絶命した小町の上に覆い被さる八幡を見ていた、ゆきのんと呼ばれていた美少女、雪ノ下雪乃は、実の姉である雪ノ下陽乃に視線を変え、睨めつけていた。
「こっわ〜!そんなに睨まないでよゆきのちゃん!私は何もしてないでしょ?」
「ええ、姉さんは何もしていないわ。ここに倒れている男が私に武力を働き、終いには私の刀でカバネを殺した。この男は一体だれなの?」
八幡を睨みながら雪乃は陽乃に問いかけた。
「雪乃ちゃん。最近カバネリがこの総武城に来たのは知ってるよね?」
「ええ、知ってるわ。若いカバネリが女の子を抱えながら駅で倒れていた。だから平塚先生が助けたと聞いているけれど…まさか、この男がそのカバネリだと言うの?」
「え!?」
「せいかーい!」
陽乃から知らされた驚愕の事実に、雪乃と横から話を聞いていた、もう一人の美少女は驚いていた
「まぁとりあえずは比企谷君を運ぼうよ」
未だに驚いている雪乃達を尻目に、陽乃は八幡を抱えながら救護室へと向かった
「…カバネリ。ふ、ふふふ、はははっ!!!」
「…やっと見つけた。これからが楽しみだ」
怪しく嗤う男がいる事に、誰1人気づくことは無かった
陽乃から八幡がカバネリと聞いた衝撃から比較的早く回復した雪乃は、自身の唯一の友であり、親友である由比ヶ浜結衣が明らかに衝撃による表情をしていない所を怪訝に思い、問いかけた
「由比ヶ浜さん?どうしたの?」
「あっゆきのん…ほら、比企谷君がカバネリつだってさっきわかったじゃん?確かにそれには驚いたんだけど、それよりも優美子とかどう思うかなって…」
「……」
結衣の言葉に雪乃は、返事も忘れ、思わず考え込んでしまっていた。結衣は雪乃が考え込んでいる事を理解しつつも、自分の意見を話し始めた
「きっと優美子は、同情すると思うんだ。カバネリって事はさ?結局じんたいじっけん?のせいでそうなったって事でしょ?それに妹はカバネになって…全然比企谷君の事知らないけど、絶対同情されるのとか嫌いだよ!だから比企谷君が孤立しないか心配…」
考え込んでいながらも、しっかりと結衣の主張を聞いていた雪乃は自分の考えも混ぜながら、話をまとめにかかった
「確かに、三浦さんは同情するかもしれないわね。というか私も同情するわ。あそこまで人生をめちゃくちゃにされるなんて、普通では有り得ない。でも多分比企谷君は、復讐に走ると私は思うわ。だから多分三浦さんに同情されようと大丈夫だと思うわよ。」
「そっか!なら安心だね!」
雪乃は意見を聞き、結衣は満面の笑みを雪乃に向けた。しかし、雪乃はほんの少し微笑み返しただけで、すぐに思案顔へと表情を戻していた
「どうしたの?ゆきのん。まだ何か問題があるの?」
結衣の問いかけに雪乃は頷き返し、回答を示した
「三浦さんとはきっと大丈夫。それは間違えないと思うわ。あの人見た目に反してとても優しいのは私にもわかるから。ただ、私は葉山君が心配なのよ」
「隼人くん?隼人くんならなんか普通に仲良く接しそうじゃない?」
雪乃の意見に被せられた結衣の意見。どちらかと言えば、結衣の意見の方が有り得る話だと、関係者なら分かる内容だ
「ええ、相手が普通の人間ならば、ね」
雪乃のこの言葉に結衣は少しムッとした顔をして、雪乃に軽く反撃をした
「ゆきのんが隼人くん嫌いなのは知ってるし、仕方ないとは思うけど、隼人くん、別にそんな差別する人じゃないよ?むしろ、比企谷君を傷つける事は言わないはずだよ」
親友である結衣からの思わぬ反撃に多少驚きつつも、別に葉山を貶める発言をしたつもりは無かった為、素直に謝り、雪乃はより詳しく話し始めた
「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。別に葉山君を悪くいうつもりは無かったわ。でも由比ヶ浜さんも知っている筈よ。葉山君のお父さんは、カバネリに殺されているのよ?」
雪乃からの言葉に結衣は思わず口を手で覆い、驚愕を露わにして言葉足らずに話し始めた
「じゃ、じゃあ隼人くんは、比企谷君に復讐するって、こと?」
「そうなる可能性が高いと思うわ」
「正直、そうなってしまっても、私達には多分、止めることはできないでしょうね…」
「そ、そんな…」
雪乃の示した答えに、結衣は人柄故にか、まるで自分の事のように悲しんでいた
一方その頃、陽乃に運ばれていた八幡は、陽乃の背中で目を覚ました
「…え?あれ?ちょっなんで運ばれてるんですか俺!」
「あっ起きた?比企谷君はね〜妹ちゃんを倒した後すぐに倒れ込んだよ!まぁ今日はずっとハードな稽古をしてたし、疲労が蓄積してたんだろうね。そこに妹ちゃんを自分の手で殺したというストレスから気を失ったんだと思うよ!」
「いや、そんな笑顔で言う話じゃないでしょ…とりあえず降ろしてください、もう大丈夫なんで」
陽乃のトラウマを抉るような物言いに、八幡はげんなりしつつ、しっかりと自分の言いたい事は伝えていた
「えー?まだゆっくりしててもいいのにー!ってはいはい、降ろしますよー」
からかう様に後ろを目線をやりながら言った陽乃は、八幡の刺すような視線に居心地を悪くし、素直に八幡を降ろした
「運んでくれてありがとうございました」
「全然気にしなくていいよ!」
八幡の素直な感謝の言葉に陽乃も素直に答えた
「…それで?比企谷君はこれからどうするの?」
「そうですね、とりあえずは寝ますかね。明日からとりあえず明日考えます」
質問に答えた八幡に陽乃は鋭い視線を浴びせ、言った
「私のした質問がそんな事を聞いてないってことは、分かってるでしょ?分かっててそんなこと言うんだ?へぇ〜…次が最後だよ?比企谷君は、これから、どうするの?」
目を細め、普段の明るい表情からは想像も出来ないほど冷たい顔をした陽乃に寒気を感じた八幡は、即白旗をあげ、素直に答えることにした
この時、八幡の下着が少し湿ったのは、八幡以外に知られることは無かった
「…今日稽古してみて、分かりました。俺には技術が足りません。剣術だけではなく、銃や弓、全てが足りません。俺は、自分の無力さに絶望しました。こんな俺だから、俺は小町を死なせてしまったんだと、死なせないと、絶対に守ると決めたのに、守れませんでした。ここで俺が小町の後を追って死ぬのも一つの道かも知れません。でもきっと、小町はそれを望まない。なら俺に出来ることは、2度と小町のようになる人を少しでも救うために、鍛えるだけです。これからすることは死ぬ寸前まで稽古をする、それだけです」
長く語った八幡の目をみて、陽乃はため息をこぼし、更に冷気を放っていると錯覚する程に冷たい声で告げた
「そんな建前いらないよ。君の本音を話なさい。すべて!」
最後には声を荒らげた陽乃に応えるように、八幡も声を荒げながら言った
「俺は!他の人なんて正直どうでもいい!あなたも!静先生も!俺が成長する為の踏み台だ!俺は小町をあんな姿にした俺を殺したい!でもその前に!海田を殺したい!海田を殺して!カバネを根絶やしにして!俺も死ぬ!これが!俺のこれからやりたい事、これからの理想像です!」
八幡の魂の叫びを聞けた陽乃は満足そうに頷き、俯いている八幡へと近づき、優しく抱きしめた
「君は、復讐に走っていい。君の事は私が支えてあげる。この私の事を踏み台って言ったんだからこれからの稽古は容赦しない。まっ最初っからするつもりはないけど!」
そう言いながらカラカラと笑う陽乃に、八幡はどこかで感じたことのある温もりを感じていた。それがなんの温もりなのか、まだ気づいてはいないが…
「君の復讐は私が手伝ってあげる、最強のカバネリにしてあげる。だから私の事も手伝って欲しい。君にしか出来ないことがあるの。手伝ってくれるよね?」
あまりにも弱々しい陽乃の声に、とうとう耐えれなくなり、八幡はここでようやく顔をあげた。そして陽乃の顔をみて、驚愕した
「陽乃さん…なんであなたが、泣いてるんですか?」
そう、あの雪ノ下陽乃が泣いていたのだ。知り合って時間はあまり経っていないが、それでも雪ノ下陽乃がそう簡単に泣くような女の子では無いことは、さすがの八幡でも理解していた
そんな雪ノ下陽乃が泣いていたのだ。驚くなという方が無理な話だろう。
「君は、私とダブるの。別に私がカバネリって訳じゃないよ?妹も雪乃ちゃん生きてる。でもね、自分を押し殺して、押し殺して、それが普通になって、自分がおかしいんだって分かってても止めることができない。そんな憐れな人間。それが私、そして君も。私は自分と似ている人に初めて出会った。君は私が育てる。だから、私と一緒に行こう?」
陽乃の告白に、八幡の心は揺らいでいた。つい先程陽乃のこと踏み台と言ったのだ。そんな相手に信頼を寄せるなんて出来るのかと、しかし、悩んでいる時点で八幡は陽乃の要求を断る事は出来ない。嫌だと思っていないから。そして遂に八幡は決断を下す
「分かりました…俺になにが出来るかなんて分かりません。それでも俺が力になれるのなら、俺はやります。陽乃さんが泣いてまで伝えてくれたんですから。それを断るほど男を辞めちゃいませんよ」
そう苦笑いを浮かべながら答えた八幡をみて、陽乃は再び涙を浮かべ、静かにこぼした。
その時、
ピカッピカッ
「…っ!心臓が!!!」
突然の現象に戸惑いを隠せない八幡は大声をあげ、顔全体に不安を浮かべていた。そんな中陽乃は、先程まで泣いていたのが嘘かのように冷静に状況を理解し、自分の首筋を八幡に差し出した。
「比企谷君、ううん、八幡。それはね、カバネリの吸血症状の際に起こる現象なの。身体がよりカバネに近づこうとしてるからだと思う。だから私の血を吸って、八幡!」
そういうと陽乃は更に八幡の方に首筋を近づけた
「俺は、吸いたく、ないです。陽乃さんの事手伝うって言いましたけど、まだ信用出来ない部分はやっぱりあります。そんな人から一方的に恩を売られたら、俺は奴隷も同然では?違いますか?」
八幡の主張に陽乃は首筋を引っ込めたが、何を思ったのか、自分のひた唇を噛み、血を流し始めた
「八幡が私の事、まだ信用できないってのはよく分かったよ。でも絶対これで信用できるよ」
そう言うと陽乃はニヒルと笑い、八幡目掛けて飛びかかった。すると何故か八幡の心臓の発行が治まり始めた
「はっ陽乃さん!あんた何してるんだ!」
「え?私の血を口移しであげただけだよ?」
「いや、分かってるわ!」
陽乃からの突然のキスからの血の口移し、女の子と手すら繋いだことの無い八幡には、少々過激だったようだ。八幡の慌ててる様子をニヤニヤと眺めていた陽乃は、八幡の上から降り、八幡を立たせた後に耳に口を近づけて告げた
「ちなみに、私のファーストキスだから!」
「まっまじか…」
陽乃の告白には愕然とした八幡は、膝から崩れ落ち、それをみてまた陽乃は爆笑していた
「これで信用してくれるかな?」
「女の人にここまでされて、信用しないなんて、男としてどうかと思いますよ」
八幡の遠回しな物言いに、うんざりと、しながら陽乃は指摘した
「その八幡の遠回しな言い方、たまにムカつくからやめてよ」
「うっ…ぜ、善処します」
「うむ!それじゃ、これから宜しくね八幡!」
元気よく言った陽乃に八幡は静かに応えた
「よろしくお願いします。俺はあなたの盾で、剣です。俺の復讐と共に、あなたの願いを叶えてみせます」
それに合わせた陽乃も宣言をする
「私は君の燃料。君の力を引き出す為の力の源。君がいつでも最善の力が出せるようにする。君の復讐、必ず成功させてあげる」
2人の宣言が終わり、お互いにお互いの覚悟を確認した所で二人はニヤリと笑い、今後について本格的に話し始めたのだった。
それと同時刻
「遂に新型の完成だ…八幡くん、君を参考にさせて貰ったよ…ははっはははっはーっはっは!!!」
何処かの研究所では1人の研究者が新たな兵器を完成させていた。
「さぁ!お披露目といこうか!」
そういうと1人の研究者は研究成果と共にどこかへと向かった
次の日、全国で3番目に大きな駅、千代田駅が1人のカバネリに壊滅されたという情報が流れてきたのだった