氷菓 〜無色の探偵〜   作:そーめん

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You're MLove Story 完結です

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第五話 You're My Love Story 結

 ︎︎夏休み開始まで、あと二日

 

「神代さんの昔の恋愛について教えて欲しい。大畑さんは神代さんと同じ中学でしょ?」

 

 ︎︎昼休み。夏の暑日差しが廊下の窓から流れ込み、廊下は蒸し暑い。辺からはこれから始まる夏休みの話題で持ち切りの中、私がわざわざ一年生の教室に訪れた理由は、私が辿り着こうとしている神代さんの退部理由の真実を否定したいからだった。

 ︎︎既に私の中には一つの結論が浮かんでいた。けど、それが神代さん退部の理由だとしたら、そんなのは……あまりにも……

 

「どうしてそんな事聞きたいんですか?というか、私と神代が同じ中学ってどこで……?」

「もしかしたら、それが神代さんの退部理由に繋がるかもしれないんだ。同じ中学っていうのは昔、神代さんに聞いた」

 

 ︎︎「そっか」そう呟いて、大畑さんは黒い何かをポケットにしまった。一瞬だけ見えたのは、《鏑矢中学校卒業記念品》と書かれたパスケースだった。

 ︎︎折木くんや福部くん、伊原さんと同じ中学だ。

 

「別に私、中学時代も神代と仲良かった訳じゃないので、分からないですよ。クラスも同じになった事ないし、中学の頃は部活も違ったから。でも……有名な話がない訳じゃないです」

「有名な話?」

「絶交したんですよ、神代は。いつも一緒にいた友達と」

「絶交?」

 

 ︎︎私は眉をひそめた。大畑さんは辺りをキョロキョロと眺める。あまり周りに聞こえても気持ちのいい話ではないようだ。でも、今は絶好な事に周りは騒がしく他人の会話に耳を傾けるのは難しいだろう。大畑さんもそう判断したみたいで、それでも少しだけ声を潜めながら言った。

 

「彼氏ですよ。その友達に、彼氏が出来たんです」

「友達に彼氏が出来たから絶交したの?」

「まぁ、ただ彼氏が出来ただけで絶交されたら、たまったもんじゃないですよね」

 

 ︎︎大畑さんは更に声を潜めた。

 

「どうやら、神代はその友達の彼氏の事が好きだったみたいで、それが耐えきれなくてその友達の元を去ったらしいです」

「その友達は神高の生徒?」

「まさか、違いますよ」

 

 ︎︎じゃあ、その神代さんの友達から話は聞けないか。

 

「あの」

 

 ︎︎遠慮しがちな大畑さんの声が聞こえてくる。

 

「どうしたの?」

「神代の小説……《You're My Love Story》。あれの内容、私少しだけ知ってるんです」

「え!」

 

 ︎︎《You're My Love Story》の内容を知っている?

 

「前に部室で、少しだけ神代と話したんです。彼女は《You're My Love Story》を執筆していて、その時も白紙だったと思います。それで、小説の内容を聞いたんです。そしたら、『私の今の気持ちを表現したい』って言ってました」

「今の気持ち……」

 

 ︎︎なるほど……。

 

「桜先輩」

 

 ︎︎考える私に再び大畑さんが話しかけてきた。

 

「ん?」

「神代の退部理由、何か分かったのなら私にも教えてくれませんか?……その、一応同じ中学だし、高校生になって初めて話したけど、いい子なんですよ、神代は。少しうるさいけど、傷つきやすい子なんだと思います」

 

 ︎︎大畑さんが照れくさそうに言ったから、私は嬉しくなった。

 ︎︎神代さんが部活を去った時、みんな淡白だと思った。でも、やっぱり寂しいんだ。

 ︎︎でも……

 

 

 ︎︎━━━━━━━━━━━━━この結論は、誰にも言えない

 

 

 ︎︎だから私は、精一杯の笑顔で答えた。

 

「うん!大畑さんがそう言ってくれて嬉しいよ!でも、私にも全然分からないんだ」

 

 ︎︎大畑さんは目をパチくりさせた、もしかしたら今の私の笑顔はどこか引きつっていたのかもしれない。でも、大畑さんは察してくれたみたいだった。

 

「そうですか、それは残念です」

 

 ︎︎そう言った大畑さんの顔は、どこか儚げで、優しかった。

 

 

 

 

 

 ︎︎━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ︎︎その日の放課後、私は一人、神山駅の改札前に立っていた。

 ︎︎明日は終業式と一学期の成績が配られ、午前中で神山高校一学期の全日程が終了し、夏休みに突入する。

 ︎︎私は気を紛らわす様に英単語帳をペラペラとめくるが、もちろん頭になんて入ってこない。時折、神山駅の改札を通る神高生に目を向け目当ての人物が訪れるのを待っていた。

 

 ︎︎昔、南雲くんが言っていた。何か出来事が起きた際に、その出来事の鍵を握る人物と対峙する事がある。その時はいつも気が重いと。

 ︎︎南雲くんのように推理能力というのを持たない私に、そんな機会はやって来ないと当時は思っていたけど、今回の私はどうやら冴えていたみたいで、予期なくそんな機会がやってきた。緊張で唇が乾く。しっかり立ってないと足が震える。深呼吸をしないと胃から何かが湧き上がってくる。

 ︎︎でも、思考だけは鈍らせてはいけない。私には義務がある。それはきっと、大袈裟に言うと、()()をしてしまったからだ。

 

 ︎︎真実を知ってしまった。それはきっと、福部くんの言っていた()()()()()()()()()()()()ものかもしれない。心に留めておくことも出来る。

 ︎︎私はよく優しいって言われる。でも違う。私は臆病者なんだ。誰かから嫌われるのが怖いから、その人にとって一番いい選択肢を選んで提示しているだけに過ぎない。

 ︎︎今回の一番いい選択肢は、《真実を口にしないこと》。

 

 ︎︎でも、私だけがその真実に気付いているのに、それを口にしなかったら、きっと後悔する。

 

 ︎︎それに……

 

「桜……先輩……?」

「久しぶり、神代さん」

 

 ︎︎黒いパスケースを持った神代さんが、神山駅前にいる私に気付いた。

 

 ︎︎()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ︎︎そんな事は絶対にしたくなかった。

 

 

 

 ︎︎━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ︎︎私達は神山駅から神高に戻るように、来た道を引き返した。

 ︎︎ずっと無言だったけど、神高の正門を通り過ぎ、私の帰り道に突入した所で、私は切り出した。

 

「部活がある時はいつも二人でこの道を歩いたよね、懐かしいや」

「もうって、最後に歩いたの三週間前ですよ?」

「そうだね、でも懐かしい」

 

 ︎︎神代さんは元気がなかった。やっぱり、私の帰り道は人気が少ない。

 

「神代さんは()()()()使()()()()()()()()()だったんだね」

 

 ︎︎神代さんの目が大きく開いた。

 

「三週間前。最後に一緒に帰った日、神代さんはスカートのポケットの中をずっと弄ってた。一瞬だけポケットから黒くて四角いモノが見えたけど、それは()()()()()()()()()()()だよね?」

 

 ︎︎しかもそれは、《鏑矢中学校卒業記念品》のモノに違いない。同じ中学校の大畑さんも同じモノを使っていたからだ。

 ︎︎神代さんは顔を俯かせる。

 ︎︎私は続ける。

 

「私と神代さんは帰り道が一緒だった。いつも校門を出て右に曲がる。逆に、校門を出て左に行けば神山駅があるし、電車通学の人も多いからそっちに行く人の方が多い。でも、考えてみればおかしいんだよ。どうして、()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ︎︎私が思うに、鏑矢中学校出身の人は校門を出て左に曲がる人が多い。大畑さんもパスケースを持っているなら神山駅に向かうため左に曲がるだろうし、南雲くんと一緒に帰ってる鏑矢中学校出身の折木くんや福部くんも、校門を出て左に曲がる。

 ︎︎お昼休みの時に、南雲くんと折木くん達が一緒に帰っているのは聞いたし、何となく知っていた。

 

 ︎︎神代さんはボブカットの髪を人差し指でクルクルさせながら、隣に歩く私に言った。私は進行方向に顔を向けているので、神代さんの顔は見れなかったけど、声色から焦りが見えた。

 

「そんなの、先輩と仲がいいからじゃないですか。別に仲良い人と話してたいから、わざと遠回りして帰るくらい誰だってしますよ」

 

 ︎︎その通りかもしれない。でも、仲がいいからと言って、わざわざ自分の家とは逆方向に歩くような遠回りをするだろうか。ましてや神代さんは神山駅に着いてから電車に乗らなくてはならない。かなりの時間ロスだ。

 ︎︎けれど、どんな言い逃れも出来ない事は神代さんもわかっているだろう。

 

 ︎︎実際に私は今日、校門を出て左にある神山駅の()()()で神代さんを待っていたから。

 ︎︎用事があってたまたま神山駅に来たとも考えられるけど、定期券が入ったパスケースと神代さんが鏑矢中学校という状況証拠を並べれば、登下校に神山駅を利用しているのは一目瞭然だった。

 

「神代さん、覚えてるかな……?これも三週間前の事なんだけど、私達は《恋愛》の話をしたよね」

「そうですね、南雲先輩の話です。桜先輩が好きで好きで大好きでたまらない、南雲先輩の話をしました」

「そこまでは言ってないけどね!?!?」

 

 ︎︎そう言うと、神代さんは薄く笑った。神代さんがおどけるので、何だか気が抜けてしまう。

 ︎︎ごほんと私はわざとらしく咳払いする。

 

「昨日の放課後、神代さんが南雲くんに会いに行ったのは聞いたよ」

「え!?誰からですか!?」

「南雲くん本人から聞いた。どうして一度しか言ってない名前で本人を特定出来たか考えてみたけど、南雲なんて名前は珍しいから調べればすぐ分かるよね」

「本人から聞いちゃったかあ……」

 

 ︎︎神代さんは悔しそうに言った。帰り道は夕焼けに包まれていた。もうすぐ夕飯時で、辺りの家は夕食の準備をしているのか、お肉の焼けるいい匂いがしてきた。お豆腐屋さんが特有のメロディを発しながらこちらに向かってきたので、私達は道を開け、メロディが遠くなった所で私は再び口を開く。

 

「神代さんは南雲くんにこう言ったらしいね。『私もケジメを付けました。だから先輩もケジメを付けてください』って」

「だって、南雲先輩は桜先輩からの告白をはぐらかしてるって聞いたから。それって、いわゆるキープですよ。良くないです」

 

 ︎︎はぐらかしてるって表現は、あまり相応しくないかもしれない。色々事情が重なって、南雲くんは私からの告白の返事を先延ばしにしている。

 ︎︎でも、その事情を神代さんに話す訳にもいかない。

 

「……でも、やっぱり迷惑ですよね。私も同じ状況で、私の好きな人に第三者からケジメ付けろなんて言われたら、余計なことするなって思います。ごめんなさい」

 

 ︎︎神代さんはぺこりと頭を下げた。

 

「い、いいんだよ!私の為にしてくれたってわかってるから……」

 

 ︎︎でも、それより気になることは。

 

「でも、神代さんにとっての《ケジメ》ってなにかな?」

「え?」

 

 ︎︎神代さんは顔を上げ、驚いた顔をした。

 

「南雲くんにとっての《ケジメ》は、私の告白の返事をすること。そして、文芸部を退部することが神代さんにとっての《ケジメ》だって、最初に私は考えた」

 

 ︎︎私の推理披露はもう終盤に差し掛かっていた。変な汗が止まらない。明日から夏休みだから暑いのは当然だけど、暑い時にかく汗とは違う。

 ︎︎きっともう、この先、今この瞬間ほど頭が冴えることは無い。南雲くんや折木くんの真似事は私には向いてない。

 ︎︎ここからは一つも間違ってはいけない。

 

 ︎︎そしてもうそろそろ、私の家に着こうとしていた。神代さんとの帰り道も、もう終盤だ。

 

「じゃあどうして、文芸部を退部する事が神代さんにとっての《ケジメ》なんだろう?南雲くんが告白の返事をするのと、神代さんの文芸部の退部がイコール関係にあると私は思えない」

 

 ︎︎私はもう結論にたどり着いている。だからその結論に基づいた、神代さんの《ケジメ》を口にした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。それが神代さんにとっての《ケジメ》なんじゃないかな?」

「……っ!!!」

 

 ︎︎神代さんの鋭い息が聞こえた。不安げな顔で私を見つめる。

 

「南雲くんの話をした時、神代さんは私に『そんな人諦めればいい』って言ったよね?神代さんにとって、好きな人と距離を置くことは恋愛において一つの《ケジメ》なんだ。だから、文芸部に好きな人がいる神代さんは文芸部を辞めたんだよね?」

 

 ︎︎事実、神代さんは鏑矢中学校時代、とある人物と決別している。それは今日、大畑さんに聞いた話だ。

 

 ︎︎神代さんは何かを言おうとしているようだったが、声が出ていない。私と同様、変な汗がこめかみから顎に伝わって、こぼれ落ちた。

 

「じゃあ、神代さんの好きな人は誰なんだろう。南雲くんが私の告白に返事をしなきゃいけなくなるような人だから、文芸部で、南雲くんと関わりのある人物」

「違う……やめて……」

 

 ︎︎神代さんは聞きたくないというように耳を塞ぐ。

 

 ︎︎そうだ。

 

 

 

 ︎︎()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ︎︎《You're My Love Story》のテーマは決して叶わない恋。そしてそれは、今の神代さんの心情を表している。

 ︎︎神代さんは私を一人の人間としてではなく、同じ部活の仲のいい先輩としてでもなく、友達としてでもなく、恋愛対象として私を見ていた。

 ︎︎自分の家とは逆方向に住んでいる私とわざわざ一緒に帰り、私に好きな人を諦めろと諭した。

 ︎︎そして、好きな人と距離を置く事で恋愛に一区切りを付ける神代さんが、文芸部を退部した理由。

 

 ︎︎それは、神代さんが私に恋をしていたから。

 

 ︎︎私がこの一週間、喉から手が出るほど知りたかった神代さんが文芸部去った原因。

 

 ︎︎ああ……まったく、バカみたいだ……。

 

 

 ︎︎その原因は、紛れもない、私自身だった。

 

 

 ︎︎南雲くんが神代さんに話しかけられたと聞いた時から、この可能性は頭にあった。《ケジメ》という言葉を聞いたからだ。南雲くんが私の告白に返事をする事と、神代さんが文芸部を去る二つの《ケジメ》の間に相互性はなかった。けれど、神代さんを調べていく内に《恋愛》がなにか関わってくると感じた。神代さんも南雲くんに恋心を寄せている可能性もあったけど、昨日初めて南雲くんと神代さんが顔を合わせたなら、その可能性自体低い。そして、その後の大畑さんの話を聞いて、私の考える可能性は確信へと変わった。彼氏が出来た親友の元を去った過去、定期の入ったパスケース、この二つがキーアイテムだったのだ。

 

 ︎︎本来なら、この結末を知ってしまったら、放っておくのが普通なのかもしれない。だって今私は、『あなたが文芸部を去った理由は、私の事が好きで、その恋が叶わないと判断したからでしょう?』と言っている様なものだ。あまりにも性根が悪すぎる。

 

 ︎︎けれど、この結末を見逃すなんて事は、私には出来なかった。

 ︎︎さっき言った、探偵をしたからだけが理由ではない。

 

 ︎︎恋の決着が着かないもどかしさを、私は知っているから。

 

 ︎︎神代さんは目の前で、耳を塞いだまま動かない。うつむいて、嗚咽のようなものを発している。泣いているのかもしれない。

 ︎︎もう、決着を着けよう。

 

 ︎︎言うんだ。

 ︎︎『私は、南雲くんのことが好きだから、神代さんの気持ちには答えられなかった、ごめん』と。

 

 ︎︎私ほ、重い口を開いた。……でも

 

「……」

 

 ︎︎声が、出なかった。

 ︎︎私自身が喋っているつもりでも、それが音として発せられることは無い。

 

 ︎︎そんな私を見て、神代さんは驚いた顔をする。

 

「あの……えっと……」

 

 ︎︎何を躊躇ってるんだ、私。言え、言え……!神代さんを否定する自分がまだ可愛いのか、まだ自分が悪者になるのが怖いのか。

 ︎︎神代さんの恋を……中途半端で終わらせるな……!!

 

 ︎︎視界が歪んだ。私の目に、涙が溜まった。そして、それと同時に声も流れた。

 

「やっぱり、言えないよ……」

 

 ︎︎神代さんはそんな私を見て、そして笑った。

 

「どうして先輩が泣くんですか?泣きたいのは私なのに」

「うん……ごめん……そうだよね……ごめんね……ごめんね、神代さん」

「……先輩」

 

 ︎︎神代さんがこちらに歩いてきた。うつむいて泣いていたので、私の目の前で足を止める神代さんのローファーが見えた。

 ︎︎私が顔を上げると、神代さんは満面の笑みで、言ったのだ。

 

 

「私、桜先輩が好きです。大好きです!!」

 

 ︎︎神代さんは優しい子だ。

 

「女の子が女の子を好きになっちゃうなんて、やっぱり変ですよね。分かってます。でも、私は女の子を好きになっちゃうみたいで!おかげで生まれて此の方、恋人なんて出来たことなくて、えへへ」

「そんな事ない……変なんかじゃないよ……」

 

 ︎︎私なんかよりも、ずっと辛いはずなのに。

 

「でも、まぁ、私と付き合ってみるのも案外いいかもしれないですよ?ほら、女の子同士、分かり合える事も多いだろうし。それに、南雲先輩なんかより、私の方が先輩の事を幸せに出来る自信があります!」

 

 ︎︎きっとこんな事、神代さんは言うつもりじゃなかった。

 

「私、嬉しかったです。私の恋を受け止めようとしてくれて。私を、一人の恋する女の子として扱ってくれて」

 

 ︎︎当たり前だ。

 

「結婚も出来ないし、子供も出来ないし、それでも、絶対幸せにしますよ……。だから、先輩……」

 

 ︎︎神代さんは淀みなんて一切ない、満面の笑みで言った。

 

「私と、付き合ってください」

 

 ︎︎ああ……、言わせてしまった……。

 

「ごめん……ごめんね……神代さんとは付き合えない……」

 

 ︎︎私はもう一度自分が泣いている事に気付いた。そして

 

「だから、なんで先輩が泣くんですか」

 

 ︎︎神代さんも、泣いた。

 

 

 

 

 ︎︎━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 ︎︎その日の夜、私はベッドに横たわっていた。

 

 ︎︎自分の情けなさを振り返り、ベッドを何度も叩く。本当はもっと暴れたかった。大声を出して、教科書やモノをひっくり返して、大暴れしたかった。

 

 ︎︎神代さんは、《You're My Love Story》を執筆しようと思った時、何を考えていたんだう。

 ︎︎けれどもう、そんなことを考えられるほど、私の頭は冴えていなかった。

 

 ︎︎本当に自分に腹が立つ。消えて居なくなりたい。

 

 ︎︎いつもそうだ。結局自分じゃ何も出来ない。南雲くんに告白しただけなのに、返事も来てないのに、そんな自分を誇らしく思っていた。

 ︎︎私なんかより、神代さんの方がよっぽど勇気がある人だった。

 

 

 

 ︎︎もう、逃げるのはやめよう。泣くのもやめよう。

 ︎︎でも……

 

 

 

「もう、疲れたよ。南雲くん」

 

 

 

 ︎︎推理なんて慣れないことしたせいか、身体はぐったりだった。

 ︎︎もう夜も遅く、明日は終業式で遅刻する訳にはいかない。

 

 

 

 ︎︎私は重い体を立ち上がらせ、部屋の電気を消した。

 

 

 ︎︎真っ暗になった部屋で、私はもう一度ベッドを力強く叩いた。

 ︎︎携帯の時間を見ると、もう0時を回っている。

 

 ︎︎夏休みまで、もう一日を切っていた。




You're My Love Story完結です!!

久しぶりの投稿がシリアスな話になってしまいました。

このお話は桜楓というキャラクターのターニングポイントとなるお話です。
最終章にも繋がってきます。

次回からは原作回突入です!

晴、奉太郎、里志の古典部男子トリオが夜の街を歩きます!

次回

《箱の中の欠落》

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