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「指揮官様、今日はこの赤城が、秘書艦を勤めますわー」
九つに別れた尾がゆらゆらと揺れながら、重桜の航空母艦・赤城がリマインダーのメモを読み上げる。
その左手には誓いの指輪がはめられており、ケッコン届済みであることがわかる。
「以上が今日の予定ですわ。
今日は指揮官様と一緒……イッショ……」
そう言って指揮官が付き合っている執務机の隣に併設されてある秘書艦用の机に座り、作業を始める。
この一航戦・赤城が着任した当初は、『他の女の匂いが……!』や他の艦船に対して『あら? 指揮官様の近くに害虫が……』と不穏当な発言をしていたものの、現在ではなりを潜めている。
当初、指揮官はこの癖の強い航空母艦に手を焼いたものであった。
「赤城、聞きたいことがあるのだが……」
「あら? 本報告書と週報で食い違いがありますわね?
これの作成者は……ズイカクですわね。指揮官様、私が確認致します」
「ああ、構わないが……
あんまり無茶苦茶はするなよ?」
執務の途中、報告書と途中の週報で食い違いがあったこと以外は何事もなく作業が進んだ。
過去の話ではあるが一時期、あまりに自艦隊の友軍にちょっかいや直接行動を示唆する発言をしていたためか、他の母港に引き渡そうかと悩んでいた位にはこの指揮官も相当に苦労したことが伺われる。
楽しそうに同じ重桜の航空母艦である瑞鶴に対してどのようにイジろうかと考えてる赤城に釘を刺すのはそのためであった。
『指揮官様ァア! この赤城! この時を待ち望んでいましたわァァアア』
エンタープライズに誓いの指輪を渡した後、彼女の進言を聞き入れて作成、公布したケッコン届を片手に嬉々とした表情を浮かべて執務室に押しかけてきた時には思わず身構えてしまうほどであった。
「指揮官、姉さま。お茶を淹れて来たぞ」
しばらくして、がちゃりと扉を開けて入ってきたのは赤城の相方である加賀であった。
お盆の上には三人分の茶菓子とお茶が載ってあり、ここに居座る意思がヒシヒシと感じられる。
「指揮官様、ちょうどよい頃合いですわ。
少しばかりお休みいたしましょ?」
「……そうだな。せっかく淹れてくれたお茶を冷ますわけにもいかない」
赤城はグイと背伸びをした後、応接間の机に置かれたお茶を甘味を堪能すべく立ち上がる。
九つの尾も長いこと椅子に座っていたせいか、ピンと逆立てるように伸びをした後、ゆらゆらと揺れていた。
「まだキリが良いところでは無いのか? ならば、こうしてやろう」
指揮官も立ち上がろうとするものの、目の前の書きかけの書類に目が泳いでしまう。
別に直ぐに作るものでも無いが、どうせなら終わらせてのんびりしたい、というのも指揮官の本意ではある。
そんな指揮官の様子を察した加賀は、彼の両肩に手を伸ばし軽く押さえて立ち上がるのを阻止した。
「茶菓子は多めに用意してある。故に少し行儀が悪いが、食わせてやろう。
お茶を飲みたければ冷ましてやるぞ」
指揮官の分のお茶と菓子が載ったお盆を持ちながら、片手にもった菓子楊枝で器用に羊羹を切り分け、そのまま一切れを突き刺して指揮官に差し出す。
せっかくの好意を無為にするわけにもいかず、また羊羹ぐらいならば机を汚すこともないだろうと判断した指揮官はそのまま加賀の要望通りに口を開けた。
「ふふっ、素直な奴は私は好きだぞ」
「加ぁー賀ァー?」
満足そうに微笑む加賀を尻目に指揮官を挟むように赤城が詰め寄る。
尾の毛も逆立ち、興奮を隠しきれない様子であった。
「姉さまは真面目すぎるのだ。
それに指揮官は私の物でもあるのだから、世話をするのは主として当然、違うか?」
目を細めて淡々と語る加賀に対して、ぐぬぬと睨みつける赤城。
指揮官はいつものじゃれ合いと判断して、黙々と仕事をキリの良い所まで片付ける。
「大体加賀はずるいですわ! 私がやりたかった事をいともたやすく」
「ならやればいいだろう姉さま? やったところで指揮官が迷惑を被るわけでもないだろうに」
「そんなこと……やってしまっては我慢出来ないじゃないですか」
「確かに、指揮官を食べようものなら、高雄が黙ってはいないだろうな」
やいのやいのと騒ぎ立てる赤城と加賀。こうなってしまっては中々止まらない。
軽くコラ、と戒めるのもいいが、できればそういう方向は控えたい指揮官はふと加賀の持ってきたお盆が目に入った。
重桜で使われる木製の漆を塗り重ねてできたそれは黒光っており、そこにお皿と羊羹、加賀が使っていた菓子楊枝がある。
この菓子楊枝も樹脂等の安物ではなく、クロモジと呼ばれる樹皮に芳香がある落葉低木を削り出して作られた逸品であり、お茶が入っている湯呑も重桜で用いられる茶器のものであった。
これらは母港内での環境改善の一環として、各陣営の馴染みのあるものを調達できるように指揮官が取り計らったものである。寮の内装から始まり衣類、食事、家具はもちろん、こういった小物まで調達できるように指揮官は動いていた。
指揮官は菓子楊枝を一切れの羊羹突き刺し……
「あむ……し、指揮官様!?」
「仕事は終わった。のんびりしようか」
「ふっ、これでこそ強者よ……」
赤城の口へと入れ、間髪入れずに席を立って、すたすた応接机に備え付けられたソファに座った。
それを見た加賀は満足気な顔で、赤城はカァ、と赤面しながら応接ソファに座る。
勿論、指揮官の両脇に一航戦は座り、お茶を飲む。
加賀が持ってきた時よりも時間が立ったせいか、ややゆるくなっている。
黙々とお茶と菓子を堪能する指揮官。一方、加賀は指揮官を気にすることなくお茶を啜り、赤城は指揮官の動きの一つ一つをじいと見つめている。
指輪を渡して以降、赤城の指揮官に対する好意は膨らむ一方であった。状況が許すなら、同じ好意を持った相手に対して情が深い愛宕のように指揮官を押し倒してしまいたい位に、また同じく指揮官に好意を持っている艦船に対しては重巡洋艦のローンのように嫉妬してしまいたい程、それが例え妹の加賀であってもそうだと言えた。
「赤城、尻尾を抑えてくれないか? 地肌に当たってむず痒い」
首をさすりながら指揮官は困り顔で赤城を見る。
ソファの構造上の問題や、九つの尾ということでいつの間にか毛先が指揮官の肌に対して刺激を与えていたようだ。
――ふと、疑問に思う。
艦船の技術は各陣営に特徴がある。
特にわかりやすいのが鉄血と重桜だ。
鉄血にはその運用思想や要求される性能の都合により、生物的な艤装が出来上がっており、重桜は艤装こそごく一般な艦船に近いと思われるが、身体的特徴に何らかの要素、有り体に言えば獣の耳や尾等が付加されることが多い。
前に閲覧した資料では本当に体の一部らしく艤装を装備していない時でもそのままであり、器官としても機能するらしい。
――触ってみたい。
純粋に好奇心がむくむくと心の中で起き上がっていくのがわかる。
鉄血では昔、プリンツ・オイゲンの艤装がすり寄って来たのを好奇心からか触ったことはあったが、今にして思えば。中々の肝が座っていたと思う。
艤装が向くということは、砲口を向けられるという事。
本来は早急に射線から退避するべき案件であり、きつく注意を促さなければならない。
だが、時系列的には初の実戦の後、散らばった情報をあらゆる手を使って取り、頭を振り絞っての指揮を行った後であり、思考能力を欠いていなければああはならなかっただろう。
「指揮官様? どこを見ているのですか?」
ちらちら見える尾を無意識のうちに目で追っていたのだろう。不審に思った赤城が指揮官を見つめる。
「尻尾を見ていた」
蛇に睨まれたような視線を浴びながら、指揮官は素直にそう答えた。
加賀がピクリと狐耳を動かし、機会を伺う用に指揮官を見つめる。
「あらぁ、指揮官様はこの【赤城】の尾に興味が? 嬉しいですわあ」
わざわざ主張する赤城に対して指揮官の背中越しに見つめる加賀の目が鋭くなる。
「そうか、指揮官はこういうのに興味があるのか。好奇心を持つことは悪くはない」
加賀がそう言うと指揮官の膝の上に九尾を載せた。
「重桜の角や尾は実際の動物と同じく神経や感覚を有している。
故にいたずらに触ることを良しとしないが、今回は許そう」
「加賀? 指揮官様は赤城のを触りたいのですよ」
加賀の九尾に重なるように赤城の尾が膝の上に置かれる。
「さあ指揮官様、どうぞ存分にこの赤城を愛でてくださいな」
指揮官は赤城の茶色がかった黒い九尾の一つを手に取りまじまじと見つめる。
狐の尻尾は触ったことのない指揮官ではあるが、思いの外毛の量が多い事がわかる。
手触りとしては表層のチクチクとした刺毛と地肌付近のふわふわとした下毛の2種類あることがわかった。
おそらく本来の動物と同じく、泥や水は表面で弾きつつ、柔らかな下毛は保温のための断熱層として機能するらしい。
また、十二分に手入れをしてるのであろう、毛艶もよくすべすべとした感触と下毛の包み込むような感触が心地よい。
「あっ……」
「触り方がまずかったか?」
「指揮官、姉さまは十分だろう? 次は私だ。
強者には私の九尾を触る権利がある」
小さく声をあげる赤城を他所に、グイグイと寄せてくる加賀の九尾も弄ぶ。
こうなってしまっては二人が共に納得するまでは素直に自身の好奇心のままに動いてしまっても構わないだろう。
加賀の九尾も毛をかぎ分けつつ、観察する。すると意外なことが判明した。
加賀の九尾も赤城と同じ毛質なのだが、ふわふわとした下毛が赤城の物よりも多い。
尾の毛の中に指を突っ込んで見ると、みるみる内に指の周りが暖かくなり、優れた保温性を持つことが容易にわかった。
「……んっ、どうだ? 鉄血の鉄塊よりも良いだろう?」
わずかに頬を紅色させながら、誇らしげに加賀は言った。
「指揮官様。赤城ももーっとお願い申します」
赤城の声に応えるように指揮官は両手で赤城と加賀、それぞれの尾を愛でていく。
撫でたり、ぎゅっと握ったり、毛をかき分けて地肌を触ったりとするごとに、赤城と加賀は声を漏らし、狐耳をピクピクを動かす。
その反応と触り心地で指揮官は気分良く二人の九尾を存分に弄んだ。
「ああっ、指揮官様の指が中に……っ!」
「んんっ、私でスッキリできるなら、思う存分この躰を使うと良い」
指揮官の予想と異なり、この二人にとっては尾への刺激はかなりの物であるようで、漏らす程度に抑えられていた声も今では嬌声混じりの色っぽい物へと変わる。
流石にやり過ぎたかと指揮官が思い、その手をやめようとした時であった。
バタン! と執務室の扉が開き、何者かが執務室に押しかけてきた。
「指揮官殿! 大丈夫か?」
白い軍服を身につけた黒髪のポニーテールの艦船がその犯人である。
彼女は指揮官の姿を見、外傷のない様子にほっと一安心した。
「高雄か」
「指揮官殿、新入りの鍛錬が終わって報告に戻ろうとした時、一航戦の嬌声が聞こえた物だからてっきり辛抱堪らず指揮官殿を襲ったのかと……」
高雄は指揮官の両側にいる一航戦を瞥見した。
両者ともに息が荒くぐったりと指揮官に背を向けている。その九尾はぐったりと指揮官の膝の上に置かれていた。
「一航戦……は大丈夫じゃなさそうだな」
「こ、腰が抜けました……この赤城、不覚です……」
「私も姉さまと同じだ。櫛で梳くのと変わらぬと思っていたが、これはこれで」
「しかし指揮官殿はその様子では大丈夫そうだな。
全く、ローンの時と言いそなたは怖いもの知らずだな……」
指揮官は照れくさそうに俯いて後頭部を掻く。
高雄とは付き合いが長い。プリンツ・オイゲンやエンタープライズと同期であり、第2艦隊の前衛をよく務めていた彼女は指揮官の事をよく理解していた。
「拙者、この指輪に誓って指揮官殿の懐刀となり、共に征くとは言ったが……
指揮官自らわざわざ危険を侵す必要はなかろう……」
左手の指輪が鈍く光る。
彼女もまたケッコン届を出した艦船であり、指揮官の警護を自ら買って出た者であった。
――もっとも、その理由としては彼女と妹の愛宕に指揮官が誓いの指輪を渡した時、辛抱堪らず愛宕が指揮官を押し倒し、事に至ろうとしたのを阻止した事ではあるのだが……
「で、事態は大方予測できるが、指揮官殿は何をしたんだ?」
「尻尾を触った」
ダウンした赤城と加賀を応接ソファに寝かせ、執務机に着いた指揮官に対して、高雄が報告書を渡す。
「好奇心か」
「まあ、そうなるな」
「この分では一航戦は使い物にならないだろう。残りは拙者が秘書艦として務めを果たそう」
ペラペラと報告書に目を通す指揮官を他所に、高雄は秘書艦用の机に座る。
普段は執務室の前で警守している事が多い為、執務室に居るのはそこそこレアである。
「高雄」
「何だ? 指揮官殿」
眼の前にの応接ソファにはダウンした一航戦が寝ている。
尻尾を揺らしながら、体力を回復させる気で居るらしい。
指揮官は机の盆に置かれた菓子楊枝を見る。
「あの菓子楊枝、高雄が削り出したと聞いた。
使いやすくて、良かったよ。ありがとう」
「ちょっとした鍛錬のようなものだ。あれでも気分転換にはなる故」
そっけなく応える高雄ではあるが、頭にある獣の垂れ耳がピクピクと前後に動いており、内心では喜んでいるようであった……
一航戦のあの尻尾はお風呂の時シャンプーなのかボディソープ使うのか気になるので初投稿です。
尚、頭と尻尾をそれぞれ違うシャンプーか否かでも良しとする。
というわけで今回のメインは一航戦でした。
肉食の獣だけど攻められるとクッソ弱いのが好きです(唐突な性癖語り)
できるだけピンかセットでガリガリ書いていきたいのでキャラはできるだけ増やさない方針。
なので文量も5000文字前後の予定です。時系列も舞台もすっとぶオムニバス形式。
プロローグが先のこと考えてきっちり三部作で収まるように考えすぎだってそれ一(以下略)
以下雑談
残り食材がお茶一つになったので初投稿です(某イベ)
アズールレーンのイベントはとりあえず新艦全部取れたので良しとする(定期報告)
ここまで読んでいたり、過去作を見ている人にはわかると思いますが、作風の都合上、基本的にキャラがマイルドになります。日常系作品な雰囲気みたいな感じで、後悪い癖としてメタ情報は知っているorもう書いてると思い込んで書いちゃって説明不足だったりするシーンもあるかもしれない。
その時は本当に申し訳ない