氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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最新話更新です!!!

桜の《探偵役》どうですかね……?

評価、感想、よろしくお願いします!


第四話 You're My Love Story 転

 ︎︎夏休み開始まで、あと二日

 

 ︎︎過去二十一日前

 

「桜先輩は、好きな人とかいるんですか!?」

「あべらヴぶぼ!!!す、好きな人!?!?」

 

 ︎︎後頭部を叩かれた気持ちになった。

 ︎︎ついさっきまで来週から始まるテスト期間が憂鬱だと話していたにも関わらず、そんな話題を振られるとは思っていなかった。

 ︎︎

 ︎︎私の身長は女子の平均よりも低いけど、隣を歩く神代さんはそんな私より背が低かった。けれど、いかにも文化系な白い肌と長いまつ毛、肩上で切りそろえられた真っ黒のボブカットは、その幼い印象とは裏腹にしっかりと高校生ながらに手入れされている事が分かった。

 ︎︎文芸部が終わった帰り道。校門を出て右に曲がると、もう人の気配は少なくなっている。逆に左に曲がると南雲くんや折木くんの家、商店街があり、その商店街を抜けた先には神山駅がある。

 ︎︎電車通学の生徒も多い為、校門を出ると左に曲がる生徒が多いのだ。そんな中、文芸部でも私と神代さんだけが校門を出て右に曲がる。だから、私と神代さんが帰り道を一緒に歩くのは必然的な事だった。

 

 ︎︎神代さんは、私の素っ頓狂な反応に声を出して笑った。

 

「あははは!!なんですかその反応!!」

「い、いや!突然そんな質問するから!」

「でも、そんな反応するってことはいるってことですよね?」

 

 ︎︎神代さんは悪い顔になる。

 ︎︎私は自分の顔が熱くなるのを感じた。南雲くんの顔が頭に出てきたからだ。

 

「ま、まぁ……いるにはいるけど……」

「え!え!え!!いるんですか!?どんな方ですか!?神高ですか!?文芸部ですか!?同じクラスですか!?お話聞きたいです!!」

「いやいやいや!話すほど大層な事をしてるわけじゃないって!」

「えー!!桜先輩が奥手そうってのは何となく分かりますけど、何も無いってことは無いですよね?」

 

 ︎︎神代さんはわざと頬を膨らませた。「ブーブー」とブーイングを真似た声を出している。

 ︎︎てか私、いまディスられた?まぁ奥手なのは事実なんですけどね。ええ、ええ……。

 

「なるほどなるほど、桜先輩は想い人がいるんですね。時折見せる女の顔はそういう事だったのか……」

「女の顔て……」

「で、話は戻りますけど、その人とは今どういう感じなんですか?」

「どんな感じって……う、うーん。私なりに頑張ってるよ?毎日朝と帰る時は挨拶してるし」

「そんなの、別に友達でもやりますよ」

「それを言ったらおしまいだよ……」

 

 ︎︎神代さんは一度「うーん」と悩んだ後、思い付いたような顔をして隣を歩く私に向き直る。

 

「それじゃあ、イエスorノーゲームやりましょう!私の質問にイエスかノーで答えてください!先輩がその好きな人とどこまで行ったのか、私がアドバイスして差し上げよう!」

「別にいいけど、神代さんは彼氏とかいた事あるの?」

「ないですよ」

 

 ︎︎即答だった。あ、アドバイスになるのかなあ……。

神代さんが私の恋バナで楽しんでるだけに見えるけど。

 

「じゃあやりまーーす!!」

 

 ︎︎今の会話をはぐらかす様に神代さんは片手を挙げて言った。

 

「まぁ、挨拶してるって事はそれなりの仲って事ですよね。それじゃあ……、その人と二人で遊んだ事はありますか?」

 

 ︎︎私は答える。

 

「あ、うん。あるよ。この前はお団子食べいった」

「おっ!放課後お団子デート!いいですねぇ、ちゃんとした遊びとか食事じゃないのが桜先輩らしくて実にいいです!」

 

 ︎︎な、なんかバカにされてるなあ……。

 

「二問目!!その人にバレンタインはあげました?」

「一応渡したよ。友チョコっていう体で……」

「えー、そこで告っちゃえばよかったのに」

「まぁ、バレンタインの時も色々あったんだよ」

「そうですか。まぁ私も、あんまり好きバレしたくない派です。……じゃあ三問目!!」

 

 ︎︎どんどんくるなあ。

 

「その人の手を握った事はありますか?」

 

 ︎︎手……、手か。

 

「うん」

「えっ!!」

 

 ︎︎流石の神代さんも声をあげた。

 

「きゃ〜!!先輩ってば、意外とダイタン〜!!!!」

 

 ︎︎バシッと背中を叩かれた。あの、私、一応先輩……。

 

「あ!《ホーリーナイト》でだよ!毎年クリスマスに神高でやるクリスマスパーティー。そこのプログラムに社交ダンスがあるんだ」

「え!!じゃあ、先輩はその人と社交ダンス踊ったんですか!?」

「あ〜、色々あって本番は踊れなかった……。練習会では踊ったよ。うん……凄く……楽しかった」

 

極寒の十二月、私の手を優しく握ってくれる、南雲くんの手が暖かかった事を思い出した。

 

「でぇえへへへ」

「笑い方笑い方……。あっ、あとそれですよ、女の顔」

「そんな言い方しないでよ!!」

 

 ︎︎神代さんはまたケラケラと笑い、スカートのポケットの中に手を突っ込んだ。そして、その手を外に出す瞬間黒くて四角いものがチラリと見えた。なんだろう。

 

「ところで」

 

 ︎︎神代さんがそう切り出したので、私の興味は黒くて四角いものから神代さんの発言に変わった。神代さんは少しだけ俯きながら、口をもごもごさせている。先程までの勢いはなかった。

 ︎︎私は気づくべきだったんだ。この日の神代さんが少しだけ、様子がおかしかったことを。

 

「ところで、桜先輩はその人に告白とかしないんですか?」

「したよ」

 

 ︎︎即答した。この事に関して、私は躊躇うことは無い。

 

「え」

 

 ︎︎今度は神代さんが素っ頓狂な声をあげた。私は少しだけ笑った。

 

「え、でも、その人とはお付き合いしてる訳じゃないんですよね?……それって」

 

 ︎︎神代さんの声が不穏になる。きっと、私が振られたのだと思ったのだろう。

 

「ちょっとね、色々あって、南雲くんは……その人は、今は私の気持ちに答えられないんだ。でも、きっと答えてくれるよ。私はそう思ってる」

 

 ︎︎信じてると言ってもいい。だから私は、その時を待っている。

 ︎︎南雲くんが自分の問題を解決して、私に答えを教えてくれるその日を。

 

 ︎︎私の言葉を聞いた神代さんは声を上げようとした。でも、口がパクパク動いただけで、何も言わなかった。

 

 ︎︎私の家は、もう目の前だった。

 

「じゃあ、また」

 

 ︎︎私は家の前で神代さんに手を振る。すると

 

「あっ」

 

 ︎︎神代さんが私を引き止めたような声がしたので、私は耳を傾けた。

 

「どうしたの?」

「あの……えっと……そんな人、諦めちゃっていいんじゃないですかね」

「え?」

「先輩のことなんで、私は強く言えないですけど、おかしいですよ告白の返事を遅らせるなんて。どれだけ勇気を出して先輩が告白したのか、その南雲って人は分かってない」

「普通はそうかもしれないけど、状況が状況だからさ」

「……そうですか」

 

 ︎︎神代さんは早く引き下がった。そして、いつもの笑顔に戻った。

 

「引き止めちゃってすみませんでした!じゃあ先輩、さようなら」

「うん、またね、神代さん!」

 

 ︎︎そして、神代さんは再びニコッと笑った。

 

 

 ︎︎そしてテスト期間が終わり、神代さんは退部届を提出した。

 ︎︎そしてこれが……神代さんと最後に話した日だった。

 

 

 

 

 ︎︎━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ︎︎夏休み開始まで、あと二日

 

 ︎︎昨日、福部君から過去の出来事を思い出すという方法を教えてもらって、私は神代さんと最後に話した日を思い出した。

 ︎︎思い返せば、やっぱあの時の神代さんの様子はおかしかった。

 ︎︎あの会話が、神代さんの退部理由に関わってる……?だとしたら、《You're My Love Story》は退部理由とは全くの無関係?

 ︎︎でも、共通点はある。神代さんはあの日、()()の話をしてきた。そして、《You're My Love Story》も()()にまつわるストーリーだろう。そして、《You're My Love Story》のテーマ、決して叶わない恋の結末は、そのほとんどが悲劇……。

 

 ︎︎夏休みが今日を入れてあと二日で始まろうとしていた。

 

 ︎︎昼休み。ナギちゃんが委員会でいないので、私は一人でお弁当のクリームコロッケをつつきながら考えていた。辺からはこれから始まる夏休みに心を躍らせる人達の声、予備校で埋め尽くされ、この世の終わりのような声を上げる人達の声など、様々な音が私に情報を与えた。

 

 ︎︎かくいう私も、夏休みは忙しい。

 ︎︎もちろん、文化祭で出版する文芸部の文集に掲載する小説を完成まで持っていかなきゃならないけど、文芸部とは他に私にも予備校の予定が入っていた。

 ︎︎

 ︎︎大学に進学するのは両親との約束だった。まあ私も、大学に行かないつもりは無い。なんだかんだで、神高は神山市内でも随一の進学校で、大学進学率はかなり高い。上位国立大学に進学する人もいて、二年のこの時期から予備校に通う人は多いだろう。

 ︎︎私はそこまでレベルの高い大学を狙ってるわけじゃない。きっと、社会に出たら「良くも悪くもないね」と言われるような大学を卒業する。それか……

 

 ︎︎私は机の中から、二枚の大学案内を出した。

 

 ︎︎一つは神山市内の大学がいくつか掲載されているもの。もう一つは、東京の大学が掲載されているもの。

 

 ︎︎南雲くんが神高を卒業したらどうするのか、私は知らない。

 ︎︎でも、仮に東京に戻るつもりなら、私たちの関係次第では私は東京に着いていくだろう。私は南雲くんを支えると誓ったから。隣にいると誓ったからだ。でも……

 

 ︎︎

「こんな重い女、嫌かなぁ……」

「誰が重い女なんだ?」

 

 ︎︎声がした先に私は視線を向ける。

 

「な、南雲くん!?!?」

「よう桜。で、誰が重い女なんだ?」

 

 ︎︎南雲くんは私の前の席にどかっと座りお弁当を広げ始めた。

 

「あ、いや、なんでもないよ!それで、どうしたの?」

「お前が一人で弁当を食べてたから、一緒に食べてやろうかと思って」

「え……」

 

 ︎︎やっぱり優しいなあ、南雲くんは。

 

「そうだ」

 

 ︎︎南雲くんが生姜焼きを口に運ぼうとしたその瞬間、何かを思い出したかのように言った。

 

「昨日、桜の後輩に会ったぞ」

「後輩?」

 

 ︎︎誰だろう。文芸部は古典部ほど部員数が少ない訳じゃない。むしろ他の学校にもあるメジャーな部活だから、神高の部活動全体で見ても部員数は多い方だ。だから南雲くんと文芸部の子が関わる可能性は0じゃない。

 

「会ったこともないのに、何故か俺の顔を知ってたな。帰り道、突然話しかけられたから驚いたよ。名前はなんて言ったかな……確か、神代だった気がする」

 

 ︎︎その途端、私はお箸を放り投げる勢いで立ち上がった。

 

「神代さんと会ったの!?!?!?!?」

 

 ︎︎私が突然大声を上げたので、南雲くんは驚いた顔をする。辺りの昼食に勤しむクラスメイト達の視線をこちらを向いた。私は顔が熱くなるのを感じて、直ぐに椅子に座り直す。そして声を潜めた。

 

「どうして神代さんと?」

「どうしてもこうしても、俺も分からんぞ。奉太郎と里志と歩いてたら、突然話しかけらた」

「それで、どういう会話をしたの!?」

 

 ︎︎そう聞くと、再び南雲くんは驚いた顔をした。そうして少しだけやつれた顔をする。

 

「あー、いや、怒られた」

「お、怒られた!?」

 

 ︎︎思わず吹き出してしまいそうになる。後輩女子に叱られる南雲くんの図を思い浮かべてしまった。

 

「ああ、まぁ怒られたというより、強い口調でな。「私はケジメを付けてきました。先輩も、ケジメを付けてください」って言われたよ」

「ケジメ……?」

「ケジメという言葉に、俺も思う所が無いわけじゃない。まぁ……色々とな」

 

 ︎︎多分のその色々に、私の告白や南雲くんの過去が含まれている。

 ︎︎南雲くんはじっと私の顔を見る。

 

「最初はなんだと思ったけど、お前の思い悩んでそうな顔を見て分かった。文芸部で何か問題があったか?」

 

 ︎︎やっぱり南雲くんは勘がいい。

 ︎︎でも……

 

「桜?」

 

 ︎︎でも、多分この時の私は、南雲くん以上に勘が冴え渡っていた。

 ︎︎今までの出来事、そして神代さんが無地で提出した小説《You're My Love Story》の意味……それぞれがパズルのように私の脳内で組み立てられていく。

 

 ︎︎でも、少しだけ足りない。確信的な何かが。

 

 ︎︎でも、これが結末だったら……神代さんが何の連絡もなく部活を辞めた理由が、そういう事だとしたら……こんなのって……。

 

 ︎︎私の中で、一つの結末が出来上がっていた。

 

 ︎︎身体が震えた。福部くんの言葉が蘇る。

 

 ︎︎『真実を明らかにするのが必ずしも良い事とは限らない』

 

「こんなのって……こんなのってないよ……」

「桜!」

 

 ︎︎南雲くんが私に呼びかけていた。ようやく南雲くんの言葉に気付いた私は、ハッと顔を上げる。

 

「大丈夫か?やっぱり、文芸部でなにかあったのか?」

「南雲くん……私……私……ごめん……!!」

「さ、桜!?」

 

 ︎︎私は飛び上がるように椅子から立ち上がると、廊下に走り出した。

 

 ︎︎私は普通棟の階段を一気に駆け上がる。

 ︎︎確信が欲しかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ︎︎私は一つの教室の前に辿り着く、そこは()()()()()()()()()()()()()私はすぐ側を歩く一年生に目的の人を呼んでもらったそして……

 

「どうしたんですか?」

 

 ︎︎クラスメイトから呼ばれて廊下に出てきたのは、昨日一緒に神代さんの退部理由を考えていた、大畑由希さんだった。

 

「大畑さん、少しだけ話があるんだ。今大丈夫?」

「はい、えと、大丈夫ですけど」

 

 ︎︎突然息切れを起こした先輩が自分を訪ねてきたのだから、混乱するのは当然だ。私は息を整え、吸った。そして

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ︎︎大畑さんは驚いた顔をした。




次回《You're My Love Story》完結です
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