氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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第十話 開幕!神高ホーリー・ナイト

 【十二月 二十二日 火曜日 十八時半】

 

 神高ホーリー・ナイトまで、あと二日。

 

 《月夜の背教団》の謎の予告状から、一週間の時が流れた。

 俺達古典部はあれ以降特に大きな検討会を開くことは無く、それぞれが《ホーリーナイト》に向けての準備を行っていた。

 

 俺、伊原、里志の場合は、朝と放課後に社交ダンスの練習会。

 奉太郎や千反田がなにをしているかは分からない。奉太郎や天津は基本的に放課後にどこかに一人で向かっていると聞いている。それ以外は知らない。

 だが……

 

 商店街のアーケード下。俺と里志が帰路に着いていると、奉太郎と天津が電信柱に寄りかかっているのを見た。

 吹く風は冷たく、剥き出しになっている手や顔が痛い。

 

「来たか、ハル、里志」

「待っとったで、二人とも」

「どうしたんだいホータロー、天津さん」

 

 里志の言葉に奉太郎は軽く頷き、スクールバッグから先日配られた《神高ホーリー・ナイト》のスケジュール表と、メモ用紙を取り出した。天津が口を開く。

 

「この一週間、うちらなりに考えを纏めてきた。少し話を整理しようと思っとるんやが……二人共空いとるか?あんたらの力が必要や」

 

 里志は首を竦めながら言った。

 

「流石だ。それぞれ別個人で推理を進めていたなんて、それでこそ我が神高の《探偵役》に相応しい。空いてるよ、いや空いてなくても空けるさ」

「助かる。ハルはどうだ?」

 

 俺はニヤリと笑った。

 

「気が合うなお前ら」

 

 俺もポケットから四つ折りにしたルーズリーフを取り出した。

 

「俺も纏めたかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月 二十三日 水曜日 八時】

 

 

 

 

「ぐぅ……疲れた」

「お疲れ南雲くん」

 

 社交ダンスの朝練を終えた俺と桜はその場に座り込んだ。

 この一週間一日も欠かさずに練習したお陰で、初日よりかな大分マシになり、マトモに踊れるようにはなった。

 桜が言った。

 

「南雲くんは今日の放課後は生徒会に呼ばれてるんだよね?だったらこれが最後の練習だったのか……」

「あぁ、明日ちゃんと踊れることを祈ろうぜ」

「……大丈夫なの?《月夜の背教団》だっけ?あれの調査を生徒会の人達とやってるんでしょ……?もし本当に危ない人達だったら。たしかに南雲くんと折木くんは凄いよ、《十文字》だって突き止めてたし……。でも、なんだか心配で。……むぎゅ!!」

 

 俺は桜の頭に手を置きながら立ち上がると、桜は何とも情けない声を出した。

 

「心配には及ばねぇよ。大丈夫、明日の《ホーリーナイト》は何も起こらないよ。俺達がそうはさせない。さ、教室に戻ろうぜ」

「……うん!!」

 

 

 

 

 

 

 【十二月二十三日 水曜日 十六時】

 

 

 

 

 生徒会室に集まっていたのは、生徒会、田名辺、天津、入須そして明日《ホーリーナイト》で出し物をする参加団体の代表者達だった。

 先々週に生徒会室にて行った会議とは机の配列が変わっており、会議用長机が二つ並べられ、参加団体の代表者は右の机。

 生徒会、田辺、入須、天津、そして俺達古典部は左の机に腰を掛けた。

 

 前のホワイトボード前には陸山と木原と田名辺が立っており、全員が揃ったことを確認したところで口を開いた。

 

「よし、全員集まったな。遂に《神高ホーリー・ナイト》は明日だ。それぞれがそれぞれの仕事に取り掛かっていることだと思う。……そうだな、まず連絡事項といえば《月夜の背教団》についてだ。奴らがなにを仕掛けてくるかはわからんが、十分に注意を払って欲しい」

 

 隣に座っていた伊原が耳打ちをしてくる。

 

「今年の《ホーリーナイト》は例年より教師陣の見回りの人数が多いらしいわ」

「まぁ、いい判断だろうな。《月夜の背教団》が何をしてくるかわからない以上、人数が多いことに越したことはない」

 

 だがまぁ……そんな必要はないがな。俺は視線を陸山に戻した。

 

「まずは、《ホーリーナイト》のスケジュール表を各自開いてくれ。クラス担任より先週からもらっているとおもう」

 

 俺はポケットから四つ折りにしスケジュール表を取り出し、開いた。

 

 

 

 

 《神高ホーリー・ナイト》スケジュール表。

 

 開催団体《総務委員会、一部生徒会》、担当責任者《永尾康敏》

 

 開催日時 12月24日 18時〜21時

 

 場所 神山高校体育館

 

 プログラム

 

 ・開会の辞 総務委員会委員長 田名辺治朗 18時〜

 

 ・アカペラ部 《僕らの歌声で盛り上げます》 18時15分〜

 

 ・天文部 《自作プラネタリウムで冬の星座を紹介します。》 18時30分〜

 

 ・奇術部(有志団体) 《聖夜のマジックショー》 19時〜

 

 ・サッカー部(有志団体) 《男だけのクリスマスも一興。演劇やります。》 19時30分〜

 

 ・社交ダンス部 《参加者の皆さんも気になるあの子を誘ってみてはいかがですか?》 20時〜

 

 ・閉会の辞 総務委員会一年代表 福部里志

 

 

 

 

「ここで一つ最終確認だ。参加団体の責任者は、具体的にどんな事をやるのか教えて欲しい。まず最初は……アカペラ部だ。」

 

 そう言うわれ立った男には、見覚えがあった。

 二ヶ月前、文化祭の一日目の中庭で《ライオンは寝ている》を歌っていた男子生徒だ。

 男子生徒はA 4の紙に視線を落としながら、大きく口を動かしながら答えた。

 

「アカペラ部部長。二年C組磯村正(いそむらただし)です。基本的に僕達アカペラ部は毎年《ホーリーナイト》ではクリスマスにちなんだ歌を歌わせて頂きます。歌う曲は……」

 

 その後もアカペラ部部長の話は続き、一分程話したところで席に着いた。

 木原がアカペラ部部長が言ったことをホワイトボードに記していく。陸山は続けた。

 

「次。天文部。頼む」

 

 そう言われて飛び跳ねるように立ち上がった姿にも、見覚えがある。赤いリボンで作られた三つのお団子ヘアー。リボンを付けない制服。こいつは……

 

「はいはーい!天文部部長。二年F組沢木口美崎でーす!そうだねーうちらがやる事は基本的にスケジュールに書いてあることで全部纏められてると思うけど、うちらが作った自主制作プラネタリウムを使って、冬の星座の紹介かなー!毎年盛り上がってるよ!」

 

 木原が沢木口の言ったことを書き留めていく。どこか不服そうな顔だ。その心は『どうしてスケジュール表に書いてある事をわざわざ参加団体メンバーの口から聞かなくちゃならないのかしら』だ。

 隣を見ると、伊原と千反田も頭にはてなマークを浮かべている。

 

 俺と奉太郎、里志、天津、入須は無反応。田名辺や陸山は……まぁ多分同じだ。

 

 沢木口が席に着く。陸山は言った。

 

「次。奇術部」

 

 立ち上がったのは大人しめな女子生徒だった。前髪で目が隠れ、本当に黒魔術でも書いてそうな漆黒の本を持っている。

 小さなか細い声で奇術部の代表者は言った。

 

「奇術部部長。二年A組嵐山瑞希(あらしやまみずき)です。私達も基本はスケジュール表に書かれているものと同じです。マジックショーを開催します」

「どんなマジックをするんだい?」

 

 田名辺が顎を手に当てながら聞いた。木原もホワイトボードの手を止める。

 嵐山は田名辺の方向を見てから、さっきよりも自信の無さげな声で言った。

 

「すみません。それは言えません」

「そうか。ありがとう」

 

 嵐山はペコりと頭を下げると、自分の席に戻った。

 

「次。サッカー部」

 

 立ち上がったのは先々週の生徒会との会議で乱入して来たガタイのいい男だった。男は、威勢のいい声で言った。

 

「サッカー部部長。二年H組小黒朋樹(おぐろともき)だ。俺らもやる事は基本的にスケジュール表通りだ。演劇だな」

「演劇とは具体的に?」

 

 再び田名辺が聞く。

 

「学園モノだな。うちの部員が女装とかして、面白くなるぞ!」

「はは、女装ねぇ。ってことは、白石もすんのか?」

 

 陸山が笑いながら聞いた。小黒とは知り合いらしい。

 白石というのは、小黒と一緒に生徒会室に乱入して来たチャラついた副部長の事だ。一回しか見たことはないが、何故か記憶に新しい。

 

「あぁ、そうだな」

「なるほど、ありがとう。次。社交ダンス部頼むぞ」

 

 小黒が席に着き、次に立ったのは女子生徒だった。あの人

 

「はい!社交ダンス部部長。二年B組岡ノ内梓(おかのうちあずさ)です。うちも同じだよー、てか社交ダンスは《ホーリーナイト》の目玉でしょう?わざわざ言わせることもないと思うんだけどなー、基本的に連続で何曲か流してそれに乗って、男女ペアが踊るってわけ。あ、そうだー。飛び入り参加も自由だからねー!」

 

 岡ノ内……俺と桜をスパルタ指導した女子生徒だ。目ぇ合わせないようにしよ。

 

「お、南雲くーん!!!」

 

 ブンブンと嬉しそうに大きく腕を振ってくる。めんどくせぇ。

 

「はは、OKありがとうな岡ノ内。……それじゃぁ今日の会議は終わりだ、明日はそれぞれ頑張ってくれよ!」

 

 そう言うと、代表者達は我先にと生徒会室をあとにした。それぞれ忙しいんだろうな。ふと窓の外に目を向けると、既に学校の装飾に取り掛かっている生徒達を見た。

 木に飾りや、ライトを付ける生徒達の姿は、どことなく文化祭を彷彿とさせる勢いだった。

 

 代表者達が居なくなったと同時に、ホワイトボードに板書していた木原が不服そうな表情を浮かべながら陸山に言った。

 

「会長。今日の会議はなんのためですか?代表者会議は既に終えています」

「最終確認だよ。先生に頼まれてるんだから仕方ねぇだろ?」

 

 そのやり取りを見ていると、後ろでは別のやり取りが繰り広げられていた。

 

「ふくちゃん、折木!これはどういうこと?」

「ん?いや、僕も詳しくは知らない。」

「はぁ!?だって……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あぁ、そうだよ?でもね、僕はデータベースなんだ。『データベースは結論を出せない』これ、忘れたわけじゃないだろ、摩耶花。でも……」

 

 

「どうやら《探偵》の三人は……なにか分かったみたいだけど?」

 

 

 里志は俺、奉太郎、天津を見た。

 天津は頭を搔くような仕草を見せ、奉太郎は前髪に手を置き、俺は顎に手を置いた。そして……

 

 

 

 

 

 俺たち三人は……誰に見せることもなく渾身の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【十二月二十四日 木曜日 十七時四十五分】

 

 

 一度奉太郎の家にお邪魔させてもらった俺は、奉太郎共に体育館前にいた。

 校内放送から流れるジングルベルの音、カラフルなライトで照らされた神高、ドレスやタキシードで身を包んだ生徒達や、腕を組みながら男女ペアが次々と体育館に入っていく。

 

 

 勿論ながら、俺と奉太郎もタキシードに身を包んでいる。ドレスコードと言う奴だ。

 

「奉太郎、なんでお前タキシードなんて持ってんだ?」

 

 なんだか窮屈だったので、俺はタキシードの上を脱いで方にかけた。

 中に着ているのは赤色のベストのようなもので、別にこれだけでも味は出ていると思う。

 

「……姉貴が買ってくるんだよ」

「ホータロー、ハル」

 

 呼ばれた方へ視線を向けると、同じくドレスコードをした里志と伊原が立っていた。

 伊原のドレスは青いワンピース型で、肩が剥き出しになっている。周りが同じような格好のドレスだからできる服装であり、普段の伊原なら絶対にすることの無い格好だろう。

 

「折木、南雲……馬子にも衣装ね」

 

 奉太郎はムッとして返した。

 

「お前もなちんちくりん」

「なによ」

「なんだ、やるのか?」

「まぁまぁホータロー、摩耶花。仲いいのはわかったから」

「「よくない!」」

 

 仲いいよ。鏑矢中ベストカップル。

 

「やぁ」

 

 振り向くと、そこには陸山、田名辺、入須、天津が立っていた。

 入須のドレス姿を見た里志は『おぉ!!』と声を上げる。

 

「いやぁ、入須先輩お似合いです。ね?ホータロー、ハル」

「「あぁそうだな」」

「ふっ、褒めるのはよしたまえ」

「うちはどうや?」

 

 天津が聞いてくる。俺はすかさず

 

「いやぁ!!入須先輩似合いますねぇ!!」

「うちは……」

 

 奉太郎も

 

「綺麗ですよ入須先輩」

「お前らわざとやってるやろ……!!」

 

 俺達に十文字の疑いをかけた時以上の怖い顔をした天津が、俺たち三人の胸ぐらを掴みながら壁に追い詰めた。

 

「「「綺麗です、天津さん」」」

 

 だからこの手を離してください。

 

「な、南雲くん!」

「ん?おぉ……」

 

 俺を呼んだのは桜だった。

 

 桜の身を包んだピンク色のドレスは、伊原と似たワンピース型でどこか子供っぽい無邪気さを与えながらも、大人の女性の魅力を俺に与えた。女子の普段とは違った姿を見ると、五割増で可愛くみえるとは聞くが……まさに。

 

「桜さん、可愛い!!」

「本当だね、君、本当に桜さんかい?」

 

 伊原、里志、の声に、俺はすかさず続いた。遅れたのは多分……見惚れていたからだろうか。

 

「うん。すげぇ……似合ってる」

「ほ、ほんと?えへへ……」

 

 あぁらこれはいかん。これはいかんぞ。あまり桜とは目を合わせないようにしなくちゃならない気がする……。なんというか、直視出来ない。

 

 さてと……まだ着てないのは千反田だけだが……。

 

「うわぁ……!!!」

 

 突如伊原が両手を口に当てながら感動したような声を上げた。俺は伊原と向かい合う状態にあるので、伊原が何に向かってそれを言っているのか分からない。

 奉太郎と里志を見ると、二人共口をぽかんと開けている。

 

 周りの男子生徒や女子生徒も俺の後ろにある『なにか』に視線を奪われており、男女ペアで訪れており、『なにか』に見惚れる男子にワンパンを入れる女子生徒の姿も見える。

 

 そして俺は、ゆっくりと振り向く。

 

 

 

 体育館前の踊り場前の数段の階段をゆっくりと登ってくるのは女子生徒。

 純白のドレスに身を包み、あらわになった両腕はドレスに劣ることの無い色白さを蓄えていた。

 髪型はいつものように大和撫子然とした黒髪を流してはいるが、その文化的な違いの違和感さえも感じず、少し照れくさそうに伏し目がちな少女は、ゆっくりと俺達の前でその足を止めた。

 

 《お姫様》。そう形容しても全く不自然とは思えない少女……《千反田える》は、俺達を見てニッコリと笑った。

 

「どうですか?」

「……」

「?」

 

 千反田は何も答えない俺達男子陣に首を傾げる。そして

 

「す、すっごい似合ってるよ千反田さん!!!」

 

 里志

 

「お前、色々と凄いな……こんなにドレスが似合う奴がいるとは」

 

 奉太郎

 

「空いた口が塞がらないとは、この事だぜ……」

 

 俺も言った。

 

「ありがとうございます。みなさん」

 

 千反田はあまり気にせずに皆との会話に戻っていった。

 すると、俺達の感動を一気に打ち消すような音楽が、吹奏楽部により演奏され始めた。

 奉太郎が俺の横に立ち、呟いた。

 

「ハル、そろそろ行くぞ。」

 

 俺は頷いた。

 

 俺たち古典部、桜、天津、田名辺、陸山、入須は横並びになりながら、同時に体育館に足を踏み入れた。そして、体育館のステージに立っていた司会が、マイクを使って大きな声で言った。

 

 

「皆さん、メリークリマス!!今日はここにいる生徒全員で、聖なる夜を盛り上げましょう!!《神高ホーリー・ナイト》……開幕です!!

 

 

 

 《神高ホーリー・ナイト》がその幕を開けた

 

 

 

 




《月光下のアベンジャー》編完結まで、あと三話。








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