かなり長いです。分ければよかった……。
ふたりの距離の概算編、完結
現在:18.4km地点 残り1.4km
「ほんとにこの道で学校に着くのかなあ」
オーヒナが不服そうに呟いた。
「着くさ。前に近くの団子屋に行ったことがあるんだけど、荒楠神社の前に出るんだよ」
俺が言うと、オーヒナは目を大きくさせた。
「ハル先輩って、去年ここに越して来たんですよね?それなのに地元民の私よりここら辺を知ってるなんて、なんだか負けた気分」
「たまたま知ってるだけだって」
「そのお団子屋さんには一人で行ったんですか?」
「いや」
「誰と行ったんです?」
「誰とだっていいだろ」
俺の後ろを歩くオーヒナがニヤリと笑ったのが分かった。きっと奴は悪い顔をしているに違いない。そして、こう言った。
「隠すってことは、桜先輩ですね」
「どうしてそうなる……」
「だって、古典部の誰かなら名前を言うと思って。でも、桜先輩とはお付き合いしてる訳じゃないですよね?」
「馬鹿言うな。この前学校帰りに誘われたから、一緒に行っただけだよ」
「でもやっぱり桜先輩と一緒だったんですね!うんうん!仲良しなのはいいこと!」
「はぁ……」
俺達が歩いているのは、正規コースから外れた路地だった。三人全員が一列に並ばなければならない路地裏を歩くのには理由があった。一つは、これからオーヒナと少しだけ長い話をするのに総務委員から姿をくらます為。二つ、長話をしていれば、ゴールする為の規定時間が超えてしまうので、近道をする為だ。
「コースアウトがそんなに怖いか、大日向」
一番前を歩く奉太郎が言うと、オーヒナは心外だという風にかぶりを振った。
「いえいえ、むしろ隠れて悪い事をするのは行事の醍醐味ですよね」
「悪いこと?近道がか?」
「折木先輩って、意外と不良?私にとってマラソン大会のショートカットなんて、大大大事件ですよ。三億円事件くらい!」
「それは大変だな」
「ええ、ええ」
そんな話をしていると路地を抜け、民家同士の間に出来た少しだけちゃんとした道に出た。
日が差し込み、右側には幅50cm程の小川が流れており、種類が分からない小さな魚が気持ちよさそうに泳いでいた。
ようやく三人一緒に並んで歩けるようになった所で、真ん中をちょこんと歩くオーヒナがそっと口を開いた。
「私別に、千反田先輩のせいでやめるなんて言ってないですよ」
「いや、考えれば分かるさ」
「ハル先輩って考えられるんですね」
「馬鹿にしてんのかガキ……。いやいや、そうじゃない。お前は昨日伊原に、千反田の事を菩薩と言ったんだろ?」
「ありゃりゃ、気づいちゃいましたか」
「皮肉なら、もっといい言い方が出来た」
「あれくらいしか、私には思いつかなかったんです。……それに、千反田先輩が私の友達を知らなくて、お二人に話してないのなら、誰に聞いたんですか?千反田先輩が何も知らないって言うのは、あの人を庇うお二人の嘘だと思っています」
額の汗を拭く奉太郎が言った。
「いや、考えればそうでもないんだ。お前も千反田と同じで、思い違いをしているんだ。そうだな、お前と俺達が初めて会った日の事を覚えているか?」
「ええ、新歓祭ですよね。セイカケンとお料理部の謎を解いた時です」
「謎、と言うほどのものでもなかったが、その通りだ。そしてその時、名前を出してない製菓研のテーブルを見て、お前はこう言った『
「そんな事、言いましたか」
「言っていたな。俺もそうだが、言いにく事は『噂で聞いた』やら『ネットで見た』など、架空の何物でもない何かに責任を転換して話す。お前の言っていた、『友達が言っていた』もその一種だ」
先程、里志と出会った時に奉太郎はこう聞いた。『これは友達が言ってたんだが、総務委員がこのマラソン大会を走らないのはどう考えても不公平だ』と。すると里志は『ホータローはそんな事を思っていたのか、心外だな』と。
つまり里志は、奉太郎が『友達が言っていた』という前置きを、言いにくい事を架空の第三者の発言に置き換えて発していた事だと判断したのだ。
「だが大日向、お前は違った。お前には居るんだろ?本当に言っていた友達が、
オーヒナは大きく目を見開いた。どこか動揺しているのか、何かを言おうとしているのか、口がパクパク動いている。
そして言った。
「どうしてそう思うんですか?」
俺が続ける。
「お前と、お前の言う友達の言動が矛盾していた。桜の誕生日パーティに行った日の事を覚えているか?」
「そりゃあ、もちろん」
「あの時確か桜は全員で摘めるピザを注文しようとしたがやめた。理由は……」
「伊原先輩がチーズが嫌いだったから」
「……その通りだ。そしてその時お前はこう言った。『
オーヒナは「あぁ」と残念がる様子を見せた。そして空を扇いだ。
「あんなとこでミスしたんだ」
「そうだな。あの喫茶店で俺達はスコーンを頼んだ。お前の従兄弟に生クリームかマスカルポーネクリームかを聞かれ、俺と奉太郎、そしてオーヒナ、お前もマスカルポーネを選んだ。おかしいよな。チーズが苦手なお前が、マスカルポーネチーズで出来ているクリームを選ぶはずがない」
「ですね……へへ」
「
オーヒナは何も言わなかった。普段ならきっと『私にだって友達の一人や二人いますよ。その中に、チーズが嫌いな子がいてもおかしくはないでしょ』と言うだろう。しかしオーヒナは沈黙を貫いた。
それこそが真実。
そのまま無言で歩いていると、オーヒナは脇に流れる小川を泳ぐ魚を眺めていた。俺はその話題にあまり明るくないが、去年の文化祭で、《夕べには骸に》という同人作品に触れる機会があった。
今のオーヒナはその作品に出てくる主人公のようで、どこか儚げだった。
俺は口を開く。
「ところで、その知られたくない友達は神山高校の人間じゃないな。中三の時に転校してきたのか、塾かなにかで出会ったんじゃないのか?」
オーヒナは魚から視線を俺にずらした。
「どうして?」
「前に俺と奉太郎と帰った時に言ってただろ。『まだ友達が居なくって』ってさ。神山高校に友達が居ないなら、中学時代の友達だと見受けられる。そしてお前は、《友達》という言葉を安売りしない」
オーヒナの目元がピクっと動いた。隣にいる奉太郎も視線は前に向けているが、時折推理の確認をするようにオーヒナの表情を眺めている。
「お前が友達という言葉を安売りしないと思った理由はあるさ。昨日の事だが、お前は里志の妹から里志と伊原の関係性を聞いたらしいな。俺は会ったことがないから何とも言えないが、奉太郎の話を聞くにかなりの曲者らしい。だがお前はそんな曲者の里志の妹と、身内の色恋沙汰について話せる仲になっている。他にもある。お前は桜の弟とも同じクラスらしいな。確か名前は、《
「……桜先輩と初めてあったのは、恵くんと由奈ちゃんと一緒に遊んだ時です。ファミレスに行きました」
「由奈?誰だ?」
「里志の妹だ」
横から奉太郎がそういった。ほう、福部由奈か……。覚えておこう。
「まぁとにかくだ。お前は身内の色恋沙汰を聞かされる仲であっても、姉を紹介される仲であっても、一緒にファミレスにいく仲であっても、《友達》という言葉は易々と使わない。つまり
だがその友達は神山高校にいない。だがこれは仕方ないな。俺だって中学時代に何人か友達はいたのかもしれないが、そいつらとも神山に越すことで無縁となった。携帯に奴らのアドレスや番号は残ってないし、勿論連絡も取り合っていない。
絆とは物理的に会えなくなり、離れればそんなものだ。
ようやく俺達は広い道に出た。緩やかな坂の途中で、既に空はオレンジ色で染まりきっている。夕飯の仕込みの味噌汁の香りが鼻に情報を与え、豆腐屋の音楽が耳に情報を与える。軽く腹が鳴った。
「うぅ……腹減った」
呟くと、オーヒナは笑った。
「じゃあ、この前ハル先輩が行ったって言ってたお団子屋さんに行きましょう!」
「俺は構わないけど、金がないぞ」
「折木先輩が持ってます。ポケットから、小銭の擦れる音が」
「なに!?」
「これは団子用じゃないぞ。ショートカットのバス用だ」
「よくマラソン大会でそんなショートカット方法思いつくな!!」
「まぁそのお金で三本くらいな食べられますよね!」
「ご馳走様です!奉太郎先輩!」
「ハル、大日向、お前ら覚えとけ……。仕方ない、歩くぞ」
『へへっ』とオーヒナは笑った。
やはり、大日向友子とはこういう人物であるべきだ。何を話しても愛想笑いじゃなく子供らしい雰囲気を残し、可愛らしく笑ってくれる。こいつは、古典部にとって大事な存在だ。別にオーヒナの入部取り消しを無理に阻止しようって訳じゃない。けど、オーヒナには古典部にいて欲しい。そんな個人的な願いを思う事は、きっと悪く無いのかもしれない。
そんなたわいも無い話を繰り広げ、俺達は再び歩き始める。坂を降りれば、もう恋合病院が見えてくるだろう。病院の目の前で正規ルートを走る連中と合流すれば、神山高校に到着する。坂の途中にある団子屋に寄ったとしても、きっとゴールまで二十分もかからないだろう。
次は、奉太郎が口を開いた。
「これも、桜の誕生日パーティの時の事だ。里志は千反田に、『流石千反田さんのネットワークだ』と言った。あの時は確か、千反田が桜の中学時代の同期と、俺の中学時代の同期の二人と知り合いだったから出た言葉だ。里志は物事を大袈裟に言う癖があるからな」
「ほんとに大袈裟かな……。本当に千反田先輩の知り合いネットワークは広いかもしれない」
「確かにあいつは家柄の付き合い法事などに参加するから、知り合いは多いだろう。だが、別にこの街の全員と知り合いという訳では無い」
オーヒナは何も言わなかった。奉太郎が納得出来る理由を話したからだ。
「そして、お前の従兄が経営する喫茶店に行った時だ。あの時お前は、《阿川佐知》という人物を知っているか?と千反田に聞いた。あれは、千反田のネットワークの広さを知る為に聞いたんじゃないのか?きっと《阿川佐知》は鏑矢中、俺と里志と伊原、そしてお前の出身中学校にいた奴だろう?」
「ええ……保健委員でした」
「驚いた。俺も保健委員だったぞ」
「知ってます」
「そうか。ならそこで疑問が出てくる。お前の友達は鏑矢中出身だ。確かに千反田のネットワークは学校を超えていたが、疑うならまずは俺や里志、伊原に注意を向けるべきだったんじゃないか?鏑矢中の人物なら、流石に千反田より俺達の方が知っている」
他人に興味を持たない奉太郎はどうだかな……はは……。
「ハル、何か言ったか?」
「いやなにも」
「ふん、だがお前は俺達鏑矢中組に注意を向けなかった。だからハルはさっき、中三の頃に転校してきた人間か、塾かなにかで出会った人間だと言ったんだ。そうすれば、ハルはもちろん、俺達鏑矢中組はその友達のことを知らないと楽観した。しかし千反田だけは油断ならなかった」
オーヒナは友達の存在を知られたくなかった。『友達が言っていた』と物事を言う時に引用するほど影響された人物を、知られたくなかったのだ。
しかしそこで千反田えるが現れた。学校を超えた知り合いのネットワークを持ち、奉太郎や里志の過去をよく知り、里志によって人脈の広さを誇張された人物だ。
「昨日お前は部室で千反田に、千反田は俺達の出身校である鏑矢中や、桜の出身校である沖宮中の人物をどれほどまでに知っているか聞きに行こうとしたんじゃないか?だがお前は、伊原が漫研を辞めたという話に興味を持った。俺は前後の理由は知らんが、伊原が楽になったならそれで良かった。お前は伊原が漫研を辞めたと聞いた時、こう言ったらしいな。『だからって、見捨てる必要ないじゃないか』と。そして千反田はこう言った。『決別をする時は、年度の変わり目はいい頃だ』とな。《見捨てる》というのはおかしな表現だ。どちらかといえば伊原は漫研を追い出された。だがお前はそう感じた」
奉太郎は一度唇を舐め、オーヒナに向き合った。
「
オーヒナは「はっ」と弱々しく俺達を交互に見つめた。そして、見た目の弱々しさとは裏腹に、強い口調がオーヒナの口から溢れ出た。
オーヒナは俺達より一歩前に出て、向き合った。
その目は、少しだけ濡れているように見えた。
「千反田先輩が、そういう意味で言ったんじゃないってどうして言えるんですか!?私は、まだ千反田先輩を疑ってます。そうですよ!そう言われた気がしたんです。私の大事な友達を見捨てろって言われたんですよ!?遠回しに!!あのにこやかな表情で!!あの人は私に言ったんです!だからあの人を、私は菩薩だって言ったんですよ!!夜叉だって言ったんですよ!!」
俺は、言った。
「オーヒナ、もういい」
「もういいってなんですか!?傷つけられた私より、千反田先輩が大事ですか!?そうですよね……!!出会ってたかが二ヶ月のヒステリックになって訳の分からない後輩より、一年間を過した友達の方が、大事ですもんね!!……大事な大事な……、《友達》ですもんね!!!!」
オーヒナ大きく息を漏らした。『はぁ……はぁ……』と、息切れが止まらない。
俺はそっと、オーヒナの頭に手を置いた。
「なぁオーヒナ。千反田がお前が入部を取り消した理由をどう思ってるか知りたくないか?」
「……」
そして俺は、精一杯の笑顔をオーヒナに見せて吹き出すように、その言葉を発した。
「馬鹿だよなアイツ!高校生にもなって、自分が勝手に携帯を触ったから怒ってると思ってるんだぜ」
「え……」
オーヒナの掠れた声が聞こえた。
「泣きそうになりながら、本気でそういう理由だと思ってるんだ。ゴールしたらお前の所まで行って、『昨日は勝手に携帯電話を触ってごめんなさい』って言いに行くつもりらしいぜ?笑えるだろ?」
「……は……ははは……なんですか……それ……笑えますね……」
オーヒナは笑おうとするが、その言葉は震えていた。
大きく肩を揺らしずっと俯いたままだ。
「ほんとうに……笑えますよ……」
オーヒナの足元には、大きな水滴が、次々と落ちていった。
現在:18.9km地点 残り1.1km
例の団子屋に到着したので、俺達三人は外にある赤いベンチに腰を掛けた。店のおばあちゃんが頼んだ団子と、湯のみに入った茶を出してくれた。オーヒナはヨモギ、奉太郎はこしあん、俺はみたらしだ。
うぅむ。甘味が疲れた身体に染み渡るぜ。推理の後は甘いものだよ甘いもの。
「生き返る〜」
ヨモギを口に入れたオーヒナが隣でそう言った。空を仰いでおり、どこか吹っ切れたようにも感じる。
「こんなに清々しい気持ちは久しぶりです」
団子を口に含んだ奉太郎が答える。
「そうか、それは良かったな」
「二人のおかげです」
「そんなことないさ」
「福部先輩から、色々聞いてるんでした。氷菓の件とか、女帝さんの件とか、警戒すべきは二人だったかあ」
「人聞きの悪い事を言うな。団子を奢ってやっただろう」
「このお団子、ほんとに美味しいですね。ハル先輩は桜先輩と来た時、何を頼んだんですか」
「ヨモギ」
「今回はみたらしですね」
「桜が食ってて、美味そうだったからな」
「その時貰えばよかったのに」
「そんなこと出来るわけねぇだろ」
「桜先輩ならくれると思うけどなあ」
ニヤニヤしながらいうオーヒナを無視する。
オーヒナは皿に一つだけ残った団子を置き、そっと口を開いた。
「その子……あの子は、中三の頃に鏑矢中に来たんです。超然としてて、あまりクラスに馴染めてない子でした。多分私が最初の友達で、唯一の友達です。《一生一緒にいる》って約束もしました」
「重い女だな、そいつ」
「こらー、女の子ってそういうもんですよ。だからハル先輩は彼女の一人も出来ないんですよ」
「うるせぇな!」
俺は勢いよく最後の一つを口に放り込んだ。オーヒナはケラケラ笑い、また夕焼けの空を仰いだ。
「それが呪いでした。その子は色んな遊びを知ってました。ライブにも行ったり、スキーに行ったり、旅行も沢山行きました。お金も無くなっちゃいました」
「たしかお前の家は」
奉太郎が呟くと、オーヒナが指を鳴らした。
「そう、アルバイト禁止。だからあの子に、もう派手な遊びは当分出来ないって言ったんです。でも、彼女は、『私に任せて』とか『なんとかする』って言って、私の《遊び代》を用意しました。……あの子は、自分のおじいちゃんのお金を盗んだんです……」
盗みか……。
「あの子の家は、神山の名家です。千反田先輩の顔がただ広いだけなら、警戒はしませんでした。でも家柄の付き合いで色んな名家の人間と会ってるって話を聞いて、怖かった。いつ千反田先輩に、『あなたはあの子のお友達でしょう?』ってあの笑顔で言われると思うと、震えが止まらなかった」
オーヒナの従兄が経営する喫茶店に行った時。帰り際に雨が降り出した。
俺は本棚に入っている夕刊を親指と人差し指でつまみあげたが、あの時おかしな点があった。千反田が来る前に俺達は、《水筒社事件》という詐欺事件の話を里志から聞いていた。その話題の元となった雑誌が、《深層》というもので、オーヒナが《深層》を取り出す時は、本棚はギュウギュウ詰めだった。
これはつまり、俺が帰り際に夕刊を抜く前に既に、本棚にスペースが空いていたのだ。
オーヒナは友達が自分の祖父から金を盗んだ事を隠したかった。だから、似たような詐欺事件が書かれている《深層》を、あの本棚から取り出した。そして本棚にスペースが空いたのだ。
目の前に真実を示唆するものが置いてあれば、確かにそれを退けようとするだろう。桜の誕生日パーティに行った時、俺が桜の家に行ったことがあるという真実を隠すために、ちゃぶ台の上にある招き猫をどうしようかと模索するのと同じだ。
「もしあの子が盗んでいる事がバレても、捕まるのは私じゃなくてあの子です。でも、警察が動き出すような事を笑いながらする彼女が怖かった。友達の為なら犯罪にも手を染める彼女が怖かった。その《友達》が私である事も、怖かった。全部、怖かったんです」
オーヒナはお茶を一気に飲み干し、自分を落ち着かせた。
「だからあの子と高校が離ればなれになった時、少しだけ安心したんです。最低ですよね。あの子は私の為にお金まで盗んだのに、一生一緒なんて言う口約束も交したのに……。例えそれが歪んだ愛の形だとしても、唯一の友達である私がそれを否定して、正しい道に戻してあげるべきなんじゃないかなって。……でも、もう何が正しいのか分からなくて……」
そして、オーヒナは自分の太ももを叩いた。
「私……本当に馬鹿だ……!!!」
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団子を食べ終わったので、俺たち三人は立ち上がった。
奉太郎が言った。
「入部してくれれば、里志や伊原は喜ぶ。もちろん、千反田も」
「勝手に誤解して、勝手に傷付けたんです。千反田先輩に合わす顔がありませんよ」
「もしかしたら、力になれるかもしれん。お前の友達関連で」
「ありがとうございます、折木先輩。でも、先輩達に迷惑はかけられませんよ」
オーヒナは悲しそうに笑った。その笑顔を見て、俺は少しだけ胸が痛くなる。
「千反田先輩には、いつかちゃんも謝ろうと思います」
オーヒナは、『もう先に行ってくれ』という風に、俺達より一歩後ろにいた。
「そうか……じゃあ俺達は行くよ」
奉太郎がそういい、俺達は先を行こうとする。すると、
「ハル先輩」
呼ばれたので、振り返る。
「私、一回だけ自分の本心を言ったんです。ほら、言いにくいことは、『友達が言ってた』って言い換えるってやつ」
オーヒナには、その友達が存在していた。だが
「私が入部した日に言った、アダ名で呼び合うと仲良くなれるってやつです。ハル先輩はそれから、オーヒナって呼んでくれてますよね。……私、嬉しかったんです」
「そうか」
「バカやれて楽しかったです。凄く、楽しかったです」
最後みたいな言い方はやめろ。俺はそれが気に入らなかった。だから俺は、こう言った。
「気が向いたら部室に来いよ、みんな待ってる」
オーヒナは目を見開き、笑った。
「お世話になりました。ありがとうございました!」
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《星ヶ谷杯》は終わり、俺と奉太郎は部室にいた。
特別棟四階、神山高校の辺境地。最近ではオーヒナがいて、会話が耐えない部室であったが、今は静寂に包まれていた。
そして、部室のドアが開かれる。
「やぁ、二年生ビリゴールおめでとう」
「バカにしてんのか」
「はは、それで、どうなった?」
奉太郎が唾を飲み込む。
「入部はしない」
「そうか、そうだよね」
「わかってたみたいに言うな」
「分かってたというか、そんな感じがした。君達の顔つきから見て、入部を取り消した理由は千反田さんのせいじゃなかったみたいだ。外の問題だろ?」
里志は俺と奉太郎と向き合うように座り、アクエリアスを口に含んだ。
里志の質問に、俺は頷く。
「ホータロー、ハル、それは仕方のないことだと思うよ。外の問題なら、僕達は手出しが出来ない。僕達の世界は、神山高校なんだよ」
本当にそうだろうか。もしもっと早くオーヒナの悩みに気付いていれば、友達の問題は解決出来なくても、オーヒナを古典部に残すことが出来たかもしれない。もっと早く千反田がオーヒナについて悩んでいたと気付けたなら、両方の話を聞いて解決出来たのかもしれない。
届かない物だから仕方ないと感じるのは諦めではないのか?
千反田が社交を学ぼうとするのも、奉太郎の姉貴が世界中を渡っているのも、世界を拡げるためでは無いのか?そんな努力を俺はしなかった。きっと、手はどこまでも伸びるはずなのに。
気付くと、里志は既に部室に居なかった。《星ヶ谷杯》の後始末が残っているのだから、忙しいのは当たり前か。奉太郎も立ち上がった。
「俺は帰る。今日はクタクタだ」
「俺はもう少し残るよ。もしかしたら千反田や伊原が来るかもしれない。結果を報告するさ」
「そうか。じゃあ、また明日」
「あぁ」
部室のドアが閉められ、俺は一人になった。
部室の窓まで歩き、夕焼け空に手を伸ばす。そして、それを強く握りしめた。
「……チクショウ……!」
後輩の女の子一人救えなかった自分に腹が立ち、そんな言葉を口にした。
もうオーヒナがどこにいるかは分からない。とっくにゴールして、家に帰っているのかもしれない。
淡い希望を抱き、部室のドアに振り返った。
『へへ、やっぱり入部することにしました。これからもよろしくお願いします。ハル先輩』
そんな声は、きっと聞こえてこない。
俺達の、ふたりの距離の概算は、もう図りようがなかった。
ふたりの距離の概算、完結です。
いかがでしたでしょうか。ふたりの距離の概算は原作でも中々苦い終わり方をしていましたね……。
大日向は作者の好きなキャラの一人でもあるので、この作品のどこかで再登場させられたらいいなぁ、なんて思ったりしてます。
しかし完結まで三年もかかってしまうとは思いもしませんでした。
晴、奉太郎、三年間も走らせてごめん……笑
そして、次回から《いまさら翼と言われても》の連載開始です!
予告編どうぞ!
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夏休み。伊原から出場するはずの合唱コンクールに千反田が現れないと連絡を貰った晴と奉太郎は、千反田の居場所を推理する。
なぜ千反田は合唱コンクールに現れないのか、その真意とは一体!?
奉太郎の中学時代の事件、文芸部で発生した桜が探偵役を務める事件、林間学校のフェリーで始まる《人形殺し事件》
古典部達の過去と未来が明かされる、短編集!
そして、《氷菓〜無色の探偵〜》最終章に繋がる物語、開幕
『いまさら翼と言われても、困るんです』