アズールレーンカッコカリ   作:文系グダグダ

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2:プリンツ・オイゲンは指揮官を見定めたい

――エンタープライズが指揮官に求婚を迫ったらしい

 

 鉄血所属の重巡洋艦、プリンツ・オイゲンはそんな噂を聞いた。

出所は母港内の食堂にて、ユニオンかロイヤルの艦船が雑談に興じているその時にこのフレーズが耳に入った。

 

 昔はまだ母港の規模が小さく、規律も規範も整備されきっていなかった為に、食堂で偶々所属の違いによる艦船がかち合った場合、大抵は味方同士の小競り合いがあった頃と比べると、全く違う。

 寮も施設も大きくなり、同じ鉄血所属艦船も増えて、大学が新設され、所属の違いから生まれる過激な軋轢も確執も消え、大変住み心地が良くなって来たと彼女は感じている。

 

 そんなプリンツ・オイゲンだが、その噂の渦中の人物であるユニオンの正規空母であるエンタープライズとは、ともに肩を並べて、この母港の黎明期を支えた古強者であった。

 

 プリンツ・オイゲンが前線を支え、相手を消耗させてから、エンタープライズが決定打を放つという戦術は、当時戦力に乏しかった当母港に大きく貢献し、幾と度なく勝利をもたらしてきた。

 

 黎明期を支えてきた艦船は例外なく総じて練度が高く、精鋭ぞろいである。また、指揮官との付き合いが長く、現在ではめっきり見なくなったが、現地における戦闘指揮について、指揮官から直接の手ほどきを受けた事がある。

 よって、指揮官の意図や考えをすぐに推察でき、また重要な局面においてはその圧倒的練度だけではなく、艦隊の旗艦や、前衛部隊の先頭に立ち、勝利へとつなげる重要な立役者としても大きな役割を果たす。

 

 それ故に、当母港では所属・艦種を問わずに羨望を受け、演習に出てくる際には他母港からは指揮官の親衛隊と呼ばれる事もしばしばあった。

 

(ふーん、エンタープライズがねぇ……)

 

 ヴルストを齧りながら思案にふける。

 

 彼女にとってエンタープライズは真面目そのものであり、融通の利かない面倒な女と思っている。

 初期の頃では上官の命令に忠実すぎる節もあり、初めて現地での指揮を委任された際では、当母港初の前線での実戦参加ということもあり、不慣れではあった。

 

(でも当初腑抜け野郎と思っていた指揮官があんな人だなんて、あの時初めて知ったわ……

 あの時から、指揮官の事を私を本気にできる人と感じ始めたのよねぇ……)

 

 初めての実戦が相手側の奇襲から始まるという中々ハードな状況にて、彼女が敬愛する指揮官は事態を好転させるきっかけをつくったあの戦いを思い出していた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「皆さん! 大丈夫ですか!」

 

 つまらない演習の筈が、突如として始まった奇襲で、実戦に変わってしまった。

 幸いにも、実戦経験のなさそうな指揮官が持たせた――見栄のつもりかどうかはわからないが、装備によって事なきを得た。

 

 先程の声を発したイラストリアスから、戦闘機が射出される。

 金の装備箱から出てきた良質の装備でかつ、きちんと強化改修された戦闘機が奇襲としてプリンツ・オイゲン達に襲いかかってきた攻撃機や爆撃機を叩き落としていく。

 

「……ふん。どうやら面白くなってきたわね」

 

「笑ってる場合ではない! だれか指揮官と連絡できるか?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて呟いた一言はエンタープライズに聞かれていたようで彼女は嫌な顔を見せた。

 こうしている間にも状況は転々と変わっていく。対空砲火で周りに被害を出させないように弾幕を張っていたアリゾナであったが、空襲が止んだこともあり一旦落ち着いていた所に向かって、魚雷の雷跡が迫っていたことをプリンツ・オイゲンは見逃さなかった。

 

「キャッ……すみません、ありがとうございます」

 

「別に良いわよ、これくらいなんともないし」

 

 アリゾナから雷撃を庇ったプリンツ・オイゲン。しかしその傷は浅く、無傷にも等しい。

 

(全く、バルジに応急修理装置なんて味なもの持たせて……)

 

「……指揮官!聞こえますか……はい、はい……わかりました!

 皆さん繋がりました。通信回します」

 

 プリンツ・オイゲンの中で指揮官の有能さを上方修正すると共に、僚艦のヘレナが指揮官との通信の復旧に成功する。彼女を中心に指揮官の艦船は集まった。

 

『唐突で申し訳ないが、部隊の編成を行う。人員を第一艦隊と第二艦隊、残りを後方支援隊で構成する。

 エンタープライズ。君は第一艦隊・主力部隊旗艦として、主力二番艦、三番艦にはアリゾナ、イラストリアスが担当しろ。続いて第一艦隊・前衛艦隊にはプリンツ・オイゲン、綾波、ベルファスト、三人が担当しろ。第二艦隊と後方支援隊の細かい内訳は電文で追って知らせる。

 

 ただ、後方支援隊の旗艦としてはヴェスタル、君が担当してくれ。第一、第二艦隊が必要とするあらゆるサポートを引き受けてやって欲しい。

 大まかな指揮や指示はこちらで行うが、私が干渉できない範囲……つまりは現場での最前線の状況にあわせた指揮は第一艦隊旗艦であるエンタープライズに一任する。こんな状況だ。なにかと忙しいとは思うが、うまくやってくれ。

 では、本題に入る』

 

 混乱により通信の混線が落ち着いたのか、指揮官との通信が復旧した矢先に突拍子も無い指示が飛ぶ。

 

『現在、我々はレッドアクシズの奇襲攻撃を受けている。部隊間の連絡網と指揮系統が麻痺し、それぞれの艦隊は孤立していると言ってもいいだろう。一部の友軍が反攻や抵抗も見せてはいるものの、散発的であり決定打に欠ける。

 

 そんな中、敵軍は我軍の中枢でもある最上級司令部付きの艦隊に対して包囲網を築いている。この艦隊には元帥閣下も含まれており、もしこの艦隊が敵の手に落ちれば、致命的な損失を被るだろう。

 

 そこで、当艦隊の目的としては元帥と上層部が居る最上級司令部付きの艦隊に迫る侵攻部隊の阻止だ。しかし、この小規模艦隊で目的を遂行するには、電撃的な突入作戦でケリをつけるしかない。前線を突破して、敵陣深くに侵入、敵が防衛・迎撃の態勢を整える前に主力か指揮中枢を叩いてもらう。

 

 敵侵攻部隊は、包囲戦のため比較的広い部隊間隔で展開している。また、余程急を要したのか、戦艦等の低速艦が目に見えて少ないことが確認された。しかし、作戦に手間取り時間をかけてしまえば、後詰めとして戦闘地域に顔を出すかもしれん。

 相手の命令系統が無くなるか一時途絶えてしまえば、包囲網を構成している部隊は混乱し、孤立した各友軍艦隊での各個撃破や指揮系統の回復後、組織的な反撃が可能になるだろう。

 

 では、最初のミッションの説明をする。画像を見てくれ。この画像は、友軍部隊の情報による、最も新しい作戦区域の状況だ。この戦線に配備された敵侵攻部隊は、駆逐艦・軽巡洋艦を中心にした部隊だ。砲撃は大したことはないだろうが、魚雷での一発が怖い相手だ、注意しろ。

 相手は初期段階での奇襲では打撃を加えられたかもしれんが、この状態であれば今の我々でも十分に相手はできるだろう。今のうちに実戦に慣れてもらいたい。

 

 戦線後方への侵入路を確保するために、このエリアに存在する敵をすべて排除しろ。

 

 以上だ。もう一度、聞いておきたいことはあるか?』

 

 これは楽しい事になりそうだ……と、プリンツ・オイゲンは直感的に感じていた。

 そして、第一艦隊は進軍を始める。

 

 

 

『まさか敵襲!? 早い! 来たぞ!』

『敵の戦力がよく判らない。三方から取り囲むぞ! 第一、第三艦隊は後方から仕掛けてくれ』

『了解した!』

 

 

 

「ふうん、これだけ? つまらないわね」

 

 通信で聞こえてくるこちらの突然の反攻に焦る水雷戦隊を他所に始まった初の戦闘は、思いの外余裕をもった撃破に成功していた。

 敵部隊には艦船がいないようで、全部量産型の軽巡洋艦や駆逐艦、PTボートの類であった。

 

 予め発艦準備を済ませていた、エンタープライズとイラストリアスが二方向の敵を艦載機で蹂躙し、僅かなうち漏らしは410mm連装砲を装備したアリゾナが掃討した。

 残りの真正面はプリンツ・オイゲン達の前衛艦隊が開幕の魚雷で致命的なダメージを与え、砲戦で残りもまたたく間に平らげてしまったのだ。

 

「まさか、ここまでとは。

 もしかして指揮官は、私の背負う遺志を共に担ってくれる人なのか……」

 

「フフフ……これなら戦艦だって鎧袖一触だわ……」

 

 指揮官の指示に従い発艦させたエンタープライズと雷撃を担当したプリンツ・オイゲンは指揮官の技量の高さに舌を巻いた。自分たちの指揮官は単なる一介の内政屋だと両者共に思っていたのだが、それはとんだ思い違いだということが思わぬ形で露呈した。

 

 

『前衛部隊との連絡が途絶えました』

『どういう事だ?』

『詳細は判りませんが……

 ほんの数分の間に3つの小艦隊が全滅させられたようです』

 

 

「……エンタープライズ様、ポイント8Hに電探の感あり。どうやら新手のようです」

 

 敵の通信を傍受したベルファストが険しい顔で伝える。いま現時点では指揮権はエンタープライズにある。判断を仰ぐためにこの情報を伝えるのは当たり前のことであった。

 

「なんだと!? 指揮官に判断を仰ごう」

 

「悠長にそんな事してんじゃないわよ。何のために指揮官はあなたに現場での指揮を委任したのよ」

 

 面食らい、取り乱すエンタープライズを見て、呆れたプリンツ・オイゲンは彼女に釘を挿すことにする。

 

「いい? 戦艦にしては電探の感が鈍いわ。それに反応の動きからすると精々30kt前半ってトコロ。

 それに場所的には戦艦の主砲の射程範囲内に収まっているはず……推測が正しければこいつは量産型重巡よ。

 周りが一気にヤラれてるのを見つけて、思わず焦って単艦でのこのこ出てきたって感じだわ」

 

 どうする? と半ば挑発するようにプリンツ・オイゲンはエンタープライズに言い放つ。

 

「ぬう、確かに……筋が通ってるな。よし!叩こう。

 無視したとしても退路を塞がれる形になるのは良くない」

 

「りょーかい。フフっやればデキるじゃない」

 

 第一艦隊は意気揚々とこの哀れな残党を狩るべく、進軍を開始した。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

「……で? 実際の所どうなのよ? エンタープライズ?」

 

 昼食後、訓練で偶々エンタープライズと遭遇したプリンツ・オイゲンは早速、噂の真偽を確かめるべく本人に直接聞いてみた。あれだけ母港で話題になってる事だ。気にならない訳は無かった。

 

(まあ、あの真面目な指揮官がそうあっさり受けるとは思えないけど)

 

 あまりに暇なのか艤装の龍や蛇の首の様ような主砲と鷲が遊び始める。鷲は艤装の頭の上に乗ったり、口の中に入ったり、嘴でコツンコツンとつついていた。

 

「ん? なんの話だ?」

 

 しかし、当の渦中の人物はなんのことはなく、プリンツ・オイゲンの質問に対して要領を得ていない様子であった。

 

「はあ、あんたってホント鈍いわねぇ。

 あんたが指揮官に求婚を迫ったって話、もう母港中で話題になってたわよ」

 

 訓練や職務についてはそこまで鈍くはない筈だが、それ以外においては感覚やアンテナの感度に乏しいエンタープライズに対して、内心呆れつつも、きちんと彼女に事の説明をした。

 

「なるほど、もうそんなに話が広がってたのか?」

 

「何がなるほどよ、古参組から聞かれなかったの?」

 

 話が広がることが予測してなかったのか、意外と言った風な反応を見せるエンタープライズに対して、プリンツ・オイゲンはごくごく当たり前な疑問をぶつける。

 

 新参組は畏れ多く聞けなくとも、少なくとも黎明期から指揮官を支えてきた古参組は物申したいはずだからだ。

 少し前に大本営が発表した【誓いの指輪】を用いた絆を構築して艦船を強化する【ケッコン】システムが導入された際は皆、気が気でない様子であった事をプリンツ・オイゲンは覚えている。

 あのメイドとして矜持を高く持つベルファストでさえ、そのシステムを初めて知った際には思わず視線を外していた事は彼女の記憶に新しい。

 

 プリンツ・オイゲンの見立てとしては、アレ(ケッコンシステム)を契機にして指揮官に好意的な艦船が動くだろうとは考えてはいたが、まさか堅物生真面目なエンタープライズが一番槍を持つこととなるのは流石に面食らった。

 

「ああ、あの時執務室にはベルファストやブルックリン、ヘレナがいた時に言ったからな。

 それに(ヨークタウン)(ホーネット)にも相談したしな」

 

 ああ、そうか。そういうことだったのか……と合点がいった彼女は思わず大空を仰ぎ見、目頭を押さえた。

 それなら確かに、ユニオンやロイヤル中心に噂が急速に広がる事は無理もない話である。

 

 よりによって古参達の前で言い放つとは恐ろしい女だと、同性ながらプリンツ・オイゲンは畏怖した。

 特にベルファストはマズい。プリンツ・オイゲンもエンタープライズも最古参と言ってもいいぐらいの時期から当母港に在籍していたが、ベルファストはその中でも一番初めに在籍していた艦船である。

 

 まだはっきりとした業務が定まっておらず、問題が山積みであった頃、今みたいにそれぞれの艦船が業務を代行するほどの戦力も規模もない頃に秘書艦として指揮官と共に業務の遂行のあたっていたのが彼女である。

 

 ロイヤルの誇る武勲艦でありながら、自らをメイドとして振る舞う変わり者ではあるが、今に至るまでの母港を指揮官と共に作り上げた本物であり。指揮官の秘書艦という役職を離れたあともメイド長として、指揮官の側近を務める彼女にはプリンツ・オイゲン、エンタープライズ両名ともにある種の畏怖を持っていた。

 

「あんたよく生きて帰って来れたわね……で、戦果はどうだったの?」

 

 プリンツ・オイゲンの脳裏には能面のように感情の失われた顔で艤装の155mm三連装主砲を展開させ、両手に投げナイフの容量で魚雷を構える彼女の様子が容易に想像できた。

 

「幸運艦だからな。結果としては指揮官には断られたよ。それで諦めるつもりは私は無い。

 ようやく見つけた私と共に歩んでくれるかもしれない人なんだ。あの人がいるなら地獄の底までついていく所存だ」

 

「まあ、妥当なところね」

 

 【あの】指揮官の事だ。見誤った行動はしないだろうし、古参組のいる手前、要らぬ気を使ったのだろうということは用意に想像できた。

 

 ふと、プリンツ・オイゲンはエンタープライズの左手に視線がいった。薬指には見たことのない銀灰色のアクセサリーが鈍く輝いていた。

 

「エンタープライズ、それ……」

 

「ああ、これか? 【誓いの指輪】だ。結局の所、お互いに妥協点を探ったら、コレに落ち着いた。

 これで私はあの人の物になったのだと自覚することができるし、他所の指揮官達にもあの品のない視線で見られることも少なくなった。

 コレはコレで悪くないが……」

 

 プリンツ・オイゲンは後頭部を殴られたような感覚に陥った。

 

「プリンツ。貴女だって、指揮官の事を愛しているのではないのか?

 いつも業務の合間合間を縫って、指揮官の所に遊びに行ってるじゃないか」

 

「否定はしない」

 

「他方の戦闘報告書を閲覧する時はいつも執務室で読んでいたな。

 それに、この間指揮官がソファでうっかり座ったまま仮眠していた時に指揮官の膝枕を堪能していた。

 ずるいぞ」

 

「なんでそんな事知ってるのよ!?」

 

 思わず口調が激しく、早口になる。

 艤装の首ががくんと揺れ、左右の主砲を交互に跳んで渡って遊んでいた鷲はエンタープライズの所に飛んで戻っていった。

 確かにそうだ。プリンツ・オイゲンは指揮官に対しては非常に高い好感を持っている。

 だが、それが本気になってるかがわからないのだ。元は軍艦だった身、人と変わらぬ身になってからは感覚や感情がわからないときもある。

 

 だからこそ見定めたい。本気になるかどうかを……

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 はじめての実戦が無事にケリを付けることができた後、母港に帰還したプリンツ・オイゲンは真っ先に執務室に向かっていた。

 その足取りは大きく、荒いものであり、艤装すら外しておらず、傍目には相当不機嫌だということが容易にわかるだろう。

 

「指揮官、入るわよ」

 

 指揮官の返事を待つことなく、扉を開いて中に入る。

 執務机で書類をまとめ、忙しく事務作業に勤しむ指揮官がいた。書類の他にも机の片隅や応接間の机には写真が散乱しており、応接間の机にある地図にはペンやマーカー等で細かな書き込みがなされており、そして模擬演習用の自軍と敵軍の駒がが置かれていた。

 

「来るだろうとは思っていた。今は部屋が散らかっていて申し訳ないが、そこに掛けなさい」

 

 言われるがまま応接間のソファに座ったプリンツ・オイゲンの眼の前にある写真と模擬演習用の小物が押しのけられ、簡易的なスペースが出来上がる。

 その上に報告書と思われる。紙束と、マグカップに入ったコーヒーが差し出される。

 

「言いたいことはあるだろうが、コレを見てからにしてほしい。コレに私の言いたいことが入っている」

 

 そう言うと、指揮官は対面のソファに座る。サイドテーブルに紅茶の入ったマグカップを置いていた。

 そして、先ほどと同じようにテーブルを整地して、スペースを確保した後、事務所類を展開させた。

 彼女が書類を読み、納得するまではここに居座るつもりらしい。しかし、業務も手放したくは無いからここで作業も進める。

 

(忙しいのに律儀な事……)

 

 意図を察したプリンツ・オイゲンが眉間に皺を寄せて報告書を読み込んでいる中、ふと指揮官は艤装の砲塔と目が合う。

 左右あるうちの片割れはずい、とその首(?)を伸ばしてじろりと指揮官を見つめた。相方はペンを走らせている右手の甲にずい、と顔(?)をよせる。獰猛な肉食の海洋生物をモチーフとしたような凶悪なシルエットとは裏腹に艤装の砲塔は指揮官の頬にすり寄る。

 

「?」

 

 困惑する指揮官をよそに砲塔の片割れも右手の甲に砲塔下部を乗っけた。指揮官にとってはプリンツ・オイゲンの表情を砲塔によって読めないのはよろしくないので、渋々と左手で優しく頬にすり寄る艤装の砲塔を押しのける。その後、艤装は察したのか下向きに俯く、まるで拒絶されたことを悲しむように。

 

 その様子を見た指揮官は仕方がないといった様子で左手を砲塔に伸ばして、側面をそっと撫でる。

 どの道抗議に来た彼女が納得して戻らねば執務は進まず、さらには右手は彼女の艤装に占領されていては進めることは困難であった。

 

 個人的にも指揮官は、この鉄血陣営艦隊特有の艤装に興味を持っており、彼女の裁定待ちにおける時間潰しにはもってこいの手慰みでもあった。

 

(見つけた、私を従わせるのにふさわしい人が……)

 

今までの艦隊運用で持っても十二分に膨らんだ期待ではあったが、今回の件で完全に確信に至る。

 

(この人の元でなら……私は本気になれる……!)

 

 報告書の中身としてはやはりと言うか殿部隊に多数の被害を出したと言う内容であった。

 継戦を無視した弾薬投射とPTボートの体当たり戦術により主力と前衛部隊双方に被害。加えて、放棄した物資にブービートラップを仕掛けたり、消費した弾薬や応急修理装置を回収しようと接近した部隊に対して待ち伏せによる奇襲を敢行。先の戦術と合わせてさらに被害が拡大した……との、経緯が記されている。

 

 ちらりと指揮官をみる。艤装は本人の深層心理を垣間見えると研究畑で囁かれているらしい噂を聞いてはいたが、思いのほかこの指揮官に対する熱の入れようが凄いと彼女は思った。

 指揮官の反応も拒絶ではなく、興味津々に、しかし繊細に艤装を触っているのも自分達艦船に対する親しみと愛情が伝わってきそうであり、プリンツ・オイゲンにとっても心地よい気分に浸れた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 思えば、その辺りから指揮官に対して挑発的な言動をし始めた。

 

「なあんだ。もうなってたのね」

 

 指揮官に対して好意を持っている艦船は少なくは無い。特に古参組はその傾向が顕著だ。

 

 ――もし、その娘達の想いの箍が外れたとするならば……?

 

 きっと毎日がドタバタとして、もっと愉しくなるだろう。

 

 ついでに同郷のお堅い艦船達にとってもいい刺激にはなる。彼女たちも指揮官に悪い物は持ってはいない。

 鉄血に先を越されたとなると、ロイヤルも黙ってはいまい。そうやって規模が大きくになるに連れて重桜の艦船達もやがて動き始めるだろう。

 

「エンタープライズ。確か、二隻目以降の【誓いの指輪】って」

 

「ああ、どうも書類を書く必要があるらしい、確か【ケッコン届】だとか」

 

 これから自分が引き起こすであろう出来事は容易に想像することができるだろう。最古参勢の動きにあの澄まし顔したメイド長もどんな顔をするだろうか……

 だが、不思議とそう悪い結果にはならないだろうと、プリンツ・オイゲンは期待に胸を膨らませていた。

 

 




やりました

期待されているので、久々に頑張って初投稿しました。
例に漏れず、鮮度優先で取り組んだので、推敲もレイアウトもガバガバ仕様です。
ごめんね

どこかで言ったと思いますが、あと一話含めて、主に当作品の世界観説明とプロローグ的な立ち位置になっております。
なので配役もアズールレーンプレイ時に比較的初期から手に入れられて、かつ人気の高いSSR艦から手を入れてます。許して

理想的な想定としては3話くらいは大多数の人に読んでもらえるようにや世界観と雰囲気の説明、跡は自分が書き慣れるようなスペースとして確保しておいて、そこからやりたい放題したいなぁ(希望的観測)という感じですかね。

とまあこんな感じで何でも楽しんでいただけますと幸いです。

あと余談ですが、小生は大湊の指揮官です(遠い目をしながら)
名前はコレジャナイけど

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