新たなる始まり
高校生活と言えば薔薇色、薔薇色といえば高校生活。
そうみんなが形容するほど、高校生活は薔薇色として扱われてるよな。西暦二〇〇一年の今日は果たされていないが、広辞苑に乗る日も遠くはないだろう。
さりとて、全ての高校生が薔薇色を望んでいるかと言われれば俺はそうは思わない。
例えば、勉強にもスポーツにも、時には色恋沙汰にも興味を示さない。
いわゆる、灰色の生徒がいてもおかしくはないんじゃないか?
「まぁそれって、随分悲しい生き方だよな」
「実に懐かしい言い回しだね。泣けてくるよ」
春休みも終わり、この俺、折木奉太郎と中学時代からの悪友福部里志は共に通学路のアーケード下を歩いていた。
俺達の周りには見慣れた同じ学年の連中と共に、未だに中学生らしさを顔に残しながらオドオドする一年生と思わしき生徒達がいた。
「懐かしい……か。一年前の出来事を懐かしいというようになるとは」
「懐かしいさそりゃ。三百六十五回もこっちは寝てるんだ。一昨日の夕飯も思い出せない僕達が一年前のことを覚えてるなんてすごいとは思わないかい?」
「この話をした時に、俺達は古典部に入ったんだよな」
「そうだね。そして、ハルと千反田さんっていう物凄い媒体に出会った。……そして、僕達も遂に二年生だ!」
里志は恥ずかしげもなく握った拳を空高く突き上げた。そのまま突き上げた拳で持っていた巾着袋をクルリと肩に回す。
「ホータローは文系だったよね。だったら同じクラスになれるかもしれないじゃないか!いやぁ鏑矢中最強と謳われたコンビの再復活だね。
「そんな事を謳われたことは一度もない」
「僕が謳ってたさ」
「口が減らないやつだ」
「なにをいまさら。中学時代からの付き合いだろ?」
しばらくの沈黙。里志やハルとは沈黙が続いても特には気にならないが、他の奴らだとどうにも気まずくなるのは何故だろうか。
「そうだ。摩耶花から聞いたかい?」
「伊原が俺に好んで何かを報告することないとお前は存じているはずだが?」
「知ってるよ。義理って奴さ」
こいつは……。
「どうやら、桜さんがハルに告白したらしいよ」
「ほんとうか?」
色恋沙汰に疎い俺でも、流石に友人同士の事となると興味を示すものだ。
里志はこの手の話題に俺が乗っかってきたことに驚いたらしく、楽しそうに話を続けた。
「ま、ハルは答えを出せてないみたいだけどね」
「ほう……これは千反田もうかうかしてられないな」
「ん?なにかいったかい?」
「いや、なんでもない」
桜がハルに対して好意を抱いているのは知っていた。それも随分前から。バレンタインの時はそれこそ桜のサポートに回ろうと一年B組に人を近づけさせなかったが、千反田の乱入で失敗に終わってしまった。だがそれと同時に……
これは里志や千反田の言う俺の中に眠る類まれなる推理能力のお陰では無い。
《生き雛まつり》後の春休み。何度か千反田からの相談を受けていたのは紛れもない俺のなのだから。理由は、
千反田にも家の跡継ぎの事があり、自分の決まった人生にハルを道連れにしていいものかと悩んでいた。
しかし……
俺は、ハルの事をよく知らない。あいつは自分の事を話さない。
どこか俺に似ていて、時には里志や千反田のようにエネルギー消費の大きい行動に出ることもある。
ハルは、まだ俺達に見せていない部分がある。時折思ってしまうのだ、俺達は《南雲晴》という人物の表面的な部分しか見れていないのではないかと。
《東京の事件》の事も、俺は知らない。
ただ、分かるのは……
あいつは……俺達がどれだけ手を伸ばしても届かない場所にいる。
それがもどかしい。掴めないのだ、あいつの本心を……。
俺は、千反田から電話で相談受けている時のことを思い出した。
『あの、折木さん……』
『どうした?』
『
『詩……?聞いたことないな。誰なんだ?』
『私にも、よく分かりません。……文化祭の時に南雲さんと雨さんがその方の名前を出していたので』
『……千反田……ハルの事はあまり詮索すべきじゃないのは分かってるだろ?』
『分かってます!ですが…私“達”は、南雲さんのことをよく知りません。私は、気になるんです』
『……一つだけ。』
『え?』
『俺も昔ハルのことが気になってな。少し個人的に調べた』
『……』
『東京で、被害者、そしてその事件の犯人の二人が中学生で構成されている事件を見つけた。ニュースや全国新聞には載らなかったが、一部の地域ではそれなりに有名な事件らしい』
『……事件?……被害者……ですか?』
『……東京都
『無差別……放火ですか?』
『どういう怪我かは知らないが、被害者と言っても死者は一人もいないらしい』
『それが、南雲さんと?』
『分からん。正直この事件にハルが関わっているとは思いたくはないし、あいつがこんな物騒な事件に関わるとも思えない。ただ……今の事は秘密にしておけ、ハルは勿論のこと、伊原や里志にも話すな。いいな?』
『……はい』
「おーい、ホータロー?」
里志の呼び掛けに気づいた俺は、黙ってそちらに首を曲げた。
「どうした?」
「どうした、じゃぁないよ。僕の話を聞いていたかい?」
「聞いてなかったな」
「はぁ……。ほらあれ、目の前に歩いてるのハルじゃない?」
たしかに。ポケットに手を突っ込み、リュックサックを背負っている。里志は声を上げた。
「おーい!ハルー!」
side晴
名前が呼ばれた気がしたので、俺は後ろを振り向いた。
奉太郎と里志が立っており、両方が片手をあげて挨拶をしてきたので、俺も手を挙げながら二人に近づく。
「よう。ご機嫌麗しゅう」
里志は朝一番にとんでもない挨拶をかましてきた。
「ハルは理系だっけ?こりゃぁ神高最強と謳われたトリオはお預けだねぇ」
「謳われてねぇ」
「僕が謳ってたさ」
奉太郎が言う。
「同じボケをかますな」
里志は首を竦めた。そしてそれと同時に、里志の巾着袋から携帯のメールの着信音が鳴り響いた。
里志は「おっとと」と言いながら携帯をチェックすると、顔が青ざめていくのがハッキリと見えた。なんだ?
「やばい……今日の朝は総務委員の会議があるんだった……!!」
奉太郎が首を傾げる。
「総務委員?まだあるのか?」
「最終会議さ、特にやることはないけど。行ってくるよ!じゃぁ二人ともいい進級を!!」
里志は素晴らしいスピードで学校まで駆けて行った。大袈裟なリアクションを取りながらビクビクしている一年の横を通り過ぎる。神高の印象が下がるからやめろ。
「俺らも行くか、奉太郎」
「あぁ」
俺達は学校に向かって歩き出した。
学校に着くとそこは既に戦場と化していた。部活動の勧誘はないにしろ、我先にと昇降口に貼られているクラス表に生徒達が群がっているのだ。
奉太郎が言う。
「どうする?」
「考えがある」
俺は無理やり人の波を押しのけ、クラス表の目の前まで移動し、携帯のカメラ機能で写真を撮った。
すぐさま人の波に押し返され、俺は奉太郎の所まで戻る。
「写真を撮ってきた」
俺と奉太郎は携帯の一つの小さな画面を覗く。まずは二年A組だが……む。
二年A組十番 折木奉太郎
「お、奉太郎はA組か」
「そうだな。同じクラスは……十文字か。お前らはどうだ?」
「そうだな……、えっと」
二年C組 三番 伊原摩耶花
二年D組 二十六番 福部里志
二年E組 一番 天津木乃葉
二年E組 十二番 倉沢凪咲
二年E組 十六番 桜楓
二年E組 二十三番 南雲晴
二年H組 二十一番 千反田える
「知り合いは……天津に倉沢……桜とも一緒だ。古典部は見事に全員別れちまったなぁ」
「五人にしか居ないんだ、そんなもんだろう」
「そうだよなぁ。じゃぁな、奉太郎。《ナマケモノ二人衆》は今日で廃業だ」
冗談めかして言うと、奉太郎は笑った。そして……
昇降口に入ると同時に、俺達はそれぞれの新たな下駄箱に向かった。
二年E組前に付くと、俺は閉まっていたドアを開けた。
中には既に友人関係が出来上がっている連中や、当然の事ながら新たな環境に慣れず席に座っているだけの生徒もいた。
ドアの音ともに教室に入った俺に数人の生徒の視線が飛んできたが、すぐに興味を失い元の位置に視線が戻っていく。
黒板に貼られていた指定された自分の席に腰を下ろし、リュックサックから小説を取り出し読み始める。
友達はいずれ出来るだろ。今はこっちの展開の方が……
その瞬間、俺の持っていたペーパーバックが誰かの手によって取り上げられた。俺はその方向へ視線を向けた。
「天津……」
「なぁに、しけた面してこんなん読んどるんや、友達つくりぃ、友達!!一年間ボッチでええんか?」
「友達というのは作ろうと思って作るもんじゃない。いつの間にかなっているものなのだ。小説を返せ」
「はぁあ。あんたみたいなのが《十文字》やら《月夜の背教団》を追い詰めたなんて、どこの誰が信じるんやろうな」
「信じてもらわなくたって構わない。目立つ為にやってた訳じゃない。もう一度言う、ペーパーバックを返せ」
「ダメやダメや!!没収!!!」
「なんでだよ!!!」
「あんたの事思って言っとるんやから大人しく従え!!」
「それが余計なお世話だって言ってんだよ!!あほ!!」
「なんやとお!!!」
「なんだよ!!!」
side桜
ギャーギャー!!ワーワー!!!
南雲くんと天津さんが何だかいい争いをしていて、折角また同じクラスになれたのに南雲くんに話しかけられない……。
南雲くん、天津さん…クラス中に注目されてるの気づいてないのかな?
「仲いいねー、あの二人」
ナギちゃんが言った。
「う、うん。そうだね」
ナギちゃんはコーヒーパックを机の上に置くと、私の方を見ながら言った。
「そういや、
「え、うん。そうだよ」
「えーっと、確か名前は……桜恵」
NEW Characters?
一年B組 十番
一年B組 十八番
一年B組 二十七番
一年D組 二十九番
二年E組 十一番
これから登場する新たなるキャラ達も名前だけですが、登場させて頂きました。
少しずつですが彼らと古典部達の絡みを楽しみにして頂ければ、嬉しいです。
次回からは《ふたりの距離の概算》に突入!!