 

「ぐぬぬぬ……桜になんてメールしたらいいんだ!やっぱ、明日朝イチで謝るのがいいのかもしれないな。社交ダンスの練習会に出る約束は一応してある訳だし……」

 

 それに……《月夜の背教団》。

 

 あともう少しで、尻尾が掴めそうな気がする。ヒントはそこら中に散らばっているんだ。

 

 吐く息は白く、そして空気中に呆気なく消えていく。

 

 俺は制服のポケットに手を忍ばせ、少し駆け足で帰路を歩いた。




次回《背教団の黒魔術》


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