尾形と杉元♀がヒロアカ世界に転生して幼馴染する話 作:ゆめ子
現れたのは、予想通りキロランケだった。
「やっぱてめぇだよなキロランケ、俺達を呼んだのは。確かに前世振りだな。で、俺達を呼んだ目的は一体なんだ?キロランケ。」
杉元がキロランケに油断なく聞いた。
俺もいつでも動けるように臨戦態勢を取る。
だが、俺達のピリピリした空気をまるで感じない様にキロランケはまあまあと言いながら近くの椅子に座った。
「落ち着けってお前ら。相変わらず喧嘩っぱやいな。
俺は別にお前達をどうこうしようと思って呼んだんじゃねえし、お前らもそう思ったから俺の所に来たんだろ?
俺はお前達と色々話しがしたくてお前らを呼んだんだ。まあ、とりあえず座れよ。」
殺気も戦意もなく悠々と座ってそう言ったキロランケに俺も杉元も気を削がれた。俺達も別にコイツと戦ったり殺りあったりしたくて来た訳では無いので、ひとまず大人しく椅子に座った。
「色々話がしたいって何をだ?
俺たちゃ前世で別に仲良しこよしだった訳じゃ無かっただろ?共闘関係にあっただけだ。
まあ、俺とお前の裏切りでそれもおじゃんだった訳だがな。
それで、杉元にとっちゃその裏切り者のお前が今更何を話したいって?」
「相変わらず辛辣だな、尾形。
まあ、その通りでぐうの音も出ないんだが…。でも同じ穴の狢だったお前に言われるとは思わなかったぞ…。
俺はお前らを雄英体育祭で見て記憶を取り戻したから、前世の話が出来ると思ったお前らを呼んだんだよ。本当にそれだけだ。誓ってお前達を害そうと思ってお前らを呼んだわけじゃねえよ。大体、お前らを今更どうこうしても俺には何の得にもならん。
まあ、これで俺の存在を知った杉元が俺を許さずに殺しにくるかもっていう不安も有ったが、お前らヒーロー志望の様だし大丈夫な方に賭けたんだが、どうだ?俺は賭けに勝ったか?」
「それは杉元次第だろ?」
キロランケとのやり取りの後、俺とキロランケは杉元を見た。
「…………今更お前が俺や尾形に何かする気もその必要も無いのは分かった。
前世のお前にやられた事はまあ、腹立つけど、もう尾形を許した時点で前世のアンタの所業を責めるのも馬鹿らしいしな。
まあ、ヒーローやってる今のアンタと話す位は別に俺は構わないぜ。」
杉元は眉間にシワを寄せながら言ったが、これはキロランケを許すと言ってる事とかわりない。もう杉元が俺達に殺意を持ってないとは分かっていたことだが、前世で裏切られたってのに本当に甘い奴だ。
「どうやら俺は賭けに勝ったらしいな。美人に殺されずに済んで良かったぜ。」
キロランケはニヤリと笑った。
それからキロランケは様々な事を聞いてきた。何故お前達は前世の記憶が有るのか、他に前世で出会った奴らは居るのか、そいつ等にも記憶が有るのか、何故今になって自分は前世の記憶を思い出したのか、前世を思い出した意味はなんなのか…等など。
どうやらキロランケは白石と同じように前世と関わりがある輩は周りには居なかったようで、ついこの間の体育祭で俺達を見て記憶が戻ったと言った。
そしてキロランケは白石以上に記憶が戻った事に混乱したらしい。
それで前世を覚えているであろう俺達に、危険かも知れないと思いつつも藁にもすがる思いで接触をしてきたらしい。
因みに俺達に記憶が有ると思ったのは、体育祭で杉元が自分のことを「不死身の杉元」と呼んでいたからと言う理由だった。
俺については杉元と仲が良さそうだったので、記憶は無いのかもしれないと思っていたらしいが、それは生憎だったな。
「そうか…俺達以外にも結構前世で関わった奴ら、現世でも居るんだなあ。てっきり体育祭に映ったお前らだけなのかと思ったんだが…。
しかし記憶が蘇るトリガーが前世に深く関わった奴と会う事か認識する事、それでも確定で記憶が蘇る訳じゃ無いらしい、ってそれじゃあ、前世で関わってても一生思い出さない奴がいてもおかしくないな。」
「まあ、キロランケ、アンタは思い出した訳だけどな。」
「ああ、職場体験で雄英生を指名出来るからって体育祭見てたらまさか前世の記憶が蘇るなんて思いもしなかったけどな。
いやあ、あの時は本当に焦ったぜ、自分であって自分じゃない様な記憶が一気に流れ込んできたからな。しかも現在とは比べ物にならん程殺伐とした記憶だったしな………。
体育祭観戦する余裕なんて無くなったし、一緒に見てた社員達に心配されるしで大変だった。」
「でもキロランケ、記憶が蘇ったからって理由だけで俺達を呼んだってのか?それなら別に職場体験としてじゃなくて別に接触すれば良かったじゃねえか。つーかちゃんと職場体験させてくれるんだろうな?俺たちに接触するだけに呼んでおいて、職場体験なんて考えてませんでした、とかはやめてくれよ?」
「ああ、そこは安心しろ。きっちり職場体験させてやるからな。
お前達を指名したのは前世の事だけじゃなくて、体育祭録画した奴でちゃんとお前らの能力を確認した上でだ。俺も今はプロのヒーローだからな。そこは妥協しない。
にしてもお前ら前世でも物騒だったけど、「個性」が付いてより物騒になったな。ははは。」
「物騒言うな。」
「ああ、悪い悪い、凄い「個性」だって褒めたかっただけだ。お前らどっちも体育祭凄かったよ。お前らの実力ならこのまま行けば確実にプロになるだろうと思ってな。
その時になって会うことになるんなら、今のうちに会っといた方が良いだろうって判断をしたんだよ。ぶっちゃけ青田買いって奴だ。」
「ほんとにぶっちゃけたなお前。」
「ははは。プロの世界はシビアだからな。
俺も独立したからサイドキックを探してるんだよ。お前ら雄英卒業したらどうだ?俺のとこにサイドキックとして来る気無いか?」
「アンタも気が早いな。まあ、プロのヒーローになる道筋としちゃ悪くない選択かもしれねえからな。考えといてやるよ。」
「尾形、お前上から目線だな…。」
「俺は俺の価値をきちんと評価してるだけだ。俺や杉元の実力なら、もっとデカい事務所だって狙えんだよ。アンタも俺達が卒業する時には入りたいと思えるぐらいには事務所デカくしとけよ。」
「へいへい、お前らが入れて下さいと懇願する位成長しといてやるさ。」
前世でまだ俺達が裏切る前の、みなで旅をしていた時の様に俺達は軽口を叩きあった。
「………なあ、キロランケ、お前はなんでヒーローになろうと思ったんだ?」
杉元が静かにキロランケに問うた。
「…………弱い奴や良い奴を、悪党達から守りたいと思ったからなった。ただ、それだけだ。」
キロランケは前世でも、奴の中にあった「正義」なんかの為に動いていた節が有ったが、コイツは今生でも己の「正義」の為に、それを成す為にヒーローになったのだろう。
俺は「正義」なんてもんには興味は無いがな。
杉元は「………そうか、守れると良いな」
とキロランケに返していたから、奴がヒーローになった理由に納得したのだろう。
俺達はそれからもう少し前世の話や俺達の過去どうやって記憶を取り戻したかなんかを話しをしてから、職場体験の話となった。俺たちにとってはこちらが本命の話だ。
「お前らには俺が普段プロヒーローとしてどう仕事してるか見て、実際にパトロールなんかも体験してもらう。」
キロランケが説明を続けた。
「ヒーローのお仕事は、基本犯罪の取り締まりだな。事件やら事故やらが発生すると警察から応援要請が来る。
それらを対処して、逮捕協力や人命救助等の貢献を申告する。それを専門機関が事実に即しているか調査する。それを経て、やっと俺達ヒーローに給金が振り込まれるってプロセスだ。
勿論、活躍により給料の額も違ってくる。基本、歩合だから厳しいが、活躍できればそれだけ給料も高額になるってな。
ヒーローと言っても人だからな。おまんま食えなきゃヒーロー活動も出来ないんで、流石に無償でのヒーロー活動なんてのは無い。
まあ、趣味でヒーロー活動やってる奴とかも居るには居るらしいが、そういう奴は基本ヒーロー免許なんて持たずに「個性」を行使するから「ヴィジランテ」って言うヴィランとほぼ同義扱いされるな。
話が逸れたが、あとは国から金もらってるからヒーローも一応は公務員扱いなんだが、普通の公務員と違って副業が許されてる。人気ヒーローなんかはCMとかに出たりしてるだろ?ソレとかが副業だな。」
「へー公務員扱いなのに副業とかいいんだな。それに専門機関の調査が入ってくるとか結構面倒だな。」
「ああ、副業については公務員に定められた当時は相当揉めたらしいけどな。結局市民からの需要やヒーロー人気で許される事になったらしいぞ。
専門機関の調査が入るのは申告に虚偽が無いか見極めるためだからな。面倒では有るが仕方ない。書類作成やら事務所経営やらで、事務員を雇ってる所がほとんどだが、ヒーローも結構そういうので書類作成の業務も有るからな。俺はそういう作業はそんな得意でもないが、杉元お前は苦手そうだな。」
「ああ、確実に苦手だな…ヒーローも人助けやってるだけじゃ駄目なんだなあ…。」
杉元は苦い顔をしてそう呟いた。
「応援要請以外でもヒーローは自主的に活躍するんだろ?キロランケ。
アンタはパトロールでもして点数稼ぎしてんのか?」
今度は俺がキロランケに質問をした。
「点数稼ぎとか言い方悪いなお前…だが、まあ間違っちゃいない。都内は事件発生件数も高いからな。新宿や渋谷等の人が密集してる所は犯罪が起きやすい。そういう所に行ってパトロールするんだ。
お前達には一週間俺とともにパトロールに出たり、その時起こった事の書類作成等をしてもらう。で、実際の俺の活動を見て学べ。
出動要請もあれば勿論そちらにも来てもらうからな。
お前らヒーローコスチューム持ってきてんだろ?午後からはそれ着て渋谷辺りに行くぞ。」
そう言ってキロランケはそろそろ昼にしよう、と言って席を立った。
前世の話やら今世の話やらをずっと話してたせいで気づけばもう12時を回っていた。
俺と杉元はキロランケが買ってきた弁当を食べながら更に雑談を交わした。
杉元が女になってる上にかなり美人で驚いたと言う事や俺達が幼馴染だと言うことに驚いたという事、主にキロランケが驚いた事が話題だった。
弁当を食べ終わり、少し休息を取ってからキロランケは俺達にヒーローコスチュームの着用を指示した。
それぞれ別室で着替えて出てくると、キロランケは俺達を見て、「………お前ら今生は仲良いとは分かったがまさかヒーローコスチュームまでお揃いにしてるとは思わなかったぞ。」と呆れた声で言った。
それに対して杉元は
「お揃いじゃねえよ!!作ってる所が一緒のところだったからデザイン似たようなもんになっただけだ!!」
と大声で反論していたが、キロランケは信じてはなさそうだ。分かった分かったと適当に杉元をいなしていた。
キロランケ自身も既にヒーローコスチュームに着替えていたので、軽い注意事項を受けてから、事務所を出た。
キロランケのヒーローコスチュームは何処と無くロシアを彷彿とさせるモノだった。
キロランケは今生はロシアとのハーフだと言っていたからだろう。
事務所を出て、最寄りの駅から渋谷へと向かう。ヒーローコスチュームだから当然だが、周りからジロジロと見られる。
キロランケは気にした風もなく、時には手を振られるのを笑顔で振り返していた。
中々に堂に入っている。
渋谷に着くと、人通りの多い場所から人気の無さそうな路地裏までまわってパトロールをする。
昼間より夜の方が小競り合いなど起きそうだが、こう言った草の根的な地道な活動もヒーローの仕事の内なのだろう。
杉元は「うーん何にも起きねえな!平和でいいけどよ。」と少し物足りなそうにボヤいていた。
パトロールから数時間が経ち、日もくれだしそうな時間に、人通りの多い店の前での殴り合いの喧嘩を見つけた。
どうやら両者とも酒が入っている様だ。
いい歳したオッサンが昼間から酒を飲んで暴れてるのか…警察でも対処出来るような小さな案件だが、事件は事件だ。
キロランケが仲裁に入る。
だが、酔っ払って気が大きくなってるのだろう。酔っ払いたちは一時的に喧嘩をお互いに止めたは良いが、今度はキロランケに向かってきた。しかも「個性」を使ってだ。
酔っ払いたちはどうやらそこそこ攻撃に特化した「個性」を持っている様だ。
片方は腕が大きくなる「個性」で片方は全身棘だらけになった。
キロランケは向かってくる酔っ払い達に慌てずに悠々と煙管を吹かした。
すると、煙管から出た煙が形を変えて酔っ払いに向かって行き、縄のような形に変形して酔っ払い達の身体を拘束した。
煙なのに実体が有るのだろう。酔っ払い達は藻掻くが煙の拘束はビクともしなかった。
「往来での「個性」の無断使用、及び傷害罪、って所か。お巡りさん呼んであるから良く反省するんだな。」
キロランケは酔っ払い達にそう言って煙をくゆらせていた。
ヒーロー名の通りに、キロランケの「個性」は「煙」だ。
ヒーロースモーカーは自由自在に吐いた煙を操る事が出来、その煙は実体すら持ち敵を捕縛する…。調べた通りだな。
杉元は「おお!ヒーローっぽい!!」とやっと実際に見ることが出来たヒーローっぽい出来事に目を輝かせていた。
実態のある煙を操る事が出来るとは、中々使い勝手の良さそうな「個性」だ。
実際に犯罪者や敵の捕獲等でヒーロースモーカーは中々に活躍しているらしい。そうヒーローニュースの記事に書かれていた。
酔っ払い達は駆け付けてきた警察に引渡しキロランケが戻ってきた。
「これが実際のヒーロー活動だ。どうだ?少しはどんなものか感じられたか?」
「おう、パトロールとか何も無くて地味だな〜って感じてたけど、やっぱり事件に遭遇したら早めに解決しないとな。キロランケ…じゃない、スモーカー、アンタの迅速な対応良いお手本になったぜ。」
杉元がそうキロランケを称えた。
それからまた周辺を少しパトロールしてから、かなり早いが事務所に戻る事にしたらしい。
また電車を乗り継いで事務所に戻り、今日行ったパトロールについての報告書類を作成させられた。
「いつもはもっと遅くまでパトロールしてるんだが、今日はお前らが居たからな。
職場体験初日はこんな所で良いだろう。
夜の繁華街なんかは小競り合いが増えるからそれも体験してもらおうかと思ってるが、とりあえず今日はここまでだ。
まあ、ヒーローの日常は概ねこんな感じだ。
非常時なんかだとまた変わってくるがな。」
ヒーローは事件が起こってから対処する事が多い。
事件や事故が起こらない限りヒーローのやる事といったらパトロール位が関の山と、正直暇に感じたが、それもヒーローという仕事の本質だろう。平和な事で結構だと思うしかないな。
それに緊急時には自分の命も晒さなければならないだろうから、平穏な時間はそれはそれで大切ではあるだろう。
俺達はそれぞれ作成した報告書を提出し、ヒーローコスチュームから制服に着替えて帰る支度をする。
今回の職場体験で泊まり込みの奴も多いだろうが、キロランケの職場は学校や自宅からさほど離れてる距離ではない為俺達は帰宅が許されている。
「じゃあお前ら、また明日な。ちゃんと明日も早く来いよ。」
キロランケはまだ仕事が有るのだろうヒーローコスチュームのままだ。
「あ、そうだ尾形お前伝言頼まれてんじゃねえか、伝えてやれよ。」
杉元が思い出したように言った。
ああ、そんな用事あったな。
キロランケは伝言?なに?誰からだ?
と聞いてきたので1字1句間違いなく伝言を伝えてやった。
「「前世で刺された恨みやその他諸々の恨みと因縁は今世には持ち越ししてないので安心して下さい。」だとよ。良かったなキロランケ。」
「…………インカラマッか…。なんかそう言われると逆に怖いな…。」
インカラマッからの伝言を聞いたキロランケはそう言って身震いをした。
「あとインカラマッが〇月×日は保須市にパトロールへ行けだとさ。」
「保須へ?何でだ?」
当然疑問に思ったキロランケが聞き返してきたので、インカラマッの「未来予知」の事やその日敵達に保須市が襲われるかもしれない事、少しでもヒーローがそこにいて人々を助けてやって欲しい事等を伝えてやった。
「お前らそういう事はもっと早く言えよ……。〇月×日って三日後じゃねえか…こっちにもスケジュールとか有るんだぞ一応…。
だが、分かった。そういう事ならその日は保須へ行こう。そこまで遠くないしな。
お前らも連れていってはやるが、くれぐれも無茶はしないでくれよ?」
キロランケは話を聞くと、インカラマッの「未来予知」を素直に信じた様で予言のその日は保須まで行く事に決まった。
伝え終え無事に保須へ行く事も決まったので、俺と杉元はキロランケと別れて今度こそ帰宅した。