尾形と杉元♀がヒロアカ世界に転生して幼馴染する話 作:ゆめ子
職場体験三日目、今日はインカラマッが未来予知した日なので保須へ行く予定だ。
昨日の職場体験は初日とほぼ似たようなものだったが、夜の繁華街をパトロールしたので、中々の事件発生数だった。
まあ、殆どは酔っぱらい同士の喧嘩がせいぜいではあったがな。
杉元は事件解決は良いが、それに伴う報告書の作成に早くも辛いと弱音を吐いていた。
ヒーローになればずっとついてまわるものだぞ。今から慣れておけ。
保須へは電車を乗り継いで行く。
キロランケが一応事前に保須市へパトロールに行く旨を、保須を管轄しているヒーローに伝えると歓迎された。
どうやら雄英や警察からも保須市が襲われるかもしれないと一応、管轄のヒーローと警察で厳戒態勢を敷いているらしい。インカラマッの「未来予知」あっての事だが、流石は雄英のネームバリューと言ったところだ。
インカラマッの「未来予知」では、襲撃は夕方辺りらしいが、早めに現地入りした。
土地勘が無いため、早めに現地を確認したいとキロランケが判断した為だ。
休憩や昼食を取りつつパトロールを行う。
それなりに栄えている街だが、極々普通の街だ。この街を襲撃する動機は一体何なのか考えるが、答えは出るはずもなかった。
杉元も「こんな平和な街なのに襲撃されるなんてな…全く信じらんねえな…。」と呟いていた。全くだな。
そう言えばパトロールの途中、飯田らしきヒーローコスチュームに身を包んでる奴を遠目で見つけた。
奴も職場体験の実習中なのだろう、隣に知らんヒーローが居た。
遠目なので飯田はコチラに気付かずに俺達とは逆側に去っていったが、このまま予知通りに行けば、アイツも敵の襲撃に対する救援を体験する事になるだろうな。
パトロールを続けて数時間が経つ。
もう夕方だ。予知通りならそろそろ敵共が襲撃してくるはずだ。
キロランケから「そろそろか…?お前ら気ぃ抜くなよ。そんで無茶はするな。」と、釘を刺される。
ドォオオオオオン!!!!
ここから少し遠くで何かが爆発した音が轟いた。来たか…。
キロランケは大きく息を吸ったかとおもうと、煙管から大きく煙を吐き出し、煙はモクモクと形を変えたかと思えば大きな2頭の煙の馬となった。
「乗れ、急ぐぞお前ら。」
キロランケは煙の馬に飛び乗った。
俺と杉元ももう一頭の馬に乗る。俺が前で杉元は後ろから俺に抱き着く形を取った。
準備が出来たらキロランケが「行くぞ!」と言い、馬は爆煙が上がってる方向へと走り出した。本物の馬のような速さと乗り心地だ。
爆発した現場へ近づくにつれ、逃げてくる人間が多くなる。
現場に着くと、脳みそ剥き出しの化け物達が大暴れしていた。コイツらは形が少し違うが前にUSJを襲撃してきた脳無だろう。てことはこれは敵連合とかいうクズ共の襲撃か…。
一体奴らは何考えてこんな街襲ったんだろうな。
既に何人かのヒーローが駆けつけており応戦しているが、事態は芳しくは無い様だ。
煙の馬から飛び降りると俺達はすぐに臨戦態勢を取った。
「俺はアイツら拘束してくるから、お前らは逃げ遅れてる人の避難誘導や負傷者の救助の手伝いを頼む。」
キロランケが俺達にそう指示を出したが、杉元は「俺達も戦える!!」とキロランケに訴える。
「ダメだ。お前達が強い事は知ってるが、まだお前達はヒーローじゃない、ヒーローの卵だ。お前達が今するべき事、出来る事は敵を倒す事じゃない。市民を助ける事だ。分かるよなレディ・イモータル?」
キロランケは杉元をヒーロー名で呼び、そう言って諭した。
杉元も自分の立場をキチンと把握しているのだろう、渋々ながらもキロランケに「…………分かってるよ。」と返していた。
「じゃあちょっと行ってくる。リンクス、レディ・イモータル、避難誘導と負傷者救助ヨロシクな。万が一、お前達の方にあの化け物がやって来たら誰でもいいからヒーローを大声で呼べ。それも間に合わずに危害を加えられそうになったらお前達で対処していいぞ。責任は俺が取ってやるよ。」
そう言ってキロランケは今度こそあの脳みそ剥き出しの化け物…脳無達の元へ駆けて行った。
俺と杉元はキロランケに言われた通り、逃げ遅れた人間を見つけては避難誘導し、負傷者は近くに来ている救急車まで運ぶなどの救援活動をする。
「この辺りは逃げ遅れた人はもう居ないよな?」と一旦杉元と確認していた時、俺と杉元のスマホが同時に鳴った。
なんだこんな非常時に。
俺は無視をしたが、杉元は素早くスマホを確認した。すると、「緑谷からだ…なんだこれ?これここから結構近くの住所じゃねえか?」と言って、スマホを俺にも見せてきた。
どうやら一括送信で位置情報だけを送られてきたようだ。
………緑谷は意味も無く位置情報なんて送ってこないだろう。何故緑谷が保須に居るのかは知らんが、恐らくそこで何らかの事態に陥っているという事か…。
杉元も「………これ緑谷なんか緊急事態なんじゃねえか…?」と気づいた様だ。
「おい、急いでここまで行くぞ尾形!!」
と急く杉元をまあ待てと宥めて、俺は一応キロランケに指示を仰ぐことにした。勝手に現場を離れて、後々何か言われるのは避けたいからな。
キロランケは、脳無一体の捕縛に成功したようで、別の所で暴れているであろう脳無の所に行こうとしている所だった。
「どうしたお前ら?」
脳無にやられたのだろう、少しだけ傷ついているキロランケが近付いてきた俺達に訝しげに聞いてきたので、スマホを見せて事情を説明する。
「緊急事態か…分かった、俺もそっちに行こう。お前らちょっと待ってろ。」
キロランケはすぐに緊急事態と判断し、周りのヒーローに増援要請を伝えた後、また煙の馬を作り出して緑谷が送ってきた住所に俺達と共に向かった。
送信された住所は路地裏の様だ。
脳無達が暴れている場所でも無いのに、近づくにつれ血の鉄臭い匂いが濃くなっていることに俺は嫌でも気付いた。
「おい、血の匂いがする。油断するなよ。」
緑谷からの送信から、5〜10分は経っているだろう。戦闘音もしてこないし、もしかしたら手遅れかもな。
俺はそう最悪の結果を想定しながら、用心深く指定された路地裏に入れば、何とそこには既に伸びて今まさに縛られている敵らしき人物と、緑谷だけでなく飯田と轟が、全員血だらけで立っていた。
いや、知らんヒーローらしき人物も倒れている。
「杉元さんに尾形君!?あ、それにヒーロースモーカーも!?2人とも来てくれたんだね!!」
緑谷が満身創痍の体で言った。
「緑谷!!無事だったか!?いや、全身傷だらけだな…。それに飯田に轟も…一体何が有ったんだ?」
杉元がひとまず安堵して緑谷達に一体何が有ったのかを聞いた。
どうやら飯田がヒーロー殺しをこの路地裏で発見し、まさにヒーローを殺す瞬間、何とかそれを阻止したが、返り討ちにあい、殺されそうになった所で、緑谷が助けに来たが攻撃を受けヒーロー殺しの「個性」て動けなくなり、飯田がまた殺されそうになった所で轟が来て、何とか動けるようになった飯田と緑谷で全員力を合わせてヒーロー殺しをつい先程退けた、という事らしい。
なんというかかなり綱渡りで生命の危機を凌いだんだなお前ら。タイミングが少しでもズレていたら誰かしら死んでいただろう。
折角駆けつけた俺達だが、特に出番もなく、世を騒がせたヒーロー殺しはこうしてお縄となった。
ヒーロー殺しの「個性」で動けなくなり殺されかけたヒーローが動けるようになり、全員で路地裏を出た。
満身創痍で動けなくなった緑谷をキロランケがおぶさり、ヒーロー殺しをその殺されかけたヒーロー…ナチュラルが、縄で引きずって出る。
路地裏を出た所で、ヒーローの格好をした背の低い老人が緑谷の所まで来て、緑谷の顔面に蹴りをお見舞していた。
緑谷がここに居ることに随分と腹を立てている様だ。
どうやら緑谷は職場体験先のこの老ヒーローの指示を無視して飯田の所、つまりこの現場に駆けつけたらしい。
だか、そのお陰で飯田と殺されかけたヒーローナチュラルの命は助かったのだ。結果オーライと言えるだろう。
まあ、この老ヒーローは監督不行届で罰則を受けるかもしれんがな。
そのすぐあとに、ヒーロー達が数人やって来た。キロランケが要請した増援だけでなく、轟の父親であるエンデヴァーからの要請を受けたヒーローも多いようだ。
エンデヴァーも雄英の要請と、ヒーロー殺しを追うために保須に来ていたみたいだ。
要請を受け駆けつけたヒーローはどうやら暴れている脳無に有効ではない「個性」持ちばかりらしい。
キロランケが脳無を一体捕縛していたが、他はもう捕まったのだろうか?
俺が考えていると、飯田が轟と緑谷に自分のせいで傷だらけになった事を謝罪していた。
泣きながら何も見えなくなってしまっていたと言っている。やはりコイツも復讐に目が眩んでいたのだろう。俺はそれが悪いとは思わんがな。
緑谷は友達なのに飯田がそうなってる事に気付かずにごめんと逆に謝っていた。コイツも大概お人好しだ。
轟はしっかりしてくれよ委員長だろ、となんだか少しズレた叱咤をしていた。委員長はこの件とは関係ないだろう…。
「杉元さんに尾形君も駆け付けてきてくれて、本当にありがとう。だが、もう少しで君達も巻き込んでしまう所だった…。」
と飯田は今度は俺達に礼を言ってきた。
「俺達は今回なんもしてないし礼を言う必要なんてないぜ?顔上げろよ飯田。でも何かあれば次こそ俺達に相談しろよ?友達だろ?」
と杉元が飯田に伝えた。
俺も
「………まあ、全員死ななくて良かったんじゃねえか?」
と一応伝えてやった。
飯田はまた、ありがとう2人とも本当に…、と言うと涙を無事な方の腕で拭って頭を上げた。
飯田の片腕はヒーロー殺しにやられたのだろう。かなりひどい状態だった。
ヒーロー殺しを連行させようと全員で移動していると、上空からバサバサと何かが滑空してくる音に気づき、上を見る。翼の生えたひょろっとした脳無を発見した。
何やらコチラの何かを狙ってるように見えた。
「「伏せろ!!」」
と、背の低い老ヒーロー…グラントリノと声が被った。グラントリノもあの脳無に気づいたようだ。
片目から血を流した脳無が勢いよくコチラに滑空してきて、一瞬のうちに緑谷を攫った。
中々速い。
咄嗟に撃とうとしたが、その前に杉元が後を追ったので撃つのを止めた。杉元が一瞬で脳無まで跳躍する。
「緑谷を離しやがれ!!!!」
だが、杉元が跳躍するその前に敵が動きを止めたのに俺は気付いた。
そして、一瞬で脳無まで跳躍したのは杉元だけでは無かった。
ヒーロー殺しは意識を取り戻していたらしく、緑谷が攫われてヒーロー達の意識の矛先が変わった時に隠していた刃物で紐を切り、脳無が流していった血を舐め取りその「個性」で脳無の動きを奪い、一瞬でそこまで跳躍したのだ。これだけでヒーロー殺しがかなりの身体能力を持っている事が分かる。
脳無は杉元の拳に加え、ヒーロー殺しのナイフを剥き出しの脳に受けて地面に堕ちた。
杉元の拳はともかく、ヒーロー殺しの脳への一撃はダメだろう。あの脳無はもう死んだな。
空中で投げ出された緑谷はヒーロー殺しが捕まえそうだったのを、何とか杉元が奪って、ヒーロー殺しと少し距離を置いて着地した。
杉元は緑谷を引っ掴んでヒーロー殺しから更に距離を取り油断なく構えた。
ヒーロー殺しは何かをブツブツ呟いている。
「偽物が蔓延るこの社会も徒に「力」を振りまく犯罪者も粛清対象だ。全ては正しき社会の為に。」
だとさ。ご立派な思想だが、自分が犯罪者に堕ちてまでその思想を体現するのは笑えねえ冗談だな。
応援に駆け付けていたヒーロー達も臨戦態勢を取ろうとした時、ナンバー2ヒーローのエンデヴァーがやって来た。先程の翼が生えた脳無を追ってきたのだろう。
エンデヴァーはヒーロー殺しに気付くと、コチラにやって来ようとしたが、何故かグラントリノがそれを制した。ヒーロー殺しの異常さに何か気付いた事があるらしい。
ヒーロー殺しもエンデヴァーに気付いたらしく、ビリビリとした殺気を漲らせた。
その殺気は凄まじく、あのエンデヴァーすら気圧され、歩みを少し後退させた。
俺もそのプレッシャーには冷や汗をかかされる。
ヒーロー殺しが己の信念を説きながら一歩一歩近付いてくる。
「俺を殺していいのは本物の英雄だけだ!」
ヒーロー殺しはそう言って更に殺気を漲らせた。
それはプロヒーローの何人かがその脅威に尻餅をつく程だ。
だが、フッとプレッシャーが消えた。
なんとヒーロー殺しは立ったまま気を失った様だ。
立ったまま気絶するとは何とも剛毅な男だ。
いやはや、それにしても凄まじい気迫だったな…。こんな重たい殺気を受けるのも思えば前世ぶりか?まあその殺気を放った奴は今は俺と共に職場体験なんぞ受けているがな。
飯田や轟もヒーロー殺しのプレッシャーから解放され尻餅をついたり崩れたりしていた。
杉元は…と、杉元を見やったら、油断なく気絶したヒーロー殺しを見て真剣な表情をしていたかと思えば、ニヤリと大胆にも笑った。
……………杉元、お前は何を思ったら、そんな不敵な笑みが出るんだ?知ってはいたが、怖いもの知らずな奴め。
まあ、そんな所が杉元の良い所では有るがな。
気絶したヒーロー殺しを、また縄を切って逃げられないように、今度はキロランケの特製の煙で拘束し、応援の警察が来るのを待った。
数分すると、警察車両や護送車がやって来た。
警察にヒーロー殺しを受け渡すと、他のヒーロー達は未だに混乱している現場に散っていった。
緑谷、飯田、轟は怪我が酷いため、保須の大きな病院へ直行させるようだ。
俺達はまだ救助活動などを手伝う事になると思っていたが、まだヒーローで無いただの学生と言う理由で、もう十分活躍したから帰れと帰宅を促された。
まだ救助活動などやれると杉元は粘ったが、帰れとの指示一点張りだった為、俺と杉元はキロランケの事務所に戻った後帰宅する事になった。
また、警察やキロランケ達から、ヒーロー殺しの件は口外するなと釘を刺され、明日緑谷達が行った保須の総合病院に来るように指示された。
恐らくだが、緑谷達がヒーロー殺しを討ち取ったことを無かったことにするのだろう。
何せ俺達もだが緑谷達はヒーローの卵で有ってヒーローではない。
しかも話を聞く限りでは職場体験のヒーローの指示の元、ヒーロー殺しを討ち取ったのでは決して無いだろう。これは未成年者個性無断使用などに当たる。
そのまま発表すれば緑谷達は個性無断使用で罰される事になる。雄英退学なんてのも十分有り得るな。それを回避するため、結局無かった事にするのだろう。
目撃者も少なかった為、別のヒーローの手柄にするのは可能だ。
まあ、緑谷達の手柄が無くなろうが、もしくは緑谷達が退学になろうが、俺にとっちゃどうでもいい事だな。
なんにせよ今日は色々と疲れた為、俺達はキロランケの事務所に寄り、服を着替えて早々に帰宅した。
次の日、俺と杉元は保須総合病院の緑谷達が居る病室へと向かった。
因みに今日は、昨日の保須襲撃とヒーロー殺しの件で話題が持ち切りだ。
特にヒーロー殺しの最後のプレッシャーと演説は、遠くから一般人が撮影していた様でネットを中心にアップと削除を繰り返している。
あの動画は、ヒーロー殺しの思想に共感する奴が多数出現してもおかしくはない。世間には毒にしかならんだろう。
緑谷達は全員同じ病室らしく、入ったら3人で話してる所だった。
「えっ?なんで杉元さんと尾形君が?」と緑谷に言われたが、話す前に警察とヒーロー数名が現れた。
コレが保須警察署署長か…顔がまんま犬だな。
緑谷達は警察署長が出てきた事に面を食らった様だが、保須警察署署長から緑谷達への言は、俺が昨日想像した通りだった。
緑谷達が敵相手とは言え、保護者に無断で「個性」を使用した事で罰を与えなくてはならない為、緑谷達の活躍を無かったことにして世間に公表するのだ。
俺達を呼んだのも、ヒーロー殺しの件は他言するなという釘さしの為であった。
因みに杉元が緑谷を助けるために飛び出して脳無へ一撃入れた件も追求された。
それは一応保護者キロランケが居る元でやった事だったので、何とかキロランケへの厳重注意で済んだようだが、杉元にも十分反省するようにと言っていた。
やはり個性使用許可証…ヒーロー免許がないと不自由だな。仮免でも良いから早く取得しておきたいものだ。
杉元も以後気をつけますと言ってはいたが、顔はぶすくれていた。おい、丸わかりだぞ。少しは隠せ。
緑谷達がヒーロー殺しの逮捕はエンデヴァーとスモーカーの功績にする事・これを他言しない事を飲み、保須警察署長がそれに対して緑谷達に頭を下げて礼を言った所でお開きになるかにみえた。が、突然、病室の引き戸が引かれた。
「そろそろ入っても良いかね?」
低く艶のある声でそう言って入ってきた人物に俺と杉元は目を疑った。
「遅くなって申し訳ありません、土方警視総監殿。」
保須警察署署長が背筋を伸ばし、そう言った。
そう、目の前に居たのは、高級そうなスーツを身に纏った、あのかつての鬼の副長、土方歳三であった。
保須警察署署長は土方歳三を俺達に紹介した。曰く、警視総監であると。
何故そんな偉い人が!?と緑谷達は大いに慌て驚いていたが、曰く、あのヒーロー殺しを確保したヒーローの卵のことを聞いて労いと感謝をしに来たなどと言っていた。
このじいさんの言うことだ。それは疑わしいものだが、相手がどんな人物か知らない緑谷達は素直に受け止めわざわざご足労頂きありがとうございます、などと感謝していた。
たかが一学生を労うために警視総監がわざわざ病院を訪れる。その警視総監があの土方歳三なのだ。たまたま偶然という事はまず無いだろう。このじいさんが何を企んでいるのかは知らないが、前世の記憶を持って俺達に接触してきたのは確実だろう。
それから土方歳三は数分間緑谷達と談笑し、そろそろ時間がと言って帰ろうとすると、俺達に向かって、「君達も帰るのだろう?良ければ送っていこう」などと宣ってきた。
警視総監らしいが良いのかそんな簡単に初対面の学生如きの同乗を許して。
………これは罠か?と一瞬思ったが、罠ならわざわざ第三者が居る所でこんな誘いは掛けてこないだろう。
何が狙いかは知らんが、かの土方歳三と話せるチャンスは、現在の相手の地位も考えると今後は早々無いだろうと俺は判断した。
杉元とアイコンタクトを取り、「お言葉に甘えます。」と答えた。
緑谷達と別れの挨拶をして、俺と杉元は前を歩く土方歳三の後ろをついて行く。
病院を出ると、すぐに黒い公用車が停まった。ここで保須警察署署長と別れる。
ドアが開いて車に乗り込み、車が発車すると土方歳三が早速話しかけてきた。
「久しいな、杉元佐一に尾形百之助。」
「………良いのかよ、運転手に聞かれるぜ?」
俺がそう答えると土方歳三はくっくと笑い、「大丈夫だ、この夏太郎も前世の記憶持ちだ。」と言ってきた。運転手がフェンダーミラー越しに会釈して来た。若い成人した男だ。確かに前世で見覚えのある奴だ。
なるほど、用意周到な事で。
「アンタがまさか警視総監とはな…しかもわざわざ俺達に接触してくるとは思ってなかったぜ。なんだ?警察は暇なのか?」
杉元が軽く挑発しながら言った。
「暇ではないが…お前達と接触したのはなに、ほんの気まぐれさ。特に何かお前達に用事が有った訳じゃない。少し前世の知り合いと昔話がしたくなって、そんな時に丁度いい機会を見つけたから来ただけだ。だから、そんなに構えなくて良いぞ。」
土方歳三が事も無げにそう言った。
警視総監様がそんな理由でホイホイ外出していいのかよ。仮にも警察組織トップだろうが。まあ、このじいさんの隙を狙って簡単に殺せる奴がそうそう居るとも思わんが…。
「アンタ、前の記憶有るんだな。アンタも俺達を体育祭で観て思い出した口かい?」
杉元の質問に土方歳三はNOと答えた。
「いいや、私はまだ小さい頃にガムシン…永倉新八と会ってそれで思い出した。今世でお前達を初めて認識したのは、お前達が何年前だかに起こした人事売買組織壊滅事件の時だ。お前達の名前と幼くして犯罪組織を壊滅させた力を聞いて、前世の記憶を持っているとすぐに分かったよ。」
どうやらだいぶ前から俺達が居ることを認識していた様だ。
しかしだったら何故このタイミングで俺達の前に姿を現したのか…本当にこのじいさんのただの気まぐれなのか?
俺も杉元も警戒をとかないが、土方歳三は気にした風でもなく、本当に世間話をする様に、俺達の今世の事や前世の記憶持ち達はどうしているかなどを聞いてくる。
「………アンタが政府側に居るとはな…。」
杉元のポツリとした呟きを土方歳三は拾った。
「これでも徳川幕府が倒れるまでは政府側に居たんだ。警察組織に居ても何ら不思議は無いだろう?それとも、フッ、敵にでもなってるかと思ったか?」
「前世で新政府相手に戦争して、更にその後もアイヌの金塊奪おうとしてそれを元手に戦争を企ててたアンタなら、このヒーロー社会の革命のリーダーとして、警察やヒーローに反旗を翻していたとしても全然おかしくねえ感じだろ。」
「心外だなそれは。私は私の信念で戦争で戦ったり、ことを起こそうとしただけで、無闇矢鱈に戦争をしたかった訳じゃ無いさ。
それに革命、ねえ…戦争も随分と無いこの平和そのものの社会を無駄に引っ掻き回す気も、無駄に血を流させる気も更々ないさ。
今の私の敵は、この平和を脅かさんとする愚か者の敵共だけさ。」
土方歳三があの前世の頃と同じギラついた目でそう言った。
あの幕末の亡霊…いや悪霊が、今じゃ平和を維持する為の政府組織の頂点とはな…。
だが、己の敵には容赦は無さそうなのは前世と変わってないな。
「…実は、あの前世の刺青人皮の囚人達の名前で、指定敵として各地に潜伏している者を何名か確認している。それもかなりの凶悪犯も居る。」
「「!?」」
土方歳三が声を潜めてそう言い放った。
前世の知り合いは何人か会ってきたが、ここに来て刺青人皮の囚人達が敵として居ると分かるとはな…。
「先の保須の件で、敵共はこれから活発化するだろう。あのヒーロー殺しステインの思想に触発されてな。
そして雄英は今オールマイトが居る。生徒が狙われる可能性も考えられなくはない。
お前達はまだヒーローの卵だが、十分気をつけておけ。」
土方歳三がそう忠告すると、車はスモーカーヒーロー事務所のビルの前に停まった。
俺と杉元が出ると車の助手席のガラスが開き、土方歳三が厳かな声で言った。
「噂だとオールマイトが討ち損じた巨悪がまだどこかに潜伏しているのでは無いかとも言われている。気を緩ませずに進めよヒーローの卵。この老体からの忠告だ。
じゃあな、わっぱ共。」
土方歳三は車の窓を閉めて、去っていった。
最後の忠告…オールマイトが仕損じた巨悪、か…一体どんな敵か知らんがオールマイトが捕らえ損なう程の敵、その噂が真実であれば一大事だろう。
「………マジあのじいさん何だったんだろうな…。純粋に俺達を心配してくれたのか…?
てか刺青人皮の囚人の敵も居るのかよ…。
しかも最後の話の巨悪ってなんだ…オールマイトが討ち損じるとかかなりやばい敵じゃねえか…。」
杉元がそう疑問を呟いた。さもありなん。
「あのじいさんが何を考えてるかは分からんが、これから敵共が活発化する事は確かだろうよ。
刺青人皮の囚人は元々重罪人の集まりだ。今世で凶悪な敵になってても全く不思議でもなんでもないだろ?
巨悪については何も分からんが、心に留めておくに越したことはないだろうよ。
忠告通り、気をつけろよ杉元。無いとは思うが油断して敵組織にでもまた捕まったり、最悪殺されでもしたら、目も当てられんぞ。」
杉元は
「分かってるわ尾形!お前こそ気をつけろよな!!まあ、今日の所はとりあえず気持ち切り替えてこれからの職場体験を頑張ろうぜ!!」
と言ってキロランケの事務所のビルの入口に飛び込んでいった。
考えたい事もあるが仕方ない、俺も気持ちを切り替えるか…。
さあ、また今日も1日つまらないパトロールにでも行く事になるのだろう。
俺は杉元の後を追った。
また俺達の職場体験の1日が始まる。