氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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最近お気に入りが減っていく事に悩んでいます。

オリジナル編なので仕方はないのですが、皆さんのご期待に答えられず申し訳ない。

これからもっと文章力を磨くしかねぇ(使命感)


第九話 背教団の予告状

 【十二月十五日 火曜日 六時四十五分】

 

 社交ダンス部の練習会に参加する俺は、集合時間の十五分程前に神高の校門に到着した。

 辺りを見渡すと、既に幾つかの社交ダンスの男女ペアもチラホラ見かける。腕を組んだり、楽しそうに話している姿から大半がカップルだろう。

 

 校門の近くに突っ立っていると、後ろから肩をどつかれた。

 

「邪魔だよ」

「ちょっとやめなよ」

「……」

 

 如何にもガラが悪そうな男が俺にわざと肩をぶつけて来たのだ。俺は一度そいつと目線が合うが、直ぐに視線をずらす。

 面倒な事は嫌いだ。

 

 俺は校門の端に移動し、次々と入ってくる男女ペアを目線で送る。すると……

 

 ドン!!!

 

 再びどつかれた。しかも今度は肩同士では無い。カバンか何かを背中に叩きつけられたのだ。そこまで力は強くなかったが、流石の俺も勢いよく振り向く。

 

「おはよう、南雲くん」

 

 スクールバッグを両手に持った桜が立っていた。ピンク色のダッフルコートを着ており、前髪が長くなってきたのか、ピンで二つに分けていた。心做しか少し不服そうな顔もしている。……いや、まぁ原因は俺にあるわけだが……。

 

「よ、よう……」

「ん、行こう」

 

 桜はそう言うと、一人で練習会が行われる体育館に向かった。俺は一年の昇降口を通り過ぎる直前に、俺に背中を見せながら歩く桜に話しかける。

 

「寒いな、コーヒーでも奢ろうか?」

「昇降口の中の自販機はまだ開いて無いよ」

「あっ、はい」

 

 即答されてしまった。

 

「なぁ……桜」

 

 俺が言うと、桜はピタリと足を止めた。背中だけをこちらに向けて状態で、俺の次の言葉を待っているようだった。

 

「なんというか、昨日悪かったな……。俺の言い方に問題があった。ごめん」

 

 桜は一度大きく溜息を付いた。そして続けた。

 

「なんでだろうね。私さ……南雲くんの事になると感情が昂っちゃうんだ。だからね、昨日面倒くさそうに私の顔を見た時に……凄く悲しかったの。……だから、その場しのぎの言い方で社交ダンスに誘われても、全然嬉しくない。どうなのかな。南雲くんは……私と…本当に踊りたいの?」

 

 ……。

 

「そうだな……。なんて言うんだろうな、男ってのは、お前が思っている以上に単純な生き物だ、良くも悪くもな」

 

「?」

「つまり、女子が一緒に踊りたいと言ってくれて、喜ばない男なんてそうそう居ないんだよ。……だから、お前が俺と踊りたいって言ってくれるなら、それは嬉しい」

 

 桜は一度黙ったまま……数十秒。すると、クスクスと笑いだした。

 

「なにそれ、それじゃぁ女の子なら誰でもいいみたいな言い方じゃん」

「あ、いや、決してそういう無差別にいいって訳じゃ……」

「あはは!それくらい分かってるよ。そっか、でも、嬉しいんだ」

 

 桜は照れくさそうに背中の方で腕を組みながら俯いた。

 

「私も、凄く嬉しい……な……」

「ん?なに?」

「んーん。なんでもない。それより行こうよ南雲くん。一週間前からの参加なんてなかなか無いんだから、遅れを取り戻さないと」

「あぁ!」

 

 俺たちは体育館に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う!!!」

 

 体育館。練習会初参加のペアは最初に社交ダンス部の部員が付いて基本を教える事になっているらしく、俺と桜は二年の社交ダンス部の先輩に付いてもらっている。怒られているが……。

 

「ちょっとあんた……えーっと、南雲くんだっけ?何恥ずかしがってんのよ!!」

「ぐぬぬぬ……」

「はい。もう一度!!左手でお互いの手を握って、右手は男子は相手の腰、女子は相手の肩に手を置く!!」

 

 言われた通りに俺と桜は手を組む。そして……

 

「相手と目線を合わせる!!何照れてんのよあんたら!!……もう、そろそろチャイムが鳴るから、続きは放課後ね」

「「はい……」」

 

 俺と桜は体育館の壁を背中で伝いながら尻もちをついた。なんだ、社交ダンスってこんなに疲れんのか……。

 ふと顔を上げると、体育館の真ん中に折り畳み式の長机が置かれており、そこでお茶を配っていようだ。取りに行こうと立ち上がろうとすると、先に桜が立ち上がった。

 

「お茶、取ってくるね!」

「あ、あぁ、悪いな」

「五十点ってとこだな」

 

 不意に声を掛けられる。俺は再び重い首をうえにむけた。

 そこに立っていたのは、昨日の放課後俺の胸ぐらを勢いよく掴み、俺のワイシャツを一枚ダメにした女の姿が写った。

 

「よう。倉沢」

「おはよう。あんたがお茶を取りに行ってたら、百点満点だったんだけどね〜」

「はん。ほざくな。この男女平等社会に」

「相変わらず腹立つ男ね」

「お互いにな。それより、ありがとな」

「……?楓のこと?」

「まぁ、それもあるが。昨日俺が教室の鍵を返したから……少し分かったことがある」

「分かったこと?」

 

 倉沢は首をかしげた。

 

「……あぁ……こっちの話だよ」

 

 俺はそっと、顎に手を置いた。

 

 

 練習会が終わり、体育館を出ると見慣れた二人組がこちらに歩いてくる。俺は右手をあげて答えた。

 

「やぁ、随分と絞られてたみたいだね」

「はぁ、俺は向いてないのかもしれんな」

「たしかに、南雲って社交ダンスって顔じゃないわよね」

 

 じゃぁ俺はどんな顔なんだ。朝っぱらから失礼な挨拶をかましてくる里志と伊原に言葉を返し、ふと校門を眺める。

 校門から歩いてくるのは一人の男子生徒。未だに眠そうな顔をあらわにし、スクールバッグを肩にかけて白いトレンチコートを着用している。

 

 少年……ただいま喧嘩中の折木奉太郎は俺達の存在に気づき足を止めた。

 不穏な空気が流れる。里志は昨日の事を知っているように首を竦め、伊原と桜はキョトンとしていた。

 

「「なぁ」」

 

 俺と奉太郎は同じタイミングで口を開き、同じタイミングで口を止めた。

 

「「っ……」」

「悪かった、昨日は、言いすぎた」

 

 奉太郎は俺から視線をずらしてから軽く頭を下げた。俺もすかさず…

 

「いや……事の発端は俺だ……すまん」

 

 奉太郎は桜を一度横目で見てから、首をかしげた。

 

「社交ダンスに出ることにしたのか?」

「あぁ」

「なにあんたら、昨日喧嘩してたの?一日で仲直りなんて大した喧嘩じゃなかったのね」

「甘いね摩耶花。男の喧嘩なんてものは寝たら解決さ。いつまでもウジウジしてる方が男らしくないってもんよ」

「要するに、馬鹿ってこと?」

「ふっ……違いないかもな」

 

 奉太郎は笑いながら言った。

 そうだ、一度奉太郎に報告することが……

 

「なんだよこれ……!!」

 

 突如、少し離れた昇降口から男子生徒の声が聞こえてきた。

 俺たち五人はその方向へ首を向ける。

 男子生徒の声に続き、女子生徒、様々な生徒の狼狽した声が、俺たちの耳に情報を与えた。

 

「行ってみよう」

 

 桜のつぶやきに俺たちは頷き、昇降口に向かって歩き出す。

 

 昇降口に入ると、大量の生徒の集団はある一定の方向を向いていた。下駄箱前の廊下。

 普段なら部活勧誘のポスター等が貼ってある掲示板を中心としている。

 

 下駄のすぐ側に千反田を見たので、俺達は千反田の元へ駆け寄った。

 

「千反田」

 

 奉太郎の言葉に千反田は反応する。

 

「南雲さん、折木さん、みなさん」

「なにがあった?」

 

 千反田の手は震えており、ゆっくりと、掲示板を指さした。

 普段なら部活勧誘のポスターで覆い尽くされている掲示板に、同じ様な文章が印刷された紙が隙間なくびっしりと貼られていた。ここからではなにが書かれているかは見えないが、千反田の視力では見えるのだろうか。千反田の顔はどこか青ざめており、『こんなことあるはずがない』とでも言いたそうな顔だった。

 生徒達の狼狽した声は収まらない。里志が『よし』と呟き、声を大にしながら生徒の肉壁から道をひらく。

 

「総務委員会です!!!道をあけてください!!!」

 

 里志の言葉に反応した生徒達は、ゆっくりではあるが人ひとりが通れるほどの道をあけた。里志が先行して歩き出し、俺たち古典部と桜もその後を追う。

 掲示板前まで辿り着いた里志、貼られている紙の一枚を取った。そして……

 

「そんな!!まさか!!?」

 

「ありえない。ありえるはずがない……!!」

 

 里志の大きな声に反応する生徒達は居ない。それぞれ別個人が、この状況に大して里志と同等の驚きを示している証拠であろう。

 

「里志、どうした?」

 

 奉太郎の言葉に、里志はハッと我に返る。里志は黙ったまま、奉太郎に自分の持っている紙切れを渡した。

 千反田と伊原も同時に覗き込む。そして、奉太郎ですらも疑問の念を口にした。

 

「どういう事だ……!?」

 

 その紙に書かれていたのは、文章のみ。適当な紙に文章を書き、そのまま無感情にこの掲示板を埋めつくせる枚数を印刷した、と思われるもの。なんの絵も、字体に気を使っているわけでもなく、この質素さから生まれてくる不気味さを、俺は感じた。

 この文章に驚愕している俺たちを見た里志は、ゆっくりと文章を読み上げた。まずは息を大き吸う。

 

 

 

 

「『我々は、絶対なる正義なり。この神高の平和と秩序を維持する存在であり、この神高の悪を成敗するもの。

この学校は、穢れている。我々はその穢れにより、誇りを失い、信頼を失い、憧れを失った。

今こそ我々が動き出す時。三十三年前のように、全てを覆し、伝説を築く時。

一週間後に行われる《神高ホーリー・ナイト》にて、この学校の悪を、排除することをここに誓おう。

五つの方角にて、我々はこの神高を新たな色に染め上げよう。加えて、本日を持って夜の学校の徘徊は終了する。

そうだ、我々の計画を止めようとする愚か者達に伝えよう。我々の名は……』」

 

 里志は、躊躇いながらも、最後の言葉を放った。

 

 

『《月夜の背教団》』

 

 

「どうして、その名前を……」

 

 伊原は口を両手で覆った。その通りだ、《月夜の背教団》という名前は、里志が勝手に命名したもの、なぜ外部にこの名が漏れる……。

 ん?

 

 見ると、千反田が小さくではあるが、震えている。

 理由は明確であろう。俺は、文章の一部分に視線を落とした。

 

 

 三十三年前のように、全てを覆し、伝説を築く時。

 

 

 俺達だけなでく、この場にいた生徒達全員が息を飲んだ。

 

「全部剥がそう……手伝ってくれるかい?」

 

 里志の言葉に、俺たちは軽く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月十五日 火曜日 十五時半】

 

 

 

 《月夜の背教団》の予告状の噂は、一日にして学校中に広まった。

 近頃多発していた夜の学校への不法侵入の件を軽視していた教師陣も、今回の件を得て本格的に捜査に乗り出すらしい。警備会社へ夜の学校の警備を依頼すると聞いたが、これ以上の夜の学校への侵入を辞めると奴らが言った以上、それは無駄足であろう。動くのが遅すぎる。

 

 《五つの方角にて、我々はこの学校を新たな色に染め上げよう》

 

 引っかかるのはこの部分だな。五つの方角……染め上げよう……?分からん。そもそも暗号らしい暗号がこれなだけであって、これが暗号では無く比喩的な表現だった場合は、この考えは意味の無いものとなる。

 

 六時間目の体育の授業が終わり、俺は教室に向かって歩いてあると、前を歩く長い髪の少女に気がついた。俺は駆け足で彼女に近寄る。

 

「うっす」

「南雲さん」

「調子はどうだ、千反田?朝は具合悪そうだったけど」

 

「はい。ご心配を掛けて申し訳ありません。もう大丈夫です……三十三年前の事を出されたので、少し動揺してしまって……」

「……安心しろよ。《月夜の背教団》が何をやるかは知らねぇが、奴らは数人のただの生徒集団だ。《六月斗争》のようにはならねぇ」

「はい、分かっています……」

 

 一度沈黙が続き、俺達が階段を上る所で、黄瀬が松葉杖を駆使しながら登ろうとしている瞬間を見かけた。

 

「黄瀬」

 

 黄瀬は俺に気づくと、軽く笑った。

 

「南雲か……」

「肩貸すぜ」

「悪いな」

「お荷物は私がお持ちしますよ。」

「どうも。えと……どなた?南雲って、いっつも違うやつと歩いてるよな」

「1年A組、千反田えるです。古典部の部長を務めています」

「へぇ、あんたも古典部なのか。南雲達に巻き込まれて大変だな。ちゃんと叱ってやったか?」

「ええ、それはもうたっぷりと」

 

 その時の千反田の笑顔の奥には、少し暗いものが見えたので、俺はおもむろに苦い顔をした。そして黄瀬を四階まで付かせると、千反田は黄瀬の教科書を黄瀬に返した。

 黄瀬は愛想のいい顔で頭を下げた。

 

「悪いな、何度も」

「おう。……骨折はあとどれ位で治るんだ?」

「ん?そうだな、あと数回通えば、治ると思うぜ。」

「通ってるのは入須先輩のとこの、恋合病院だよな?」

「そうだ。あそこが神高から1番近いからな」

「そうか、お大事にな」

「黄瀬さん、お大事になさってください」

「これはどうもご丁寧に千反田さん」

 

 教室に入っていく黄瀬を眺めていた俺と千反田の後ろから、お茶らけた声が聞こえてくる。

 

「古典部」

「陸山会長?」

「今朝の事は、もちろん知ってるよな?」

 

 俺達は頷く。

 

「早速放課後に会議……と行きたいところだが、《ホーリーナイト》までは生徒会も総務委員会も忙しくてな。来週の水曜日……《ホーリーナイト》前日、遅いと思われるかもしれんが、そこでもう一度会議を行う。頼むぞ」

「分かりました、陸山さんも気をつけてください。《月夜の背教団》さん達が、何をしでかすか分かりませんから……」

「ありがとな千反田嬢。細心の注意を払って、俺達も動く。んじゃ」

 

 陸山を見送った俺達は、再び沈黙。千反田は心配そうな顔で俺を見つめた。

 

「どうしましょう……」

「どうするもこうするも……俺達だけで調査を進めるしかないだろ。」

 

 さて奉太郎……どう動く?

 

 

 

 

 

 

 

 

 side奉太郎

 

 

 

 二年F組前。

 

 

「どうしたんだい、折木くん。君から尋ねに来るとは珍しいこともあるんだな」

 

 入須は笑いながら言った。一方俺は真剣な表情を浮かべている……と思う。普段真剣な表情を浮かべない俺の場合、そんな顔をすれば変顔に間違われても可笑しくはない。

 入須がこうして笑っているのも、俺の顔がおかしいからとも考えられる可能性は十分にあるのだ。

 いやはや、そんな事を思う為に俺はわざわざ苦手意識を持っている入須を訪れた訳では無い。

 

「入須先輩。今日の放課後、空いていますか?」

「デートの誘いかい?」

「……えぇ、そうですね。ですが、俺が誘っているのは神高の入須冬実では無く、()()()()()()()()()()()()()()です。無理を承知でお願いしたいことがあります」

「……」

 

 入須は一度顎に手を置いた。そして、再び悪い笑みを浮かべる。

 

「面白い。その頼み、言ってみたまえ」

 

 

 

 

 

 二人の探偵は、既に動き出している。




《月光下のアベンジャー》編もあと、三、四話で完結です。
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