Helckの最終話から数年後のお話

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もう一度、一緒に旅をしよう

「はぁ……」

 

 場所は大陸中央に位置する帝国、他の国からは魔界と呼ばれる国だ。

魔王決定戦の会場がある街のちょっと端、いや真ん中辺りにあるかも知れないお城で一人の可憐な少女が溜息を付いた。

 

 その少女は普通の人ではなかった。

真っ赤に燃えるような、それでいて綺麗なルビーの様な髪。

耳は普通の人と比べ、細長く尖がり一見してみればエルフに見える。

しかし、少女はエルフではない。

可憐なエルフの少女に見えるが、実際は魔族であり帝国が誇る帝国四天王の一人『赤のヴァミリオ』ことアンちゃんだ。

 

「おい、待て。 誰がアンちゃんだ」

 

 アンちゃん以外誰も居ない部屋。

そんな空間で彼女は独り言を呟き、辺りを見渡す。

 

「さっきから話してるお前は誰だ!?」 

 

 先ほど言った通り、部屋には誰も居ない。

しかし、彼女にしか聞こえない声が聞こえているのか警戒心剥き出しの反応をした。

何時でも瞬時に対応できるように注意深くだ。

 

(姿が見えない……しかし、声は聞こえる。更には敵意もなしときたか)

 

 声に敵意がないことに気付き、アンちゃんは動きを止めて思考する。

動きを止めて思考するも視線だけは辺りを見渡す所は流石は四天王といった所だ。

 

 相手の正体を探るべく、様々な事を試す。

例えば、手を動かす、壁や地面に触る、魔法を唱え炎を自分の周りに廻らせるなど、相手に反応がないかを調べた。

 

(ふむ……どうやら、私の行動や心情を読み取り言葉にしているだけのようだ)

 

 十分ほど経てば、ある程度の情報が集まり答えを導き出す。

実際に当たってるかは不明だが、限りなく近いとアンちゃんは確信している。

 

(……完全に嫌がらせか、イタズラの類だな。はぁ……あいつの仕業か)

 

 先ほどとは別の意味の溜息を吐くとそのまま肩を落す。

今回のこのしょうもないイタズラの犯人が予測できたのだ。

 

「まったく……いつもいつも、くだらないことばかりしおって」

 

 顔を上げるとげんなりとした表情と共に部屋を出るべく扉を開けた。

開けて行く先は、このくだらない事を仕出かしでいるであろう犯人の部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アズドラー!!」

「いやぁ、ヴァミリオちゃん!僕に会いに来てくれたのかい!」

「私に変な術を掛けただろう!」

 

 アンちゃんがやって来たのは、執務室だ。

先ほどのアンちゃん専用の部屋と殆ど代わり映えのない部屋の真ん中、そこに彼は居た。

アンちゃん同様の長い耳、髪の毛は長くアンちゃんの赤い色と対をなすような綺麗な青色をしている。

彼の名はアズドラ、四天王が一人『青のアズドラ』だ。

 

「変な術?」

「これだ、これ!変な声が聞こえてくる奴だ!」

「あぁ……それか」

「やっぱりお前か!」

 

 何処からともなく聞こえるせいだろう。

指差す方向が分からず、アンちゃんはとりあえず上を指差した。

 

「くぅ~~!!」

「はっはっは、楽しそうだね!」

「んなわけあるか!バカァァッ!」

「あちゃー!?」

 

 声の主におちょくられていると思い苛立つも声の主には何も出来ない。

結局は術主のアズドラにアンちゃんは手につけていた炎を向けて放ち、見事にそれは命中した。

普通であれば、火傷どころじゃ済まない炎だ。

しかし、相手は腐っても四天王の一人、軽く手で払う程度で炎は消えた。

ちなみにアンちゃんは『バカァァッ!』が口癖で目を瞑って全力でツッコミをいれる。

 

「いちいち解説するな!それで、これは何だ!」

「あー……ヴァミリオちゃんがさ。最近元気なさそうだなーと思って」

「……」

「楽しんでもらえるかなっと」

「楽しむどころか、驚きと怒りで燃え上がったぞ」

 

 普通であれば、そうだろう。

行き成り声が聞こえて、自分の事について解説をしてくるのである。

どう考えても不気味に思えど、楽しいという感想には至らない。

しかし、そういった考えをガン無視してアンちゃんを構うのが変態アズドラだ。

ちなみに構い過ぎてアンちゃんからは信頼されてるものの嫌われている。

 

「……一応、僕は術主なんだけど」

「ふん、いい様だ。それでこの術は何時切れるんだ」

「……」

「……」

 

 極当然の質問に対して、アズドラは口を閉じた。

勿論、アンちゃんも答えを聞かずに『はい、そうですか』と帰るわけもない。

ただただ、ひたすら二人の間で沈黙と言う名の時間が過ぎていく。

 

「おい」

「えー……と、ヴァミリオちゃんが本気で楽しむまでかな?」

「なんだそれ」

「最初に言ったじゃないか、楽しんでもらえるかなって」

「……」

 

 何時までも沈黙を保つアズドラに痺れを切らした。

腕を組んで答えを待っていたアンちゃんは、手に炎を出し先を促した。

促せば、アズドラは少し困ったように笑い素直に答える。

と言っても、アズドラは知恵も回る変態であり、本当の事を言っているかは分からない。

現にアンちゃんは、表情をムスっとさせて真意を探るように鋭い目を向ける。

 

「私は楽しんでいるぞ。人間達との溝もなくなり、協力関係を結べた」

「……」

「最近では新世界の魔物も見なくなった。平和そのものだ」

 

 鋭く視線を送っていたものの、アズドラの言葉に返すように現状を述べた。

帝国は多種多様の種族が暮らしており、魔王と言う存在も居る。

その為、長い間、大地の毒から生まれる魔物達をけしかけているのが帝国だと人間の国は勘違いしていた。

しかし、そんな勘違いも、とある出来事により解けて現在では互いに共存を目指し歩みよっている。

 

 北の国からの脅威が消えてはいないが、何時もの事。

人間の国のある東の大陸と和平を組めたことで負担はかなり減った。

ある意味で言えば、現状は前よりも幾分か平和になったと言える。

 

「民達も平和を謳歌している……まぁ、あいつ等は何時も楽観的に楽しく暮らしてるがな」

「そうだね」

「ほら、苦しいことも辛いこともない。私は前よりも楽しんでいる」

「……」

「分かったら、さっさとこれを解け。解けないなら、少し時間をやるから解け」

「それ……どちらも同じだよね?」

「分かってるじゃないか」

 

 そう言うとふふっと軽くアンちゃんは笑った。

その笑顔は何処となく透き通った、背負う物が全てなくなったような晴れやかなものだ。

 

「……本当にイラつくな。この声」

「……ヴァミリオちゃん」

「今度はなんだ」

「質問を変えよう……彼が居なくて寂しくない?」

「……もちろんだ」

 

 ちっと舌打ちをしてやっぱり、明後日の方向を睨むアンちゃん。

そんな彼女にアズドラが何処となく心配そうな表情で『彼』の事を聞く。

聞かれたアンちゃんは面食らったのか、少し間を空けてから何事もないように口にした。

二人の間で彼と言えば、一人しか居ない。

二人は互いに同じ人を思い浮かべ、少しの間思い出し、しんみりとした空気を作り出す。

 

「あぁ!もう!燃やしたい!」 

「う~ん……ここまでうざいとは思わなかったな。やれやれ」

 

 そう言うと、アズドラは空中に指で何かを描き出す。

指先から魔力を発しているのだろう。

淡い青色の光が指先からあふれ出し、指の動きを追っていく。

 

「何をしているんだ。解いたのか?」

「さっきも言ったけど、それは無理。この術の解き方は、ヴァミリオちゃんが本気で楽しむまでだ。例外はない」

「だから、私は楽しんでいると……まぁ、いい……それならばなにを?」

「これだとプライバシーも何もないからね。とりあえず、改良してヴァミリオちゃん以外の人には聞こえなくしたよ」

「なるほど……確かに、このままだと誰にも会えなかったな」

 

 心情が全て説明され続けるのだ。

確かにこのままでは碌に他人に会えない。

その事に気付いて、アンちゃんは一つ頷き納得した。

 

「……もはや呪いだ」

「あははは……ごめん、すぐに解けるように頑張るから」

「はぁ……楽しくなるどころか、ブルーだ」

「ならば気晴らしに城下町にでも行って来たらどうだろう?」

「城下に?」

「屋台とかも開いてるだろうし、見回りついでに何か美味しい物でも食べてくるといい」

「……」

 

 アズドラも流石にやり過ぎたと反省したのだろう。

すぐさま、術を解除すべく本を取り出し解除方を探しだした。

その間、慰めと言うべきかアンちゃんの気を紛らわすべくそんな事を提案する。

アンちゃんは、腕を組み少し考えるも静かに頷く。

 

 このままじっとしていても声は聞こえ続けるのだ。

ならば少しでも喧騒の多い所に行って声を紛らわせたいと思ったのだ。

 

「……はぁぁ、いってくる」

「いってらっしゃい!何か買うことがあれば僕の名を出していいから、お詫びだ」

「ちっ……いっぱい食ってやる」

「……そこで小物とか服を買わないところがヴァミリオちゃんらしいなー」

「うるさい!それとちゃんを付けるなと言っているだろうがっ!!」

 

 言わなければ良いものを余計な一言をアズドラが言い、それに対して気分を悪くしたアンちゃんはどしどしと音が聞こえそうな足取りで外へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 暫くの間、機嫌悪そうに足音を立て歩くも虚しくなり、普通の足取りに戻した。

その時に溜息を付いてしまったのは、何処からともなく聞こえる声のせいか、はたまたアズドラのせいで彼を思い出したせいか。

いや、きっと両方なのだろう。

 

「……」

 

 アンちゃんは、がっくりと肩を落すとそのまま歩く。

話す相手も居ないので声は発しない。

しかし、それが逆に彼を思い出す切欠となってしまう。

 

(いや……そういった事を聞かされたら嫌でも思い出すだろう。……嫌な思い出じゃないけど)

 

 彼とアンちゃんが出会ったのは、数年前の魔王決定戦だった。

 

「何か始まったな!?」

 

 魔王が人間の勇者に倒された――。

それは二百五十五年ぶりの快挙であり、人間達は沸き立つ一方で帝国では新しい魔王を決めるべく大会が開かれていた。

本来であれば、その大会の責任者はアズドラなのだが、彼は不幸な事故に会ってしまいアンちゃんが代わりを務める。

その大会に彼、勇者ヘルクが居た。

身長は二メートルに届くほどの大きな巨体に半裸マントで筋肉だるまな勇者。

 

「……ぷっ」

 

 『人間が憎い、人間を滅ぼそう』と笑顔で言い切るヘルク。

そんな彼にアンちゃんは、最初は敵だと騙されるかと優勝させないように様々な妨害をした。

戦闘からトランプタワー作りにしたり、料理対決にしたりと本当に妨害をしまくった。

 

(……くっくっくっ、そんな事もあったな)

 

 しかし、そんな妨害もなんのその。

巨体に見合わぬ繊細さと優しさで全てを乗り切ってみせた。

決勝戦では、ヘルクを監視するために『アン』と名乗り同行もした。

最後の最後に予想外の事があり、アンちゃんとヘルクは大陸の外へと飛ばされ、帝国に戻る為に共に旅をすることとなる。

本当に色々とあった。

 

 最初の島でピウイと言う名のテンションが高く好奇心旺盛で鳥の様な生物と出会い。

島にあった村の人達と交流し、魔女に出会い海を渡った。

その際にピウイが付いてきて、二人旅から三人旅となる。

他にも国潰すと言う横暴な王から国救ったり、砂漠を渡り、列車にも乗った。

 

(懐かしい……)

 

 最初はヘルクを敵と思っていたアンちゃん。

でも旅の中で彼に触れていく事にそんな考えも変わった。

短い間であったが、彼と彼女の間には確かな絆が出来上がった。

 

 ヘルクの人間が憎い理由、人間と帝国との戦争、本当の敵との戦い。

何度も絶望しそうになりながらも希望を紡いでいく戦い。

最後の最後には全てを救ってのハッピーエンド、その筈だった。

 

 一言で言えば黒幕はしぶとかったのだ。

正確に言えば不滅だった。

黒幕はヘルクを最後には敵と認識し、彼を消さんと今もなお闇の中を蠢いているだろう。

だからこそ――彼は旅立った、誰にも迷惑を掛けない様、自分同様の苦しみを背負った人を助けるべく。

 

(……)

 

 城から外を出て、城下町を歩く。

城下町は賑わっており、よく分からない芸をしている奴や変な物を売っている奴も居る。

中には旅衣装を着込み、『宿を最初に取るぞ』『食べ物が先だろ』と話し合っている旅人ともすれ違う。

そんな彼等の横を通り過ぎれば、否応にもなく旅の事を思い出してしまう。

そして、思い出せば自然と彼の顔を思い出し、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 

 ヘルクは、アンちゃんにとって大事な友人なのだ。

あの時は、また会えるからと寂しくはないと思っていた。

しかし、実際に時を過ごしてみればどうだろうか。

 

(うるさい)

 

 何時も笑顔で――。

 

(うるさい!)

 

 予想不可能な行動をして驚かせて――。

 

(黙れ!)

 

 意外に手先は器用で――。

 

(黙れ!!)

 

 誰よりも強くて――。

 

(黙ってくれ……)

 

 誰よりも優しい彼は隣に居ない。

そのことが寂しさが胸に突き刺さる。

 

「……」

 

 また会おうと約束した。

いつか会える日を楽しみにしていた。

しかしだ、日々を過ごしていく内に一つ疑問が浮かぶ。

会える日とは何時の事だろうかと……そう思うようになってしまったのだ。

 

「はぁ……」

 

 そんな事を考えていれば何時の間にか足が止まってしまっていた。

下を向き、堪えるように手をぷるぷると振るわせる。

四天王の一人だと、私は赤のヴァミリオだと言い聞かせ冷静に努め要する。

しかし、今日ばかりは我慢が出来なかった。

 

……だと言うのに!何でそこで屋台を開いているんだお前はっ!!

 

 なにせ、アンちゃんの隣の屋台で旅に出た筈のヘルクが肉を焼いていたのだ。

先ほどまでのシリアスは一体何なんだと私の思いはどうしろと色々と限界に達した。

 

「あ……アン、久しぶり!」

 

 そんなことを知らないヘルクは、アンちゃんに気付きスチャっと切れ良く手を上げて挨拶を交わす。

勿論、人の良い笑みでだ。

そんな彼をアンちゃんはじーとジト目で見つめる。

『あぁ……そういえば、こいつはこういった奴だった』と思い出したのだ。

 

 海に沈んだと思えば、先にゴールしていたり何かと予想外の事をしですかす。

この友人はそういった事が大得意であった。

 

(はぁ……おかしい、会えて嬉しい筈が全然嬉しくない)

「どうかした?」

「こっちはどうもしていない。むしろ、ヘルク……お前がどうした」

 

 アンちゃんの中で会えて嬉しいという感情が一瞬で吹っ飛んでしまった。

 

(もうちょっとロマンチックな再会とかコイツは出来ないのだろうか……無理か、無理だろうな)

 

 と思ってしまうほどに久々に強烈だったのだ。

姿かたち、笑顔まで数年経っても一切変わらないヘルクを見て『黒幕はどうなった?』『お前の旅に着いて行ったアリシアは何処へ行った?』などアンちゃんの中で様々な事が思い浮かぶ。

 

「あぁ……大丈夫。なんとかなった」

「……そうか」

「うん」

「……」

「……」

「ってそれだけか!」

「お……焼けた」

 

 そう思っていれば、じゅじゅうといい音と匂いをたたせつつ肉を焼き続けつつ、あっさりと黒幕の問題が解決した事を突きつけられる。

ここまであっさりだと逆に清々しく、思わず『あっ、そうなんだ』と思ってしまったほどだ。

 

(というか肉を焼くな!手を止めろ! いや、手を止めると焦げるから駄目だけど!)

 

 深く考えようとするも目の前で美味しそうな肉を焼かれて集中力が散ってしまう。

 

「食べる?」

「……食べる」

 

 それでもぐぬぬぬと頭を抱えていれば、ヘルクが串に刺して焼き終えたばかりの肉を差し出してくる。

その肉は綺麗に焼き目が付いており、綺麗な肉汁で表面がコーティングされ光輝いていた。

素人でさえ、その肉を見れば最高の味を引き出された状態だと分かるほどでアンちゃんは勿論の事、周りの様子を見ていた魔族達も喉を鳴らす。

 

 アンちゃんは、それを受取ると少し息を吹いて冷ましてガブリと豪快に肉に噛み付いた。

肉は思っていた通り、良い肉を使用しており歯が簡単に肉に食い込んで噛み千切れる。

肉を噛めば、噛むほどに口の中に肉の旨みが広がっていき脳に直接食い込むような感触を覚えた。

 

 何より、味付けが塩胡椒のみというのが合っている。

ほんの少しのしょっぱさと胡椒の風味。

この二つが肉を飽きさせない。

まぁ……何を言いたいかというと――。

 

んまぁぁい!!

 

 両手で拳を作り、力を一杯込めてそう叫んだ。

アンちゃんのいい所の一つ、食べ物の評価は常に全力で素直にである。

 

「そうか、良かった。口に合って何よりだ」

「くっ……脳を突き抜ける美味しさとはこのことかっ!」

 

 初めて味わう感覚に恍惚となりながらも残りの肉を味わっていく。

既に先ほどの出来事など地平線の彼方、黒幕などどうでも良くなった。

 

「俺にもくれ!」

「おれっちにも!」

「私も!」

「僕も!」

「オイラにも!」

 

 肉を食べていれば、様子を見ていた一般市民がヘルクの屋台に群がっていく。

そんな光景を見つつアンちゃんは久々のヘルクの料理を命一杯楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、詳しく聞かせろ」

 

 ヘルクの屋台が閉じるまでそう時間は掛からなかった。

魔族は楽観的な者が多く、楽しいことに目がない種族だ。

何かに群がる魔族達を見れば『おっ、何か面白いことでもやっているのかな?俺も混ぜろ!』的な考えてどんどんと増えて行く。

現にあの後、ヘルクの屋台は爆売れとなり数十分ほどで材料が切れる事態となってしまう。

まぁ、ヘルクの料理が最高に美味いと言うのも一つの理由ではあったが。

 

 屋台が閉店すれば、後は片づけのみ。

アンちゃんは休憩用の椅子を一つ拝借し、片づけをしているヘルクの背に声を掛ける。

その際に食べ終えた串の棒を綺麗に燃やし尽くす。

 

「うん、どれから聞きたい?」

「そうだな……まずは、アリシアの事だ。一緒じゃないのか?」

 

 最初の聞いた質問がそれであった。

ヘルクの友人、もっとも救いたかった友人達の一人。

一緒に旅に出た筈の彼女の姿が見当たらないのだ。

 

「アリシア……は」

「……」

 

 アリシアの事を聞けば、ヘルクは手を止めてしゅんぼりと肩を落す。

そんな彼を見てアンちゃんは腕を組み何も言わず、答えを待った。

普通であれば察して『まさか……っ!』とか『そんな……いい奴だったのにっ!』とか声を掛けるべきなのだろう。

しかし、アンちゃんは何も喋らない。

ここで下手に何かを言えば、どんでん返しを食らうと前の旅で学んだのだ。

 

「結構無理させちゃったし、クレスのお城で休養してるんだ」

「そうだと思った。怪我とかは?」

「うん?ないよ」

「だろうなー……」

「アンに会いたがってたよ」

 

 やっぱりと言うべきか、帰って来た答えは拍子抜けするようなものであった。

詳しく聞けば、あれからも黒幕は執拗にヘルクを狙い、アリシアは黒幕と戦う彼を支えるべく奮闘したらしい。

しかし、勇者ヘルクと違いアリシアは戦闘力があるといっても一般人。

過酷な旅で疲れが溜まってしまったとのこと。

そんな彼女を労わるべく、ヘルクの弟であり、人間の王をしているクレスの元に預けてきたと話す。

 

「はい、ココア」

「ん、ありがと」

 

 片づけを終えるとヘルクはポットを取り出し、カップに注ぐとアンちゃんに渡す。

渡された物は、暖かいココアで旅の中で何度も飲んだものだ。

 

「じゃあ、次だ……あれはどうなった?」

「……うん、何度も襲ってきたよ」

(やっぱりか……一回叩いただけで諦める奴ではないか。それでもヘルクは大丈夫といった。なら、問題なくなったのだろう)

 

 ヘルクはアンちゃんの前に座ると少し暗い表情で視線を地面へと落す。

アンちゃんはそんな彼を見るも最初に言われた言葉を思い出していたので落ち着き払っていた。

 

「何度も襲ってきて、殴って、殴られて、殴って、殴られて」

「……」

「殴って、殴って、殴って、殴って」

(途中から一方的になってる……)

 

 静かに黒幕がどういった結末を迎えたのかを聴いていたのだが、聞いている限りではほぼ一方的な内容だ。

思わず、飲んでいたココアが口からダラーと垂れるほどに呆れた。

 

「最後には少し話をして、それで時間を貰った」

「話せたのか……というかまた触れたのか」

「うん」

(……そして説得方法が物理な気がする)

 

 アンちゃんの頭の中でひたすら殴り続けるヘルクが思い浮かぶ。

一筋縄でいかない相手、そんな相手であるもののヘルクの前では形無しだ。

それほどまでにヘルクは心も体も強い。

 

「根本的な解決には到らないけど、暫くは大丈夫なはずさ」

「そうか……こっちも安定してきたばかりだ。ありがたいな」

「うん。人間の国を通ってきたけど、あの時の事が嘘のように活気に満ちていたよ」

「ふむ」

 

 ヘルクはそこまで話すと何時ものように笑顔で通ってきた人間の国を話す。

先の戦いで人間の国は壊滅的な被害を受けている。

帝国側も協力し、だいぶ復興したとアズドラから聞いてはいた。

しかし、アンちゃんは話を聞いただけで実際に見たことはない。

人間側との関係を取り纏めているのはアズドラであり、アンちゃんは帝国側の事務に集中していた。

そういった事もあり、改めて人間の国がどうなっているのか気になる。

 

「一緒に行ってみるかい?」

「……それって」

 

 そう思っていれば、ヘルクから素敵な提案を受けた。

しっかりと視線を合わせ、そう言ってくるヘルク。

そんな彼の言葉にアンちゃんは、心にぐっとくるものがあった。

 

(前の様なものではない……それに短い距離だ。それでも……それは)

 

 またヘルクと旅が出来る。

それは何とも魅力的だ。

しかし――

 

「それは出来ない。私は『赤のヴァミリオ』帝国が誇る帝国四天王の一人だ」

「……」

「悪いな。そう簡単に動ける立場ではないんだ」

 

 アンちゃんは本当に嬉しかった。

ヘルクが旅立つ時に約束したこともあり、本当は旅をしてみたい。

でもだ、ヘルクの目をしっかりと見返し強く言い切った。

アンちゃんの体は一人の物ではない、民達を守るという責任があるのだ。

 

(まさか……私が約束を守れなくなるとは)

「……そうか、残念だ」

「ヘルク……あのな」

 

 アンちゃんの言葉にヘルクは本当に悲しげな表情で肩を落す。

その様子から、彼もまた旅を楽しみにしていた事が分かり、胸が締め付けられ苦しくなった。

そんなヘルクを見てアンちゃんも正直泣きたいぐらいだ。

それでもぐっと堪えて、ヘルクに謝ろうと口を開いた。

 

「ちょっと待ったー!!!!」

「ん?」

「おっ」

 

 そんな時であった。

何やら、上の方から声が聞こえてきたのは。

その声に釣られて、二人して声のする方向、屋台の上を見ればそこには変態が居た。

 

「変態って……」

「変態だろ……アズドラ、なんだ。その変な仮面は」

「やぁ、アズドラ!久しぶり!」

「げっ……もうバレてるし」

 

 屋台の上には先ほど、アンちゃんに変な術を掛けた張本人であるアズドラが居た。

長いマントをたなびかせ腕を組み、何とも言えないようなムカツク表情をしている仮面を付けている。

そんな奴を変態と呼ばずにして何と呼べば良いと言うのかと思った。

 

「まぁ、いいや……」

「いいのか」

「はははは、相変わらず愉快だな。アズドラは」

 

 一発で正体が知られたことにショックを受けたのか、アズドラはがっくりと肩を落として軽く飛ぶと二人の隣に立つ。

そんな彼をヘルクが愉快そうに笑う。

 

「久しぶり、ヘルク。元気そうだね」

「うん。そっちも変わらないな」

 

 降り立った後は、ヘルクとアズドラが挨拶とばかりに握手を交わした。

先ほどの件はこれでなかったことにするつもりらしい。

 

「それで、何しに来た。術を解ける方法を見つけたのか?」

「術?」

「んー……そうじゃないけど、そうとも言う」

「は?」

 

 約束を破ってしまった謝罪を邪魔されて、少し不機嫌にアズドラに問う。

少し期待したが、アズドラはアズドラであった。

 

「ちょくちょくディスるね」

「それはいい。術の解除でなければ何なんだ」

「それだよ」

「どれだ」

 

 ビシっとアンちゃんを指差すアズドラ。

そんな彼を胡散臭げにアンちゃんは見返す。

 

「ヴァミリオちゃん。人間の国にヘルクと共に行って来るといい」

「……はぁ?」

「ちなみにこれは仕事だ。本来であれば僕が定期報告に人間の国行かなければならないのだけど、仕事が入って行けなくてね」

「ちょ、ちょっと待て!」

「代理の人を探してたんだけど、報告の相手は人間の王クレス。それなりの立場の魔族でなければいけない」

「待てって!」

「そこで僕と同じ四天王であるヴァミリオちゃんに行って貰おうとね」

 

 矢継早に話すアズドラに混乱したアンちゃんがストップをかける。

しかし、アズドラの口は止まらない。

 

「何も考えず、楽しんでくればいいんだよ」

「いやいや、私の仕事はどうする!」

「それは僕がやっておくよ」

「あのな……前の時はお前が負傷したからの特例で簡単に代わる事は……」

「あ……皇帝の許可は得てるよ『好きにすればー』だってさ」

「軽いな!?」

 

 これにはアンちゃんも頭を抱えるしかない。

何しろ、断ろうにも仕事であり皇帝の許可も得てしまっている。

断る理由がなくなってしまったのだ。

 

(くっ……!旅行に近いが旅は旅だ。嬉しくあるが……さっきの出来事の後だと何か気恥ずかしい)

 

 縛る鎖が解けた。

へルクが旅立つ時に言った『また旅をしよう』と言う約束を守る事が出来るのだ。

嬉しくてしょうがない。

しかし、かっこつけた手前、あまり嬉しそうにするのも恥ずかしい。

心は決まっているものの腕を組み考えているふりをしつつ、どんな反応を返せばいいかと考え込む。

 

「アン」

「……なんだ」

 

 そんな葛藤をしていれば、ヘルクがアンちゃんに声を掛けた。

その声に釣られて見れば、ヘルクはとても穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「俺はもう一度アンと旅をしたい」

「……」

「さっきはそれが叶わないと知って落ち込んだけど、今はとても嬉しいんだ」

「っ!」

「アンはどうだろうか?」

 

 満面の笑みでだった。

何よりエルクの偽りのない真っ直ぐな気持ちが突き刺さる。

こう言われては出来る反応など一つだけだ。

 

「ッ……わ、私は……私も「ボクもうれしいっ!!」……」

 

 素直になり、頬を染めつつも最後の抵抗とばかりに視線だけを逸らす。

まさにヒロイン的な行動であった。

しかし、そんな行動を阻むものが現れアンちゃんは何とも言えない微妙な気持ちとなる。

 

「おっ!ピウイ、久しぶり」

ヘルク、ひさしぶりっ!

「……」

アンちゃんもひさしぶりっ!

「……お前という奴はっ!」

 

 アンちゃんを遮ったのは一匹のうす緑色の大きくて丸い鳥のような生物だ。

何処を見ているのか何を考えているのか分からないような表情をしており、常に全力で叫ぶように喋っている。

そんな鳥の様な生物は『ピウイ』と言う。

 

 飛ばされた島に住んでいた住人でアンちゃんとヘルクの旅に着いて来た友達だ。

そもそもヘルクが旅に出る時に『もう一度旅をしよう!』と言う約束を言い出したのがピウイだった。

戦いも終わり、魔女と共に島に戻るのだろうと思っていたピウイだが、仲良くなった友達との約束を守る為帝国に残っていた。

帝国住まいであるが、アンちゃんは残念ながら忙しかったのでピウイとはあまり会えていない。

たまに元気にしていると報告を受けるぐらいで実際に会えて嬉しいのだが、時と場合を考えて欲しいと思う。

 

「……はぁ」

「おや、アンは少しお疲れかな?」

ごめんなさいっ!

「許す。流石に慣れた」

 

 少しばかり怒りが沸き起こるも全力で謝るピウイを見てそんな気も失せる。

 

「さてと……行こう」

「うん?」

「……」

 

 一度ピウイの行動に対して肩を落すも、すぐに顔を上げて一言言う。

 

「短いが旅は旅だ。もう一度、一緒に旅をしよう」

「うん!」

「……」

 

 さっきの遣り取りで余計なことが吹っ飛んでしまったのだ。

何も考えなくてもいいのだ、恥ずかしがる必要もない、素直にやりたい事、言いたい事を言えば良い。

なんせ、三人は友達なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところでアンちゃん!

「なんだ?」

この変な声なに!?

「……うん?」

「あ……俺も気になってた。どうもしていないって言われたから何かの遊びかなと思ってたんだけど……」

「さて……僕は仕事に取り掛からないと」

 

 さぁ、いい具合に纏まり旅立とうと、そんな時だった。

先ほどから黙り込み、アンちゃんを見ていたピウイが唐突にそんな事を聞いた。

どうもアンちゃんの心情を喋りだす謎の声が気になっていたらしい。

その事をピウイが告げれば、アンちゃんの表情が笑みを浮かべたまま固まり、アズドラがわざとらしく逃げ出す。

 

「おい、アズドラ」

「……な、なにかな?」

「私が城下町に降りる前に声は私以外には聞こえないって言ったよな?」

「……待て、これには理由があってだね」

「ほぉ……」

 

 勿論、アンちゃんは逃すような事をしない。

器用に炎を伸ばし、アズドラの行く手を阻む。

そして腕を組み、アズドラに冷たい視線を送れば命乞いなのか冷や汗を掻きながらアズドラが弁明をし出す。

 

「ヴァミリオちゃんの事だから、素直に旅立ってくれないと思ってね」

「……ふむ」

「それならば素直な気持ちを外に出してしまえば、断れないだろうと思ったのさ!」

 

 そう言って視線を逸らすアズドラから、アンちゃんは視線を他へと向ける。

主に城下町の通路のほうへとだ。

 

「アンちゃんよく言った!」

「青春だねぃ」

「というか、先ほどアズドラ様がヴァミリオちゃんて言ってたけど、あの人が?」

「ひゅーひゅー」

 

 そこには数多くの魔族がおり、皆して四人のほうへと視線を向け笑っていた。

誰も彼もがこの遣り取り含め、アンちゃんの心情が聞こえていたことが分かる。

その事を確認し終え、アンちゃんは怒りでわなわなと震えだす。

 

関係ない奴にまで丸聞こえじゃないか!!このバカァァァァッ!!!

「ぷぎょるばぁ!!?」

 

 結局、アンちゃんは恥ずかしい目に合い。

アズドラは許される事がなかったとさ。

ちなみにその日、三人が再会した事を祝ってか帝国にある一つの街で大きな花火が打ち上げられたらしい。

 

きれいだった!!

「この声は何時になったら消えるんだ!?」

 

 




一巻が無料で配信されていたので読みました。
その日に全巻を大人買いし読み終えてしまった。
久々に骨太な勇者ファンタジーで面白かったです。

最後にアンちゃん可愛い!

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