氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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 評価を頂きました。

 9評価 #はシャープじゃなくてナンバーさん

 ありがとうございます!!

 今回から、《ふたりの距離の概算》編に突入!!


第6章 ふたりの距離の概算
第一話 ただ走るにしては長すぎる


 現在 0km地点

 

 

 晴天。それも清々しいほどの。

 自分の名前が晴なだけあって、晴れの日は好きだ。そりゃ勿論雨の何倍も。あ、ちなみに我が妹の雨は大好きだ。

 

 グラウンド中に広がっていた千人に及ぶ神高生の半分が既に姿を消していた。彼らは遠く彼方へと旅立ったのだ。何も得られない苦役に過ぎないにも関わらず。

 そして今から俺も、同じ道を辿ることになる。

 

 キィーンという耳障りな音ともに、拡張器のスイッチが入ったことが分かる。俺は黙って耳を貸した。

 

『二年D組終了。二年E組、前へ』

 

 その声と共に、同じクラスの級友達が所定の位置につく。時折気合いに満ちた生徒の顔も見かけるが、他の大半は笑みの一つも浮かべていない。すぐ近くに見かけた桜ですらも、いつもの様なニコやかな表情はなかった。

 

 石灰で引かれたラインの後ろに立ち、俺は軽くジャンプをしたり、手足を動かす。

 壇上にいる先程拡張器で俺達に前に来るように指示をした総務委員の一年は、なんの悪びれもないような顔でプログラムらしき用紙に目を通していた。

 まぁ悪びれがあっちゃ困る。あの総務委員の一年は仕事をこなしているだけなのだから。

 

 そして一年は、ゆっくりとピストルを持ち上げていく。そして

 

『用意……』

 

 パァン!!

 

 その銃声と共に倒れてしまえば、もしかしたらサボれたかもしれないという下らない考えも乏しく……

 

 午前九時。《神山高校星ヶ谷杯(ほしがやはい)》の二年E組のスタートが命じられた。

 

 我が校、神山高校は文化系の部活が盛んなことで知られている。

 文化部の数は約五十近く存在しており、古典部もその中の一つだ、秋に開催される文化祭は、学校に留まらず神山という市のイベントでは無いのかと錯覚してしまうほどの盛り上がりだ。

 

 そして体育会系のイベントにも事欠かないのが我が学校。

 文化祭後にはささやかな体育祭も開催されるし、新年度が始まれば球技大会もある。黄瀬や朱宮とサッカーでチームを組んだのはいい思い出だ。

 そうだ。いい思い出になるんだ。しかしこの《星ヶ谷杯》に関して言えば、思い出なんてクソ喰らえだ。

 

 五月末、星ヶ谷杯の走行距離は……《二万メートル》。つまり二十キロ。

 

 白い半袖シャツに臙脂色の半ズボン、胸には校章の刺繍が施されており、その下にはクラスと苗字が入ったゼッケンを縫い付けている。

 

 グラウンドには校門とは別に出入口があり、そこを走り通って俺達は神高を後にする。

 《星ヶ谷杯》のルートは単純明快。学校の前を流れる川に沿って少し走り、最初の交差点で坂道へ、丘のてっぺんに近づくにつれて、心臓破りの坂になる。

 その後の急降下の後は延々と続く直線を走り抜け、やがて千反田邸の辺りに辿り着く。その後さらに進むと住宅街に戻って来て、荒楠神社の前から恋合病院に、そしてやがて神高が見えてくる。

 

 なんせ去年も走った道だ。軽くは覚えているが、考えれば考えるほどこのルートは苦痛だ。

 

 走りながら神高を後にすると、そこは既に他の生徒達で溢れかえっていた。最初は川沿いの住宅街なので無理に広がって走ると近隣からの苦情が耐えないらしい。

 一列に並ぶと全員のスピードが一定になる。しかしこれはいいウォーミングアップにもなるだろう。

 一キロ程走ったところで、ルートは上り坂へと移行する。大きく右に曲がり、神高の裏手辺りに出ると今まで一列だった列が大きく崩れた。

 『一緒に走ろう』という『行けたら行く』的な神も寛容するであろう悪魔の約束を交わす数人の女子生徒達。

 突如スピードを上げる体育会系の連中と、それに追い付こうと見栄を張る見立ちたがり屋。

 

 ここからはマイペースで走れる訳だが、残念ながらそうはいかない。俺は今出来るだけ早く、C組の伊原に追いつかなければならないのだ。

 

「ハル!」

 

 坂からマウンテンバイクに乗りながら降りてきたのは里志だった。

 里志は今年総務委員会の総務副委員長に就任した。《星ヶ谷杯》は総務委員会が取り仕切っており、総務委員の連中は走らなくても良いというのだ。彼らはコース上の一定の位置に手配され、所謂ズルをする生徒を見張っている。

 走らなくてもいい総務副委員長を里志が労ったのは、コース各地点の総務委員達を監視する役目があると知っていたからだ。これからこいつは、二十キロのあちこちをお得意のマウンテンバイクで飛び回り、不測の事態がないか報告を受けることになる。

 

 里志はマウンテンバイクから降りると、肩を竦めた。

 

「やぁ、一キロ地点。調子はどうだい?」

「ふん。どうってこと」

「ホータローは今までの出来事中に、ヒントがあるんじゃないかって打診はしてたよ」

「だろうな。俺もそう思ってる。伊原は?」

「摩耶花ならこう言ってた。『あいつらが何かをしたわけがない、だってあいつらは何もしないから』。だって」

「酷い言われようだな。俺と奉太郎」

 

 俺はペースを落とさずに里志に視線を向ける。しかし……

 

「だとしたら……」

「そうなんだよねぇ。だとしたら、理由は彼女しかいない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思いたくはないけど、そう思いざる負えない。」

 

 

 

 昨日の放課後、気づいた時に部室に入ってきたのは、伊原だった。そして俺達にこう言ったのだ。

 

『ねぇ、なにかあったの?』

 

 俺と奉太郎は首を振った。しかし……おかしい。さっきまでこの部室には四人いた。俺と奉太郎と千反田と……オーヒナだ。

 伊原は続けた。

 

『今そこでひなちゃんとすれ違ったんだけど、入部しないって。なんか泣いてたみたいだけど?』

『え……?』

 

 千反田の狼狽した声。泣いていた?あのオーヒナが?

 

 オーヒナ。とある出来事により俺はそう呼んでいるが、本名は《大日向友子(おおひなたともこ)》。

 

 俺達が確保した唯一の一年生の部員だ。

 まだ中学生らしい幼い雰囲気が残り、よく笑う奴だった。騒がしかったが別に邪険する程ではないし、ハル先輩と名前の先輩付けで呼ばれる程には懐かれていたと思ってる。

 

 千反田の唇が震えていた。

 

『ちーちゃん、大丈夫?』

『やっぱり。私のせいで……』

 

 そう呟いて、千反田は言った。

 

『ごめんなさい。私、今日は帰ります。』

『ちょ、ちーちゃん!?』

 

 

 

 

 

 という訳だ。

 

 千反田とオーヒナは何を話していた?

 オーヒナは仮入部の状態であったが、誰もが無事入部するものだと思い込んでいた。だから俺は、俺と奉太郎は突然入部を取り消ししたオーヒナの心境が理解出来なかったのだ。

 

 入部しようがしまいが、それは本人の意思だ。

 昨日の時点でオーヒナが入部をしないと決意したのなら、俺達にそれを止める権利はない。今日が金曜日で、この後土日を挟んでしまえば、オーヒナの件は『終わった話』になってしまう。

 

 しかし。

 

「でも君とホータローは、理由は千反田さんじゃないんじゃないかって思ってるんだろ?」

「あぁ……あいつは人を傷つけるようなことはしない。……と思う」

「……僕もそう思う。論理的解釈でね」

「論理的だって……?」

 

 俺が頭にはてなマークを浮かべていることに意外そうな顔を浮かべた里志は、マウンテンバイクで俺にペースを合わせながら言った。

 

「なんだい君も聞いてなかったのか。大日向さんは部室の外で摩耶花とすれ違った時に、こう言ったんだよ」

「『千反田先輩は、仏みたいな人ですね』って」

「仏だって?」

 

 仏……どういう意味だ?仮に千反田が昨日オーヒナに《怒らせるようなこと》、《悲しませるようなこと》をしたとしよう。しかしそうした場合、オーヒナは千反田の事を仏というのか?

 

「ますます分からないな……」

 

 そう呟くと、里志は返してきた。

 

「ねぇハル。これはホータローにも言ったけど、仕方の無いことだと思うよ。新入部員が来た、仮入部した、気が変わった、入部を取り消した。それだけの事さ。確かに大日向さんは面白い子だったし、摩耶花も気に入ってた。けど、僕達に大日向さんを止める理由はない」

「……気になるって言い方じゃダメか?」

「わお」

 

 里志はマウンテンバイクに乗りながら首を竦めた。失礼な奴だ。

 

「思い出すだけだよ。奉太郎と。今までの出来事をな」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そう言いたいのかい?」

「そうだ」

「でも君とホータローの思い出を駆使しても、必要な情報が揃うとは思えない」

「だろうな。だから伊原に追いつこうとしている。」

 

 里志の声色が変わった。

 

「酷いな!君もホータローと同じで《星ヶ谷杯》を聞きこみ大会にしようって言うつもりかい!?総務委員が一生懸命になって計画したものだよ!?」

「だったらお前らも走りやがれ!!ていうか《星ヶ谷杯》もお前の造語だろ!!」

 

 そうだ。このマラソン大会を使って、伊原と千反田に俺と奉太郎は話を聞く。

 俺は二年E組。奉太郎はA組。まずはC組の伊原と合流して伊原に話を聞き、奉太郎とも合流。そして二年最後のクラスのH組の千反田と合流し、その後に来る一年のオーヒナとも合流する。

 

 マラソン大会と聞き込み。この両方を両立させるための方法はこれしかない。

 

 里志は『まったく』と言いながら、マウンテンバイクの速度を上げた。

 

「もうそろそろ行くよ。ほかの総務委員の様子を見るのも僕の役目だ。またどこかで会おう」

「おう」

「ただねハル。友達甲斐に言っておくと、あまり抱え込みすぎない方がいい。千反田さんの事になると熱くなるのはいいけど……。()()()()()()()()()()()()……ね」

 

 そう言い残した里志は勢いよくペダルを漕ぎ、難なく坂道を駆け上がっていった。……さて。

 

 

 大方。千反田と伊原と話せる時間は多くはない。特に伊原は足を止めてはくれないだろう。二、三個の質問をしてあとに再び追い抜かれる。

 

 大事なことを整理しなくてはならない。千反田とオーヒナの関係。

 今までの出来事を全部…思い出すんだ。

 ただ走るにしては長すぎる。頭でも使っていれば気も紛れるだろう。

 

 人が一定の速度で走るのは約六キロと言われている。伊原がそれよりも早く走っていて約七キロだとしよう。

 

 前のクラスが出発してから約三分後に次のクラスが出発する。つまり俺と伊原の時間差は六分。俺が八キロから九キロのスピードで走るとして……

 

 

 

 

 ふたりの距離の概算は、どれくらいだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたりの距離の概算

 

 




遂に始まった《ふたりの距離の概算》…勿論オリジナル要素を入れていきますが、基本的に原作を軸として進んでいくのでアニメ勢の方々にはネタバレになってしまうかもしれません。

次回《古典部はこちら》
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